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【2】清酒の定義

清酒と日本酒について前回はお伝えしました。
清酒のうち、要件を満たすものが日本酒でした。
ではそもそも「清酒」とは何か?

これは酒税法において定義されています。
法律で定められていますので、国語辞典等でゆらぎのある説明がされていたとしても、それは根拠になりません(「日本酒」も同様です)。

酒税法では、まず「酒類」とは、から始まり、原材料や製法によって様々な酒類が分類され品目として定義されています。その品目によって課税率が変わります。税金が絡むので、非常に煩いです。


「酒類」の定義

酒類の定義がまず以下の通りです。

第二条 この法律において「酒類」とは、アルコール分一度以上の飲料(薄めてアルコール分一度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が九十度以上のアルコールのうち、第七条第一項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料として当該製造免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く。)又は溶解してアルコール分一度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)をいう。

酒税法 第二条 (e-Gov法令検索より)

「アルコール分一度以上」が酒類の要件なので、一度未満であれば酒類としては扱われません。
「ノンアルコールビール」が出始めた当時は微量のアルコール分が含まれていましたし、今はアサヒビールがアルコール分0.5%の商品を出していますが、品目としては「飲料」扱いです。ただし、酒類としては扱いませんが、体内におけるアルコール濃度が規定値を超えれば飲酒運転になりますのでご注意ください。

それよりも気になるところは「溶解してアルコール分一度以上の飲料とすることができる粉末状のもの」でしょうか。私も最初この条文見たときに何それ? と思いましたが、世の中には「粉末酒」なるモノがあるんですよ。
昭和41年に発明され、昭和56年の酒税法改正で新たに酒類に加えられたとのことです。以下はその製造メーカーです。

粉末清酒の製造方法は、酒類総合研究所の「お酒のはなし 7」(PDFファイルです)にあり、以下のように記載されていました。
キットカットの日本酒フレーバーにも粉末酒が用いられており、原材料に「粉末酒(清酒、デキストリン)」という記載があります。

 製造方法としては、目的とするアルコール飲料にマルトデキストリンというでんぷん質の粉末を加えて溶解します。その混合液をスプレードライという装置で噴霧すると熱風により水分だけが瞬時に蒸発してお酒の粉末が出来上がります。
 水分が蒸発するのになぜアルコール分が蒸発しないのか不思議に思われるかも知れません。ここにデキストリンを添加する理由があります。水分はデキストリン層を通過して液滴の表面に移動し蒸発しますが、アルコール分はデキストリン層を通過できず中に閉じ込められるため、粉末酒が出来上がるのです。

独立行政法人酒類総合研究所 お酒のはなし【特集:みりん,雑酒,粉末酒・合成清酒】(7号) 

「清酒」の定義

それはさておき、話を戻して、「清酒」の定義は以下の通りです。

七 清酒 次に掲げる酒類でアルコール分が二十二度未満のものをいう。
  米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
  米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の百分の五十を超えないものに限る。)
  清酒に清酒かすを加えて、こしたもの

酒税法 第三条第七号(e-Gov法令検索より)

ロはまた別の法令を見ないとわからないのが難点ですが、その内容は以下の通りです。

(清酒の原料)
第二条 法第三条第七号ロに規定する清酒の原料として政令で定める物品は、アルコール(同条第九号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する酒類(水以外の物品を加えたものを除く。)でアルコール分が三十六度以上四十五度以下のものを含む。以下同じ。)、焼酎(連続式蒸留焼酎又は単式蒸留焼酎をいい、水以外の物品を加えたものを除く。以下同じ。)、ぶどう糖その他財務省令で定める糖類、有機酸、アミノ酸塩又は清酒とする。

酒税法施行令 第一章第二条(e-Gov法令検索より)

読み解くとさらに参照しないといけない内容が出てくるのですが、とりあえず今は気にしなくていいので、先に進みます。

清酒の原料

基本的な原料としては、

・米こうじ(麴)
・水
の3点で、他は政令等で使用を認められた物品を添加しても良い、ということになります(これを”逆手”に取ったやり方がありますがまた後日)。
よく用いられているのは、醸造アルコール、糖類(ブドウ糖や水飴)、酸味料(有機酸など)でしょうか。これらの添加の是非についてもいったん飛ばします。

「こしたもの」

それと「こしたもの」がポイントです。
先に示した原料を加えてもろみとし、発酵させたものを「こす」工程が必要です。
たいていは酒袋と呼ばれる布や自動圧搾機などで固液分離するのですが、「こす」方法について、目の大きさや素材には具体的な定めはありません。

11 「こす」の意義
酒類の製造方法の一つである「こす」とは、その方法のいかんを問わず酒類のもろみを液状部分とかす部分とに分離する全ての行為をいう。

酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第2編 第3条 (共通事項) 第11号(e-Gov法令検索より)

上記のとおり、何らかの方法で醪の固体と液体を分けられれば良いということで、遠心分離機(※)を用いた方法も今は認められています。
※遠心分離機についての解説は以下でどうぞ

なお、醪を「こす」ことなく出すのが”どぶろく”で、これは酒類としては「その他の醸造酒」の扱いです。この品目の違いも活用して、清酒では加えられない原料を醪に加えた”どぶろく”も商品化されています。

アルコール分

もう一つ、2006年の酒税法改正で追加された要件が「アルコール分が二十二度未満のもの」です。
それまでは清酒においてアルコール分の上限は定められておらず、”高アルコール清酒”というジャンル(概ねアルコール分25度以上のもの)もありましたが、醸造アルコール等の添加量の上限を引き下げるとともに(後述します)、アルコール分22度未満という上限が付加されました。

何で「22度」なのか調べてみたところ、2006年の酒税法改正の変更点がまとめられた、当時の日本醸造協会誌の報文(リンク先よりPDFで閲覧可能)があり、その文中(9ページ目)に「原料である米の発酵により得られるアルコール度数の上限が現在21度台であることから、この限度いっぱいまでを清酒の定義として取り込むことした」という記載がありました。

清酒酵母は培地上では22度以上のアルコール分を生成できるものもいますけれども、清酒醪中ではそこまでアルコール分が高くなる前に死滅を始めて活動が弱まります。
なので22度を超えることは想定していなかったと思うのですが、「玉川たまがわ」(京都府・木下酒造)が、2019酒造年度に蔵付き酵母で醸した純米酒醪がアルコール分22度を超えてしまったので「雑酒」として発売した、ということがありました。
玉川では酵母の発酵に任せ、毎年コンスタントに20度オーバーするという仕込みの清酒ですが、どんな酵母と仕込み方なんでしょうねぇ…。

アルコールを添加しない場合でこの有様なので、さらにアルコールを添加したら当然22度は容易に超え得るのですが、そこはどう解釈したら良いのでしょう…。

使用できる物品の制限

アルコール等の添加量についても、同時に上限の引き下げが行われています。
法第三条第七号ロに規定される、「その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の百分の五十を超えないものに限る。」との記載がそうですが、端的に示すと水を除いた重量の値が「(米+米こうじ)÷2 > その他の物品」でないとダメです、ということです。米の総重量が1000kgなら、その他の物品は500kg未満でなければなりません。

米を発酵させるよりも、醸造アルコールと糖類と酸味料を足して味を調整してカサ増しする方がコストを抑えられるので、昔の言い方だと「三増酒」(純米酒に比べて3倍量の酒になることから「三倍増醸酒」と言われていました)が安酒として流通していたのですが、戦時中でもあるまいし醸造酒たる清酒がそれは如何なものかと、添加できる物品の上限が厳しくなりました(それでも2倍量程度にはなるのですけどね)。

この判定基準の判断においては全て「重量」で算出しますが、糖類は含まれる水の重量分を除く必要があります。

6 糖類の重量計算
(1)
 令第2条《清酒の原料》に規定する「ぶどう糖その他財務省令で定める糖類」の重量には、当該糖類に含有される水分の重量を含めないことに取り扱う。ただし、当該糖類に含有される水分の重量を測定することが困難な場合には、当該水分の重量を含めて計算することとして差し支えない。

酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第2編 第3条 (清酒の定義) 第6号(e-Gov法令検索より)

例えば75%水飴を100kgを使用したとしたら、25%は水として取り扱うため、糖類の使用量としては75kgとなります。

糖類以外で、例えば醸造用乳酸は濃度90%なのですが、これは10%を水として扱ってよいのか正直調べてもわかりませんでした。使用時に希釈する場合にはその希釈水は水に含めて差し支えないそうですが…。

醸造アルコールについては計算(換算)にも決まりがありまして、95%で換算してからその比重を掛けて求める、となっています。詳細は特定名称酒の話の際に触れようと思いますが、以下の通りです。

9 アルコールの重量の計算
アルコールを酒類の原料とする場合における当該アルコールの重量の計算は次による。
 当該アルコールの数量(リットル)×当該アルコールのアルコール分(度)÷100=純アルコール数量(リットル)
 純アルコール数量(リットル)÷0.95=アルコール分95度換算数量(リットル)
 アルコール分95度換算数量(リットル)×95度アルコール1リットル当たりの重量(0.8157キログラム)=原料用アルコールの重量(キログラム)

酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第2編 第3条 (共通事項) 第9号(e-Gov法令検索より)

また、これを今書くとややこしくなりますが、「酒類の原料として取り扱わない物品」については、「原料」ではないことになるので上記規定に当てはまりません(もっともその数字に影響するほど入れることがまずありませんが)。醸造用乳酸は速醸系酒母に使用する分はカウントされませんが、酸味料として醪へ添加する分はカウントする、とか…。どういった物品が該当する/しないは別のトピックスでお伝えしようと思います。

清酒かすを加えて…?(2024年1月更新)

法第三条第七号ハの「清酒に清酒かすを加えてこしたもの」がよくわからないのですよね…(ロにも清酒かすの記載がありますが)。
「清酒かす」を加えてさらに「こす」工程が必要とされてますから、かす自体は除かれることを想定しているように取れるので、正直目的が想像できないのです。

”にごり酒”を造るときには、「清酒かす」ではなく、滓(おり)を多く含む「清酒」を使うでしょうし、ましてさらに「こす」ことはしませんよね。
袋吊りしてまだビシャビシャの中身を「清酒かす」として計上して、それを既に搾った清酒に混ぜてまた「こす」と…何か良いことあるのでしょうか。
風味の矯正や後付だとしても、原材料に「清酒かす」が入ると特定名称酒にはできませんので、そこまでする? という疑問が湧いてきます。
何せ実際に見たことがないのでどういったものかがわかりません。

【以下2023年8月追記分】
記事を書いてしばらくして、別の記事の資料の中に出てきました。
「粕四段」と言って、吟醸酒の酒粕を普通酒に入れて香味の調整を図っていたようです。

(5)その他の四段
イ かす四段
精米歩合70%以下、かす歩合30%以上の新鮮なかすを白米1,000kg当り200kg内外添加する。吟醸かすの再利用という点で、吟醸仕込のあとに増醸酒仕込を計画して増醸もろみに添加すると、風味をつけることと、おりが少なくなる利点があり、ぜひ行なう必要がある。

日本釀造協會雜誌 1966年第61巻1号 「四段掛あれこれ」より

上記の内容は書籍版の「灘の酒用語集」にも確認できました(web版は割愛されています)。

粕四段
醪の添・仲・留の仕込が終わった後に、醪中に清酒粕を投入する仕込方法をいう。粕四段は、吟醸粕の有効利用、異臭(ジアセチル臭)の除去、その他香味の調整などの目的で行われる

西野金陵株式会社webサイト「酒用語集【か】」より

先述のとおり、原材料に酒粕を使用すると特定名称酒の要件は満たさなくなりますし、普通酒や増醸酒に用いられていた古い手法のようです。酵母の文献からここに辿り着くとは思わなかった……。

【2024年1月追記】
上記の粕四段、第七条ハではなく、第七条ロの方でした!
ハは清酒に粕を加えて濾したものなので、上槽後に酒粕を添加したものです。下記文章を見てようやく理解しました。

3) 清酒に清酒かすを加えて漉したもの。これは、万が一の救済策として、規定されているようです。つまり、上槽(ふねで搾ること)時期などを間違えて、ヂアセチル臭などが感じられる場合に、新鮮な酒粕(生きている酵母が含まれていることが条件)を加えて、2~3日置くと、ヂアセチルを酵母が分解して香りを改善してくれる効果が期待されます。したがって、このような処置をして酒質を復元することを救済策として認めているのです。

なぜ灘の酒は『男酒』、伏見の酒は『女酒』といわれるのか」(石川雄章, 実業之日本社, 2011)より

現在は上槽前のピルビン酸測定などで適切な上槽時期の判定ができるようにもなりましたので、このような救済措置の出番が減ったものと考えられます。
原材料表示に「清酒かす」の表記が加わる時点で特定名称酒には該当しなくなるので、精米歩合については表示の必要がありませんが、原料米の表示をしていた場合は使用割合とか影響するのかな……?


長くなりましたが、清酒について酒税法上の定義だけでつらつらと書いてきました。
製造上の説明はほぼしていませんが、それは他にも良いテキストたくさんありますので、次は清酒をいっそうややこしくさせている「表示事項」について進めたいと思います。

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