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【11】清酒の価格構造について

長期休暇前になると、帰省の手土産にちょっといいお酒でも…と思い、稀少な銘柄を買い求める方もいらっしゃるかと思いますが、その販売価格は本当に適正か、そこで買って問題がないか、といった内容についてまとめてみたいと思います。Twitterの固定ツイートにも設定していますが、もうちょっと情報も追加してみます。


商品売価の設定について

まず清酒の売価がどのように決まっているのかをざっくりと説明していきたいと思いますが、経営や経理はまともに勉強したことないので、そこら辺の説明や用語に不備があっても見逃してください…。

基本的な流通

蔵元から出荷された商品は以下のルートで消費者へと流通していきます。

ざっくりとした一般流通の図

最近はプライベート・ブランドで卸売業者飛ばして小売店へ販売したり、インターネット上に公式WEBサイトを設置して直接蔵元から買い求めたりなど、中間業者をショートカットしたルートも構築されていますが、基本的には生産者→卸→小売→消費者の「生販三層」にて流通します。
MakuakeやCAMPFIREなどのクラウドファンディングも、蔵元と支援者の間に運営会社が入り、手数料がそこに入るので、大まかには同じような構造かなと思います。
価格についての説明は次にしますので、まずは基本構造を抑えてください。

清酒の原価構造

これ書く前に「清酒 原価」で検索したら、経営者の方がまとめたnote記事あって、そこの内容を参考にしている部分もあるので、まずそちらを紹介しておきます。

さて、上記記事でも記載があります、公開されている資料から例示されている清酒の価格構造についての考察がこちらです。

コラム2-1 一般的な清酒の価格構造の例
 清酒の価格構造を段階毎に分解してみると、以下の通りとなる(小売希望価格1,890円(消費税込み)の普通酒(1.8L)を前提として算出)。
 一升瓶1,890円(消費税込み)の清酒の卸価格は1,453円、蔵出価格は1,264円が相場とのことである。ここから、小売マージンが437円、卸売マージンが189円と推計される。蔵出価格から酒税と消費税を除いたものが、純粋な酒蔵の売上になる(下記の例では998円となる)。
 さらに酒蔵売上の内訳をみていくと、清酒製造業者の原価率はおよそ7割であり、そのうちおよそ半分が瓶詰めコストに相当する。残り半分の純製品のうち、米の費用が占める割合が7割にも達しており、米以外の部分でコスト削減するよりは少なく、逆にいえば原料米の価格変動が大きく影響を及ぼす構造となっている。

株式会社日本政策投資銀行(DBJ)2013年資料「清酒業界の現状と成長戦略~國酒の未来~」より

図表2-13で一番右に示されるのが、商品に必要な材料(酒、資材、その他)のコストがいくらか。2番目は「瓶詰め」として示されている部分ですが、実際は醸造から製品化までの工程における人件費や光熱水費などを指すものと考えます(「労務費」や「間接費」などと言うようですがその辺の用語は専門家にお任せします…)。それから蔵元の粗利と税金を乗せた分が生産者販売価格(図中では蔵出価格)で、そこに卸売業者のマージンを載せたのが卸売価格、さらに小売業者のマージンを載せたのが小売価格です。オープン価格ということで明示しない場合もあります。

粗利、各マージンは蔵元が設定する要素だと思いますが、粗利を極端に低くして生販価格を下げ、その分物量を稼いで総売上を高くする手法もありますし、マージンを他社製品より高めに設定することで卸・小売が売りやすくする(同額の商品を売っても取り分が多くなる)といった考え方もあるようです。卸マージン10~15%、小売マージン20~35%あたりが標準的なラインのようです。

商品を配送する場合の運賃コストは物量と距離によって変動しますので、各商品の原価として計上することなく、経費として計上されるのかなと思います。買い手に送料を負担させることもあるでしょうし。
さらには「リベート」とか「条件」とか呼ばれる商習慣もあって、販売量に応じた売上割戻が発生することもありますが、それも経費ですね。

清酒の価格に寄与する要素

まず中身の酒を造るのに必要なコストとして「原材料費」。その中で最も割合が高いのはの購入費用です。純米大吟醸や大吟醸が高い理由として、高級な酒造好適米をさらに高精白にして使用することが挙げられます。酒造好適米の質の良いものはそれだけでも高いのですが、精米歩合35%だと玄米のおよそ1/3まで磨くので、キロあたり単価も玄米の3倍程度になります。同じコメの精米歩合70%と比べても2倍になります。
見方を変えると、等級検査をパスできる安い米を使えば、精米歩合50%の純米大吟醸・大吟醸をそれなりのコストで商品化することも可能です。大吟醸なので高いのではなく、使用する米のコストが高くなるから売価も高くなっているのです。特定名称だけでは清酒の価格は決められません。四合瓶1000円前後の大吟醸などは米の品種やスケールメリットを生かして原料コストを下げることで商品化されています。

その他の原材料としては醸造アルコール等の他、原材料表示はされないけれども速醸系酒母に用いられる醸造用乳酸、各種微生物や酵素剤etc…もありますが、物量が圧倒的に違うので、米のコストがほぼ左右するかなと思います。米以上に使用するのはですが、たいていの場合は井戸水など自社の水源を使用することが多く、水道水を使うにしても、原料コストとしては計上しないことが多いのではないでしょうか。

なお精米で生じる米糠や、醪を搾ったあとにできる酒粕については、「副産物」として業者に買い取ってもらえますのでいくらかは売上になりますが、最近は引取の手数料と差し引きでほぼ値がつかないとか、最悪産廃で有償処理とかになっているところもあるようです。ただ、それらの収支も原価とは直接は関係しないかなと思います。

それから商品化に際して必要なコストとして瓶や箱などの「資材」があります。デザインなど凝れば凝るほど仕入値が上がるので、高級酒で十分利益を取れるときにはオリジナルの高いものを、薄利多売を狙うのであれば極力汎用的で安価な規格ものを、となってきます。もちろんスケールメリットもあるので、留型でも大量に作れば単価を下げることも出来ます。
資材としては、瓶などの充填容器、キャップ、ラベルあたりが必須で、他に化粧箱などの“飾り”を増やせば増やすほどコストは上がります。例えばギフト用高級酒に用いられる桐箱は、箱だけでもそれなりにします。

精米歩合1%未満、で話題の某所の製品、公式サイトに記載はありませんが、そのお値段なんと500mLで35万円+消費税です。コメの原価もさることながら、かなり凝った化粧箱に入れているので、そのコストもそれなりにしているのではないでしょうか。
他にも下のリンク先にあるような「有田焼のカップ酒」など、中身よりも器に付加価値を持たせた商品もあります。

酒税について

清酒には出荷時に「110,000円/1kL」(110円/1L)の酒税が課税されます(2022年8月時点)。納めるのは蔵元ですが、その分は価格に転嫁されています。
酒税については下記の通り、2022年8月時点では段階的に引き下げられている途中でして、2023年10月には「100,000円/1kL」になります。

酒税改正(平成29年度改正)について
 類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から、税収中立の下、酒税改正を実施します。
○ ビール系飲料の税率について、2026年(令和8年)10月に、1kL当たり155,000円(350mL換算 54.25円)に一本化します(2020年(令和2年)10月から3段階で実施)。
○ 醸造酒類(清酒、果実酒等)の税率について、2023年(令和5年)10月に、1kL当たり100,000円に一本化します(2020年(令和2年)10月から2段階で実施)。
○ その他の発泡性酒類(チューハイ等)の税率について、 2026年(令和8年)10月に、1kL当たり100,000円(350mL換算 35円)に引き上げます。これにあわせて、低アルコール分の蒸留酒類及びリキュールに係る特例税率についても、2026年(令和8年)10月に引き上げます。

財務省WEBサイト 「酒税に関する資料」より

以前の酒税制度では、清酒はアルコール分により課税額が異なっていましたが(16度以上は1度上がるごとに加算されていました)、現在は清酒であればアルコール分に依らず同じ課税額です。

ここから先は酒税に関するちょっと昔のお話です。
もう少し前、1989年に大幅な酒税改正が行われていますが、そこで解体されたのが1943年より1992年まで約半世紀にわたり存続した「級別制度」でした。出荷前に税務署への鑑査出品が任意で行われ、認定された等級によって税額が異なるシステムでした。当初は特級・一級こそ良い酒だとされていたのですが(1964年の清酒の販売価格自由化までは級別に公定価格が設定されていました)、次第に個性が認められない全国的に画一的な評価方法への反発(等級と品質の良し悪しが一致しない)の他、地酒を中心とした「無鑑査」の”二級酒ブーム”が起こるなど、多くの問題を抱えて形骸化してしまい、1989年の酒税法改正で廃止が決まり、経過措置を経て1992年に完全に廃止となりました。

さらに前には造石ぞうこく税」での課税がありまして、造った酒の量に対して課税されていました。この「造石税」の制度は明治時代に始まりましたが、造った時点で税金を納めなければならず、出来た酒は早く換金しないと運転資金の調達にも困るので、「長期貯蔵酒」の文化が一度は失われたと言われています。その後出荷時に課税される庫出くらだし税」と併用された時期もありましたが、現在は「庫出税」のみとなっています。

”プレミア価格”の問題点

さて、価格構造についてはひとまず置きまして。
清酒に限らず稀少酒にはとんでもない価格がついていることがありますが、元の小売価格に比べて明らかに高く値付けされている場合、何処かでマージンを過剰に取っている者がいると思ってください。消費者がいくら札束を積んで買ったとしても、蔵元には蔵出し時のお金しか入ってこず、そんな価格で取引されていても何のメリットもないということはご理解ください。

高値転売の何が問題なのか

2017年に旭酒造さんが「高く買わないでください」と異例の新聞広告を出しました。そのときの広告について取材した記事にあります、蔵元のコメントが以下の通りです。

これらは正規小売店から転売屋や卸業者が買い、割増してスーパーなどに売った商品になります。高いだけなく、出荷から消費者の手に渡るまで日がたつほど品質も落ちてしまいます。それでも一般の人は正規価格は分からないもので、適正な相場だと勘違いして品質が落ちた獺祭を高く購入されてしまいます。お客様にとってはなんの幸せにもなりません。その状況を知らせるために意見広告を出すことにしました

欲しい人が多いのに物が少ないのだから値が上がって何が悪い、という人もいますが、こちらにあるように、本来の価格より高い価格で取引されたにもかかわらず、保存環境等が悪く劣化した商品が消費者に届くのは生産者の望むところではありません。
何万も出して買ったのに不味い!と言われても、正規の流通を経ていないシロモノに対しては蔵元はどうしようもありません。過去の記事にも記載していますが、光、温度、におい…そういったものに対して清酒は本当にデリケートです。杜撰な保管をされたら一瞬でダメになります。

飲食店での値付けについては、各店舗が利益を何処で出すのかという方針が違うので何とも言えませんが、一般的な目安とされる原価率30%とした場合、小売価格の3倍程度となりますので、一升瓶で小売価格3,000円の商品なら、1合あたり300円→900~1,000円となります。あくまで目安ですけどね。付加価値の高い商品なので原価率を下げたい、目玉にするために原価率を上げたい…それぞれ思惑もあるかと思います。

高値転売価格は個人だけではない

酒に限らず、フリマアプリやオークションサイトにおいてはもはや手が付けられない状況です。たまに覗きますとわんさか出ています。
なお、フリマサイト等で酒を転売することに関して、免許云々の国税庁の見解は下記リンクの通りです。継続して行う場合は事業とみなし、酒類販売業の免許を必要とするとのことです。そのアカウントがどれだけのモノを扱っているかは、利用しているサイトの管理者が把握すべきだとも思いますが。

しかしAmazonや楽天市場上のネットショップ、小売店の実店舗店頭においても高値転売は堂々と行われています。
理由は上記のコメントの通り、非正規商流による中間マージンが本来の小売価格に上積みされているからです。

高値転売の価格構造のイメージ

新政あらまさ」や「十四代じゅうよんだい」など、万単位であからさまに高いのは流石に気付くとしても、3割高い程度の値付け(よく見るのは「久保田くぼた」や「越乃寒梅こしのかんばい」)だと、それくらいが適正な価格なのかな?と思って調べもせず購入してしまう人も多いのではないでしょうか。
ひどいサイトだとレア銘柄を紹介します!と記載したあとにAmazonや楽天市場における転売価格で売られているページへのリンクを貼るという狂気の沙汰まで見かけます。ネット通販の大手だしそんなもんか~とポチってしまう人もゼロじゃなさそう…。

個人と違ってちゃんとした店舗で売られているのなら、他の商品同様に品質も保証されるだろうと思ってしまうかもしれません。しかし正規の流通でないルートを通ったものである以上、商品の保管が万全であるとは考えにくく、いかにレア銘柄だろうと、やはりおすすめは出来ません。

個人が出品しているフリマやオークションサイトについては言及する気も起きません。小銭稼ごうと高値転売するヤツがそこまで気を遣うとでも?それに口にする飲食品を得体の知れない個人から買おうとは私は思いません。

市場における高値転売全般の是非まで問うつもりはありませんが、蒸留酒と同じような感覚で売買出来るほど清酒は頑丈ではありませんし、繰り返しますが生産者はその取引をされても何の得もありませんので、清酒の高値転売は買う側も止めていただきたいと考えています。誰も買わなきゃ転売ヤーは滅びます。
稀少銘柄の高値転売品を買うくらいなら、その予算で正規流通のまだ飲んだことのない銘柄をたくさんチャレンジした方がきっと幸せですよ。

特約店について

蔵元で直販していない”稀少銘柄”と言われる清酒でも、たいていの場合は「特約店」「正規販売店」といった販売チャネルを持っています。webで公表しているところもありますし、蔵元に問い合わせしたら教えてくれることもあるでしょう。
後はもう買う人の熱意でしょうね。私の知人にもいますが、酒好きで行動力と資金力がある人は、現地の蔵や酒屋を巡る「仕入れの旅」までしています。
「十四代」を醸している高木酒造の地元向け銘柄「朝日鷹あさひたか」、これもネットでは訳のわからない高額転売されていますが、タイミングによっては地元山形のイオンの店頭に並ぶそうですよ、当然定価で(そうやって手に入れた酒がネットで高値転売されているんでしょうけどね)。実際にタクシー走らせて何店舗かハシゴして手に入れた、という話を先述の知人から聞きました。

そんなところまで行けない!都心と違って近くに特約店もない!多少の金額上積みしてネットで簡単に買えるならそれでいいじゃないか!
それはそれで一つの解決法だと思いますが、先ほども述べた通り、家電や玩具と異なり、飲料の中でもさらに清酒はデリケートなので、そうやって手に入れた”傷物”かもしれない商品を飲んだところで、それは「その銘柄を飲んだ」と言えるのか、と思いませんか?

特約店でも飲食店への販売がメインで、個人の、特に一見さんには販売していない、というところもあるようです。とはいえ、ダメ元で交渉するとか、諦めずに別の店へアタックするとか、手元には残せなくてもそこの店で購入して提供している飲食店紹介してもらってそこへ飲みに行くとか、何かしら手はあるでしょうし、そういうのも含めて、自分で探して飲んだものほど価値がある…と私は思いたいです。

以上、清酒の値段に関するトピックでした。何とか長期休暇前の週末に間に合った…かな?

余談:冒頭の画像は海外の百貨店の日本酒ショーケースです。現地製造の清酒を探していたのですが見つからず、「新政」「而今じこん」など垂涎のラインナップが並んでいましたが、日本の売価の3倍くらいしたのかな?そして海外土産で日本産の日本酒買って帰るのは流石におかしいので止めました(笑)

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