【オーロヴィル滞在記①】インドに創られた世界都市
オーロヴィル(Auroville)というコミュニティーをご存知でしょうか。
インド南部の都市、ポンディチェリー近郊にある、国際コミュニティです。
環境に優しい取り組みを多数行っていることから、エコビレッジともいわれています。
私はインド滞在中の2021年、オーロヴィルのオーガニック・ファーム(化学肥料や農薬を使わない農法を実施している農園)でボランティアをしながら、サステイナブル・ファーミングや、パーマカルチャー(永続的農法)について学んでいました。
オーロヴィルは、外国人やインド人にさえ、あまり知られていませんが、環境に優しい取り組みを多数行っており、とても興味深い場所です。1日からの滞在も可能で、自然豊かなところなので、サステイナビリティや、エコビレッジに興味がある人、自然に癒されながらリフレッシュしたい人にとって、とても面白い場所だと思います。
個人的には、インドでこれまで訪れた場所の中で、最も面白い場所のひとつですが、「観光地」ではないためか、ネットで調べても最近の情報がありません。今回は国際都市オーロヴィルについて、私の経験とともにシェアしたいと思います。
オーロヴィルとは
オーロヴィルは、インド南部の都市・ポンディチェリー近郊にある、世界最大の国際コミュニティー、エコビレッジです。
「世界中の人々が人種、宗教、国家、文化の壁を越えて結ばれるヒューマン・ユニティーの実現」というビジョンのもとで、約60か国、約3200人の人々が共に暮らしています。
環境実験都市として、インド政府やユネスコからの後援も受けており、永続的農業、森林・水資源保護、持続可能な資材を利用した建築など、様々なプロジェクトが行われています。
オーロヴィルは、ふたりの人物の理念を起点に創られました。
近代インドの思想家・宗教家であるスリ・オーロビンド(Sri Aurobindo)、
そして、オーロビンドの片腕的存在であった、フランス出身の女性ミラ・アルファサ(Mirra Alfassa)です。「マザー」という愛称で知られています。
1872年にコルカタに生まれたオーロビンドは、インドの独立運動家として初期のインド自由化運動をすすめました。独立運動を行う中で、哲学、スピリチュアルな世界に傾倒、南インドのポンディチェリーにアーシュラムを創設し、自身が提唱した哲学や精神を弟子たちと共に追求しました。
ミラ・アルファサは、フランスからインドに移住、オーロビンドの片腕としてアーシュラムの運営を担い、「マザー」として慕われていました。
オーロヴィルは、ミラが呼びかけた、「世界中の人々が人種、宗教、国家、文化の壁を越えて結ばれて住むことのできる世界都市を作る」という理念のもと、1968年2月28日に創設されました。
この理念に、インド政府、企業、国際組織、UNESCO(国連教育科学文化機関)、EC(欧州共同体、現在のEU)も協賛し、創設時の起工式には、日本を含めた124か国の人々が参加しました。
オーロヴィルの理念である、”Human Unity”(人類の調和)の象徴として、それぞれの国から一握りの土を持ち寄り、一つの壺に収めたそうです。
オーロヴィルの象徴的建築物である、マトリ・マンディル(金色の瞑想ホール)のそばには、この世界各国から集められた土の入った壺が置かれています。2018年の創設50周年式典には、インドのモディ首相も参列しました。
60か国、3200人が暮らす
2020年12月時点で、約60か国、3200人の人々、このコミュニティーの住人(オーロヴィリアン)として暮らしています。出身国は、約60か国にわたります。
住人の出身国は、インドが最も多く、次いでフランス、ドイツ、イギリス、アメリカなどの欧米出身の国々に続きます。欧米人に比べると少数ですが、韓国や中国、東南アジアや、南米、アフリカ出身の人々もいます。日本人の方も何名か暮らしています。
オーロヴィルの敷地内には、住人たちが住居を構えて暮らす小さな「コミュニティー」(日本の「町内会」のようなもの)が点在しており、各コミュニティー内で、多様な国の人々が暮らしています。
コミュニティの住人以外にも、リフレッシュ休暇や、観光のために短期で滞在している「ゲスト」、中長期で滞在している「ボランティア」も滞在しています。
私もオーロヴィル滞在中、世界中の国々から来た人々に出会いました。
滞在中に知り合った人たちの出身国は、フランス、イギリス、イタリア、ドイツ、オーストラリア、ポーランド、アメリカ、アルゼンチン、チリ、エチオピア、中国、韓国、インドネシア、インド、ロシア、、
「国を超えたヒューマン・ユニティーの実現」というオーロヴィルの理念から、どこの国から来たか、ということを気にしない人も多いように思いました。出身国を聞かれないことも多かったです。
宗教や信条は基本的に自由
オーロヴィルは、特定の宗教に属さず、信条を強制することはありません。
住人になりたい場合、オーロヴィルの理念に共感している必要はあるが、個人の宗教や信条は基本的に自由なのだそうです。
オーロヴィルの理念も、基本的には「世界中の人々が人種、宗教、国家、文化の壁を越えて結ばれる、ヒューマン・ユニティの実現」という、きわめて普遍的なものです。住人には、クリスチャン、ムスリム、仏教徒、ヒンドゥー、無宗教、色々な方がいるそうです。
オーロヴィルの中には、宗教的な建築物はありません。(この土地に昔から建っていた地元のヒンドゥー教の寺院のみ)
オーロヴィルの話をしたり、インターネットに書かれている情報を見ると、
カルトや新興宗教をイメージする人もいるようですが、実際には、そのような雰囲気は全くありませんでした。
私が滞在中出会った人々の印象では、人々はオーロヴィルの理念もさることながら「自然に対する愛」を共有している印象を持ちました。
環境、教育、農業、アート・・世界から来た人々によるプロジェクト
オーロヴィルは「尽きることのない学びと絶え間ない進歩の場」として様々な領域で、実験的な取組みを多数行っています。例えば、以下のような取り組みを行っています。
森林再生、水資源保護
森林再生、水資源保護で多数のプロジェクトを実施しており、ユネスコやインド政府からの称賛を受けています。
オーロヴィルの創設当時(1968年)は、その土地は赤土が広がる荒れ地でした。イギリス、フランスの植民地支配下で、多くの木が切り倒され、自然資源が枯渇した乾いた大地だったそうです。
オーロヴィルの住人、インドの地元住人によって、植林、水資源利用、土壌構築の取り組みが行われ地道に継続され、今日では生物多様性あふれる森林となっています。人工的に育てられた森とは思えないほど、緑豊かな土地になっています。
持続可能な農業
オーロヴィル内の敷地には、15以上の農園があります。
すべての農園がオーガニック農法に取り組んでおり、オーロヴィルの農園では化学肥料や農薬を利用することは禁止されているそうです。(ひとつの農園で利用すると、風や水に流されて他の農園の土壌にも影響するため)
採用している農法・技術も、農園によって異なります。自然農法、永続的農業(パーマカルチャー)、IoTを利用した灌がいなど、農園を運営するコミュニティごとに、個性のある農法を実践しています。
教育
幼稚園から高等部まで、独自のカリキュラムを採用した学校があります。バランスの取れた健康的教育を目指し、芸術、スポーツなどの科目も豊富です。(フランスのモンテッソーリ教育のようなもの)
現地のタミル人、そして様々な国から来た子供たちが、同じ教室に通っています。オーロヴィルの住人の子どもたちは、基本的には無料で教育を受けられるそうです。
近隣の農村開発
オーロヴィルでは、近隣のタミル・ナドゥ州の村に対して、健康、教育、女性の地位向上などにおいて、多数のプログラムを実施しています。
Auroville Villege Action Groupという団体や、個人が立ち上げたNGOなどを通じて、多様なプログラムが行われています。
オーロヴィル内の各施設や商店、そして住人の家での仕事など、近隣の村々に、約4000~5000の雇用を創出しています。
アート
オーロヴィルでは、アートやスポーツを、人やコミュニティにとって重要な活動だと位置づけています。
インドの古典芸術(古典舞踊や絵など)や、世界各国のダンス、演劇、音楽、映画、インドやアジアの武術(インドの古代武術や合気道など)、ヨガなど、多種多様なプログラムが毎日開催されています。
ダンスや演劇など、様々なアートに体験的に触れられる場所は、インドではめずらしく、インド国内から来る人々は、これらのプログラムへの参加を目的に来ている人も多い印象を受けました。オーロヴィルで出会ったインド人の人々も、プロのダンサーやアーティストなど、才能あふれた人々が多かったです。
おわりに:世界のどこにもないユニークな場所
以上、オーロヴィルの概要をまとめました。
世界60か国の人々が、ひとつのコミュニティとなって暮らしている、とてもユニークな場所だと感じました。世界のどこにもないと思います。
また、ボランティアやプログラムを通じて、色々なことチャレンジできる環境に魅力を感じ、インド国内外から多くの若い人が、オーロヴィルに中~短期滞在していました。「自分探し」「自分が好きなことを見つける」ために、ここに来ている人も多かったです。
私が滞在していた時期は、コロナ下でリモートワークの人が多かったので、オーロヴィルに長期滞在しながら、ワーケーションをしている人たちも多数いました。
以上の説明は非常にざっくりとしているので、詳細はオーロヴィルのウェブサイトをチェックしてみてください。
また、日本人の方が書いたオーロヴィル滞在記の本も出版されています。
少し昔の情報にはなりますが、この本も、オーロヴィルについて丁寧に説明されています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。