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黒い湖、犬かきで泳ぐ
※過激な表現(生死、波が押し寄せる等)が含まれています。苦手な方は読む際お気をつけください。
言葉を選ばないで言うと、浜松には死ぬ場所を決めに行くようだった。それは1日目のこと。
夜に見た浜松湖は真っ黒く深く、私を引きずりこむかのようにゴーゴーと風が吹いていた。
ここにのまれたら私は帰れない。湖からの気を祓いながら、道中のコンビニに慌てて駆け込んだ。
思い返すと、そのコンビニに唯一いた店員さんはとにかく明るくて沢山話しかけてくれた。
「このチョコ懐かしいなあ。おじさんが小さい時からあったから、ペコちゃんも随分歳を取ったよね。」
この優しさが何人もの命を救ってくれている。そんな気がしてならない。
旅館に戻って風呂に入り、Instagramを覗く。
いつもなら気になってもスクロールする友達の卒業旅行のストーリーたちが、波になって私を侵食してきた。
私は泳ぐのが下手くそだから、溺れない!溺れない!!!と言い聞かせ必死に犬かきで岸まで辿り着いた。
もうその頃には涙と鼻水で自分自身で湖が作れそうだった。
翌日の朝に顔を合わせた浜松湖は綺麗な水色で、ちょっと強すぎる風すらその眩しい景色に磨きをかけていた。
「私がここで骨になろうとしたら、きっと悪目立ちしすぎて犬かきしてる間に拾われてしまうだろうな。」
途端何かがプツッと切れて、昨日は近寄らなかった水際まで歩いた。
水は当たり前に冷たくて水面は近づくほど煌めいていた。なんだ怖くないじゃないか。
昨日が嘘だったかのようにエヘン!と歩く私に「死ぬ場所」なんて言葉は1%たりとも残っていなかった。