天気を願って

明日起きたとき、気分が晴れているといいとおもう。

テレビでは気象予報士が明日は雪になると、申しわけなさそうに告げている。あなたのせいではないと思うのだが。

そんで、もちろん私の気分の問題は、私のせいだ。

私は謝るのが口癖だ。先日も「そのネイルさぁ」と会社の先輩の橋本さんに言われたとき、「あ、すいません。すいません」と反射的に詫びまくった。
「いやー、可愛いからどこでやったのか聞きたかったの。驚かせちゃってごめんなさいね」
2児の母である橋本さんはマスク越しにとびっきりの笑顔で笑いかけながら、おどおどしている私をあやすように接してくれた。
本来家庭でお子さんたちに向けて消費すべきエネルギーを使わせてしまった。申し訳ない。ああ、また謝っている。

ずっとうっすらと自責の念がある。
これほんと、どこからくるんだろう。謎だ。

天気予報が終わると深夜のバラエティ番組がはじまった。冒頭のタイトルコールを聞いた瞬間、私の調子が悪いせいで、今日は楽しめそうにないなと分かった。最近、気分が落ちこんでいて、悲観的。まあ、いつも悲観的といえばそうだから程度の問題だ。色で言うと青が黒にどんどん近づいていくような感じだ。今はたぶん、点くらいしか青が残ってない。

「不安定な気圧配置です」とキャスターを真似して自分の精神状態を自嘲する。この部屋に私以外誰も居ないので、食べ終えたお茶碗についた糊を見ながらつぶやくと、あ、スベったよね、ごめんね、早く洗うね。と台所へ向かった。

お笑い芸人やイケメン俳優たちが煌びやかなセットのなかで白い歯を見せて笑っているのを見ると、その画面の中の一体感が私には重たく感じる。
なんとなくクラスのイケイケ集団が教室で騒いでいるように見えちゃう時があるんだよなぁ。私はパッとしない女子だったけど、いじめられるとかはなかったので、ずるずると「まだ仲間に入れてもらえるかも」という思いを引きずっている。それがいけないんだろうな。割り切って「芸能人嫌い」になちゃえばいいのに。それもできず、苦手がっている。あ、テレビを作ってる人ごめんなさい。

明日起きたら、気分が晴れているといい。何度か繰り返しているのでわかるのだが、今の精神状態だと自分ではコントロールできないので、お願いするしかない。

明日はまたさむい。それはさっき天気予報で確認した。
そして会社には行かないといけない。意味わかんないタイミングで休みなんてもらえない。そして今日はもう起きていられない。そろそろ寝ないと。で、寝たら明日が来る。唯一の気分転換のテレビは今日は役に立たない。いや、人のせいみたいに言っちゃった。ごめんなさい。私の受け取り方のせいなのに。

ああ、せめてこのくらい。と思って皿を洗う水をお湯にかえようとレバーを指先で弾いた。さっと角度を変えるとそれが、人が顔を背けるような速度だねと思った。私が頬をうって、誰かが顔を背けるようにも。
せめて被害者でありたいよ。それなのに、またこんな暴力を。だめだ、だめだ、やっぱり調子が悪い。ごめんなさい。ごめんなさい。

いったい、こんな調子がいつまで続くんだろう。
背中を笑い声に刺されながら、席を立つときにテレビは切るんだったなと後悔した。

うつむいて身を固くして、早く、早く、と指先の温度の変化をまっている。

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