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痛みの板前(冒頭小説メモ)

目が覚めると首筋にピッキーン。
痛みが駆け抜けた。

確かに昨日首がちょっと痛かった気がするけど、今朝になって桁違いな痛みに発展している。

横向きに寝たままセルフで金縛り状態だ。
動く前にわかる。動いたら絶対に痛い。

「食べる前にわかるー!絶対に美味しい!」

これははしゃぎながら、彼女がデートの時に言った言葉だ。その時は板前が木で出来た台にそっとエビの寿司を置いていた。そして彼女の方はご丁寧に海老の尻尾をウサギの耳のようにする特別演出付きだった。

「食べる人に合わせてね、寿司も価値を変えるんですよ」
板前のしょーもないギャグ。

人の彼女みてデヘデヘすんじゃねえ。ほんで俺をいじってくんな。
普段ならイライラするだろうがそんなことは気にも留めない、楽しい週末の夜。

楽しい週末の夜だった。

そう、でも今は週末の夜じゃない。
ど平日の朝だ。

俺の枕ものには板前がいて、慣れた手つきで痛みを握って、無防備な俺の頸にそっと置いた。

丁寧な所作とは対照的に、痛みは暴力的だった。

「痛ててててててて」

言っても緩和しないのに、痛みに言及せずにはいられない。

これ以上ない痛みだ。

そう、これ以上はない。はず。

痛みの寿司屋よ。連勤は辛かろう。

明日からはゆっくり休んでくれ。

とりあえず今日はおあいそで。

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