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花も幹もなく根だけが

食べるよりめんどくさいが勝るときないでしょうか?

時間は溶けるように早く過ぎていくのに、お腹はなかなか空いてこない。
「3食食べて、運動して、早めに寝ましょう」
みたいな、健康法は当然知っている。
自分でも食べられるものを食べようと思うのだが、気がついたら昼食に適した時間を超えている。朝は寝過ごして食べてない。みたいなことが起こる。

お腹が空いていたり、食事が美味しくて得られる幸せよりも、このままゴロゴロしていたいという気持ちが勝ってしまう。
自分が植物になったみたいだ。喉は乾いて飲み物は飲むのだが、固形のものは必要としないんじゃないだろうか。もしかしたら背中から根っこが生えていて、これから寝具の湿気だけで生きていくのか。そんなあり得ない妄想が、ぱっと頭に浮かぶ。慌てて掛け布団を剥ぎ取ってみると、昨日まで普通のシーツだったところが黒々として肥沃な土に変わっていて、スウェットを来ていたはずの自分は裸になっている。
背中から細い髭のような白い根っこが無数に伸びて、土に突き刺さっている。地面から養分を吸い上げて、だんだんとそれは太くなっている。
口から飲むより、根から吸ったほうが楽だなと、この状況を冷静に受け止めている自分がいる。じゃあもう少しこのまま寝ていよう、と布団をかぶせているとだんだんと深い眠りに落ちていく。自分ごと根っこになって土に溶けていく。
そういえば茎も花も幹も見当たらない。
一体自分はなんのために大地から養分を奪って自分に吸収しているのだろうか。
自分は一体なんだ。根っこだけで、ただ養分をもらって命として生きながらえている。何か咲くのだろうか、何か育つのだろうか。もう少し待ってくれと思った。

いっそまたお前も土になれ。

と誰かが言ったかと思うと、一気に視界が暗くなって、自分の四肢が胴体から離れていく。
痛みはない。ぼろぼろとかさぶたが剥がれていくみたいにそれは自分の体から離れても痛みがない。髪の先端をハサミで切る感覚にも似ているかもしれない。自分の体なのに、切り離されても何も感じない。そうやって少しずつ少しずつ小さくなって、最後に視力と意識だけ残った。土まみれになった自分の部屋のフローリングを見下ろしている。この部屋はこんなに暑かったのか。息が詰まりそうだ。でも今、視界と思考しかないのに、息はどこでしているのだろうか。天井から見下ろす土の中に、うごめいている部分がある。その下に生き物がいると直感した。勢いよく噴き出してきたのは、赤黒い臓器だった。あ、俺のだ。と思ったとき逃げるように体を硬直させた。体はないのに肩や太ももに力を入れ、拳を握りしてた。暑い、暑い。

暑っっい!!
と思って布団を体の上から引き剥がす。いつの間にか眠っていたのか。とにかく喉が渇いた。
2リットルの角張った入れ物のポカリスエットを飲む。常温になってぬるかったけど、余計に甘みを感じて美味しかった。
部屋の中を見回すと散らかってはいるがいつものフローリングで、土はどこにも見当たらない。布団の中も汗で湿ってはいるがいつも通りただシーツが敷いてあるマットレスだった。

なんか久しぶりにリアリティーのある夢を見た。
花もなく幹もないってのが、なんか自分を暗喩してるみたいで嫌じゃないか。

ぷはーと茶化すみたいに一人で言ってみると、少しだけ落ち着いてきた。いくらリアルでも夢は夢だ。そんなもの気にしても仕方ない。

めんどくさかろうがなんだろうが食ってやる。
肉だ肉だ。

何かを否定するみたいに、何かに抵抗するみたいに、大盛りの牛丼を胃袋の中に詰め込んでやった。

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