【いのち図書館】(1)早く、小さく生まれてきた赤ちゃんの「普通」のお産
3人のお子さんのママで、3回の流産と1回の死産を経験しているやまだあきこさん。2019年2月、新たに授かった赤ちゃんはおなかの中でスクスクと成長していましたが、13週目に起こった出血がきっかけで22週目には前期破水が起こり、緊急入院することに。それまで助産院での出産を多く経験していたあきこさんは、予定日より約3ヶ月早くこの世に生まれ出て来た赤ちゃんの帝王切開での出産、そしてNICU(新生児集中治療室)での成長を見つめる中で、それまで抱いていたお産に対する「普通」が大きく覆されたといいます。詳細にお話しただいた内容を可能な限り原稿に活かしたいとの思いから、インタビューは(1)、(2)、(3)の3編で構成しています。(1)では、無事に誕生した赤ちゃんとの面会までのお話をお聞きしました。
(取材日:2019年11月28日 取材者:鯨井啓子)
早く、小さく生まれてきた赤ちゃん
その日は突然やってきた
妊娠が分かったのは2月初旬のことでした。私は今までに7回妊娠して、3回流産を経験しています。それまでは、妊娠初期に少量の出血があって、安定期に入ってやっと治まるという妊娠経過がほとんど。「今回は今までになく順調だわ」と思った矢先に、大量出血をして緊急入院しました。妊娠13週を迎えた4月1日のことです。出血は10日間の入院中に止まり、ゴールデンウィーク明けまでの1ヶ月は自宅で安静にしていました。調子もだんだんとよくなって、生活も元に戻して行ったんですけど、徐々に張りが気になりだしたんです。すぐにパンパンになったり、痛かったりとか。立っていられなくて、楽な体制で休むことも多くなりました。
そして迎えた22週目、6月4日の早朝、出血でもなく、尿漏れでもない、自分で止められない何かの液体がバシャバシャ出て来てしまいました。長女のお産も破水から始まったので、これは破水っぽいなと。でも、こんな時期に破水って大丈夫なのかな!?と思って、出産をする予定だった助産院の先生にすぐに電話をしました。すると、「破水だったらすぐに病院に行った方がいい」と言われて。旦那さんに車で、検診で通院していたクリニックに運んでもらいました。先生に診てもらうとすぐに、「前期破水だね」と。
先生曰く、4月に起こった出血と破水は関係があったらしいんです。出血の残りや、出血の原因になった血のかたまりを、子宮が異物と捉えてしまう。それを体外に出したいという力が働いて破水することがあるらしくて。「ここでは手に負えないから、NICU(新生児集中治療室)が充実している病院に搬送しないと。ここにいても赤ちゃんが助からないのは明らかだし、何もできない。」と言われました。そして、すでに破水をしてしまっているので、病院に運んでもらっても今日のうちに陣痛が来て、出産になってしまうことも大いにあり得ると。「赤ちゃんの体重が500g未満で妊娠22週未満ということは、無事に出産できても、発達面で何の問題なく成長できる確率はそのまた半分くらい。覚悟してほしい。」と言われました。
私はそのまま、大学病院のNICUに搬送されました。NICUの受け入れには、妊娠から24週が経過していて、赤ちゃんの体重が500g以上あることがひとつの目安になるそうです。その病院はNICUの体制が充実していて、それ以下の発育の子も診ることができるとのことでしたが、そのような充実した施設を持っている病院は数も少ない。「自発呼吸が難しいとか、寝たきりとか、脳に大きな障害が出てしまうとか。そういうことが分かった時点で治療を止めるということはできない。中途半端な気持ちの人のためにベッドは空けられないから、まずは今の段階で妊娠を継続したいか、諦めるかを、ご夫婦で相談してほしい。」と、当直だったドクターに言われました。
そんなに致命的ことが起こっているなんて、私は思っていなくて。もちろんガタガタ震えながら病院には行ったんですけど、そこまでヤバいとは思ってなかったんです。そのときまだこの子はおなかの中で元気に動いていたので、それをもう…「ここで諦めます」って言うことはできなかった。
「前期破水」
胎児は妊娠中、子宮の中にある羊水にいて、羊水を飲んで、出してを繰り返して、肺を成長させていきます。そのため、おなかの中にいる時間が短いと、肺の発達に影響が出ます。羊水は膜で覆われていて、その中は無菌状態です。けれど、破水してその膜に穴が開いてしまうと、菌がいる外界とつながっちゃう。子宮の中にも菌は存在するので、感染症のリスクが高まるんです。感染が起こってしまうと肺の発達への影響も心配されるし、一番怖いのは脳出血です。このふたつは発達の障害や、後遺症につながってしまうことがあるから。
そうなると、破水をしていてもおなかの中にいれば安心というわけではなく、24週を過ぎて500g以上まで育った赤ちゃんは、リスクができるだけ少ないところを見極めて外に出してあげて、今度は外での成長に切り替えることが大事になるのだそうです。妊娠中期くらいの子を外に出してあげたほうが安全なくらい、今自分のおなかの中って危険なんだと思ってびっくりしました。お母さんのおなかの中でないと赤ちゃんって成長できないと思っていたので、外に出してあげても大丈夫なんだということに本当に驚きました。
そして私は再び入院しました。病院の中で行けた場所は、トイレと、清潔な状態を保つためにたまに浴びたシャワーと、検診くらい。あとはほんと、ずっとベッドに寝転がっていました。破水はその間も、ちょろちょろと続いている状態でした。羊水が減っていくことを羊水過少と言うのですが、そう診断されると2週間をめどに出産しないと、赤ちゃんの感染症のリスクが高まるそうなんですね。それでもなんとか4週間妊娠を保っていられて、赤ちゃんの体重も倍に増えて、「外に出してもいいんじゃないか」ということになりました。結局前期破水による緊急搬送から1ヶ月くらい、赤ちゃんはなんとかおなかに留まってくれました。
私は経産婦でこの子が5人目だし、破水があれば陣痛がいつ起こってもおかしくないと、先生には毎日聞かされていたんですね。だから毎日、「はぁ、今日も朝を迎えられた!」、「今日も一日無事に終わった!」といってホッとしてました。自分がちょっとでもゆるむと破水しちゃうんじゃないかと思って緩めない。だからずーっと緊張していて、寝返りも打てないような状況が続いていました。身体もガチガチで、心もガチガチ。1ヶ月が本当に長く感じられました。
帝王切開での出産
26週を迎えた7月4日に、帝王切開で出産をしました。「このくらいの大きさになっていれば泣くかもしれないよ」と先生に言われていたのですが、そのとおり、ちっちゃいながらも産声も聞けました。でも私にとってみれば、まず無事に出産できるのか、赤ちゃんは生きて生まれてくるのか、生まれたらそのあとどうなるんだろうかと、考えてしまうこともたくさんありました。でも先生たちは小さな赤ちゃんのお産に慣れているから、言い方もすごい軽くて(笑)。
私はおなかを切ったあとの処置があったので、産後すぐに赤ちゃんに触れることはできませんでした。チラッと姿を見ることができた赤ちゃんは「え!?」って思うくらい小さくて、すぐにNICUに運ばれていきました。出産当日は寝たきりだったので、様子を見に行った旦那さんが、赤ちゃんの写真を撮って来てくれました。旦那さんが手を置いたら、指を両手でぎゅっとしてくれたそうなんです。それを聞いて、次の日の面会が待ちきれなくなりました。
NICU(新生児集中治療室)へ
病院にはGCU(回復治療室)といって、NICUに行く赤ちゃんのように多くの処置は必要ないものの、体重が軽いために経過を観察する必要がある赤ちゃんが入院するお部屋があります。うちの子はその奥にあるNICUで治療を受けていました。初めての面会のとき、車椅子でまず通ったGCUには、1000g台とか2000g台前半の大きさがあるであろう赤ちゃんたちがいました。けれどその子たちですら、私が見たことのあるどの赤ちゃんよりも小さかったんです。「こんなに小さい子がいるんだー。でも、うちの子はもっと小さいんだろうなぁ。」と思ってNICUに入ったら、案の定「えー!?」っていうくらい小さくて。「身長は意外とあるんだな」と思ったんですけど、手は私の第一関節に全部指が乗るくらい。指も、次女が持っているメルちゃん人形のそれよりも細くて小さい(笑)。足も細いし、頭も小さい。旦那さんが前日に撮った写真だと、おむつも履いてるし、心音をチェックする機器も貼られていたので、その割合から「結構大きいのかなぁ」と思ってたんです。実際に見たら、その機器は爪くらいの大きさで(笑)。「うわぁ!」ってなりましたね(笑)。
誕生してすぐに保育器に入ったのですが、うちの子はまだ呼吸も自分でできなかったので、機器に呼吸を手伝ってもらっていました。生まれたての赤ちゃんって、普通に生まれても3日持つくらい養分を蓄えて出てくるので急いで哺乳をしないでもいいらしいんです。でも、うちの子はすごい小さく生まれてきたので、体重が減らないように点滴をしていました。酸素のチューブも点滴もつながれて、皮膚もまだ赤ちゃんというより胎児の状態。初日はワセリンを塗られてツルツルになってたりもしたので、まだまだ抱っこはできず、その姿を保育器越しに見ることしかできませんでした。
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