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公園を哲学しよう!コペンハーゲンの「Superkilen」に見る、公園の知られざるチカラ.地域の問題を解決し、場のポテンシャルを最大限に引き出す.

グランドレベルという会社をつくる前に、ヤン・ゲールに会いたいと突然言い始めた代表の田中。気づけば1月のコペンハーゲン。毎日、極寒の日々でしたが寒さを吹き飛ばすくらい、目に飛び込むものすべての物事に興奮し続ける充実の一週間でした。そこで見たこと考えたことの一部は、これまでのいくつかのレポートで紹介させていただきました。しかし、ひとつまだお話していなかったある公園の話があったのです。

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それが「Superkilen」(スーパーキーレン)という公園(photo=Comrade King)についてです。

この公園は、コペンハーゲン北、ノアブロ地区に2012年誕生した全長約750メートルの細長い公園で、設計は、建築家のビャルケ・インゲルス率いるBIG、デンマークのアーティストグループSuperflex、ベルリンのランドスケープデザイン事務所 Topotek1 によるもの。

http://www.archdaily.com/286223/superkilen-topotek-1-big-architects-superflex

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旅行時は雪の日も多かったので、スーパーキーレンには行きませんでした。でもコペンハーゲンの建築センターで、手に取って驚いたのが、まさにこのスーパーキーレンの本だったのです。

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まずこの厚さに仰天! 全長750mとはいえ、公園ひとつでこの厚みですよ。信じられないですよね。一体何が書かれているのか?公園ひとつで、どれだけ語るべきことがあるのか?とワクワクしながら、ページをめくっていくと... 

読み進めるにつれ、この厚みにならざるを得なかった理由がわかってきました。まず何よりも、スーパーキーレンが、与えられた大きな命題のひとつは、地域が抱える多人種間の問題を解決することだったのです。

人々の多様な自由を受け入れる公園づくりとは?

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スーパーキーレンは、コペンハーゲン中央駅から北西に4キロほどのところ、ノアブロ地区の西側にあります。写真手前の水辺の奥に広がるのがノアブロ地区。(photo=Thomas Rousing)

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このエリアの周囲には宗教、文化、習慣が異なる60もの人種がひしめき合って住んでいるそうです。海外での生活の経験がある方で、同様のエリアを体感されたことのある方であれば、そのような地区が抱える日常の衝突、互いが抱きがちな精神的な不快感は簡単に想像できると思います。そこに60という数字を掛け合わせると、この地区が抱える軋轢は相当なものがあったのではないかと。(photo=Hunter Desportes)

それほどまでに異なる人々が住むエリアの中心に、どんな公園がつくられるべきなのか。そこへ立ち向かった設計者BIGによる動画があります。下の画像のリンク先にあるので10分ほどですが観てみてください。

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ここでもわかるのが、まずこの公園をつくる上では、周辺住民に対する相当なリサーチと分析が行われているということです。つまりそもそも公園の具体的なデザインを彼らは当初から提案したのではなかったのです。提案したのは、そのもっともっと手前の“器作り”。

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つくり手サイドは、エリア一帯のさまざまなコミュニティに顔を出しては、ヒアリングを行い、記憶を紡ぎ出していったと言います。書籍を開いていくと、広大な公園の一つひとつについて、さまざまな人々との緻密なコミュニケーションのやりとりと検証の跡が見られるページが続きます。

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その最も大きな結果としてつくられたのが、公園全体に配置された108の遊具やオブジェでした。あらゆる人種の人々との対話から引き出したことを、遊具という形でひとつの公園に集約させたのです。見てください、このバリエーション。本の中ではその詳細が細かく紹介されています。

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ひとつの公園に設置された、さまざまな国のオブジェたち。それらはひとつの公園の中に存在しています。このことは、具体的にどう機能するのでしょうか。

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ここで、市民たちの心に自分の想像を寄り添わせていくと、このエリアの市民が、この公園によって満たされる感覚がわかってきます。(photo=Naotake Murayama)

それは、まず自分の存在が認められているということ。そしてそれが他者を認めた上で成りたっているということです。みんなが同じことをしているのではなく、自分自身が素の状態でやりたいように佇み、やりたいように活動できることが許されている。スーパーキーレンにつくりだされた空気は、多様を享受し合うという現代社会が根本的に持つべき姿勢そのものだったのではないでしょうか。

そのことが、どの画像を見ても、どの動画を見ても伝わってきます。たとえば、ここにひとつの動画があります。デンマークのアーティストグループSuperflexへのインタビュー動画です。僕はこの動画を見て、鳥肌が立つほど感動しました。さまざまな人々が思い思いに過ごす無数の風景が目に飛び込んできます。そこに公園の本質があると思うのです。

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https://www.youtube.com/watch?v=rlCo4Mg3Rdk&t=330s

日本も実は多人種国家!?

ここで日本に視点を移してみると、スーパーキーレンのような事例は、一見日本とは状況が違うからと一蹴してしまいそうになります。でも、考えて見れば、同じ日本人でも趣味嗜好の幅は広く、家族のカタチも世界有数の多様さを見せはじめています。一方で、所得の格差などさまざまな問題が表面化してきています。そういったことを考えると、人種といったような見た目の違いがなくても、価値感においては非常に多様になってきていると思うのです。それはもはや“見えない多人種”と表現してもいいのかもしれません。

もちろん、日本にも“地域の問題解決のために公園を”という視点も持っている方もいるのかもしれません、しかし、そのために何がされるかというと、賑わい、イベント、緑化、稼ぐ公園、民間管理、カフェ設置、といったキーワードが飛び交うのが昨今の状況です。そう、ここに圧倒的に抜け落ちていることは、「公園」そのものをもう少し哲学することです。

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スーパーキーレンしかり、世界中の公園を見ていてわかることは、良い公園ほど「公園」がきちんと哲学されています。そしてそれらを市民も行政もデザイナーもが共有しています。(写真は、以前紹介した台北の永康公園)

「公園」はこうあるべきだよねと話をはじめられる器を行政がつくり、市民がその中で自由に発言し、専門家はそれに決していいなりにならずに絶妙なファシリテーションを行っていく。結果、一市民の自分の気持ちや行動が少しずつ「公園」の一部になっていく、日常の風景の一部に自分が溶け込んでいく感覚を持ちはじめる。

さらに、その街に住む人たちが管理や運営をも行いながら、誰をも受け入れる小さな空間づくりをコツコツと継続的に行っていく。禁止ではなく、他者の能動的な行動の多くは受け入れるポジティブなルールをつくっていく。小さくとも圧倒的に美しい風景をつくり続けていく。

「公園」が哲学されていくと、自然とそういった流れに進んでいくものなのでしょう。

公園は人の命を救うのか?

最後に。少し話が飛びますが、ちょっと前に話題になったNHKの特番に「見えない貧困」をテーマにしたものがありました。私たちの見えないところで、家で一人でご飯を食べている子どもたちが多かったり、バイトにあけくれる高校生が増えていたり。まさに見えないカタチで、6人に1人の子どもが「相対的貧困」状態に置れているという状況が、私たちの日常に潜みながら広がりつつあるというものでショッキングな内容でした。

このことは“見えない○○問題”の一側面です。たとえば、あらゆる“見えない○○問題”の心の受け皿に「公園」はなれないのでしょうか。もう少し話を膨らませてしまうと、何らかの状況や病を抱えた人たちを「公園」は救えないのでしょうか。スーパーキーレンは、そういったようなことも射程に捉えています。

「公園」をしっかりと哲学した人たちは知っています。「公園」はポジティブにハッピーをつくりだす場ではないことを。「公園」は、人間の「負」なるものさえも受けとめる存在であることを。これも「公園」を哲学していくと自ずと導き出されるひとつの答えです。

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社会の問題が複雑化する世の中だからこそ、公園は、ピクニックができて、マルシェができて楽しいね!の先を見据えなくてはいけないのです。楽しい、ハッピーの一方で、そこに接続できない人々のことも考えなくてはいけません。(写真は以前、紹介した広島の平和記念公園

だからこそ、あるべき姿を哲学した上で、理想の公園は、どのような「デザイン」「マネジメント」「ファシリテーション」で実現可能なのかを、世界に学び、実践していかなくてはいけません。その舵を切らない限り、日本の公園は、いつまでたってもワイワイ賑わい系公園から抜けることはできなそうです。

あなたが働き、暮らすまちに、ふっと身を寄せたくなる公園や広場はありますか? もしそういう公園があったとしたら、その公園はそうあり続けるべきでしょう。もし公園があったとしても、そのような存在でなければ、それはどうあるべきなのでしょうか。それを考えるところから、これからの公園のリノベーションははじまります。

公園を考えることは、深く社会貢献につながること。
さぁ、公園を楽しんで哲学していきましょう!

それでは、今日はこの辺で。

1階づくりはまちづくり!

大西正紀(おおにしまさき)

http://glevel.jp
http://mosaki.com


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大西正紀
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