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「自分の家だと思ってくつろいでくれていいぞ」
松岡は速水部長の言葉を聞くなり、部屋の奥にあった部長お気に入りのハンモックに早速寝転がった。

「おーい松岡、くつろぎすぎたぞ」
「すいません、お言葉を真に受けすぎました」と松岡はおどけてみせると、堅物の部長が珍しく声を上げて笑った。
松岡という男は、喜んでもらえる失礼があることを承知している男だった。
一方で私はなかなか目上の人とは距離が詰められず、松岡がタメ口でツッコミをもらうのに対して、私は部長から敬語で話しかけられていた。

「斎藤さんは、もう経理の仕事には慣れましたか?」
今日は1月から経理部に異動した私の歓迎会ということで、部長の自宅に招かれた。私より1年先に経理に異動してきた後輩の松岡は旧来の仲であるかのように部長との見事な掛け合いを私に見せつけてくる。

「斎藤さん、冷蔵庫にあるもの好きに飲んじゃっていいっすよ」
「お前が言うんじゃないよ」
と松岡を叱る部長の顔には少年のような笑みが浮かんでいる。その顔から心底リラックスしていることが伝わってきた。

要はリスクを恐れているのだ。嫌われたくないという気持ちからリスクを取ることができずに、相手の懐にも飛び込むことができない。私の歓迎会だけど、松岡だけが部長との仲を深めて夜になった。

食事を終え、話すことも尽きて気まずい空気が流れようとした時、「テレビ見ていいっすか?」と聞く松岡にビクビクしながら、部長のグラスが空になるタイミングを見逃すまいとまだ緊張したままだった。

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