3Dプリンタでマスクをつくってみた話(作り方と安全性について)
みなさんこんにちは!
やることはたくさんあるのに,なぜか最近毎日noteを更新しているなんちゃって大学院生のオオノマサキです.
今日はSNSで話題になっている,3Dプリンタでつくれるマスクを実際に作ってみたので,その作り方と使用感をレビューしたいと思います.
1. 使用した機材とデータ
今回使用した3DプリンタはEnder-3という格安のデバイスです.実際の使用感や詳しい使用は以下のnoteにまとまっているので気になった方は是非こちらをご覧ください.2万円という破格にも関わらず,"今の所"ちゃんと動いているし,一時的な #homelab には申し分ないクオリティなので一家に一台の現代にはもってこいの買い物です.
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今回使用したマスクのデータはこちらの「PITATT3Dmask」のサイトで無料配布されているstlデータ(REGULARサイズ)を使用しました.このマスクは,インナーが分割気候になっているため中のフィルターをワンタッチで取替えでき,プリント時にもサポートが必要ないなど,誰でも簡単に制作し使用できるように工夫されています.
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2. 実際に3Dプリントしてみた
まず,HPからPITATマスクのデータをダウンロードしてきます.
HPの説明を読みながら下までスクロールすると,ダウンロードボタンが出てくるので,自分のサイズ感にあう方をクリックします.(成人男性の僕はRegularサイズを採用しました)
GoogleDriveの共有リンクになっているので,最初は指示通りにデータの取り扱いに関する注意書きを読みます.こういうところは見落としがちですが,大事なことを書いているのでちゃんと読みましょう!
注意書きを読み終わったら,左のstlファイル2つを自分のPCにダウンロードします.ここでプレビューできないと言われますが無視して大丈夫です.
お手持ちの3Dプリンタにあったスライサーを使用して,先ほどダウンロードしてきた3DデータのstlファイルをOpenします.僕はEnder-3を使用しているので,こちらのUltimaker Curaというソフトウェアを使いました.makerbotならmakerbot Replicatorがあるし,これは各3Dプリンタによって推奨されているソフトウェアが異なるので各自で調査をお願いします.
inner-outerのどちらも一気に印刷して待つ時間を短縮するのがオススメ
ここからはスピードや出力などの印刷設定をしていくのですが,これも3Dプリンタによって異なるのでそれぞれの推奨レシピでやるようにしましょう.ただし,このデータはサポート材が必要ない設計になっているので,ありがたくサポートのチェックは外しておきます(早くできるし).
諸々の設定が終わったら,スライスボタンを押してプリントに何時間ほどかかるのか計算してもらいます.僕は12時間かかると言われました.そんなことはないと思い,色々と設定をいじった結果,最終的には8時間ほどにまで短くなりました.性能の良いプリンタを使ったり,精度を落とせばもっと時間は短縮できると思います.
スライス結果に満足すれば,「SaveFile」を押してGcodeファイルをSDカードに保存し,早速プリントをしていきます!
うおおおなんかそれっぽくなってきた気がする
プリント完了まで時間かかるので,料理でもしながら適当に時間を潰しましょう.待ち時間を活用することでQOL上げていきます.
--- 8時間後---
印刷完了したOuter-Innnerデータ
印刷が完了したouter(大きい方)にはマスクの紐部分を引っ掛ける機構が採用されているので,使い終わったマスクの紐などを再利用して紐をつけていきます.紐の端をくるっと結んでおくと簡単には取れません.
また,このマスクはフィルターを自分で用意しなければなりません.自分はマスクが余っているので,未使用マスクの半分ほどをアルコール消毒したはさみで切断しました.ガーゼを重ねるなどの方法もあるので,これは各自で調査して用途に合ったものを採用すると良いと思います.
フィルターをかぶせた後,innner(小さい方)をカチッとなるまで挿入します.
これで3Dプリンタ製"マスク"の完成です!!!
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実際に装着してみるとこんな感じです.
思ったよりもぴっちりしていて,装着時に違和感を感じることもありません.また,3Dプリントの積層痕が気にならないし,穴が空いているデザインのため息もしやすい印象です.
そして,なにより東京喰種の金木君みたいでかっこいいーーー!!!!
3. 安全性の議論
『かっこいいし,装着感も悪くないし,もはやこれで医療用マスクとして毎日使っても良いのでは?』
僕は最初こう思いましたが,素人が専門知識もなしに3Dプリントしたマスクが医療用として使用できるのかという点に疑問を感じました.実際にMITでも同様の議論が巻き起こっていたようです.
そこで,自分でも調査し,Fab×医療を専門にされている吉岡純希さんにヒアリングした結果,『自己責任での個人利用は咎められないが,医療用品として"他人"が使用することには議論が必要である』という結論に至りました.理由は3点あります.
1. 使用可能素材が限られている
・・・これは,人間の皮膚に有害ではない素材を自分たちで選択して使用する必要があるという意味です.今回使用したPLAなどであれば有毒性はないとされていますが,光造形のレジンなどは避けた方が良いです.また,消毒ができる素材でないといけないため,PLAの場合はアルコールや次亜塩素酸をつかい,使用後は毎回消毒する必要があります.
2. 密閉性の問題
・・・このマスクの元データの設計方法は個人の顔形状を計測した3Dモデルにフィットするようにデザインされていましたが,今回のように配布されたデータを使用する際はマスクの密閉性に問題がないとは言えません.個人差が大きいため,一概に医療用として使用可能かの判断は出来かねると思います.
3. フィルタリングの問題
・・・先ほども使用感を書いたように息が吸いやすいのはとても良いポイントなのですが,逆にコロナウイルスなどがフィルタリングできるかどうかに関してはフィルター頼みのため疑問が残ります.マスクに適切なフィルターに関しての指示はHPにもないため,どのように対応するべきかはまだわからないです.僕のようにマスクを切ったり,キッチンペーパー5枚重ねや,HEPAフィルタの布などを選定するとフィルタ機能があげられるという情報もあります.
マスクの性能要件に関しては,日本政府が発表しているJIS規格を参照すると良いようです.
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このように,3Dプリンタで制作したマスクが安全性を伴って医療用品として活用できるためにはまだまだ議論が必要なようです.しかし一方で,3Dプリンタを活用した医療機器の開発ができれば医療崩壊を防ぐための助けになる可能性もあります.今回のケースにとどまらず,医療用に3Dプリンタを使用するための安全性について議論するコミュニティも日本にありますので,これらの情報を元に,冷静にデータの活用について考えていきましょう.
ひとまず,今回のマスクについては『自己責任での個人利用は咎められないが,医療用品として"他人"が使用することには議論が必要である』ということを忘れずに,個人利用・自己責任の範囲でデータを活用するのが良さそうです!(僕も家族に送付するのはやめました)
以上,3Dプリンタでマスクを作ってみた報告とそれに関する安全性の議論についてまとめてみました.特に,安全性の議論についてはまだあまり知られていないので是非Twitterなどでシェアしていただけると幸いです.長文でしたが最後まで読んでくださりありがとうございました!
---20200415追記
先ほど紹介させていただいた吉田さんが,明日Fabcafeのオンラインイベント(無料)で「3Dプリンタの医療応用について」のお話をするそうです.より踏み込んだ議論が期待できますので,お時間のある方は僕と一緒に自宅から参加しましょう!
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