ある夏の日記
8/31
完全に忘れていた。夏休みの宿題に日記があった。今から7月のことを思い出せる訳なんてないので、ほとんどが捏造になるだろう。だが仕方ない。こんなこと真面目にやるやつなんて高橋くらいしかいないだろう。とにかく急いで書こう。朝まで手を動かし続けたらギリギリ……間に合わないかもしれないけれど。
8/25
こんなことを宿題の日記に書くのもどうかと思うが、昨日の夜、父さんと母さんが寝室で喧嘩していた。普段あんなに優しい父さんが何度もビンタしていた……いや、その現場は寝室のドアを隔てているから見てはいないのだけど。何度もパンパンと音がしていた。……うん、喧嘩という描写にしといてやることに感謝しなさいよ。
8/22
隕石が落ちてきてかれこれ1カ月になるのか。あれがあってからみんなに超能力が備わってしまい町中えらいことになっている。もちろんぼくにもそれは備わっているから、こうやって日記を書くときだってペンは空中に浮いている。……だったらどれだけ良かったか。腕に力が入らなくなってきた。
8/21
今日の天気はあめだった。雨が降ったって? とんでもない、飴だ。天を仰いで口を開けてたらパンパンに飴が溜まって焦った。危うく窒息するところだった。井上あたりは窒息して死んでしまってるかもしれない。
8/9
天気シリーズも書き尽くしてしまったがどうにかもう一日分は絞り出したい。晴れの日に兄貴が奇妙なダンスを踊っていた。ある晴れた日のことー……全く世代ではないがぼくも一応知っている。
8/2
そろそろ日を跨ぎそうだ。8月分を書ききったら仮眠でも取ろうか……いや、待て待て。そんなことしてる場合か? むしろ走り切ってから本睡眠を取るべきだ。ほんの少しの昼寝が大災害を生み出すことをぼくは身を持って知っている。
7/30
やってしまった。寝る気はなかったのに8月を走り抜いた達成感で気が緩んでしまった……目を休ませようと閉じたら3時間も経っていた! もう朝方だ。急ごう。
7/22
隕石が落ちてきた。町中は大慌てだ。隕石から未知の放射線が発せられてるみたいで、科学者連中が大慌てで記者会見をしている。……こういうところの伏線はちゃんと回収しておかないとな。
7/15
勘弁してくれよ。こんな時間なのに寝室から例のアレが聞こえてくる。大体ぼくの隣の部屋なのによくやるものだ。向こうは子供だと思ってるかもしれないけど、実はちょっと大人だったりするのだから侮らないでもらいたい。
7/5
しまった。勢い余ってこんな日にちまで日記を書いてしまった。夏休みが始まる前じゃないか。最終日から遡って書いていく手法がそもそも愚かだった。とはいえ消すのも勿体ない。これはこれでフィクションと割り切って楽しんでもらいたい。
7/5
兄貴が死んでる。
7/5
父さんと母さんも死んでる。
7/5
面白いこと書いてるな。どこに隠れてるのか知らねえが見つけて殺す。
7/5
隕石が落ちてきた。衝撃で意識を失っていたけれど、殺人犯は吹っ飛んで下駄箱の角に頭をぶつけて死んでしまった。嘘から出た真というか、なんというかだけど。
7/5
隣の家の入間さんが心配して様子を見に来てくれた。警察だとか、その辺の連絡をしてくれたみたいだ。ぼくは全て失ってしまった。父さん、母さん、兄貴。日記を書いた労力と時間……はどうでもいいか。とにかく眠りたい。
7/5
そういえば手に入れたものもあった。一応、伏線回収。
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