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“Song2”なぞいらぬ / 本気で聴くべきブラー50曲


ブラーはこれまでに9枚のアルバムを発表し、シングル盤やファンクラブ限定曲などを含めると、その楽曲数は248曲にのぼる。

1991年のデビュー作『Leisure』から2003年の『Think Tank』までの12年間を振り返ると、バンドとして安定して活動できていた期間は、実のところごくわずかだった(※)。

そう考えると、248曲という数はかなり多い。綱渡りのような活動の中で、これだけの楽曲を残してきたことに、改めて驚かされる。

※その理由は、常に揺れ動いていたデーモン・アルバーンとグレアム・コクソンのパワーバランスにある。映画『blur: To The End』の中でも、デーモンは暗に、バンドの継続が常に危うかった原因がグレアムのアルコール依存にあったことを仄めかしている。しかし、この言い分はあまりにフェアではない。
※では「『The Magic Whip』『The Ballad of Darren』があるではないか」という当然の指摘に対して。この2作は、実質的に再結成後の作品であり、純粋なオリジナル・アルバムとは別枠と考えたい……いい作品ですけどね。

にも関わらず、ブラーにはロクなベスト盤がない。
人気曲や代表曲を並べるのがベスト盤の趣旨だから、どれも似たり寄ったりになるのは仕方ない。とはいえ、ベスト盤とは同時に、バンドの全体像や音楽性にバイアスをかけるものでもある。要するに、私以外の誰かが作ったベスト盤は、総じて退屈だ。

左)『The Best of Blur』 
右)『Midlife: A Beginner's Guide To Blur
退屈

であれば、自分で作るしかない。というのが自然な流れだ。

さて、作り始めた当初は20曲を想定していた。が、到底足りない。
絞りに絞って、ようやく50曲に収まった。

『The Modern Life Is Rubbish』が好きすぎる。
『13』以降は、あからさまに熱が落ちている。
『Think Tank』は、正直ブラー作品とは認めたくない。
――そんな私的ブラー観による偏りは否めないものの、「ブラーとはどんなバンドなのか」をある程度見渡せる選曲になった、はずである。

ちなみに、曲順に関しては、先日観たばかりの『blur:Live At Wembley Stadium』の影響が強い。

最初は「TOP50ソング」として、1位から順に並べてみた。が、当然のことながら、後半になるにつれて熱量が下がってしまう。そこで改めて、「もし4人に無限の体力があるのなら、やってほしいライブ(MCを含め4時間15分を想定)」 という視点で再構成した。

ただし、バンド最大のヒット曲 “Song 2” は含めていない。また、2000年代以降のステージで必ず最後に演奏されてきた “The Universal” も外した。この理由については、次のテキストで説明したい。

少し大げさに言えば、ブラーの音楽性を俯瞰することは、そのまま「ブリットポップとは何だったのか?」を見直す作業でもある。
時に反面教師的な視点を交えながら、英国の音楽史への入り口となる側面もあるだろう。

そして、この50曲それぞれのリファレンスを辿っていけば、音楽だけにとどまらず、文学的な背景や、英国独自の生活文化史にまで広がっていく。その情報量は、膨大だ。

と、こんなふうに書いている私自身、果たしてアルバム収録曲の歌詞すら本当に理解できているのか――と問われれば、正直、自信はない。30年以上経った今もなお、ブラーを極めるにはまだまだ遠い道のりだ。
おそらく、これからも時間がかかるのだろう。だが、それこそが最高の喜びではないだろうか。

余談だが、グレアムは自身の著書『Verse, Chorus, Monster!』の中で、生い立ちからブラー結成前夜までを振り返っている。そこで彼は、自身の音楽的・芸術的素養を育んだ経験や思い出を綴っており、メディアのインタビューではあまり語られることのない、きわめて個人的な一面が描かれている。

特異な音楽家/ギタリストであるグレアム・コクソンを紐解くには、まさに絶好の一冊と言えるだろう。

さらに余談だが、『Verse, Chorus, Monster!』はオーディオブック版も販売されており、朗読を担当しているのはグレアム自身だ。「本と併せれば英語教材としても最適では!」と大喜びで購入したものの、勉強以前に、彼独特のふにゃふにゃとした柔らかい口調が猛烈な眠気を誘う。

とはいえ、9時間以上にわたってグレアムの声を聞き続けられるという、マニア垂涎の一品であることに違いはない。


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唐沢真佐子 / Masako Karasawa
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