逆に愛でるドッキリをしてみたら…
○○と一ノ瀬美空が付き合い始めたのは、春の桜が満開になった頃だった。学校の帰り道、○○は意を決して美空を呼び止めた。
「美空、ちょっと話があるんだけど……」
「え、何? 真剣な顔して。」
緊張で声が震えそうになるのを必死に抑えながら、○○は美空の瞳を見つめた。
「ずっと言いたかったんだ。俺、美空のことが好き。付き合ってほしい。」
その言葉に美空は驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに口元を緩め、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「私のこと、好きなんだ? ……ふーん。じゃあ、○○が一生私だけを見てくれるって誓うなら、付き合ってあげてもいいよ。」
「えっ……もちろん! 美空だけを見てる、絶対に!」
その答えに美空は満足そうに笑い、桜の花びらが舞う中、少し照れたように小さく言った。
「じゃあ、よろしくね。」
それが二人の恋の始まりだった。
付き合い始めてから半年。二人の関係は順調そのものだったが、○○には一つだけ気になることがあった。それは、美空が親友の小川彩を溺愛していることだ。彩の話題が出るたびに美空のテンションは爆発し、○○とのデート中ですら彩のことばかり語る。
「ねえ、○○。彩って本当に天使みたいだと思わない? 今日も可愛かったんだから!」
そんな美空に○○は苦笑いを浮かべるしかなかった。もちろん○○も彩が可愛いと思うが、それは親友としての範囲内であり、美空の熱量とは比べものにならない。
(美空が彩をそんなに好きなら、もし俺が彩を愛でたらどうなるんだろう?)
そんな疑問が浮かんだ○○は、ある日、彩に協力を頼み込むことを決意した。
「ドッキリ? 面白そう! 私も美空の反応が気になるから、手伝ってあげる!」
快く引き受けてくれた彩と共に、○○は美空への“逆愛でドッキリ”を仕掛けることになった。
放課後、○○と美空、彩の三人はカフェで集まった。彩が目の前のケーキを見て「美味しそう!」と笑顔を見せた瞬間、○○は彩を褒め始めた。
「彩、そのケーキ彩に本当に似合ってる。モデルみたいだね。」
「ありがとう!」彩は控えめに笑ったが、横で聞いていた美空の箸がピタリと止まる。
「○○、彩のこと褒めすぎじゃない?」
「いや、事実を言っただけだよ。あと彩、髪型変えたよね? すごく似合ってるよ。」
「そ、そうかな……」と彩が照れたふりをすると、美空はじっと○○を睨むように見つめた。
「ふーん……そうなんだ。」
美空の表情には、明らかにモヤモヤが漂っていた。
その後も○○は何かと彩を褒めたり、話しかけたりして、美空を揺さぶり続けた。学校で三人一緒にいる時も、彩の席の近くに座ったり、持ち物を褒めたりとアプローチを繰り返した。
「ねえ、○○。最近、彩のことばっかり見てない?」
ついに美空が声を上げたのは、三日目の放課後だった。美空は二人きりになった瞬間、○○を鋭い目で見つめ、こう問い詰めた。
「どうして彩のことばっかり褒めるの? 私のこと、もう好きじゃなくなったの?」
その瞳には、普段は見せない強い感情が宿っていた。○○は少し驚いたが、すぐに彩が計画通りに部屋から出てきて美空の肩に手を置いた。
「美空、落ち着いて! 実はこれ、ドッキリだったの。」
「ドッキリ……?」
彩と○○は、二人で美空にネタバラシをした。美空がどれだけ○○を大事に思っているかを確かめるための仕掛けだったと説明され、美空は最初こそ呆然としていたが、次第に顔を赤らめた。
「もう、○○ったら意地悪! でも……私のことがちゃんと好きって分かったなら、許してあげる。」
しかし、ドッキリの終了後、美空の○○への愛情はさらにエスカレートし始めた。
「○○、私のこともっと見て! 彩を褒めた分、私も褒めてよ!」
それだけでなく、美空は頻繁に○○に近づき、「○○が他の子に優しくしたら絶対許さないからね!」と釘を刺すようになった。放課後も一緒にいる時間が増え、○○の予定を全て把握しようとするほどだった。
「私たち、もっと一緒にいないとダメだよね。だって恋人なんだから!」
そう言いながら、○○の腕にしがみつく美空を見て、彩は「さすがにやりすぎじゃない?」と苦笑いするほどだった。
○○は少し困惑しながらも、そんな美空の姿が可愛くて仕方がないと思ってしまうのだった。