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DFFT :データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(7)ルールデザインの方法論の革新

この記事は、データ覇権に対抗する日本の大戦略「DFFT」について、デジタルプラットフォームというビジネスモデルに対するルールチェンジに向けた日本の制度改革に着目して解説しています。

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(1)地政学的意義

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(2)競争法戦略

DFFT: データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(3)パーソナルデータ保護戦略

DFFT: データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(4)情報フィデュシャリー

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(5)誹謗中傷・フェイクニュースの排除

DFFT:データ覇権に対抗する日本のデジタル大戦略の全貌(6)消費者保護法制

ルールデザインに関する方法論のアップデート

冒頭に説明した通りDFFTは、日本の世界戦略としてとらえられます。そうすると、DFFTの実現にとって、デジタルプラットフォームが社会における重要なプレイヤーとなることを踏まえて、単に国内のルールをアップデートするだけでは十分ではありません。法律、テクノロジー、社会規範、マーケットというガバナンスの4要素を組み合わせて、他国にも受け入れられるような仕組みをどのようにデザインするかということが問われてきます。

様々な構成要素との関係を定義して、仕組みが全体として意図したとおりに機能するようにデザインされたものをアーキテクチャと呼びます。「あるべき姿」があったとしても、その「あるべき姿」をどのように実装するかによって、その仕組みが発揮する力は大きく異なってきます。

アーキテクチャの巧拙が戦略の成否を分ける

アーキテクチャの巧拙がその後の成功と失敗を大きく分けることの端的な例として、GoogleとYahooのインフラに対するアーキテクチャの違いの話が有名です。

インターネット普及期に入り、検索やメール、地図などのウェブサービスの需要が爆発的に拡大していたころ、これに対応するGoogleとYahooのアプローチは大きく違っていたといわれています。Yahooは、NetAppシステムを導入し、とにかくサーバ数を猛烈に増やすことで問題に対処しようとしました。これによってYahooは、需要の増大に対応に成功したかのように見えました。これに対してGoogleは、Google File Systemという自社独自開発のソフトウェアをインフラとする戦略を採用しました。Google File Systemは、Yahooと異なり、安価な市販のサーバを用いて、柔軟かつ耐障害性の高いシステムを構築することで、スケーラビリティと信頼性の問題を克服するというアーキテクチャを採用したことになります。

Google File Systemの開発には4年の歳月を要し、Googleはこれに膨大なリソースを投じたと言われています。その間、Yahooは専用ハードウェアをベースにしたNetAppファイルを急速に追加することで、拡大する需要に対処していました。Yahooは迅速な対応により、その戦略は当たっていたかのように見えました。

しかし、Yahooの採用した専用ハードウェア・ベースのアーキテクチャは、さらに需要と多様性が拡大し続けるにつけ、開発作業の重複という問題を起こし始めました。開発作業の効率は下がり、コスト上昇の弊害が出てきたということです。Yahooは、新しいサービスを始めるつど、そのサービス専用にNetAppプラットフォームを改造する必要がでてきました。

たとえば、Yahoo検索とYahooメールが問題に直面したとして、その問題の原因となる技術的課題は同種のものであったにもかかわらず、それぞれが異なるカスタマイズを受けたNetAppで作動していたため、それぞれ別に問題を解決しなければならないということが起こったそうです。全社的に共通のプラットフォームが存在しなかったため、サービスごとに異なるサーバーと、異なるコンピューティング能力が必要とされました。

これに対してGoogleは、すべてのサービスがGoogle File Systemの上で作動していたため、Google File Systemを一度アップグレードすれば、すべてのサービスをアップグレードできました。これはGoogleに強力な競争上の優位をもたらしました。たとえば、GoogleがYouTubeを買収したとき、GoogleはYouTubeのエンジニアに対して、これまで使用していたバックエンドを捨ててGoogle File Systemにサービスを載せるように指示しました。これによって、YouTubeのエンジニアは、バックエンドについて気にすることなく、サービス開発に専念することができるようになりました。

Google File Systemの話は、僕がシリコンバレーに住んでいた時に、Googleのワークショップでも聞いたことがあります。アーキテクチャの巧拙が早くて柔軟な実装に大きく影響をもたらす好例だと思います。

クラウド全盛の現在であれば、Kubernates利用によるコンテナオーケストレーションによって、マイクロサービスをAPIでつなぐ実装方法などが、例として挙げられるでしょうか。

制度のデザイン

制度のデザインも、これと同じことが起こります。内容が同じでも、実装方法がダメであれば、相互運用性が確保されないですとか、何か一つを変えようとすると異なるレイヤーのものまで連動して変更しなければならないなどということが起こってしまいます。こうした制度は、スケーラビリティが乏しく非効率なシステムですから、他国の採用には至りません。とりわけ、DFFTはデータの自由な流通を目標とする戦略ですから、異なる国との制度間の相互運用性が確保されていることが死活的に重要です。そのためには、アーキテクチャのレベルでのデザインが極めて重要ということになります。

近時、こうした観点から国の統治の仕方を変えていこうという考え方があり、ガバナンスイノベーションと呼ばれています。ガバナンスイノベーションについては、経産省に設けられた検討会で議論が行われ、報告書が公表されています。

ガバナンスの実装方法を見直し、スケーラブルで相互運用性を確保するためのアーキテクチャに着目していくという考えのもと、今年の5月15日に情報処理推進機構(IPA)のなかに新たに設置されたのがデジタルアーキテクチャデザインセンター(DADC)です。

DADCは、産業アーキテクチャのデザインの実践を通じて、アーキテクチャをデザイン・活用できる人材を育成することを目的とした組織です。DADCが相互運用性を確保する、法律と技術を跨いだシステムをデザインする人材を育成していくことは、日本DFFTを世界展開していくうえで、欠かせない要素となっていくはずです。

おわりに

以上、日本のDFFTという大戦略が持つ意味と、これを実現するために必要な制度面での変更への投資が必要な分野とその内容、さらにはその具体的な実装方法について、アーキテクチャデザインという発想が極めて重要であることをご説明しました。

DFFTが日本の国益に資するものとなるためには、第一に、日本の事業者が、デジタルトランスフォーメーションという企業文化の改革を伴う活動を自ら完遂させる努力が不可欠です。これなしには、そもそもデジタルプラットフォーマーとの健全な競争を唱えても、その競争相手がいないということになりかねないためです。

日本の事業者が、デジタル社会に向けて自らの姿をトランスフォームすることを大前提として、第二に、デジタルプラットフォーマーとの公正な競争を確保するための基盤の整備として、多くの法律の制定・見直しが必要になります。なかでも僕が重要と思っているのは、独占禁止法、特定デジタルプラットフォーマー取引透明化法、個人情報保護法、電気通信事業法、プロバイダ責任制限法、特定商取引法、消費者契約法ということになります。また、ここに挙げていない個別の業法も、公正な競争条件の確保という観点から、必ずしも許認可に服しない事業者に対して、パーソナルデータ保護に対する規制を適切に課していくための方法論を開発していく必要があるという意味で、DFFT戦略の実現のために重要です。

第三に、デジタルプラットフォーマーに対して特別のルールを課していくための法理論上の根拠として、情報フィデューシャリーという考え方を導入していくことが必要なのではないかということを指摘しました。情報フィデューシャリーの意味するところとその具体的な義務の内容についても、海外の研究を通じて日々、法の発見が進んでいます。新たな法理論の発展にかかわるものとして、日本の法学者による議論の深化が期待されます。

最後に第四として、ルールは内容だけではなくその実装方法が重要であるということを指摘しました。社会を望ましい方向にガバナンスしていくためツールは法律のみではありません。社会規範、テクノロジー、市場もまたガバナンスのための重要なツールです。同じ内容を規律を実現するために、もっとも効率的でかつ実効性の高い方法は何か、4つのツールをどのように組み合わせるのが最適かということをデザインしていかなければなりません。

DFFTを世界展開していくために、デジタルアーキテクチャデザインセンターにおける、技術と法律をクロスオーバーさせたアーキテクチャデザインの実践と、これを通じた人材育成に強く期待したいと思います。


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