【TwitterSpaceArtTalk】 Rudolf Stingel(ルドルフ・シュティンゲル,1956-) 2023年6月14日放送分
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私現代美術家のMasakiHaginoを語り手として、東京美術館巡り(@tokyoartmuseum)さん、そしてスポンサーにイロハニアートさん(https://irohani.art/)を迎えて、世界中の現代アーティストを紹介、解説する第2第4水曜日21時より開催している1時間番組です。
アーカイブはそのままTwitter上でも1ヶ月聞くことができますし
Podcast「ArtTalk-アートトーク-」の方でもアップ予定です。
この記事では、番組内で挙げる画像や、情報の物置場としてまずは公開しています。
記事まとめはイロハニアート(https://irohani.art/)でもアップ予定です。
(noteではメンバーシップ・ベーシックプラン限定で文字起こし的まとめ加筆記事を先行で公開しています。)
2023年6月14日の今晩はRudolf Stingelをご紹介します。
Twitterアカウントをお持ちでない方も下記URLから直接聞くことができます。本記事と合わせてご拝聴ください。
Rudolf Stingel
1956-
イタリア出身で現在はNYとメラノ(イタリア)在住。
絵画の新しい可能性を模索する、コンテンポラリーアーティスト。その作品は絵画の拡張を意識させ、ペインティング、インスタレーションなど幅広いマテリアルとコンセプトの力強さを誇る作品が多い。Gagosianで取り扱い。
私は2018年にスイスのバイエラー財団での彼の展示を見に行ったことがある。
あの有名な場所での展示ということもあり、多くの来場者で賑わっていた。
その当時の様子とインタビューの動画がこちら
またヴェネツィア・ビエンナーレにも何度も参加している。シカゴ現代美術館やニューヨークのホイットニー美術館で巡回展も実現させた、世界が注目しているアーティストだ。
《Instructions》 (1989)
ヴェネツィア・ビエンナーレにも展示された絵画の常識を覆す、彼の代表的な作品がこの《Instrutions》(1989)。いくつかの言語に翻訳された、作品の作り方の手順が事細かに書かれている本。
"機械的な複製によって真正性や作家性が失われる"
というヴァルター・ベンヤミンの説を逆手に取り、作品のオーラを生み出す仕組みを教えるきっかけを作ったのがスティンゲルの偉業である。本自体も作品となっているが、彼はこの後このページ自体をフォトリアリスティックに描き上げ、絵画作品としても発表している。
作家が作った作品がオリジナル。
ではその作り方を丁寧に説明された本に沿って、他人が作った作品はなんなのか。
《Untitled》(1993)
1993年のヴェネツィア・ビエンナーレでは5.2×9mの面積のオレンジのカーペットを壁面に設置した。(1991年のNYの展示で、ホワイトキューブの空間の床に設置されていたもの)
鑑賞者が実際に触り、毛の「起きムラ」で手の跡が残る。鑑賞者が実際に展示期間中に触れて、作品が出来上がっていくインスタレーションとレディメイドが合わさったような作品。
《Untitled》 (2007)
2007年のヴェネツィア・ビエンナーレでは今度は銀色にコーティングされた壁を用意した。バーのテーブルや壁をコインでスクラッチして、落書きをする。広告やメモを貼る。そんな行為を観客に行わせることにより、これも同じように絵画作品として、インスタレーションとして成立させた作品だ。
《Untitled (After Sam)》 (2005–2006)
Sam Samoreという写真家が撮影したポートレートを、さらにスティンゲル本人がもう一度フォトリアリスティックに描き上げた絵画作品。スフマートではなく、あえて筆跡を残すようなタッチであることが、このフォトリアリスティックにおいては重要な要素であろう。
≪Untitled≫
ただのモノクロ写真のフォトレアリズム的な絵画というわけではない。この古い銀塩プリントの写真を「丁寧に再現した」絵画作品である。ゼラチンプリントならではの粒状の表面や、古びて色褪せた色彩や、シワや汚れなども表現に至っている。完成後長い間床に置かれたこの作品は、彼がそのまま別の作業に移っている最中についた、飛び散った絵の具、シミや汚れなども付着しており、痕跡、記憶、積層などといったワードが脳内に浮かんでくる。
2013年ヴェネツィア・ビエンナーレでは、内装全体をカーペットで覆うという大きなインスタレーションを披露。ペルシャ絨毯などの柄をトレースするような絵画作品も多く作っており、絵画の価値観と、古来から中東、アフリカに多い絨毯という芸術品における柄、織りの価値観を合わせるような作品だ。
他にも様々な作品を手掛けているスティンゲルだが、一貫して「絵画として」のコンテポラリーとは何かということに人生を賭けているのは間違いない。数千年という長い歴史の中で、最も多く作られてきた、ある種「やり尽くされた」絵画という媒体に拘りつつ、その価値観の再認識、模索を掲げて、絵画とは何なのか、新しい絵画とはどういうものであるのか、そして絵画の拡張とはどうあるべきかということを追い求めている作家だと思う。
Masaki Hagino
Contemporary painting artist based and work in Amsterdam and Cologne.
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