見出し画像

sayuras 「RTA」

sayuras のセカンドシングルとしてリリースされた「RTA」。オフィシャルミュージックビデオを、sayuras オフィシャルYouTubeチャンネルで観ることができる。

この曲の一番好きなところは、冒頭や間奏やエンディングで聞こえてくる、ヴォーカル三上ちさこさんの、熱にうなされて疾走するかのような、言葉にならない歌声。

他方、言葉になっている歌の方には、ドキッとさせられる言葉がところどころにある。

最初のサビを締めくくる歌詞は

君が往くはずだったあの場所へ僕が行く

sayuras「RTA」

続くAメロでは、

あの日から壊れて始めてたんだ
見えぬ澱みが 僕を覆い 蝕んでいく

sayuras「RTA」

この歌詞の後に、西川進さんのドス黒いギターリフが入る。そのリフに乗る歌詞は

気づかぬフリ 僕は弱い 逃げ続けてたんだ

sayuras「RTA」

二度目のサビを締めくくるのはこの言葉

ゴミみたいな部屋と 荒み切った自分は 
朝の海に棄てたここから這い上がってやる 

sayuras「RTA」

ここで、曲調が一転して、根岸考旨さんのベースソロが始まり、西川進さんの、もがき苦しむようなギターソロが続き、ブレイクの後、浄化されたような、ちさこさんの歌詞のない歌声が。

この部分は、sayuras の前回のライブ(2024年4月@渋谷eggman)で演奏された様子が、ちさこさんのインスタアカウントにアップされている。

最後のサビを締めくくる言葉は

君と往くはずだったあの場所へ向かって逝け

sayuras「RTA」

そしてまた、ちさこさんの、熱にうなされて疾走するかのような、言葉にならない歌声が入り、フェードアウトしていきそうな雰囲気のところに、突然、この曲のどこにもないコードが不意打ちで入って、宙ぶらりんのような形で終わる。


この曲を編曲したのはベースの根岸さん。こんな尖ったアレンジの曲を、セカンドシングルに持ってきたところが、sayuras らしいし、普通のロックバンドじゃないんだぞ、という宣言だと思う。

sayuras が結成された時、fra-foa ファンだった私は、少しだけ不安だった。fra-foa 解散から約20年が経った分、年を重ねて丸くなった部分はあるだろうし(自分自身もそう)、メンバーの根岸さんも西川さんも、様々なアーチストのプロデュースやバックバンドを務めてきて、多くの人に伝えるための音楽をやってきただろうから、sayuras は、かなりポップな方向に向かうのではないかと。

「RTA」はその心配を吹き飛ばしてくれた。メロディーはポップだけれども、曲構成や歌詞の内容が王道ではない。だから聴いてて面白い。

sayuras のデビューライブ(2023年12月@下北沢 Club Que)では、本編最後の曲として、前回のライブ(2024年4月@渋谷eggman)では、本編最後に立て続けに演奏された3曲の初めに、演奏されたことからもわかるように、「RTA」は sayuras の世界観のキーになる曲と言える。

その前回のライブでの演奏のダイジェストがこちら。sayuras リズム隊の音が心地よい。

この「RTA」の後に、以前に紹介した「揺れる」が続き、最後に fra-foa の最もヘビーな曲「月と砂漠」で締め括られた流れは、前回のライブのハイライトだった。

11月1日のライブでは、どのような位ちづけで「RTA」が演奏されるか、楽しみ。

sayuras 渋谷 WWW ワンマンライブ(イープラス / ローチケ)まで
あと26日

注:トップの画像は、リアルサウンドの三上ちさこインタビュー記事(2024年4月11日)から拝借しました。撮影は山川哲矢さん。

#sayuras #三上ちさこ #根岸孝旨 #frafoa


追記

以上を書き終えてから、「RTA」リリース時の sayuras のコメントを見つけた。

この曲は、井上雄彦先生の映画『THE FIRST SLAMDUNK』に心を揺さぶられ、書いた曲です。この作品の主人公であるリョータが、常に比べられ劣等感を抱きつつも憧れていた最愛の兄を亡くし、言葉にならない怒りや哀しみ、申し訳なさやふがいなさでぐちゃぐちゃになった感情が、ある日爆発してしまう。そんな中、自分のルーツになっている小さいころ兄と過ごした場所で、ひとり自分を見つめ直したその日から、彼は変わっていく。その過程が愛おしく、美しくて。そんな、生きることのしんどさ、尊さを、大人になった今の自分の立ち位置で歌いたいと思いました。

三上ちさこ参加バンド sayuras、2ndシングル『RTA』をリリース 楽曲プロデュースは根岸孝旨」(リアルサウンド、2023年11月22日)

このコメントと、ちさこさんのインタビュー記事の中の以下の言葉を踏まえると、「RTA」がまた違って聞こえてくると思う。

 私が小学校1年生の時、兄が白血病で亡くなったんですけど、ずっと入院生活をしてたから母は兄につきっきりで、私は親戚の家に行って、一人で過ごすことも多かったんです。それもあって母親の愛情にすごく飢えてたんですけど、Coccoがきっかけになって、辛かったことや抑え込んでいたこと、良い子のふりをしてたことも全部、歌で解放していいんだって教えてもらって。反抗期もあまりなかったので、そういう感情を出せる手段を知らなかったんですけど、全部バーって歌詞に書き始めたのが制作の最初ですね。
 私って、すごく“やきもち焼き”だったんですよ。兄が亡くなった後も、母が他の赤ちゃんを見て「可愛いね」って言うだけで、自分なんかいらない存在なんだって思い込んで、一人で部屋で泣いてるみたいな子供だったんで。得られなかった愛情を満たすために、オリジナル曲を書き始めた感じです。

「傷こそが輝きなんだと伝えたい」 三上ちさこ、fra-foa解散から活動復帰までシンガー人生を振り返る(リアルサウンド、2024年4月11日)

そして、この感情が、三上ちさこというシンガー、そして sayuras というバンドの根底にある世界観を形作っている。

そこに共感するからこそ、私にとって sayuras の奏でる音楽は特別であり、住んでいる京都からわざわざ東京まで行ってライブを観たいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?