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日本三大朝市「勝浦朝市」の素晴らしさに見る「日常」と「観光」の新しい関係。朝市とは「モノ」以上に「コミュニケーション」が交換される場なのだ。
お久しぶりです。連日いろいろな場所にうかがい、無数のnoteネタは無数に積み重なっていく一方で、何とか今年はできるだけ発信していければと思います。さて、今回の舞台は千葉県の勝浦市。
2022年3月18日に「ガイアの夜明け」という番組で、弊社グランドレベルが取り上げられました。テーマは「もう"素通り"させない!〜「ちょっと寄りたい場所」見つけた〜」。
放送後、さまざまな反応をいただく中で、いち早くお声がけいただき、わざわざ東京の喫茶ランドリーまでいらしてくださったのが、勝浦市でまちづくりに取り組む皆さんでした。
話をうかがうと、どの都市でも抱える少子高齢化などの問題の一方で、話題の中心は、勝浦には長く存在している名物の朝市の話でした。コロナの影響もあって出店者も来場者も減少してきた。それでも、実際にベンチを増やしてみたり、花壇の花を綺麗に手入れをしてみたり、まちの皆さんの行動力は素晴らしい! でも、なかなか成果が出ないことに、一番悩まれていました。そこで、視察と田中の講演へ依頼をいただいたのでした。
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いざ!勝浦へ!
トントン拍子で日程が決まり、実施は2022年6月26日に決定。そして私たちは前日は鴨川へ、そして当日の朝、勝浦へ入りました。東京からは約80キロ、車で東京湾を渡れば1時間40分ほどでつくことができる場所です。
正直、私たちは少しだけ憂鬱な気分でした。朝市やマーケット。過去の繁栄をできるだけ取り戻したいという想いを持ち続けている街は、全国に多々あります。勝浦の人たちが、そういう考えかだったらどうしようか。私たちはやみくもに店舗や来場者を増やすことにを目指すまちに未来があるとは思えないからです。もう少し言うと、そこに確実な市民の幸福はないと考えるからでした。
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そんなことを田中と話ながら、市営の無料駐車場に車を止め、住宅街の路地を歩きはじめる。
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路地に面して、たっぷりのハーブを育てている家があったり、軒先に地元のご婦人が集まっていたり、シロツメクサいっぱいの公園では子連れが駆けずり回っていたり。さっそく勝浦のささやかながらステキな光景にうっとりしながら歩くこと約5分。
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こんな通りにスコーンと出ると、どうやらそこが朝市の通りのよう。なるほど。確かに思ったような賑わいというか密度はないなぁと第一印象を抱きつつ歩みを進めていきます。
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クラフト系の方がいらしたり。
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でも、われわれはすぐに良い意味での異変に気づきました。「串焼きちーちゃんの店」。手作りの黄色い屋台。ちーちゃんというネーミング。その手前に置かれたプーさん以下、種々の雑貨たち。ガラスの部分には、占いの告知が。ちーちゃんはいつもは占いもここでやっているらしい。
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趣のある住宅にグリーンの壁、最高じゃないですか。その前にまた即席の屋台。ここでは冷たい麺を出していました。この時点で、私も田中もこのすばらしきマイパブリック感に気づき、歩みのスピードがとてもゆっくりになっていきます。(※「マイパブリック」とは、自分(私)の個人的な欲・想いを、人の目に触れる外(公共)に表出させることです。詳しくは『マイパブリックとグランドレベル』(著:田中元子/晶文社)を)
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かっこいいオシャレな屋台のお兄さんが目が合ったら会釈をしてくださって。近づいてみると、並べられた書籍たちが。本屋さん?と思って聞いてみると
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なんと!この手前の本たちは、全部お兄さんが、取材をして書いて編集して出版したんだって!しかも全部千葉のことについて書いてある。ひとつのシリーズはコーヒー屋さんをまとめたもの。
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そして、もうひとつは「日常」という切り口の「観光」視点でまとめた「BOSO DAILY TOURISM」シリーズ。エリアごとの日常の光景を写真とテキストでまとめられていて、写真は勝浦編。勝浦への愛、観光の捉え方、すべてがパーフェクトすぎて感動。。迷わず即買です。中には売り切れたものもあるのも頷けます。
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勝浦には本屋がなくてと言うお兄さん。足元には小さく書籍コーナーと絵本コーナーが。本当にこれくらいの文化的なものがポップアップするだけで、まちにとってどれだけの意義があるものになるでしょう。
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もちろん、お魚系もあれば
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野菜などもそこかしこで売られていて。皆さんといろんなお話を。
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この辺でもうひとつ気づいたんです。「買ってって」の圧が、市場の出店者の皆さんから感じられない。どの方も優しくて、ただただ「楽しんでいってね」と声をかけてくれる。これってすごいことだよなぁ、としみじみ。だけど、どうしてそうなれたんだろう?と疑問もわいてきます。
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『あさナム』創刊号に見た「勝浦朝市」の理念
そして、さらに歩いていると、自転車屋台でコーヒーを淹れている若い方々に出会い。一杯のコーヒーを。
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ここまで歩き、感じてきた勝浦朝市の素晴らしさを田中が話しはじめると、そうなんですよ!!!と返ってきた。なんなんだ、このまち、この朝市、この人たちは。。そして、屋台にブラ去っていた一枚のチラシが気になって
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『あさナム 朝市を通して日々を営む 創刊号vol.1』。手に取ってみたら、下の部分にこんなことが書いてあったのです。
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今回で431回目を迎える勝浦朝市は、1581年開始当時とほぼ変わらないであろう人情味あふれるスタイルで令和の時代を駆け抜けようとしています。出店者にしても、ある人は仕事として。ある人は楽しみのために。…と、出店理由もさまざま。お客さんとも上段をとばし合ったり助け合ったり…そんな人々が過ごす朝市という空間は、「仕事(Work)楽しみ(Hobby)生活(Life)」がキレイに混ざり合っておりお互いのスタイルを受け容れて共存している。また、人と人の関係性の境の無さ、おおらかさもまた古き良き豊かなコミュニケーションが息づいているということ。この「生活朝市」という特殊かつ貴重な文化。空間がより多くの人の営みの一部となりますように—そんな想いを込めて、『あさナム 朝市と通して日々を営む』を作りました。
自転車屋台の軒先で、このテキストを読みながら震えました。あまりにもすばらしいテキストじゃないですか! 勝浦の暮らしとは何か、自分たちの朝市とは本来何なのか、すべてが集約されています。日本の多くの街は、ここにたどり着くことができず、旧来の「賑わい」「集客」「利益」を求め続けていることがほとんどです。
そんな中、彼らのような若い力が中心に入って、かつ人間の本質を捉えて、ひとつの朝市を、こんなレベルの表現に落とし込めていて、かつその通りのまま実践できている例は、日本では他にないのではないでしょうか。
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革製品のワークショップを親子で楽しんでいると、通りがかった別の方が話しかけていたり、その裏で地元のご婦人たちがだべっている。
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貝とかシーグラスのお店。ちょっとしたことで、知らない人同士で会話がはじまる。もはやここでは普通のことです。
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貝にマグネット付けただけだけど、一つひとつ愛がこもってる。どの出店者も同じ。ある人にとってくだらないモノに見えたって、そんなことはどうでもいい。この朝市にあるものは、つまり商売以前に、田中が言い続けている「マイパブリック」そのものなんです。全国の流行のマルシェのようなかっこつけた「オシャレでしょう」という圧もなく、また他の三大朝市のように大きな賑わいと密度で魅せるのではなく、ただ、それぞれの個人が想いや欲を、ストリートで表現している。
ちなみに出店料はなんと300〜1000円。だから誰もがチャレンジがしやすい。そこで儲かろうというよりも大きな想いがある。これもまたすばらしい仕組みのデザインです。
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市の端っこにおじさんが座っていて
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おじさんが描いたという、これまた味わいある絵が売られていて
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田中は仏陀を購入!
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おじさんはあるとき都心から移住してきて、サーフィンを続けてきたのだけど、怪我したのをきっかけにこういう絵を描きはじめたって、ステキな話。
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気になったので、後ろのお店は何ですか?って聞いたら、あ、ここ喫茶店だよー!って
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迷わず中へ入れば、われわれの大好物な感じで!見てください。この雰囲気。こうやってその土地の日常にある会話にちょこっと加わることこそが旅の醍醐味。このうれしさは、名物、名勝では得られません。
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Googleマップでは☆はひとつも付いてないけど、本当に居心地のよい場所は、そんなところにあるもの。コーヒーもまた美味しく。おじさんと勝浦のこととか東京のこととか話していると
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通りがかったお姉さんが、おじさんに挨拶してスモールトークがはじまる。やがて徐々に会話に巻き込まれ。実は田中が市のホールで講演をしに来た人だとバレるとまた盛り上がり笑。最後はみんなで記念写真まで。
たかだか小一時間、朝市を歩いただけで、何人の方とスモールトークを楽しめただろうか。そんな興奮冷めやらぬまま、田中の講演会場へ。
400年以上前に誕生した「朝市」というものが「まち」に与え続けてきたこと
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その後、丘の上に建っている大きな市のホールで田中の講演会が行われ、講演後はたくさんの質問を受けました。やはり半分以上は、現状を悲観的に捉え、それに対する打開策を求める声でした。
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しかし、伝えたいメッセージは、ひとつだけでした。「勝浦朝市」は、確実に他にない最先端な魅力を持ったものになっているということ。屋外商業施設のようになってしまった他の朝市などと比較することもなく、ただただ自分たちの朝市に目を向け、育んで行けばいい。
地元に暮らすひとも、外から来る人も、気軽にストリートにポップアップできる。昔から居る人も、新しい若者もフラットに出せるそのフォーマットが超最先端です。そしてそれを実践できていることが素晴らしい。
さらに何よりも、朝市にいる勝浦の皆さんは人と人との会話を、コミュニケーションを本当に大切にしている。これは市民、行政が自覚すべきまちのアイデンティティです。
勝浦の朝市は元々、物々交換が目的に立ち上がったと言われているそうですね。それがこうして徳川家康の時代から400年以上も続いてきた。でも、考えてみてください。淡々と400年続いてきた朝市で交わされて来たのは「モノ」だけではなく、そこには人と人との間に、「言葉」や「気持ち」を伴ったコミュニケーションがあったのです。
そこでは、きっと計り知れないほどの「豊かさ」が育まれ続けてきたことでしょう。朝市が存在していた400年間を経た「まち」と、それがなかった「まち」では、確実に市民のアイデンティティは変わっていたはず。つまり勝浦市民のDNAには「勝浦朝市」が組み込まれているってことなんです。これは他のまちにはあり得ない財産だと思います。
そして、それが新しい世代、また移住してきた方々にも確実に受け継がれはじめている。これからもこのことに誇りを持って突き進めばいいだけじゃないでしょうか。昔の賑わいを取り戻すということを目標にするのはやめましょう。かつてよりお店が少なくても、来場者が少なくても、ささやかに変わり続ける「勝浦朝市」をしっかりと愛でる視点さえ持っていればいい。
田中が今回の講演でも伝えたように、「まちらしさ」は「名物」「名勝」でつくられるものではありません。今そこに生きる人(個人)にフォーカスしてはじめて生まれていくものです。だから、今の調子で続けていけば、自然と出店者も来場者も増えていくのですから。
勝浦朝市に何をつくろう?
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講演後、勝浦市長の土屋元さんが、駆けつけてくださって、勝浦朝市はコミュニケション朝市だと気づかされました、と。本当にその通りです!!!伝わってよかった。
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私たちなら、コミュニケーション朝市と改めて名付けて、すばらしい『あさナム』のテキストを掘った大きな看板(掲示板)を市場の入り口数カ所に大きくつくりたいと思います。平日の朝市に来て、なんだこんなに店が少ないのかって今までは思われたこともあるかもしれない。でも、勝浦朝市の想いがまずきちんと伝われば、店舗の数などでははかれない、今回私たちが体験したような人と人との出会いを噛みしめて、勝浦というまちを大好きになってしまう人が、どんどん増えていくと思うからです。
もちろん屋台やベンチ、市場全体の密度の作り方などデザインの面では、改善できることは無数にありそうです。全体で見れば、過ごせる場所が少ないし、ベンチひとつ設置するのも、ベンチを設置する意義を伝えるところから、共につくり設置するところまで、ワークショップができれば一番良いのだと思います。一方的に協力してくださいでは、無関心な市民の方の心には響かないですからね。
でもまず、ベンチ設置よりもすべきことは、今存在している「勝浦朝市」は、とんでもなく素晴らしいモノなのだ、ということをまちの皆さんでわかり合うこと!!
というわけで、朝市を通して勝浦に魅了されてしまった私たちは、今度勝浦朝市に出店しに遊びに行こうと思います。もちろん観光がてら。「勝浦朝市出店+宿泊観光」これって観光の新しいカタチよね!!というのが、田中のアイデアでもあります。
再訪を楽しみに!!
今日はこの辺で。
※「1階づくりはまちづくり」に興味を持たれた方は、ぜひ元子さんの書籍を手に取ってみてください!「マイパブリックとグランドレベル ─今日からはじめるまちづくり 」
大西正紀(おおにしまさき)
ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。
*ベンチの話、喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!
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