shift innovation #49 (QUINTBRIDGE hack)
今回、QUINTBRIDGEで「AIデザインのためのフィールドワーク」というイベントに参加しました。
「QUINTBRIDGE」
社会を変えたい思いと思いが、出会う場所。世の中をもっと良くしたい、と考える企業・スタートアップ・学生・自治体などが、立場にとらわれず交流するオープンイノベーション施設。
志を持つ会員同士が自由に共創し、実社会での活用をめざします。アイデアや技術、知見や課題を持ち寄り、それぞれの個性を活かし、あなたの想いをみんなの思いにしていきましょう。
「AIデザインのためのフィールドワーク」
AIテクノロジーが急速に発展普及する中で、その技術をどのように取り入れて活用していくか、そして、社会実装していくかは、あらゆる現場で重要課題となっています。そこで、産総研AI技術コンソーシアムで長年培われてきたAIアプリ開発の技術・ノウハウを共にした、AIアプリ開発プロセスを体験するワークショップを開催いたします。
安松健氏
産総研人工知能技術コンソーシアムデータ・知識融合WGリーダー、大阪教育大学理数情報教育系特任准教授、株式会社エボルブChief Assemblage Officer
【フィールドワークの概要】
主催者である安松氏は、フィールドワークにおいて、久留米絣の生産者に対して、ヒヤリングを実施する中で、生産者はスペックなどの機能的価値ばかりを消費者に伝えようとしていたため、安松氏には久留米絣の良さが伝わってこなかったようです。
そのため、伝えたい人(消費者)のペルソナを設定した上で、文化的価値を伝えることができれば、うまく消費者に伝えることができるのではないかと提案したようです。
しかし、久留米絣の生産者は本来文化的価値を伝えようとしたものの、久留米絣の文化的価値は単一のものではなく、多様な文化的価値があったこともあり、消費者に対して、簡潔に久留米絣の文化的価値を伝えることができていなかったようです。
これらの課題を解決する上で、KJ法を活用することが有効であり、KJ法とは、分析する手法ではなく、統合する手法であり、データという事実を理解することにより、固定観念という枠を外すことによって、新たな仮説を形成する手法のようです。
【自身における問題意識】
今回の講義の中で、「AIを活用することにより、インサイトを導出できるのか」「AIを活用することにより、アブダクションに基づき、仮説を形成できるのか」という疑問が生じました。
上記問題意識をAIが解決することができるのか、安松氏にお聞きしたところ、「インサイトを生成することも、アブダクションをすることもある程度可能です。例えば、KJ法をGPTですると、正しく学んだ初級者よりも高いレベルの成果物を出すことができます。」とのお話をいただきました。
そこで、安松氏が導出した久留米擦りに関する生産者のインサイトを起点に、KJ法に基づくAIにより生成したアイデアではなく、私(人間)が導出したアイデアを提示することとします。
【人間(私)による新たなアイデア】
はじめに、生産者において、「多くの文化的価値があり全てを伝えることは困難である」(事象)、つまりは「良いことは全て伝えなければならない」という固定観念があり、文化的価値の全てをうまく伝えることができなかったと想定したことから、「文化的価値を全て伝える必要があるのか」と懐疑的に捉えることとしました。
さらに、「文化的価値を伝えることは良いことである」という固定観念に対しても、「久留米絣の良さを伝えるのに、文化的価値でなくても良いのではないか」と懐疑的に捉えました。
これらのことから、消費者の中には、「日本的なファッションに憧れている」というニーズがあると捉えたことにより、日本から海外へ視点を変えたことによって、日本文化を海外に伝える、それも、高級テキスタイルとして海外で注目してもらうのはどうかと捉えました。
しかし、高級でおしゃれな服は高く、普及させることは困難であり、それであれば、普段着として普及させることはできないかと視点を変えたものの、普段着であっても、価格が高いと普及しないのではないかと捉えました。
そこで、改めて、普段着として絣のデザインの服を着たいのか、また、絣の小物を持ちたいのかという疑問が湧き、「絣のデザインは良いが、デザインが主張し過ぎると欲しいとは思わない」(仮説)と捉えました。
これらのことから、「夏に涼しく過ごしてもらい、独特の風合いの生地により、日本の文化も感じてもらえる久留米絣の無地のTシャツ」というアイデアにより、消費者に対して、多くの文化的価値を伝えるのではなく、機能的価値に文化的価値を付加することによって、多くの消費者に久留米絣を伝えることができるのではないかと捉えました。
【新たなアイデアのインサイト・アブダクション】
消費者のインサイトとして、「絣のデザインは良いが、デザインが主張し過ぎると欲しいとは思わない」というように、普段着として着るのであれば、絣のデザインが主張しすぎると着るシーンが限定されるのではないかと捉えました。
アブダクションとしては、「久留米絣を普及させたいものの、普及させるのに限界にきている」という事象(課題)に対して、「デザインを重視したものではなく、普段着として活用できないのか」という法則を適用することにより、「絣のデザインは良いが、デザインが主張し過ぎると欲しいとは思わない」という仮説を形成しました。
【新たなアイデアの思考プロセス】
課題発見
課題転換
課題解決
【既に商品化されているアイデア】
アイデア導出後、インターネットで久留米絣について検索すると「無地のTシャツ」があり、導出したアイデアは既に商品化されている商品と類似するアイデアでした。
(導出したアイデアは今までと同じアイデアであり、今までとは異なるアイデアを生成できるAIに完敗となるのか)
株式会社うなぎの寝床(久留米絣のTシャツ)
【文化的価値・機能的価値】
文化的価値を重視することは、文化を継承する上で重要ですが、文化を商品として継承する(普及させる)ためには、一定の規模が必要ではないかと考えられます。
これは、地域の人は文化を継承したいという思いが強い一方で、地域外の人は文化の継承に関心を持っていることは少ないのではないかと考えられます。
よって、文化を意識することができるのは、地元の人が中心になると考えられますので、さらに普及させるためには、文化的価値以外の価値が必要ではないかと考えられます。
例えば、今治タオルは、無地の生地であり、タオルの外観だけでは今治タオルであると判別は難しいものの、品質の良さによりブランディングし、タグにより判別することができます。
そこで、久留米絣も文化的価値を全面に出すのではなく、機能的価値で認知を上げた上で、文化的価値を付加価値として認知してもらうという方法もあるのではないかと考えられます。
強いて言えば、消費者は、機能的価値の方に関心が高いと想定されるものの、昔の織機を使用し、昔ながらの製法で製造していること(文化的価値)により、希少的価値が高い商品であると感じることによって、さらに所有意識が高まるのではないかと考えられます。(感想)
【訴えかけるポイント】
久留米の人に訴えかけるポイント
日本人(私)に訴えかけるポイント
【まとめ】
課題である「文化的価値を知らせたいが、多くの文化的価値があり全てを伝えるのは困難である」という生産者のインサイトに対して、「絣のデザインは良いが、デザインが主張し過ぎると欲しいとは思わない」という消費者のインサイトに基づき、消費者に対して、多くの文化的価値を伝えるのではなく、機能的価値に文化的価値を付加することによって、多くの消費者に久留米絣を伝えることができるのではないかと捉えました。
導出したアイデアは、既に商品化されている今までと同じアイデアであり、安松氏のお話では、AIはアブダクションに基づき、今までとは異なるアイデアを生成できるようですので、AIは人間の創造性を越えるのではないかと思いました。
ここで新たに「AIは捉えた事象に対してどこまでの範囲を類推できるのか」、そして「類推する範囲をどのようにコントロールできるのか」という疑問が生じました。