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面白きこともなき世をおもしろく

雨の清武町

宮崎の空は曇り、時折激しい雨が降り注いでいた。雷が遠くで轟く中、清武町の現場に向かう。今日の作業は断熱材の設置。グラスウール24kを使い、その熱伝導率は0.035W/(m・k)。数字だけでなく、その素材を活かすには大工の施工力が大切だ。

30年前の記憶

30年前の私はまだ大工見習いだった。親方の指示通りに断熱材を壁や天井に詰め込む日々。作業の工程を理解せず、ただその日をやり過ごすための単純作業に過ぎなかった。断熱材が持つ本当の意味や、その重要性を理解することなく、ただ手を動かしていた。

現在の視点

今、少し違う。断熱材の選定から熱伝導率、UA値、C値、そして結露計算まで、全ての要素が建物の快適さを左右することを知っている。壁や天井、床の断面計画や素材の選定に一生懸命に取り組む。全ては住む人々のために。

職人の技と誇り

私たち大工だけではない。左官や瓦屋の仲間たちも、それぞれの専門分野で磨き上げた技術とこだわりを持っている。職人たちの細やかな気遣いと技術が、建物を形作る。そこに職人の面白さとやりがいがある。建築を進化させるのも職人の使命だと、若い大工たちの姿を見て改めて感じる。

若者たちへの思い

単純な作業をつまらないと感じるのは、自分の心持ち次第だ。若い頃の私もそうだった。しかし、今はその一つ一つの作業が、全て意味を持っていることを理解している。
時間をとって、若手大工達と対話しながら意味を説明。

そしてグラスウールを手に取り、壁に詰め込む。雨音が響く中、その手の動きは30年前の私と同じようでいて、全く違う。今の彼らは、この作業が持つ意味と、その先に広がる未来を見据えているのだから。

「面白きこともなき世を面白く」高杉晋作の言葉が胸に響く。