【TwitterSpaceArtTalk】 Sterling Ruby(スターリング・ルビー,1972-) 2023年5月24日分
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私現代美術家のMasakiHaginoを語り手として、東京美術館巡り(@tokyoartmuseum)さん、そしてスポンサーにイロハニアートさん(https://irohani.art/)を迎えて、世界中の現代アーティストを紹介、解説する第2第4水曜日21時より開催している1時間番組です。
アーカイブはそのままTwitter上でも1ヶ月聞くことができますし
Podcast「ArtTalk-アートトーク-」の方でもアップ予定です。
この記事では、番組内で挙げる画像や、情報の物置場としてまずは公開しています。
記事まとめはイロハニアート(https://irohani.art/)でもアップ予定です。
(noteではメンバーシップ・ベーシックプラン限定で文字起こし的まとめ加筆記事を先行で公開しています。)
2023年5月24日の今晩はSterling Rubyをご紹介します。
Twitterアカウントをお持ちでない方も下記URLから直接聞くことができます。
https://twitter.com/i/spaces/1ZkKzXAQYpXJv?s=20
Sterling Ruby
1972-
ドイツ出身でロサンゼルスで活動。
日本ではまだ知名度が低いかもしれない、スターリング・ルビーだが、世界では上の引用のように大手美術館に軒並み展示が行われているような、世界トップレベルの現代アーティストだ。彼を一言で表すのであれば、「実験的な作家」ではないだろうか。
一貫した大きなコンセプトを持ちながらも、絵画、映像、立体物、インスタレーションなど様々な技法や素材を用いて、幅の広い作品を発表している。
SP Painting
ルビーの作品の中で有名な作品のうちの一つであるこのSPシリーズはsprayのSPから来ている。当時ヨーロッパに身を置いていた彼は、幼い頃ロッテルダムで開催されたニューヨークに関する展覧会で、グラフィティアート(エアロゾルアート)を見たことがきっかけだという。そして2007年頃からこのスプレーペインティングを制作するようになった。この頃すでにロサンゼルスに住んでいた彼は、このストリートアートが多い地域に住んでいた。
元々このグラフィティというのは、1970年黒人たちを中心としたヒップホップ文化からのスタートで、自分の表現や属している集団の縄張りのマーキングだったりなどに用いられた表現方法だ。
ルビーのタイトルにはメディウムや数字のコードがつけられおり、彼の作品がその単純な技法を用いたことではなく、その社会性や経済性などを関係づけて付与してようとしていることが見て取れる。
彼の作品コンセプトのメインとなる焦点とその実践について、彼は「不正な合併(illicit mergers)」と呼んでいる。マーク・ロスコ(Mark Rothko)のオマージュと取れる構図や作品の大きさを用いて、つまり感情や感性を用いたロスコと、ルビーの社会性・文化性が強いエアロゾルを合わせ、相反関係を用いることでこの「不正な合併」ということを成り立たせているように思う。この全く別の要素を持った二つの関係のものを合わせ、新しいことを提示するということこそが、彼の一貫性を持った大きなコンセプトと言えるであろう。
WIDW
WIDW,DRFTRSのシリーズでは、前回のWoolと同じような意味合いを持ってして単語の母音などを意図的に排除したWInDoW, DRaFTeRS というタイトルが付けられた作品群がある。WIDWでは、十字の窓格子を連想させる線が印象的だ。厚く塗られた色層と、その印象的な窓の描写は、建物の内側から見ている窓なのか、はたまた外から覗いているものなのかという単純かつ難解な問いを投げかけられており、これは人間の内側なのか、またはその投影なのかという次の問いのスタートラインであるようにも思う。DRFTRSでは様々なマテリアルが使われ、そしてコラージュまでも用いられた作品は、考古学を反映させているという。これは彼の自分自身の歴史や古い作品群を用いることで、考古学的遺産として利用しようという試みだ。
SCALES
この作品ではこれまでの絵画作品とは全く違う、ルビーらしい全く別の色を見せている作品だ。このインスタレーションでは主に十字にクロスされたモビールのようなものに、様々なものが吊るされている。これらのものはルビーのアトリエにあったものや生活品などが吊るされており、DRFTRS同様に自分の過去のものなどを考古学的遺産のように捉えていることが伺える。通常小さなものが吊るされるモビールに、こんなにも重く大きな派手な色で塗られたものを吊るすこと、そして端と端に吊るされる天秤のようにも見え、この対極に吊るされているものとの対比関係にあることは、彼の「不正な合併」を体現しているようにも感じる。一方でこのカラフルさや作品のユニークさについては、コンセプチュアルな部分を見抜けても見抜けなかったとしても楽しめるような、遊び心を演出しているようだ。
Metal Works
SPペインティングでも述べたように、社会的、文化的な内容を取り入れているルビーのコンセプトの中でも、とても攻撃的な印象に見える、今度は立体造形の作品だ。
ルビーの新しい金属構造物は、入手しやすい建設資材、板金、鉄筋、角棒から製作されている。鉄筋のねじれた金属には、産地や工場の徽章が記されていることが多い。この彫刻に使われている鉄筋には、「MEXICO」というタグが刻まれており、また自身のタグである「SR10」を溶接しています。
これらの作品は、アメリカ経済の中心である産業の衰退と、世界最大の軍産複合体として今なお維持されている力強さを物語っている。マシンガンやライフルのようなもの、アメリカ国旗の破片のようなもの。金属製の作品は、ロシア構成主義、ブルータリズム建築、そしてもっとわかりにくいところでは、アルテ・ポーヴェラのアーティスト、ピノ・パスカリの武器シリーズなど、さまざまな影響を受けていることを思い起こさせる。
ルビーは、その活動を通じて、合理性の限界や、社会秩序の枠に対する訓練を受けていない、あるいは限界にある個人の反抗的な衝動に立ち向かってきた。これらの作品に取り入れられた目立つ溶接や不良溶接は、時にポック溶接と呼ばれ、未熟な溶接工や素人によって作られ、構造的に失敗しやすいものである。これらの生々しい金属作品は、権力の不安定な仕組みの中にある矛盾や重荷と向き合っていることが伺える。
≪Spectre, 2019≫
ルビーの作品の中でも一番印象的なものは、このSPECTREの作品だ。2019年に行われたDesertXというカルフォルニア州のMt.サンジャシント州立公園に設置された25m近い超大型インスタレーションだ。この砂漠の真ん中にこの蛍光色の長方体が突然存在する様は、まさに「不正な合併」と言えるだろう。この作品はキューブリック監督の『2001年宇宙の旅』という作品からの参照されたサイトスペシフィック作品だ。
カメラでも簡単に撮影ができないこの蛍光色の色彩は、この大自然には存在し得ない秩序の外側にある存在感を示している。
このSPECTREは、かつて博物学者のジョン・ミューアが"この地球上のどこにでもある最も崇高な光景"と読んだ標高1万フィートのMt.サンジャシントの頂上からもはっきりと見えることだろう。
Masaki Hagino
Contemporary painting artist based and work in Amsterdam and Cologne.
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