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防衛テックのスカイゲートテクノロジズに投資した理由

こんにちは、ジェネシア・ベンチャーズの一戸です。

この度、防衛テックスタートアップであるスカイゲートテクノロジズ(以下、SGT)に、ジェネシア・ベンチャーズから投資させていただきました。

防衛テック(Defense Tech)とは、防衛・安全保障に関する技術・サービスを開発する新しい企業の総称で、米国を中心に昨今の情勢を受けてその存在に注目が集まっています。

スカイゲートテクノロジズ、防衛テックとしてジェネシア・ベンチャーズ、みずほキャピタルより資金調達を実施

SGTを端的に説明すると、防衛省・自衛隊を主な顧客として、ソフトウェアやAIを活用したプロダクト及びサービスを提供するスタートアップです。

本稿では、ジェネシアが社内の投資委員会でも活用している「Market.iO」という独自のフレームワークに沿って、SGTに投資した理由を説明したいと思います。

防衛テックや、シードVCの投資仮説の立て方に関心がある方にご一読いただけると嬉しいです。


Market.iOとは

そもそも、社内で活用している本フレームワークを公表した目的は以下のとおりです。

昨今のスタートアップエコシステムの発展に伴い、VCと起業家の間に長らく存在してきた情報の非対称性も多くの面で解消に向かいつつありますが、未だ抜本的な変化が見られないテーマの一つに「市場」または「市場規模」に対する見立てがあると思います。
そこで本稿では、私たちが普段社内で使用している、市場仮説を素早く立体的に構築するためのフレームワークである『Market.iO(マーケットアイオー)』を公開することで、ブラックボックスになりがちな市場の見立てに対する彼我のギャップを解消し、よりオープンで健全なエコシステムに近づく一助に出来ればと考えます。

Market.iO 〜市場の8類型とその変数〜

本フレームワークは掴み所のない「市場」を立体的かつ多面的に、可能な限り素早く捉えるためのものですが、具体的には、市場を構成する要素を以下の3つに分解し(直観的な理解を促すために、川と船のメタファーを使用)、この3つの組み合わせから計8つの型を導きます。

  • 川幅の広さ(≒市場規模)
    →WIDE or NARROW

  • 船の数(≒競合の数)
    →MANY or FEW

  • 流れの速さ(≒顧客獲得の速度)
    →FAST or SLOW

例えばある1つの型を「WIDE-MANY-FAST」のように表すのですが、それぞれの型に論点が4~5つほど用意されており、基本的にはそれらを中心に投資仮説を立てることになります。

SGTに関しては「WIDE-FEW-SLOW」の型である前提、つまり、市場規模が大きく、競合が少なく、顧客獲得に時間がかかる前提で投資仮説を立てました(なぜその型であると考えたかは後述します)。そして、この場合は以下4つの論点を軸に据えます。

Market.iO 〜市場の8類型とその変数〜

①川幅の広さ(大きな市場規模)に対して、なぜ船(先行プレイヤーの数)が少ないのか
②岩盤(法規制)の影響はコントローラブルか、最小に抑えられるか
③巨大な船(先行/寡占プレイヤー)に対して戦略上の棲み分けが可能か、イノベーションのジレンマは存在するか
④川の流れを速めるための潜在的な因子、構造的な打ち手は何か

Market.iO 〜市場の8類型とその変数〜

これらを念頭に置きつつ、防衛産業及びSGTについてご説明したいと思います。

防衛産業の拡大

ロシアのウクライナ侵攻や米中の対立、中国の台湾・南シナ海問題等によって、日本における安全保障環境は悪化しており、それを背景に防衛費が大幅に増額されています。

政府は16日、岸田文雄首相が大幅に増やすとしてきた防衛費について、2023年度から5年間の総額を43兆円程度とすることを閣議決定した。過去最大の増額で、現行5年間の計画から1.6倍に積み増す。

防衛費5年間で43兆円、現行計画の1.6倍 戦闘継続能力を強化
防衛費、過去最大7.9兆円=イージス搭載艦を建造―来年度予算

もちろん、予算の多くはミサイルや戦闘機に当てられますが、防衛省が掲げる国家防衛戦略では、「防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力」として以下の2つも挙げられています。

④領域横断作戦能力
宇宙・サイバー・電磁波の領域及び陸・海・空の領域における能力を有機的に融合し、相乗効果によって全体の能力を増幅させる領域横断作戦により、個別の領域が劣勢である場合にもこれを克服し、我が国の防衛を全うすることがますます重要になっている。
⑤指揮統制・情報関連機能
今後、より一層、戦闘様相が迅速化・複雑化していく状況において、戦いを制するためには、各級指揮官の適切な意思決定を相手方よりも迅速かつ的確に行い、意思決定の優越を確保する必要がある。このため、AIの導入等を含め、リアルタイム性・抗たん性・柔軟性のあるネットワークを構築し、迅速・確実なISRTの実現を含む領域横断的な観点から、指揮統制・情報関連機能の強化を図る。

国家防衛戦略
Ⅳ 防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力

これらは、約7.7兆円の時価総額(2024/4/15時点)を誇る、ピーター・ティールが創業したPalantirの事業とも大きな重なりがあり、同社は米国国防総省向けに上記2つを強化するようなプロダクト及びサービスを提供しておりますが、現在の日本においてはまさに今が和製Palantirが求められているタイミングなのではないかと考えています。

防衛産業におけるスタートアップの台頭

そして、急激に変化する国際情勢の中で、既存の防衛産業だけでは先端技術の安全保障領域への適用が困難と見られており、センシングやデータ処理、意思決定システムといった領域で、ソフトウェアやAIといった新たな技術を活用した企業の存在が今後も重要になると考えられることから、既存の大手ベンダーだけでなく、スタートアップにとっても大きな事業機会が眠っていると考えられます。

実際に、防衛省としてもスタートアップの参入に期待を寄せていることが伺えます。

防衛省が先進技術を防衛力強化に生かすためスタートアップ企業に熱視線を注いでいる。防衛装備庁は、スタートアップとの意見交換会を定期的に開催。防衛ニーズとのマッチングを図り、防衛産業への参入を促す。陸海空に加え、宇宙、サイバー、電磁波など新たな領域での戦いに対応するため、民間の先進技術の活用は不可欠となっている。

防衛省、スタートアップに熱視線 先進技術を装備品に取り込み

防衛、経産両省は23年9月にスタートアップとの意見交換会を始めた。これまでは参入に意欲を示す企業自身を呼び、無人機や電磁波など政府が期待する新技術について説明した。資金支援の主体となるVCにも関与を促し支援の幅を広げる。

スタートアップの防衛産業参入へ 政府、VCに出資促す

また、米国ではSBIR制度における各省庁の支援金額のうち、DOD(国防総省)が約半数を占めていますが、日本でも直近数年間でSBIR制度が促進されており、上記の動きを踏まえて防衛省による支援金額が増大していくことが期待されます。

SBIR制度は、スタートアップ等による研究開発を促進し、その成果を円滑に社会実装し、それによって我が国のイノベーション創出を促進するための制度です。同時に、革新的な技術を社会実装していくことで我が国が直面する様々な社会課題を解決に導くことも目的の1つです。

SBIR制度の事業概要・目的
スタートアップ・エコシステムの現状と課題」P.55

防衛省・自衛隊出身のCEO

一方で、当領域で事業を行うのは容易ではありません。まず、何よりも防衛省・自衛隊が持つ課題やニーズについて深い洞察力を有していることはもちろん、それに応えられるプロダクト及びサービスの開発力、高いセキュリティ要件をクリアできる技術力、防衛という国の根幹たる領域で事業を行うための信頼が求められます。

会社HPから引用

スカイゲートテクノロジズは、従前よりゼロトラストを実現するクラウドセキュリティ製品であるSkygate Cygiene(サイジーン)を開発・提供するなど、リアルタイムなセキュリティとデータ処理技術への積極的な投資を続けてまいりました。元自衛官を含む宇宙・防衛・セキュリティに関する深いドメイン知識を有するメンバーで構成されているというユニークなチーム特性を活かし、より広範なお客様の課題を先端技術を用いたテクノロジープロダクトによって解決してまいります。

スカイゲートテクノロジズ、防衛テックとしてジェネシア・ベンチャーズ、みずほキャピタルより資金調達を実施

CEOの粟津さんをはじめとした開発チームはそれらの要件を満たし得る一方で、今後より強固な開発体制を築いていく必要があるため、少しでも関心がある方はぜひお問い合わせください!(急な宣伝)

まとめ

Market.iOへ戻ると、防衛費の増額に伴って市場は拡大する(WIDE)ものの、現状としては大手ベンダーしかプレイヤーが存在していません(FEW)。また、防衛省・自衛隊がスタートアップのプロダクト及びサービスを購入するのにある程度の時間がかかることは明らかです(SLOW)

これらから「WIDE-FEW-SLOW」の型が導き出されるわけですが、最初に挙げた各論点についてもこれまでの説明で(ある程度)ご理解いただけたかと思われます。ただ、全て詳細に記載できているわけではないのと、シード投資という性質上そこから先は「信じること」と「自ら実現すること」が重要になります。

①川幅の広さ(大きな市場規模)に対して、なぜ船(先行プレイヤーの数)が少ないのか
②岩盤(法規制)の影響はコントローラブルか、最小に抑えられるか
③巨大な船(先行/寡占プレイヤー)に対して戦略上の棲み分けが可能か、イノベーションのジレンマは存在するか
④川の流れを速めるための潜在的な因子、構造的な打ち手は何か

Market.iO 〜市場の8類型とその変数〜

少しでも防衛テックや、シードVCの投資仮説の立て方への理解に役立っていれば嬉しいです。SGTや防衛テックに関心のある方、それ以外の領域でのシード調達を検討されている方はぜひお話しさせていただきたいので、XのDM等からご連絡ください。

https://twitter.com/ichinohe_GV

最後までお読みいただきありがとうございました!

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