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双子の星 06

ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。

「あまのがわの にしのきしを、
 すこしはなれたそらの井戸。
 みずはころろ、そこもきらら、
 まわりをかこむあおいほし。
 夜鷹、ふくろう、ちどり、かけす、
 来よとすれども、できもせぬ。」

「あ、大烏(おおがらす)の星だ。」

童子たちは一緒に云いました。

もう空のすすきをざわざわと分けて
大烏が向うから肩をふって、
のっしのっしと大股にやって参りました。

まっくろなびろうどのマントを着て、
まっくろなびろうどの股引(ももひき)をはいて居おります。

© masako notan 2024

大烏は二人を見て立ちどまって丁寧にお辞儀しました。

「いや、今日は。チュンセ童子とポウセ童子。よく晴れて結構ですな。
 しかしどうも晴れると咽喉が乾(かわ)いていけません。
 それに昨夜は少し高く歌い過ぎましてな。ご免下さい。」

と云いながら 大烏は泉に頭をつき込こみました。

「どうか構わないで沢山呑んで下さい。」

とポウセ童子が云いました。

大烏は息もつかずに三分ばかり咽喉を鳴らして呑んでから
やっと顔をあげて一寸(ちょっと)眼をパチパチ云わせて
それからブルルッと頭をふって水を払いました。

※青空文庫 宮沢賢治 作「双子の星」より

※青空文庫 宮沢賢治 作「双子の星」より

つづく


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乃淡 雅子
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