shift innovation #60 (KYOTO CREATIVE ASSEMBLAGE hack)
今回、京都クリエイティブ・アッサンブラージュのダイアログ「社会課題とデザイナー 佐藤可士和の仕事を読み解く」を聴講してきました。
【京都クリエイティブ・アッサンブラージュの概要】
京都クリエイティブ・アッサンブラージュは、社会をよく見て表現する人文社会学的視点、別の現実を作って体験することで日常を捉え直すスペキュラティブなデザイン、そして既存の枠組みを宙吊りにし安易な結論づけを妨げるようなアートの実践にそれぞれ触れることで、新しい世界観をつくる力を導きます。
今回は、「敗者の救済」という視点に基づき、佐藤可士和氏がデザインした「GLP ALFALINK相模原」の物流施設について読み解くこととします。
(これは、山内裕氏が佐藤可士和氏の仕事を読み解いた内容を、さらに私が読み解いた(勝手に解釈した)内容となります。)
【ダイアログ概要】
イノベーションを「既存の意味のシステムを解体すること」と捉えた場合、既存の意味のシステムから排除された「無意味」を救い出す必要があり、これを「敗者の救済」と表現しています。
そして、「敗者の救済」においては、「勝者」と「敗者」などの序列の基準を解体し、フラットに扱う必要があり、そこには、根拠のないこと、意味のないことを前提とする必要があります。
【「敗者の救済」の概要】
現代の競争社会において、「勝者」と「敗者」があるように、あらゆる関係性において、序列は存在するものであり、「勝者」「敗者」をはじめ、「上司」「部下」、「元請け」「下請け」、中には「親」「子」を序列と捉えている場合もありますが、このような序列の基準がないものとした上で、そこに、新たな目的や意味を捉えず、全てにおいてフラットに扱うことにより、「敗者の救済」を実現することができます。
【「GLP ALFALINK相模原」の概要】
佐藤可士和氏がデザインした「GLP ALFALINK相模原」とは、「広大な敷地に物流倉庫がいくつも連なり、その中をトラックが走り回っていることはもちろんのこと、物流施設の敷地の外でも、トラックが頻繁に往来するなど、危険である上に物流施設の中で何が行われているか分からない存在」という一般的な物流施設のイメージとは異なるものとなります。
このような物流施設のイメージを払拭するのが「GLP ALFALINK相模原」であり、物流システムのフラッグシップとして、敷地内には物流施設だけではなく、地域住民の方が交流できる場もあり、年間300ほどのイベントが開催されるなど、「Open Hub」というコンセプトに基づく「創造連鎖する物流プラットフォーム」として、「GLP ALFALINK相模原」と地域住民が共創し続ける施設となります。
【「GLP ALFALINK相模原」における佐藤可士和氏の仕事】
佐藤可士和氏は、「敗者の救済」という文脈において、「GLP ALFALINK相模原」に関して、「アップデートするのではなく、別次元の世界をつくりたい」と表現されていました。
この「アップデートする」とは、既存の意味のシステム、つまりは、序列の基準を維持しつつ、新たな価値を創造すると捉えることができ、そして、「別次元の世界をつくる」とは、根拠のないこと、意味のないことを前提に、新たな序列の基準をつくることなく、新たな価値を創造すると捉えることができるのではないかと考えます。
そこで、佐藤可士和氏は、「『GLP ALFALINK相模原』を敗者と言って良いのか」と慎重に言葉を選んでおられましたが、旧来の物流システムを「敗者」と捉えた場合、物流システムに対して、根拠のないこと、意味のないことを前提に、新たな序列の基準をつくることなく、新たな価値を創造したものが「GLP ALFALINK相模原」であり、別次元の世界をつくることができた、つまりは、「敗者の救済」を実現できたのではないかと考えられます。
【「敗者の救済」における負のループ】
それでは、「GLP ALFALINK相模原」に関して、どのようにして「敗者の救済」を実現できたのかということですが、「敗者の救済」を、「敗者」を「勝者」にすることと捉えた場合、ここには、「敗者」「勝者」という序列の基準を維持することとなるため、「敗者の救済」とはならないと考えられます。
例えば、物流システムを「敗者」と捉えた場合、何に対して「敗者」と捉えることとなるのかというと、物流の「2024年問題」といわれる過酷な労働環境を、働きやすい労働環境に整備するという「勝者」に対して、「敗者」と捉えることとなります。
そうすると、働きやすい労働環境に整備するため、例えば、物流施設を「綺麗な物流施設」「働きやすい物流システム」とした場合、これを「勝者」と捉えることとなり、今度は新たな「敗者」が生み出されることとなります。
それでは、新たに生み出された「敗者」とは何になるのかというと、「トラックが走り回る危険な場所」となってしまう地域の住民が「敗者」になることとなります。
これらのように、「敗者」「勝者」という二元論的発想をすると、「勝者」が生まれることにより、そこには新たな「敗者」が生まれるというように、「敗者の救済」において必要となる「序列の基準を解体し、フラットに扱う」ことができないこととなります。
【「敗者の救済」における二元論的発想の解体】
しかし、二元論的発想を解体しようとするものの、人間は「敗者」という観念を想起すると同時に、対立する「勝者」という観念を想起するなど、比較対象を捉えることとなるため、「敗者」が「勝者」になることにより、新たな「敗者」が生まれるという、対立構造が維持されることによって、序列の基準を維持してしまうこととなります。
そこで、「勝者」と「敗者」を対立構造から協調構造へ転換することにより、両者は「敗者」でも「勝者」でもないという関係性を生み出す、つまりは「序列の基準を解体し、フラットに扱う」ことができるのではないかと考えます。
それでは、対立構造から協調構造へ転換するためにはどうすれば良いのかということですが、ここでは、「GLP ALFALINK相模原」と地域住民が「対話」し続けることにより、「トラックが走り回る危険な場所」が「地域住民と交流できる場所」へ転換するなど、「GLP ALFALINK相模原」と地域住民とは、対立構造から協調構造へ転換することによって、「序列の基準を解体し、フラットに扱う」ことができたのではないかと考えます。
これらのように、対立構造が生じることはやむを得ないこととし、「GLP ALFALINK相模原」と地域住民との関係性において、対立構造から協調構造へ転換するための「対話」が重要な要因となることから、「敗者の救済」においては、二元論的発想を解体できる要因を捉えることが重要になるのではないかと考えます。
【「敗者の救済」における利害の反故】
それでは、「GLP ALFALINK相模原」と地域住民においては、「対話」が対立構造から協調構造へ転換するための要因となりましたが、「対話」を成立させるためには、互いの利害、つまりは、目的や意味を一旦反故にする必要があります。
例えば、「GLP ALFALINK相模原」における「働きやすい労働環境に整備する」という目的を捉えた場合、「綺麗な物流施設」「働きやすい物流システム」という新たな価値が生まれることになりますが、そこには、「トラックが走り回る危険な場所」となってしまう地域住民が「敗者」のまま取り残されてしまうこととなります。
一方で、「敗者の救済」では、根拠のないこと、意味のないことを前提にする必要があり、「GLP ALFALINK相模原」における「働きやすい労働環境に整備する」という目的を一旦反故にした上で、そこには、「広大な土地がある施設」というフレームだけがあり、それ以外は、目的も何もない状態、つまりは、根拠もなく意味もない状態をつくることにより、はじめて、新たな価値生み出すことができる環境が整うこととなります。
そこで、新たな価値生み出すことができる環境が整うことにより、「GLP ALFALINK相模原」と地域住民は、根拠もなく意味もない状態において、はじめて「序列の基準を解体し、フラットに扱う」ことができるこことなり、そこに「対話」が介在することにより、「トラックが走り回る危険な場所」から「地域住民と交流できる場所」へ転換する、つまりは、対立構造から協調構造へ転換することによって、根拠のないこと、意味のないことを前提に、新たな序列の基準をつくることなく、新たな価値を創造することができるのではないかと考えます。
【「敗者の救済」における新たな価値創造】
それでは、「敗者の救済」における新たな価値を創造する上で、物流施設を捉える視点(範囲)の違いにより、異なる新たな価値を創造することとなります。
例えば、物流施設にけるステークホルダーとして、従業員、トラック、施設、自社、他物流企業、地域住民、行政(自治体・省庁など)、さらには、株主、金融機関、保険会社、不動産会社、システム会社、エネルギー関連会社など、多くのステークホルダーが存在することとなります。
そこで、ステークホルダーの中でも、従業員の視点で捉えた場合、「綺麗な物流施設」「働きやすい物流システム」という新たな価値創造により、「働きやすい労働環境に整備する物流施設」という目的を導くこととなります。
また、他物流企業の視点で捉えた場合、「企業同士が交流できる施設」という新たな価値創造により、「イノベーションを創発する物流施設」という目的を導くこととなります。
そして、地域住民の視点で捉えた場合、「地域住民と交流できる施設」という新たな価値創造により、「創造連鎖する物流プラットフォーム」という目的を導くこととなります。
さらに、行政(自治体・経済産業省等)の視点で捉えた場合、「スタートアップエコシステム」という新たな価値創造により、「地域創生を促進する起業プラットフォーム」という目的を導くこととなります。
これらのように、捉える社会課題の範囲により、創造できる新たな価値は異なることになるため、社会全体を観察し、社会の微妙な変化を感じ取ることにより、既存の枠組みを宙吊りにすることによって、「敗者の救済」に基づく新しい世界観をつくることができるのではないかと考えます。
【まとめ】
「敗者の救済」において、「勝者」と「敗者」などの序列の基準を解体し、フラットに扱うためには、対立構造から協調構造へ転換する上で、二元論的発想を解体するための要因を捉えることが重要となります。
(「GLP ALFALINK相模原」の場合の要因は、「対話」となります)
そして、二元論的発想を解体するための要因を捉えた上で、根拠のないこと、意味のないことを前提とするためには、捉えた事象における互いの利害(目的)を一旦反故にすることが重要となります。
(「GLP ALFALINK相模原」の場合の一旦反故にする利害(目的)は、「働きやすい労働環境」となります)
このような社会課題を解決するためには、捉えた社会課題における関係者個々の利害(目的)が対立する状態において、全ての関係者が関わり、共通のアジェンダを作成することからはじめるという、「コレクティブインパクト」の視点も活用できるのではないかと考えます。
(これは、山内裕氏が佐藤可士和氏の仕事を読み解いた内容を、さらに私が読み解いた(勝手に解釈した)内容となります。)