【亀山トリエンナーレ2024】出展作品についての思考プロセス➀《The box weaves history ー歴史を紡ぐ箱ー》
こんにちはこんばんはMasaki(@masakihagino_art)です。
亀山トリエンナーレが開催されました。リサーチから制作までフルコミットした4か月、そしてあんなに時間があったはずなのに、シワ寄せで辛すぎたラスト2週間。
今回は出展作品について少しまとめようと思います。文化財指定されている加藤家屋敷跡(↑の写真に使われている家)の外の男部屋・若党部屋と呼ばれる場所二部屋に、それぞれ一点ずつ展示をするので、二作品制作しています。
また本制作・展示にあたり、岡田文化財団より助成をいただいております。この場を借りてお礼申し上げます。
もう一つの作品の解説はこちら
リサーチから制作まで
アーティスト・イン・レジデンス(AIR)や、トリエンナーレなどの準備期間が長期であるような展示会では、ただ自分の通常の作品を展示するということではなく、サイトスペシフィックなものや、地域性などその場との親和性を求められる傾向にあると思っています。
今回は特に文化財に指定されている加藤家というお屋敷で作品を展示するということで、ドイツでスタートした私からすると、かなり貴重な体験です。
そういうこともあって、自分の普段の作品をそこにぽんと展示することをすることはできないので、どうにかして地域性や歴史性を出すことを目的に作品を作るための構想を考えていました。
二作品作るため、1つは地域性を強く出したもの、1つは美術史を主軸にしたサイトスペシフィックのものを用意することにしました。最初は絵画を設置することを考えていましたが、最近はインスタレーションを増やしていきたいということもあって、両方ともインスタレーション作品にすることに。そしてなによりコンテンポラリー作家として、コンセプチュアルなもの、美術史に対しての作品ということ常に意識しているので、そういう意味では作品を作るにあたって慎重にリサーチを行いました。
そして地域性の強化として、地元産業や企業とのコラボや共同制作、素材提供などをしていただこうと考えていました。
➀《The box weaves history ー歴史を紡ぐ箱ー》
もともと僕はこのようなキューブの作品を作ってきました。それは透明な合成樹脂をくすませたもので、中には哲学者パスカルの本が単語ごとに切られたものを入れ込んでいます。
これが何を表現しているものなのかというと、これは「思考する脳」を表現しています。人間は思考する時に、「言語」を使用しているという考え方があります。最初のこのTheoryを考えてたのがサピアとウォーフという人たちです。(サピア=ウォーフ理論)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%80%E8%AA%9E%E7%9A%84%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E8%AB%96
思考と言語については、例えばロシアの哲学者ヴィゴツキー
『思考と言語』など。(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%9D%E8%80%83%E3%81%A8%E8%A8%80%E8%AA%9E)
ドイツでも脳科学の授業受けていたりということもあって、こういった言語学、哲学の視点からの作品を考えていて、このような作品を作っていました。たぶんドイツ語・英語・オランダ語を話すようになったことで、自分でも多言語話者となった今、自分の脳内の言語と思考の変化とかに敏感になったことがきっかけなのだろうか、と思ったりしています。(例えばそれぞれの言語で思考しているときで言い回しが変わることで、性格が少し変わるとか)
話が伸びてしまったけれど、こういう作品を経由して今回の《The box weaves history ー歴史を紡ぐ箱ー》という作品は誕生しました。
・サイトスペシフィックとしての強度を増すこと。
何回か書いたこともあると思うけれど、トリエンナーレやAIRなんていうもの、特にどの国だとしても地方だったりする場合は、その場所のリサーチをすることを求められたりします。これまでの活動の中でも、そういったリサーチなんかを求められることは多かったし、アウトプットとしてもそういった作品の方が価値が高いように感じることも多かったです。
砕けて言えば、そういうことを足していって、もし見事にピースがはまっているような作品を作れるかどうかということは、作家としての素質を見られているようにも感じるというか、そういう作品を作れる作家って素晴らしいなと思っていました。
話が少し逸れるけれど、美術とは何か?みたいなおおざっぱの疑問があるけれど、これの答えのひとつとして「コミュニケーション」だということが言えます。美術史の本の一枚目というのは、洞窟絵画で、洞窟の中で雨風の影響を受けづらかったから何万年も前のものが残っています。言語が大きく発展する前に、ヒトは絵を描いてコミュニケーションを取っていました。
そういうことを考えても、こういうイベントや、AIRなどでも地域の人たちとのコミュニケーションツールとしての側面を持った美術作品を作れるかどうか、ということは価値の一つに成り得るんじゃないかなと思うんです。
・地元企業とのコラボを目指すこと
今回二作品作るにあたって共通で考えていたのは、地元企業さんと例えば共同制作とか、素材提供とか、なにか一緒にできたらいいなと思っていました。上で話していたようなコミュニケーションの一つでもあるのかなとも思っています。
もともとずっと蝋やワックスを使って絵画を描いていたので、もう一番最初に思いついていたのは、地元企業の「カメヤマローソク」さんと何かできればなと思ってご連絡をさせていただきました。
打ち合わせを経て、大変前向きにご協力いただくことが決まって、大量のワックスを素材提供いただきました。本当にありがとうございます。
・場所に沿ったコンセプトを足す
《Thinking reed III》ではパスカルの内容を入れることで、言語についてのアプローチを強化する方向で進めていました。これはサイトスペシフィックとして今回のイベントのために用意する作品なので、ここにもう少し強度を足すことができればいいなと思いました。
今回の展示場所は江戸時代から残っていて文化財に指定されている「加藤家屋敷跡」です。具体的には敷地内にある男部屋、若党部屋と言われる使用人の部屋のような場所です。この歴史のある古い建物の中の部屋の中身を使わせてもらえるというのは非常に光栄なことだなと感じていて(特に11年も日本から離れていたので)
この「歴史」ということと「文化」ということをこれまでのコンセプトに足していければいいなというところからスタートしました。
・歴史文化と人間の脳の関係性
コンセプトとして着地したのは、この歴史と脳の関係性でした。
歴史はどうやって紡がれていくのか。媒体は書物や絵画、口伝など方法論としていくつもありますが、結局のところどんな方法・媒体を経由したとしても「人間の脳」を必ず媒介すると考えました。歴史は一人で時代を超えていくのではなくて、人間をいわば触媒としているんだろうなということを考えていました。詰まるところ、これは脳を触媒としていて、媒介していて、ここの部分は、人間の脳を形どっている《Thinking reed》に適しているのかなと思いました。
アウトプットとしてはリサーチの中で加藤家屋敷跡について資料館で調べたり、インターネットを利用したりなど。この情報を起こして印刷し、文節などで切ったものをキューブの中に入れ込んでいます。これ自体がひとつの歴史を紡いできた脳として捉え、その脳の中には、文字情報として加藤家屋敷跡の情報が刻まれているという形。
アウトプットとディティール
歴史を紡ぐというコンセプトを足すことに決まったけれど、ただ情報を中に織り込むだけではうまくいかないことがわかりました。それは《Thinking reed》では完全に透明な樹脂を使っているのに対し、このワックスではこの体積というか深さでは白濁して中身がほとんど見えないという問題にぶち当たるからです。もちろん凝固していく間に、側面にその紙を設置していって見えるようにしている部分は意図的に作っているのだけれど、中心に幾について、というよりも1cmも内側にいけば見えなくなるほどなので、《Thinking reed》と見え方の質が違うので頭を悩ませていました。
ただ別の違いがあって、このワックスはパラフィンなのですが、僕はドイツで何年もずっとパラフィンで作品を作っていたので、パラフィンを本当にコントロールできるようになっていました。58度ほどが融点なのですが、温度が低いほど空気が入ったりして白濁度(?)が上がります。(不透明になります)逆に高温であれば透明度が上がります。なので、ここで型に一度に全部溶かしたパラフィンを入れて、一気に立方体として完成させるのではなくて、温度を変えながら、少しずつ型に注いで冷やして固め、また温度を変えて注いで固めて、ということを繰り返して層を作ることにしました。
これが歴史の積層というものを表現できるし、記憶の蓄積にも親和性を与えられるようにして、よりこの「脳と歴史の継承の関係性」という意味が視覚化するんじゃないかなと思いました。
・継承とネットワーク
ここまで歴史の継承と脳の媒介についての考察を続けて制作をしてきました。ただシンプルにこの部屋に何個かキューブを並べることに、どこまで違和感が出るのかということを自分で疑問視していました。
場所と空間を埋めるためには、数を作るのはもちろんいいんだけれど、(作業量が倍倍になっていくことを除けば)そこに別の意味が生まれてしまうので無駄が増えてしまうのがずっと気になっていました。
脳を媒介して歴史は継承する。これはいいのだけれど、より深く考えていくと、一人の脳、一つの脳だけでは歴史は継承されていかないんだろうなということを思い始めました。一つの脳ということは、自分が触れた歴史ひとつを書物に残した状態。ただこれ一個だけでは歴史は時代を超えられないはずです。これを多くの人が読み、それについて話したり、解析したり検証したり。例えば世界の歴史というのは、当然学校で学ぶわけで、こうして史学として教養の中に盛り込まれていくことで、当然のことのように歴史がみんなの脳に浸透していくように媒介していくんだなと考えました。
これはつまり人々のコミュニケーションから生まれるネットワークの存在が裏にあるからなんだろうなと思います。
こうしたネットワークの存在が時代を超えて存在し続けていて、(例えば教育システムと史学の関係性とか)当然のようにどんどんと時代を超えられるのだと思いました。
そしてもう一つこれに相性が良かったのは、蠟燭の会社であるカメヤマローソクさんからの、蝋の提供というパッケージがあり、この蝋を使っていることと、蝋の芯(火をつける部分)との親和性を使えるなと思いました。
こうしてこの二つを結び付けてできたのがこの表現でした。
こうして糸でキューブを繋ぐことで、個々の脳が繋がり、全体を一つにまとめることができました。
ただ、完成してから思っていたのは、この線のつなぎ方を複雑に交差するようにすべきなのか、隣接したものをシンプルにつないでいくのか(方向性が出る方がいいのか)ということをずっと悩んでいて
芯があることで影が生まれることや、糸が重なることとかを考えると結構汚く見えてしまったり、ちょっと「安っぽく」見えてしまっているようでずっと気になっていて…
ただでもコンセプトの収まり具合はこの芯があった方がいいのは明らかで、ここらへんが設営終わってからずっとずっとその前に立って悩んでいたんだけれど…
結局上の写真のような形にしました。
ここら辺は特に鑑賞者のみなさまにどう思うのか聞いてみたいなと思うところです。(コメントお待ちしてます)
ない方がいいっていう意見もすごくわかるんだけれど…くぅ…という感じ。
ということで長くなってしまったけれど、一つ目の《The box weaves history ー歴史を紡ぐ箱ー》という作品の思考プロセスや制作過程についてまとめてみました。5000文字超えてしまったけれど、ここまで読んでくださった方本当にありがとうございます。
本作品は、三重県亀山市で11月16日まで開催中の亀山トリエンナーレ2024、マップ番号22番の、加藤家屋敷跡内の若党部屋でご覧いただけます。
作家の僕が在廊しているタイミングは週末であることが多いですが、インスタグラムのストーリーズなどでシェアしていることが多いと思いますので、僕に会いたいなんて方がもしいらっしゃいましたら、インスタをチェックしていただけると嬉しいです。
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