惑星の真実を、恋人しか知らない
「大きな声ではっきりと喋りましょう」
担任の先生からそう言われたことがある人も多いと思う。
でも、大きな声ではっきりと喋れるのは今まで言ったことがあるものか、どこかで聞いたことがある言葉「ストックフレーズ」だけなのだそうだ。
(『複雑化の教育論』内田樹著)
教室が陳腐でつまらないのはこのせいかもしれない。
新しいことはみんなの前では発表されないってことなのかもしれない。
「さあ、あなたの番だから元気よくどうぞー」
って言われてみんなの前に立たされて、
「後ろの人にも聞こえるように、ハキハキいきましょう!」
と指導されたって誰かの繰り返しか、自分の繰り返ししか口からは出てこないのだ。何にも斬新なものなんかそこにはない。
それよりも一人部屋の中でボソボソと言っていることに、きっと真に新しい何かが含まれているのだ。
それから、二人きりでカウンターで隣り合って、小さな声で話している時に、自分じゃないようなことが口から出てくる。そんな想像をしてみるとロマンチックな気がする。
自分が自分じゃないみたいになって、感じたことのない気持ちを話したことない言葉で表現できる。
その人との関係と物理的な距離には関係がある。
それと同じで、斬新さや定型を超えた真実を語るには、ある一定の距離に近づかないといけない。そして近くに受け取ってくれる人がいないといけない。近くにいてくれる人がいるだけで、今までの自分から脱出したことが話せるのだ。
「あの人の真の姿は私しか知らない」
と恋人が言うのもあながち嘘じゃないかもしれない。
いつも寄り添っている恋人にしか知り得ない、その人の真実があるだろう。
大気圏を超えた向こう側に、その惑星の真実があるように。