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双子の星 05

私共の世界が旱(ひでり)の時、
瘠せてしまった夜鷹やほととぎすなどが、それをだまって見上げて、
残念そうに咽喉(のど)をくびくびさせているのを時々見ることがあるではありませんか。
どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。

けれども、天の大烏(おおがらす)の星や蠍(さそり)の星や兎の星ならもちろんすぐ行けます。

「ポウセさんまずここへ滝をこしらえましょうか。」
「ええ、こしらえましょう。僕石を運びますから。」

チュンセ童子が沓をぬいで小流れの中に入り、
ポウセ童子は岸から手ごろの石を集めはじめました。

今は、空は、りんごのいい匂いで一杯です。
西の空に消え残った銀色のお月様が吐いたのです。

※青空文庫 宮沢賢治 作「双子の星」より

(底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社)

つづく

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