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「考える」と国語:仕事してくれる語彙を増やすこと

私は2023年、ちょうど一年位前に大学院を卒業してMBAを取得しました。その母校であるビジネス・ブレークスルー大学大学院(BBT)で、卒業後から「国語と知的思考」という名前の科目のTAをしています。

TAとは

TAとは、ティーチング・アシスタントの意味で、大学の授業やその準備を行う教員をサポートし、授業の円滑化を図るという役割の仕事です。大学院生が学部の授業のサポートをすることが多いようですが、BBTでは卒業生が担うことが多いポジションです。

社会人大学院であることから、受講生のほうが自分よりキャリアがある方もたくさんおられ、日々刺激を受けています。

「国語と知的思考」とは

私がTAをしている「国語と知的思考」という科目は、「考える」という知的な思考は、国語という土台の上に成り立っている、という後正武先生の強い信念から生まれた科目です。
講義の概要をシラバスからちょっとだけ抜粋します。

誰も答えを教えてくれない未来に向って、自分の力で道を切り開いていかなければならなくなる未体験の課題が待ち構えている社会かも知れません。そこでは「ゼロベースから自分の頭で考える」ことが要求されます。この講座ではHow toマニュアルにたよらず、自分の力で思考する基礎的な能力を身につけるために、「考える」習慣を身につけていただくことを目指します。

「国語と知的思考」シラバス

現在は後正武先生の講義をベースに、深尾浩紹先生が指導してくださっている科目です。

「考える」と国語との関連


この科目で先生方がお話しくださっていることを乱暴に解釈すると、「考える」ということは、非常にファジーなふわふわした思念を、揺るがない一点にまとめていくというプロセスを指しています。考えるという言葉の示す内容は幅広く、例えば空を見て「あんぱんみたいな形の雲だな」と考えることも「考える」ですし、誰かと議論をしていて論破するために練り上げた答弁も「考える」というプロセスの結果です。とりとめのないことを「考える」こともできる。

でも、この「考える」は、あくまでも言葉によって行われるものです。
だから、自分の持っている言葉の数、語彙の数を超えて考えることは、絶対にできないのです。
私が最初にこの科目を受講生として受けたとき、最も衝撃を受けたところはここです。
自分が考えられる範囲は、自分の知っている言葉の範囲でしかない。
だから、より深く、よりたくさん、よりきちんと自分の頭の中のフワフワしたアイディアや感情、感覚を第三者に伝えたかったら、あるいは自分で味わいたかったら、「国語」をやるしかない。語彙を増やし、それを適切にとどめる技術を身につけなけれならない。

この考え方は私にとっては衝撃でした。

読書の大切さと考える力

読書が大事だと言われる理由はたくさんあると思いますが、その効果のひとつとして確実に言えることは「語彙を増やす」ことが手っ取り早くできる、というものです。
語彙が増えると、それだけ考えるときにとっかかりが増えます。
逆に言うと、語彙が少ないと思考が雑になってしまい、「本当は違いがあると自分で思っていること」も結果として同じもののように伝えるしかできなくなってしまいます

例えば、かわいい、という言葉。
推しを愛でるときに、「かわいい」というだけではうまくその可愛さが伝わらない…という経験があるのはたぶん私だけではないと思うのですが、「あのクルッと振り返るときの前髪の揺れ方たまらなくバチカワ」とか、「ご飯の動画配信でもぐもぐしてくれるのぐうかわ……」というときに、バチカワとぐうかわではニュアンスが違うのです。これを「かわいい」でまとめることは、もう私にはできない。なんだったらバチカワもぐうかわでも足りない。推しは尊い。

脱線しましたが、語彙がなければ私たちはその語彙の概念が使えない。逆に言うと言葉がもう含んでくれている概念は考える作業をしないでも表せるのです。考えるって結構体力と気力を使うので、考える作業自体をショートカットできるのは本当に素晴らしい効果です。

この原稿だけでも「サポート」だの「ニュアンス」だの「プロセス」だの、カタカナ語をふんだんに盛り込んでいますが、これはその方が説明が楽だからです。別に「サポート」を「支援」、「ニュアンス」を「微妙な意味合い」と言い換えてもいいのかもしれないけれど、その過程で落ちていく、それこそ微細な差異があるから、それを取りこぼさないようにカタカナ語を使っている。その言葉の持つ力で思考が支えられている、ということがこうした言葉の取捨選択にはあるように思います。

考える、ということを考えるために、「国語をやろう」というのはちょっとハードルが高いかな、と思うときもあります。だって私話せるし。使えてると思うし。今更国語と言われても何から手を付ければいいのか不安になるかもしれません。

仕事をする語彙を増やすこと

そんなときにおすすめなのは、まず「語彙を増やす」ということです。
語彙は漫画でも増えます(なので語彙の少ない漫画を読んでいる方はぜひ語彙の多い漫画にもチャレンジしていただきたい)。口語で使われる語彙はドラマでも増えます。まずは自分が読まないジャンルの本を読むだけでも語彙を増やすことはできます。知らない言葉に触れるということは、自分が持っていないとっかかりを増やすということです。だからしんどい時もたくさんあります。

でも、別に一足飛びに吸収する必要はないんです。スポーツ漫画が好きなら、スポーツを題材にした小説が読みやすいでしょうし、そこからスポーツ選手の自叙伝に入っていく、その選手のスポーツ理論を扱った本を読む……みたいに広げていく方法もあります。

言葉は私たちの思考を引っ張ってくれます。
それは語彙が「仕事をしてくれる」からです。
フワフワと脳を横切っていくものに名前を付ける、それが語彙が仕事をしている状態です。
だからこそ、私たちは語彙を増やした方がいい。そのほうが豊かにものを考え、愛で、伝えることができるからだと私は確信しています。

この記事はwomanプロティアンが運営するnoteマガジン『ウープロWalker』のリレー記事として描きました。バトンをくださった尊敬するコスモ女子Sayoriさんの記事をここにご紹介し、私のホームであり、大好きな仲間であるwomanプロティアンをご紹介して、稿を終えたいと思います。


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