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双子の星 06
ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。
「あまのがわの にしのきしを、
すこしはなれたそらの井戸。
みずはころろ、そこもきらら、
まわりをかこむあおいほし。
夜鷹、ふくろう、ちどり、かけす、
来よとすれども、できもせぬ。」
「あ、大烏(おおがらす)の星だ。」
童子たちは一緒に云いました。
もう空のすすきをざわざわと分けて
大烏が向うから肩をふって、
のっしのっしと大股にやって参りました。
まっくろなびろうどのマントを着て、
まっくろなびろうどの股引(ももひき)をはいて居おります。
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大烏は二人を見て立ちどまって丁寧にお辞儀しました。
「いや、今日は。チュンセ童子とポウセ童子。よく晴れて結構ですな。
しかしどうも晴れると咽喉が乾(かわ)いていけません。
それに昨夜は少し高く歌い過ぎましてな。ご免下さい。」
と云いながら 大烏は泉に頭をつき込こみました。
「どうか構わないで沢山呑んで下さい。」
とポウセ童子が云いました。
大烏は息もつかずに三分ばかり咽喉を鳴らして呑んでから
やっと顔をあげて一寸(ちょっと)眼をパチパチ云わせて
それからブルルッと頭をふって水を払いました。
※青空文庫 宮沢賢治 作「双子の星」より
つづく
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