SFCに合格した時の志望理由書を公開してみる。


とあるきっかけで読み返した、7年前の志望理由書。

栃木県日光市の公立高校から、慶應義塾大学のSFCを目指すことを決意したのは、2014年の4月だった。
あの時僕は17歳で、自分の感情や思考を十分に整理する能力は持ち合わせていなかったと、今になって思う。

志望理由書の執筆は、4ヶ月近くかけて行った。
当時は脳味噌をフル稼働して、部活の練習の後、授業の合間に書いていた。
大詰めの時は練習中も、授業中もこの文書の内容について考えていた。

ここで書かれている内容の具体な部分と、今の自分は全然違うことをしているのだけど、抽象化してみると案外近い道のりを進んでいるように思える。
(今何をしているのか、についてはいずれ書いてみようと思う。)

もし読者の中に、慶應SFCのAOを志望する人がいて、その方の参考になれば嬉しいと思う。

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志望理由書本文

私は、日本の観光業の在り方を変革したい。

私が住んでいる栃木県日光市には、世界遺産,「日光の社寺」がある。1999年の世界遺産登録により翌年には外国人旅行者が約55万人も増加、世界遺産登録による集客効果は絶大であった。

しかし今、日光では観光における利益を優先するあまり、ゴミの投棄や文化理解のない行動により世界遺産に値すると認められた「自然と文化財の調和による文化的景観」が損なわれている。

観光資源を適切に維持できていない事例は日本各地の観光地で多発している。世界遺産としての存続が危うくなれば、観光業の著しい衰退が起こることは明白だが、それ以上に文化財への被害は日本文化にとって回復不可能な痛手である。
日光の社寺をはじめとする日本の文化財が危険な状態にあることを強く認識し、早急に対策を打つ必要がある。

私の提案はデジタルデバイスとAR技術を複合した日本型エコツーリズムの導入だ。エコツーリズムとは、「文化財や自然環境の保護費用を観光業による収益で賄い、更には観光業の活性化も図る」概念である。
少人数の旅行者に地域伝統文化を熟知したガイドがつき、文化財の価値や土地のルールなどを説明する。エコツアーの導入は文化や自然環境への負荷を最小限にし、文化財保護に貢献することが可能だ。

しかしこの方法は、多数の観光客を受け入れた場合、大量のガイドの確保が人材・コストの両面で困難である。更に、外国人旅行者に対応するには言葉の壁を乗り越える必要がある。そこで私は、AR技術を活用した新たなエコツーリズムによる観光資源の新たな活用方法の実現を提案する。

現時点での端末普及度とAR技術ならば、文化理解や自然保護などを促すことが可能である。観光資源の情報を観光客にスムーズに伝えるためには観光のテンポを乱さない情報発信技術が必要であるが、現在のIT技術ならば十分可能だ。
加えてデジタルデータであれば、複製・更新さらには多言語展開も容易である。

SFCの得意分野である情報技術や、先端技術と組み合わせ開発していくことができれば、経済的なエコツーリズムを浸透、観光資源の適切な維持、観光業の更なる発展を可能にできるのではないか。

この発想を実行に移すためには、行政でも民間でもない立場から社会に発信していく必要がある。そこで私はNGOを立ち上げたいと考えている。
この発想を速やかに実行に移すための行政と民間企業との橋渡し役になれると考えたからだ。

NGO としてこの発想を普及させ、観光業の収入が増えれば、地方経済も国内経済も上向きになる。またAR技術に民間企業、地域貢献度の高い店舗などの広告を掲載すれば、広告収入ビジネスとして他企業からも出資を募ることで、地域全体で文化財保護を目指す体制を確立できる。

NGOの活動はまず、政府や地方公共団体と連携し、観光客の国籍やその内訳等観光客についてのデータを収集し、観光客が求めている情報を分析する。
同時に専門家の意見を基にその観光地の歴史や価値を観光客にわかり易く解説した原稿を作成する。それらの情報を用い、観光客の求めている情報と、観光地側が発信したい情報を同時供給することで、エコツーリズムの概念にのっとった新たな観光産業のありかたを実現できるのだ。

計画の実現にあたっての乗り越えるべき課題は二つある。
一つ目はARの経済的・安定的な運用を行う上での技術上の課題。文化財や自然環境には、端末に情報を発信するためのマーカーを用いることができず、GPS技術やデバイスの処理能力など、主にハード面で高い性能が求められる。
二つ目はAR技術が広く社会に受け入れられるための体制を整えることが必要な社会的、心理的な課題。デジタルデバイスを存分に活用した観光スタイルに人々が抵抗感を覚える可能性があり、ストレスフリーなARを実現するウェアラブル端末も実用の初期段階にある。その普及方法や実用方法についての研究を存分に学ぶことが必要である。

この発想を日本各地に普及させることができれば、文化財や自然環境などの価値を守るだけでなく、観光業の発展により日本の経済の一翼を担うことができると私は自信を持っている。前述した課題を乗り越えるためには座学では学び得ない知識が必要であり、実際に現場を知ることが必要だ。
そしてデザインや都市計画、加えてプログラミングなど学問領域にとらわれない最先端の知識も必要である。

このようにフィールドワークなどに参加し、実践的な問題解決能力を身に着け、幅広い知識を学ぶことができるのは、慶應義塾大学の総合政策学部だけである。もし、私が貴塾総合政策学部に入学を許可されたのならば、私の持つ能力を存分に発揮したい。一学年から観光に関する研究会に入り、高校で生徒会長を務めるうえで培ってきた発信力、及び様々な生徒会活動を通して身につけた社交性を活かし、多様な考え方の人と協力し、日本の観光の可能性について研究したい。

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