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どこかで誰かと
こんな話しを聞いた。
昔といっても、うちのじいちゃんがまだ子供だったころの話だ。
じいちゃんの家は、浅草で料亭をしていた。
なんでも江戸時代から続く店だったらしい。
それなりに広い座敷があって、裏には家族や料理場で働く人たちの家があったそうだ。
まだ、のどかな時代でじいちゃんは学校から帰ってくると、お寺さんの庭やまだあちこちにあった川とかで遊んでいたんだって言ってた。
ある夏の日、いつものようにみんなと遊んでたじいちゃんは、ちょっとばかり古い花柄の着物を着た小さな女の子が子供達の中にいることに気がついた。
女の子は痩せて背も低く、髪の毛は肩の長さで切りそろえられていた。
でも他の誰も気に留めずに遊んでいたから、じいちゃんも気にせず一緒に遊んでたらしい。
女の子はそれからも時々、現れて一緒に楽しそうに遊んでいた。
ある夏の日、店が休みになった時、じいちゃんのお母さんがいとこやいつも遊ぶ子供たちに冷やしたスイカを切ってくれた。
女の子は縁側でかぶりつく子どもたちをニコニコみながら、立っていた。
じいちゃんが、その子の分がないことに気がついた。
「母さん、一切れ足りないよ。」
というと、一瞬動作が止まった母親は、そうかそうか、来たんだねといって、台所からもう一切れ食べやすいように切ったスイカを、小さなお皿に乗せてきて、縁側のはじにおいた。
その夜、じいちゃんの寝てるカヤの中に入ってきたお母さんはじいちゃんにこんな話をしてくれた。
「あの子はね、うちの守り神さんなんだよ。
来る年もあればこない年もある。
ご先祖さまが昔、遠野から出てきて店を構えた時一緒 についてきてくださったと言われてる。
でも不思議なことに、子どもにしか見えない神様だから、子どもの神さんかもしんないね。」
じいちゃんも父さんも、夏が来て子ども達が揃うとスイカを出す時、お菓子を出す時、必ず一つ余分に出している。
今でもうちはそうしてる。
浅草の店も戦争で焼けて、跡地には大きなビルが立っている。
今ではうちの子供たちは誰もその子を見ていない。
神さんも暮らしにくい世の中になったもんだよね。