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前夜的

休みの日より、その前の日が好きだ。
寒いのが苦手で春が待ち遠しいけど、春の訪れを感じるよりその少し手前の時期が好きだ。

何かが訪れる。それはもうほとんど動かざる事実であるが、訪れは今ではなくて少しあとである。

そんな状態を前夜的と呼んでいる。

試合の前に自分の成長をありありと感じている。
意中の相手からの視線が熱を帯びている。
金曜日の午後。オフィスの空気は緩和している。

結実は間違いなく訪れる。
成就は手の内だ。
安寧はすぐそこだ。

そう思いながら待っている時間が好きだ。

「ごめん、遅れる」と彼氏からの連絡に「待つのも好きだから大丈夫」と返信する。

前夜的な時間が好きなの。

そう話しても「なんそれ?」と聞き返され「それよりもさあ」と話題を変えられるだけだろう。

だから私はのんびりした女ということになっている。

私をおっとりした女だと思っている彼の鼻を明かす日を待つのもある意味で前夜的かも。

そんな私のちょっとねじれた思惑も知らず、手を振って小走りに近寄ってくる彼の姿を見つけると、心の中から少しだけ熱が逃げていった。

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