治療の出来ないお医者様
わたしには持病がある。
なので、定期的に通院している。
薬を処方してもらっているので、診察が終わるといつも薬局に寄る。
今までわたしは、薬剤師という仕事を、単に薬を調剤するだけの仕事だと認識していた。
薬剤師になるには、大学の薬学部か薬科大学に設置されている6年制の薬剤師養成課程を修了し、薬剤師国家試験に合格することが必要だ。
近年、薬剤師にはより幅広い分野において、臨床に関わる実践的な能力が求められている。
そうした期待にこたえるため国家試験では、基本的な知識などのほか、薬学全般にわたる一般的な理論や、医療を中心とした実践の場において必要とされる知識・技能・態度などが問われる。
出典:Benesse マナビジョン 「薬剤師になるには」
薬剤師の国家試験の倍率は、平均的には60%から80%位らしい。
薬剤師になるのも大変な努力が必要になる。
以前のわたしは「医者でもないのになんで薬剤師が病状を聞いてくるのかな?」とか「言っても何にもならないでしょ。」などと不遜な感情を抱いていた。
先日、薬局で薬剤師さんに、自分の現状についてモヤモヤしていることがあったので、何気なく問いかけてみた。
医師には大丈夫と言われたり、一笑されたりすることでも、薬剤師さんなら気軽に聞くことも出来る。
医師が大丈夫と言ったり、一笑したりするのは、もちろん根拠があってのことだろう。あるいは、根拠がないから一笑するのかもしれない。
薬のこととは関係のないわたしの問いかけに、薬剤師さんはめんどくさそうな顔もせず、優しく答えてくれた。
その答えには、単なる事務的な答えにはない優しさがあった。
そして、的確で、わたしを安心させてくれるものだった。
「この薬剤師さん、よく勉強しているなぁ」と感心した。
薬のことが詳しいのは当り前なんだろうけれど、それ以外のことも医療に関わることなら広く勉強していると言うことなんだろう。
そして、今日は患者さんと薬剤師さんの会話を耳にした。
薬局に入った時から、一人の女性が目についていた。
暗い影のようなものを感じた。
その人の番が来て、薬剤師さんが薬の説明をした。
その方は、肝臓がかなり悪いらしくその事をしきりに訴えていた。
精神も少し、病んでおられるような気がした。
夫の不満まで口にしていた。
お酒をやめられないと訴えていた。
通常にはない長い時間話をしていた。
その間、薬剤師さんは一度も嫌な顔をしていなかったと思う。
そして、その人の体のことを心配して、生活面のことまで細かいアドバイスをしていた。
その人は、医者にこんな話をすると、嫌がられると嘆いていた。
長い話が終わると、その人は安心した様子であり、とても安定した状態に戻ったように見えた。
薬剤師さんに、お礼を言って帰って行った。
高齢化が進んで、病院の待合室は、お年寄りで満杯だ。
この医療体制では、患者との十分な会話も難しいところがあるだろう。
昔のお医者さまと比べると診察時間が短くなったと感じる。
それも、致し方ないことなのかもしれないが…。
しかし、患者は誰でも安心したいのだ。
”医は仁術” と昔は言われていたけれど、それもなかなか難しくなってきているんだろうな。
薬剤師さんは、治療はできないけれど、もしかしたら、もう一人の主治医なのかもしれないと今日思った。