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アートな心が弱る時。〜ある知的障害のある画家の話〜
ダウン症のある娘が生まれる前、知的障害のある方たちと関わりがありました。
その時の出来事を個人が特定できないよう改変して、書いてみたいと思います。
*
知的障害のある彼は、とても素敵な色合いの絵画を描く方でした。
障害者アートコンテストでは入賞の常連で、作家バンクに登録するほど。
卒後は事業所には通わず、自宅のアトリエで創作活動をしていました。
しかし、彼のお祖父さんの介護が始まり、お母さんは忙しくなり、在宅の彼に付き合うのが少し大変になってきました。
また、彼も30歳を超えていたので、今後のことを考えると、福祉につながった方が良いと、お母さんと支援者は考えました。
そこで、とある事業所に通所を開始。
その事業所は、本人のペースを大切にする、のんびりとした事業所で、彼も楽しく通えており、彼を取り巻く人は皆、「ホッと一安心」していました。
ところが、しばらくすると、彼の絵に異変が。
あんなにきれいな色彩が特徴だった彼の絵が、なんと、真っ黒の絵ばかりになってしまったのです。
早速、親御さん、関係者が集まりました。
事業所は楽しい。
しかし、緩やかななかにも決まったスケジュールがある。
また、家族以外の人と過ごす時間も長い。
これらが彼にとっては、ストレスだったのかもしれないという話になり、親御さんは、すぐに通所をやめ、元の生活に戻ることを決めました。
通所をやめたら、色彩も、だんだんと戻っていったそうです。
この話を聞いた時に、「ああ、彼にとっての絵(創作活動)は、彼の心の中を映し出していたものだったんだなと思いました。
「いい絵を描いてやろう。」
「コンテスト入賞狙おう。」
「売れる絵を描こう。」
そんなふうに思って描いているわけではなく、自由で、のびのびとした、幸せな彼の「心」をそのまま表現したものだったのだと。
あの頃よりも、障害のある人のアートな感性が注目されるようになりました。
それは素晴らしいことですが、彼らの作品を生み出す源泉を、周りの人の欲や期待や思惑・事情で、濁らせないよう、注意が必要なのではないかと、私はこの出来事から強く感じました。