広報が「専門職」ではなくなった時代に私たちは何をしようか|広報Tips
こんにちは、青柳真紗美です。
2019年が終わろうとしていますが、今年始めたnoteで一番多くの「スキ」をいただいたのがこの記事です。
今でもこの記事を読んで私のアカウントをフォローしてくださったり、TwitterやFacebookなどで「会いたい」とお声掛けをしてくださる方が多く、嬉しい限りです。本当にありがとうございます。
2019年もたくさんのご縁をいただき、様々な経験をさせてもらいました。その中で今ふわっと考えていることを備忘録として残しておきたいと思います。
広報という「専門職」は幻想になりつつある
「広報担当者募集」。この表現をよく見るようになりました。大企業だけでなく、中小企業やスタートアップも広報やPRの必要性を実感している証拠だと思います。この流れ自体はとても良いことだと思うのですが、そもそも広報って専門職として募集するべきものなのか、それで本当に企業側が期待する人材を採用できるのか、疑問に思うことが多いです。
「プロ広報」と言えるような人たちは業界に数多います。そのような人たちは、企業価値の掘り起こしから、広報企画の立案、戦略の策定、実行、見直しまでのプロセスをものすごいスピードでぐるぐると回し、しかもそれらの実行に伴う文章作成や営業活動等まで自分たちで担います。彼らのエネルギーと才能には毎回脱帽させられます。
しかし、上述したnoteでも書いた通り、そうした「プロ広報」に求められる業務全てを1人もしくは2〜3人のチームに任せようとすると、かなりのオーバーワークになることが予想されます。
【PR会社・PRパーソン=ハードワーク】というイメージを引きずったまま、現場に過大な責任と終わりの見えない業務を押し付けていては、はっきり言ってよほど魅力のある企業以外は優秀な広報担当者を雇うことはできないでしょう。
じゃあ、どうすればいいか。
そのような場合には、サービス企画・経営企画の担当者自身が広報活動を行う。あるいは採用時に提示する条件の中に、PRへのコミットを含むということも、十分に選択に値する戦略です。今はそれができる世の中であり、広報は一部の人にしかできない「専門職」だというのはもはや幻想だと思うのです。
結果を出すビジネスパーソンは勝手に広報もやる
これは私個人の感想ですが、エンジニアにしろデータサイエンティストにしろ営業パーソンにしろ、短期間で結果を出せる人は「広報戦闘力」を隠し持っています。なぜなら、仕事の本質をつかむのが早く、相手の期待に応じて自分のアウトプットを調整することができるから。
例えば「プレスリリースを書く」こと。現場のことも、クライアントのことも、プロダクトのことも知り尽くしている彼らが書く文章には信憑性があり、もちろんパッションもあり、多少「お作法」から外れていたとしても、興味を持って記事にしてもらう/取材に来てもらうという本来の目的は果たせるものが多いような気がします。これは、事業広報も採用広報も同じ。
こんなことを言ってしまうと自分の仕事がなくなるような気がしてあまり大々的には言ってこなかったのですが、はっきり言ってプレスリリースは文章だけで成否が決まるようなものではなく、配信(発表)前後の泥臭い営業活動が結果に繋がるものです。
だから別に「広報経験がある人」が書くことは必須ではありません。
添削や記者目線でのアドバイス等もあった方が良いに越した事はありませんが、それによって掲載結果が2倍に増えるとか、そういう事はあまり無いように感じます。A/Bテストをしたことがないので体感ですが。
(日本語として読解不能だったり、ポイントがわかりにくかったり、ロジックがぐちゃぐちゃだったりする場合はそもそも論外です)
プロダクトや会社への愛を持っているメンバーが本気になれば、メディアキャラバンだってSNSだってやります。営業活動や啓蒙活動、など、マーケティングの延長としてPR活動を自然に行っているのです。
5〜6年前はPRというと、大企業の広報部で「口伝」されていくものだったり、一部のPR会社や PRパーソンの間でのみ、そのノウハウが流通しているものでした。プレスリリースはいい例で、リストを持っていないPRパーソンは全く仕事にならない時代でした。
しかしここ数年、PR TIMESや@pressの進化によってメディア向け情報発信のハードルは下がりつつけており、プレスリリースの書き方や届け方などのノウハウも多く発信されるようになりました。
全く知識を持っていない人であっても、見よう見まねで、ある程度のところまでは成果を出せる時代になっていると思います。
それじゃあ広報やPRをナリワイとして生きている私たちは、これからどこに向かっていけばいいのでしょうか。
差別化できるのは編集・執筆経験
一般的なビジネスパーソンと、PRパーソンとしてキャリアを積んできた人の大きな違いの1つは、企業広報的な視点から取り組んだ編集・執筆経験の量かもしれません。
というのも私自身、「ものすごくできるビジネスパーソンにPRの基礎知識を習得してもらった場合」と「今の自分」の差分を考えると、正直言って本質的に勝てるのはそこしかないように感じているからです。
顧客か、株主か、メディアか、情報を届ける対象が違うだけ。能力の高い人たちは、対象の人々がどんな情報を必要としているかを短時間でつかむことができます。
これは、ビジネスパーソンとして長年様々なプロジェクトにアサインされる中で培ってきた基礎体力みたいなものでしょう。
裏を返すと、ひたすら泥臭くコンテンツを制作し続ける力や、インタビュイーの立場まで慮って記事を作成する力、社長の思いを伝えるゴーストライティング能力等は、一朝一夕に高められるものではないので、そうした部分に強みを持つ人がこれから広報担当者として重宝される時代が来るのではないかと思っています。そうしたメンバーがチームに一人でもいると、事業展開上の打ち手の幅が一気に広がります。
※余談ですが、こういった理由から、私は編集者から広報担当者へのキャリアチェンジはかなり有効だと思っています。企業経営やビジネスに興味がある人に限定されますが、出版業界が大きく変革期にある今、セカンドキャリアとして目指してみるのもありだと思います。
広報経験=メディア関係者との人脈の数なのか
もう一つ、スキルが高い(と言われる) PRパーソンに共通している特徴として、メディア関係者との太い人脈がある、というところもあると思います。
テレビ局の偉い人とつながっているとか、大手新聞社のデスクとつながっているとか……。
もちろんそうした考え方も間違ってはいないと思いますし、PRパーソンには常に、新しいメディアを開拓し続けていく体力が必要だとは思います。
ただ、「メディア関係者との人脈の数」を経験値として崇拝するのは前世代的なやり方だなと思っていて、若手のPRパーソンには、人脈だけでビジネスをしている人たちをロールモデルにするのはちょっと待ったほうがいいよ、と伝えたいです。
人脈ありきでPRをすること自体が間違っているわけではありません。幅広い人間関係はその人にとって資産だと思いますし、メディア(その先の読者を含む)にとっても自社にとっても有意義な情報提供をしていくことは本質的にはお互いにとってwin-winだと思います。
ただ、そこだけにとらわれていると(そこだけをKPIとしてスキルアップしていくと)、メディアリレーションこそがPRの本質であるという勘違いをしてしまう可能性が極めて高いと感じています。
皆様ももう既にお気づきの通り、オウンドメディアやSNSを中心に、企業が世の中とコミュニケーションを取る方法は無数に広がっています。
また、イベントやユーザーミーティングなど、リアルの場を通じてファンを増やしていく、共感ドリブンのPR手法も今後ますます重要性を増していくと思います。そうした無数の手段の中から、届けたい情報やニュースに適した媒体をフラットな視点で探し出し、限られたリソースの中でアプローチしていくことこそが、PRパーソンに求められるスキルの一つになっています。
これは完全に自分の反省点なのですが、人脈ができると、つい「日経新聞に載せてもらえれば自分の仕事は一つ『完了』する」とか、安易なほうに流れがちだと思うんですよね。
どんなに大きなメディアに掲載されようと、その先の反響まで考えて戦略的に動けていたかどうか、実際の反響を確認しながら次の打ち手を考えられていたかどうかという部分が抜けていたら、何もやらなかったこととほぼ同じだと思います。
だからこそ私たちはこれからも、様々なPR手法を試していく必要があります。
トライ&エラーを重ねる中で、自社に合った手法を見つけていくそのプロセス自体に価値があると思っていますし、私自身もそういった動き方ができるフットワークの軽いPRパーソンでいたいと思っています。
2019年の締めくくり、長くなりました。
来年も、たくさんの新しい出会いと、今のご縁に感謝しながら生きていきます。
それでは皆さん、良いお年を。
Photo by Fab Lentz on Unsplash
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