【コンサルタントが実践】論点・仮説思考のChatGPT Deep Research活用

最近あげているnote記事が抽象的な話ばかりだったので、少し実践的な内容を書いてみようと思います。

最近、知り合いのコンサルタントの中でChatGPT Deep Researchが話題です。最新の推論モデルo3を搭載し、大量かつ多様な情報源を自律的に集約・分析したうえで「引用付きのレポート」を短時間で作り上げてくれるというのは、まさに夢のような機能と言えるでしょう。

たとえば、数時間から数日かかっていた調査作業を、わずか数十分程度で終わらせられるというスピード感は、ビジネスの現場だけでなく、研究機関やコンサルティングファームなどでも大きなインパクトを与えます。リサーチフェーズが劇的に短くなることで、より多くの時間を仮説構築や戦略立案へ振り向けられるのは大きなメリットです。さらに、引用元が明示されているので、どの情報がどのソースに基づいているかを簡単に確認できる点も、大量情報を扱ううえで極めて重要な信頼性の担保となります。

しかし、このChatGPT Deep Researchをただ導入すればすべてが上手くいくかというと、必ずしもそうではありません。いくら高速で網羅的なリサーチができたとしても、「何を知りたいのか」「どの論点を解決したいのか」が曖昧なままでは情報がうまく整理されず、結果的に混沌としたままのデータが積み上がるだけになりかねないからです。そこで鍵となるのが、「論点・仮説思考」という、コンサルティングの世界で培われてきた思考フレームワークです。

この記事では、論点・仮説思考を組み合わせたChatGPT Deep Research活用法を、プロンプトフォーマットや実際の実行例とともに紹介します。

1. ChatGPT Deep Researchとは?

ChatGPT Deep ResearchはChatGPTの強化機能で、最新の推論モデルである o3 を搭載し、大量かつ多様な情報源を自律的に収集・解析することで、既存のリサーチプロセスを大幅に短縮し、高精度な結果を得ることが可能になります。

このサービスの特徴は、利用者が調べたいテーマを入力すると、数百件単位のオンラインソースを一気に横断的に集め、そのうえでAI自身が情報の真偽を検証しながら要点を整理したレポートを短時間で作成してくれる点にあります。実際、従来の調査では数時間から数日かかったようなデスクトップリサーチを、わずか5分〜30分程度で完了してしまうというのは驚異的です。

こうした劇的なスピードアップがもたらす恩恵は、調査期間そのものを短縮できるだけに留まりません。調査フェーズを素早く終わらせることにより、より多くの時間を分析や戦略立案に振り分けられるようになり、結果としてビジネス上の意思決定が格段に早くなるのです。特に新規事業開発や市場参入戦略の策定においては、リサーチの迅速性はそのまま競合優位につながり得ます。

また、ChatGPT Deep Researchには「引用元の明示性」という大きな強みがあります。レポートの中に参照先のURLや出典がしっかりと示されているため、「この情報はどこから来ているのか?」という検証が極めて容易です。多様なソースを束ねるAIによる自動生成レポートは、どこかブラックボックスになりがちという懸念も生まれやすいのですが、引用情報が並んでいることによって透明性と信頼性を確保しています。

このように「高速・網羅的・信頼性」という三拍子が揃ったChatGPT Deep Researchは、従来のデスクトップリサーチを一変させる可能性があります。一方で、後述するように月額200ドルという比較的高額な利用料金は、誰にとっても気軽に導入しやすい価格帯ではありません。
※Plusユーザーや無料ユーザーにも少ない回数ながらDeep Research機能の提供が予定されており、より多くの利用者がこの高度なリサーチを体験できるようになる見込みです。

2. 論点・仮説思考がリサーチを決定づける

高速かつ網羅的なリサーチを実現できるAIツールを導入しても、その力を最大限に引き出すためには、調査そのものの設計や考え方を工夫する必要があります。コンサルティングの世界では、調査計画の良し悪しは「どのような論点を立て、どのような仮説を設定するか」によって大きく左右されるといわれます。いわゆる「論点・仮説思考」です。

※論点・仮説思考についての詳細は以下の書籍をご覧ください。コンサルタントのバイブルです(おそらくビジネスコンサルタントでこの本を読んでいない人はいない)。

論点設定の意義

論点とは「調査プロジェクトで明らかにすべき核心事項」を問いの形式でまとめたものです。例えば「本事業は3年後に採算がとれるのか?」や「競合他社と比較した際に、当社の優位性はどこにあるのか?」などが典型です。論点を整理せず漠然と調べ始めると、「調べた量は多いが何を知りたいのか結局わからない」という事態に陥りがちです。

コンサルタントがまず行う作業は、この「大論点」をさらにいくつかの「小論点」へ分割していくことです。たとえば「本事業の採算性」という大論点を、より具体的な「必要投資額は何か?」「想定売上高の計画は妥当か?」「市場規模の推定値に信頼性はあるか?」などの小論点に切り分け、イシューツリーの形で可視化していきます。イシューツリー化することで、調査対象が体系的に把握できるので、抜け漏れや重複を防げるのです。

初期仮説を立てる

論点をただ羅列するのではなく、調査に入る前の段階で「初期仮説」を立てることがさらに重要です。初期仮説とは、「おそらく○○であろう」という暫定的な見立てのことで、確証はまだない段階です。たとえば「市場規模は○○億円以上あり、競合企業が少ないため、事業参入は有望である」という見立ては典型的な初期仮説です。

初期仮説の狙いは、リサーチを「仮説を確かめるための作業」に変えることにあります。単に情報を探し回るだけではなく、「この仮説は正しいのか?」「どんなエビデンスがあれば仮説が強化されるのか?」「もし事実に反していたら、どんな追加調査や修正仮説が必要か?」といった検証のサイクルを回すことで、リサーチのプロセスがクリアになります。そうした論理的な思考フレームを敷いておくと、いくらChatGPTが大量の情報を拾ってきたとしても、それらが混沌としたまま詰め込まれるのではなく、「仮説検証のための情報」として使いやすくなるのです。

論点と初期仮説を考えるには経験に裏打ちされたセンスが必要だった

論点と初期仮説の重要性がわかったものの、いざお題を与えられたときに意味のある(イシュー度が高く解決できる)切り口で論点を設定・分解し、さらに筋の良い初期仮説を考えるのは簡単ではありません
私も10年以上のコンサルタント経験を通じて修行してきましたし、まだまだ修行中です。
これまでは、上記のような書籍を読んだり、プロジェクトで実践したり、上司にけちょんけちょんにレビューされたりしながら、経験を積みセンスを磨く必要がありました。
今回は、論点と初期仮説の設定に不慣れな方でも取り組めるように、ChatGPTを活用して見たいと思います。

3. 論点・仮説思考でChatGPT Deep Researchを使いこなすためのステップ

実際に、論点・仮説思考を踏まえながらChatGPT Deep Researchをどのように活用すれば良いのか、そのステップを概観してみます。コンサルタントが典型的に採用するプロセスを例にすると、大きく「調査設計→情報収集→検証と整理」という流れになります。

Step1:プロンプトを活用した調査設計

まずは調査概要と目的、そして論点や初期仮説をChatGPTに入力し、「プロジェクト概要書」のような形でアウトプットを得る方法です。例としては下記のように、ChatGPTに対して「あなたは一流の経営コンサルタントです」というロール付与を行い、要件を細かく提示します。

すると、ChatGPTは受け取った要件をもとに、プロジェクトの背景、具体的な論点、そしてそれらに紐づく小論点を構造化して返してくれます。この時点で既に「論点・仮説思考」のフレームワークをチャット上に落とし込めていれば、後工程でDeep Researchに投げる際もスムーズに連携しやすくなるのです。

  • 調査目的の記述
    「なぜこの調査を行うのか」を明文化
    します。例えば「新規事業の採算性を把握したい」「新たな市場進出のリスクを評価したい」など、背景とゴールを合わせて書き込むと、AIが生成する調査設計書にも深みが出てきます。

  • 論点と小論点を問い形式で提示
    たとえば「大論点:本事業は3年後に黒字化できるのか?」を問いとして示し、その下に「小論点:目標売上を達成する根拠はあるのか?」「小論点:主要競合の動向はどうか?」という形で問いを並べます。この段階で論点を構造的に整理することで、後のDeep Researchへの依頼内容も明確化します。

  • 初期仮説の検討
    「想定市場規模は少なくとも○○億円ある」「競合は3社程度のみで、新規参入は十分可能性がある」など具体的に書くほど後で検証がしやすくなります。仮説が間違っていた場合にどこを修正すればいいかも一目瞭然になるでしょう。

プロンプトフォーマット

あなたは一流の経営コンサルタントです。以下に示す背景情報・課題・要望・条件に基づき、調査プロジェクト概要書を作成してください。
なお、以下の要件を満たしてください。  
# 要件
- アジェンダは以下の構成にしてください:  
	- 背景・目的
	- 論点
	- 初期仮説
- 論点は大論点とそれに紐づく小論点のイシューツリー形式で記載すること
- 大論点・小論点ともに問い形式で記載すること
- 初期仮説は大論点に対してまず記載し、それに続き小論点に対しても記載すること
- 初期仮説はできる限り具体的なものとすること

# 与件
{ここに背景・課題・要望・前提条件など、調査の背景や目的を理解するために参考になる情報を可能な限り記載する}

実際に、「マーケティング領域での生成AIを活用した新規事業を立ち上げ」をテーマに調査設計を考えてもらった結果が以下になります。

出力結果

実際のスレッド

個人的に、問いの答えを考える能力はもうChatGPTを始めとした生成AIに勝てなくなるだろうなと思っています。一方で、問いの答えを実行に移す意思決定力・胆力や、そもそもの問いを立てる力はまだまだ人間に分がある領域だと考えています。その意味でも、このステップでの論点設定はChatGPTとディスカッションして磨き、自分ならではの切り口を考える事をおすすめします。

Step2:Deep Researchによる情報収集

調査設計ができ上がったら、いよいよChatGPT Deep Researchに渡して実際に情報を集めます。ここでは「# 調査設計書」と銘打ったテキストをまるごと投げ込み、「調査をお願いします」という形でリクエストします。Deep Researchが行うのは以下のようなタスクです。

  1. オンライン情報の探索

  2. 関連データや記事の評価

  3. 情報の統合と要約

  4. 引用元の整理とレポーティング

調査対象は学術論文や経済紙の記事、政府の統計データや業界団体のレポートなど多岐にわたります。Deep Researchはそれらを束ねて「○○のデータソースから推定される市場規模は△△億円」「主な競合はA社、B社、C社である」などという形でレポートをまとめてくれます。ここでポイントとなるのが引用元情報で、レポート内に「政府統計局○○年版」「経済誌××の特集記事」などのリンクや出典が明示されるため、後から利用者が自分で「この根拠は本当か?」と確かめることが可能です。

プロンプトフォーマット

あなたは一流の経営コンサルタントでありリサーチのプロです。
プロジェクトの「# 調査設計書」をもとに調査を実行し、調査報告書を作成してください。
## 調査方針
- 「# 調査設計書」内の「# 論点」の構造に沿って調査を行なってください。
- 調査を通じて「# 調査設計書」内の「## 初期仮説」を批判的な目線から検証し、必要に応じて仮説を修正してください。
- 政府統計や業界団体のデータ、有名経済紙の記事、学術論文などできる限り信頼性の高い情報を参考にしてください。
## 出力時の留意点
- 適宜、表を使って整理してください。
- 日本語で出力してください。

# 調査設計書
{調査設計書のテキスト(Step 1のアウトプット)をコピペ}

出力結果

実際のスレッド

Step3:論点の検証結果を整理

Deep Researchが収集した情報を、今度は再度ChatGPTに要約・整理させる段階です。論点に対する答えを一つひとつ提示し、その根拠となる調査結果を箇条書きで示す方法がわかりやすいでしょう。さらに「初期仮説からの変更点」をきちんと明記し、どの仮説が裏付けられ、どの仮説が修正を要するのかを対応関係を明確に書いていきます。

この際には「ネクストアクション」の提示も忘れないようにします。すなわち「今回のリサーチでは見つからなかった追加情報があるなら、次にどこを探るべきか」「調査結果を踏まえて、事業開発チームはどの意思決定を行うか」といった行動指針を提示するのです。リサーチを「単なる報告書作り」で終わらせるのではなく、仮説検証の結果をアクションに転換するというのが重要であり、Deep Researchを使う際もこの流れを取り入れることで成果を最大化できるのです。

プロンプトフォーマット

以下の構成で整理し直してください。
# 構成
- 1. 論点への答え
- 2. 初期仮説からの変更点
- 3. 結論とネクストアクション

# 「1. 論点への答え」記載時の留意点
- 「# 調査設計書」の内に記載している論点の構造に従い、各論点(大論点・小論点)毎にメッセージ(調査結果から言える重要な事)を記載してください。
- メッセージの配下に、メッセージを支える調査結果をできる限り詳細に記載してください。
# 「2. 初期仮説からの変更点」記載時の留意点
- 「# 調査設計書」に記載された初期仮説のどれが変更されたのかを対応関係を明確に提示してください。

出力結果

実際のスレッド(Step2と同様)

本来であれば前ステップのDeep Researchによる調査内でまとめてやってしまいたいですが、指示が多すぎるのかあまり安定した出力を得られないので、今回のようにプロンプトを分割するのがおすすめです。

4. ChatGPT Deep Research活用による具体的効果と注意点

実際にChatGPT Deep Researchを使って調査を行う際には、メリットだけでなく、注意すべきポイントも同時に知っておく必要があります。

バイアスコントロールの必要性

AIの調査・文章作成能力は驚異的ですが、AIが何らかのバイアスを持っていないとは言えません。インターネット上にあるデータには時代や地域、言語の偏りがあり、それが学習データや検索アルゴリズムに影響を及ぼす場合があります。たとえば英語情報が圧倒的に多いジャンルでは、日本語に関する情報が省かれやすい、あるいは誤訳が混じるなど、思わぬ結果が返ってくる可能性もあるのです。

したがって、Deep Researchを活用した調査結果を鵜呑みにせず、人間側が「本当にそうか?」とクロスチェックをする心構えを持たなければなりません。引用元を確認し、それが権威あるデータなのか、不確かな噂レベルの記事なのかを一度目を通して見極めることは必須です。時間的コストは大幅に削減できるものの、最終的な判断はあくまで人間が行うという基本スタンスを忘れないことが、AI活用の重要なポイントといえます。

コストと利用頻度の見極め

前述のようにChatGPT Deep Researchを利用するには月額200ドルというコストがかかります。個人がブログ記事を書く程度の用途であれば割高に感じるかもしれません。しかし、プロジェクト単位で膨大な調査が必要なコンサルティングファームや事業会社、研究機関であれば、むしろ高額な社内人件費やアウトソーシングコストと比較してリーズナブルだと判断できるケースもあるでしょう。

また、Proユーザーは月あたり最大100件のDeep Researchクエリを実行可能という制限があります。これも、通常の個人利用では十分すぎる回数かもしれませんが、大規模プロジェクトが平行して走るような現場では「いかにこの回数の範囲内で品質の高い調査結果を得るか」という検討が必要になるかもしれません。加えて、普段からChatGPTをはじめとした生成AIの回答速度に慣れてくると、数十分ですら待ち遠しくなり、「なんかちょっと違うな」と思ってやり直す手間と時間が億劫になってきます(この期待値水準になってしまったのが驚異的ですが)。その意味でも、今回のようにまず論点と初期仮説をChatGPT o1と議論し煮詰めてからChatGPT Deep Researchに渡す事で、調査の精度を高める事は重要になると思います。

まとめ

総じて、ChatGPT Deep Researchは「スピード」「網羅性」「引用情報の透明性」という観点から、従来型のリサーチ手法を大きくアップデートする革新的なツールだといえます。しかし、その導入や運用を成功させるためには、論点・仮説思考を含む「コンサルティング型の思考様式」が欠かせません。何を調べるのか、どんな問いを立てたいのかが明確であれば、Deep Researchは驚くほど効率的に解を提示してくれますし、その情報は戦略立案や施策提案の質を大きく押し上げます。

一方で、「AIにすべて任せてしまえば良い」という発想に陥るのは危険です。AIの調査結果が完璧という保証はなく、また意思決定を下すのは最終的に人間である以上、得られた情報をどう読み解き、どう行動に移すかは私たち自身の役割となります。まさに「AIを使いこなすも使いこなされるも、利用者のリテラシー次第」という世界です。

ビジネスは日進月歩であり、常に最新の情報を収集・分析し、迅速な判断を下すことが求められます。そのなかで、膨大な情報をあらゆる角度から解析しレポートを自動生成するChatGPT Deep Researchは、大きなゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。論点・仮説思考という強固なフレームワークを軸に据えながら、ぜひこの革新的な調査手法を取り入れ、意思決定のスピードと質を同時に高めていただきたいと思います。


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