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噺を撮る【馬】

馬が題材となっている噺はいくつかありますが、そのうちの一つ、「妾馬(めかうま / めかんま)」。
とはいえ、一般に演じられるこの噺に馬は出てきません。
「一般に演じられる」という持って回ったような言い方をしましたが、この噺を全部やると1時間かそれ以上かかるので、その中の面白い部分だけを演じられることが多く、そこには馬が出てこないのです。
そんなこともあり、また、「妾」という言葉が放送に適さないということもあり、「八五郎出世」という題目で演じられることもあります。

で、どんな噺かというと、

裏長屋に暮らす母親、八五郎、そしてその妹のお鶴。
器量良し、気立良しと近所でも評判のお鶴。
近くを通りかかったお殿様に見初められてお城へ上がることになった。
そして、めでたく懐妊。
殿様には子供がなかったため、お鶴が産んだ男の子がお世継ぎとなり、お鶴は大出世。
一方の八五郎は相変わらず飲んだくれて、博打(ばくち)ばかり打っている。
そんな兄だが、「会いたい」というお鶴の願いから八五郎がお屋敷に招かれる。
しかし、言葉遣いも作法も、堅苦しいことは一切知らない八五郎。
上等な酒や見たこともないご馳走を前に、殿様と珍問答を繰り広げ、周りにいる家来をヒヤヒヤさせる。
しこたま飲んで、いい気分になった八五郎。
ふと見ると、殿様の隣に赤ん坊を抱いたお鶴がいるのに気づく。
「お、そこにいんのはお鶴かぇ。いやぁ、立派になりやがったなぁ」
急にしんみりする八五郎。
「おっかさんに初孫ぉ抱かしてやりてぇ。おしめも洗いてぇだろうよ。」
「こんなご馳走、食わしてやりてぇ」
もちろん、そんなことは叶わない。

酒をやりながら、八五郎が一人で語るこのくだり。
涙なしには聴けません。