shift innovation #30 (IAMAS hack 3)
今回、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)が企画するバウンダリーメディアに関するワークショップに参加しました。
【ワークショップ趣旨】
企業がイノベーションを実現するためには、創造した事業アイデアの実現に向けてプロジェクトメンバーが協働する必要があります。しかし協働を促進するような事業アイデアの創造は困難です。この課題を解決するために、媒体(メディア)に着目したワークショップを設計しました。
バウンダリー・メディア・ワークショップでは、イノベーションを目的とした事業アイデア創造を行うグループを設定し、テーマに従ったアイデア創造を行います。アイデア創造の過程で、テーマを創作的に表現したメディア(バウンダリーメディア)を制作し、それらを鑑賞することを通じて、グループ全体のアイデア創造の視野を広げることを目的としています。
【プログラム】
【バウンダリーメディア】
イノベーション活動において、今までにはない新たな発想が必要となる中で、個人の知見、組織内の知見だけでは、新たな発想は難しいとされています。
オープンイノベーションなどにおいては、関連性の低いと思われるような新たな知見との融合により、イノベーションが促進されることがあります。
バウンダリーメディアとは、このような新たな知見に基づき、言語化されていないメディアを活用し表現することにより、新たなアイデアの創出を触発することをはじめ、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めることができるというもののようです。
shift innovation #28 (IAMAS hack)においては、バウンダリーメディアを活用することにより、新たなアイデアの創出を触発するフェーズについて説明しました。
shift innovation #29 (IAMAS hack 2)は、ワークショップにおける事例等に基づき、バウンダリーメディアの抽象度に着目し、新たなアイデアの創出を触発するフェーズとビジョンなどにより意思統一するフェーズとの比較について説明しました。
【バウンダリーメディア(プロトタイプ)制作の目的】
バウンダリーメディアには、新たなアイデアの創出を触発することをはじめ、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めるという目的があるものと考えます。
これらの目的においては、バウンダリーメディアが抽象的であることが有効となる場合があることにあわせて、具象的であることが有効となる場合もあると考えます。
そこで、今回、新たな事例等に基づき、バウンダリーメディアのフェーズに着目し、新たなアイデアの創出を触発するフェーズにおける個人特性と多様性担保フェーズにおけるバウンダリーメディアの抽象度について説明することとします。
【バウンダリーメディアを活用するフェーズにおける抽象度】
バウンダリーメディアには、新たなアイデアの創出を触発することをはじめ、多様な人を集めること、ビジョンなどにより意思統一すること、内発的動機を高めるという目的がありますが、プロジェクト等における導入からアイデア創出までのプロセスを、バウンダリーメディアを活用する各フェーズに区分することとします。
バウンダリーメディアを活用するフェーズとは、多様な人を集める「多様性担保フェーズ」、同じ目的に向かわせる「意思統一フェーズ」、アイデア発散を動機付ける「内発的動機(アイデア発散)フェーズ」、アイデア収束を動機付ける「内発的動機(アイデア収束)フェーズ」とします。
これらのように、各フェーズに応じて、バウンダリーメディアに必要となる抽象度は異なることとなることから、各フェーズにおいてバウンダリーメディアの抽象度を調整する必要があると考えます。
【多様性担保フェーズにおいて必要となる個人特性】
多様性担保フェーズにおいては、抽象的なバウンダリーメディアとすることにより、個人が想像できる範囲が大きくなることから、バウンダリーメディアに関心を持ち集まる人も多くなると想定されます。
一方で、具象的なバウンダリーメディアとすることにより、個人が想像できる範囲が限定されることから、バウンダリーメディアに関心を持ち集まる人も限定されると想定されます。
ただし、抽象度の高いバウンダリーメディアであった方が、想像できる範囲が広がることにより、アイデアを発想しやすくなるという個人特性がある人がいれば、抽象度の低いバウンダリーメディアであった方が、特定の範囲に限定することにより、アイデアを発想しやすくなるという個人特性がある人もいると想定されることから、一概に、抽象度の高いバウンダリーメディアである方が多様性を担保しやすいとは言い難いと考えられます。
そこで、初期フェーズから多様な人々全てを集めるのではなく、各フェーズに応じて適切な人を集める必要があり、内発的動機(アイデア発散)フェーズにおいては、抽象度の高いバウンダリーメディアを活用することにより、「0→1」が得意な人材を集める必要があると考えます。
一方で、内発的動機(アイデア収束)フェーズにおいて、抽象度の低い(具象化された)バウンダリーメディアを活用することにより、「1→10」が得意な人材を集める必要があると考えます。
【多様性担保フェーズにおける「0→1」・「1→10」】
ここで言うところの「0→1」が得意な人材とは、今までとは異なる視点で新たなアイデアを発想できる人をいうこととし、「1→10」が得意な人材とは、今までと同じ視点で新たなアイデアを発想できる人をいうこととします。
アイデアを発想するプロセスにおいて、「0→1」が得意な人もいれば、「1→10」が得意な人もおり、特に今までにはない新たなアイデアを創出する上で、アイデア発想の発散フェーズにおいて、「0→1」が得意な人が必要であると言われる一方で、アイデア発想の収束フェーズにおいては、「1→10」が得意な人が必要であると言われています。
例えば、以前、参加したイベントで、高校生のアイデアソンの発表を聞いたのですが、その時、学校の廊下を生徒が安全に歩くことができるよう、左側通行を徹底するためのアイデアを発表していました。
その内容とは、生徒が左側を歩きたくなる仕組みに関する仮説と検証を繰り返している中で、恐竜の足跡のシートを床に貼り付けることにより、生徒が恐竜の足跡を踏んで歩くことによって、左側を歩くことを徹底できるというアイデアでした。
これに対して、今までとは異なる視点で捉えた場合、生徒が左側を歩きたくなるのではなく、右側を歩きたくなくなるような仕組みを作ることによって、生徒が左側を歩かざるを得ないというアイデアを考えました。
その内容とは、右側を歩く人には見えず、左側を歩く人にだけ、右側に「うんこ」が見える、「先生の顔」が見えると、右側ではなく左側を歩きたくなる(先生の顔は踏みたくなるかも❗️❓)というというアイデアとなります。
【「0→1」・「1→10」におけるバウンダリーメディアの抽象度】
これらのような簡単なアイデアの発想ではありますが、「左側を歩きたくなる」というアイデアを前提とし、今までと同じ視点、同じ手段に基づき探索することを「1→10」とすることとし、「右側を歩きたくなくなる」というような、今までとは異なる視点(範囲)、異なる手段に基づき探索することを「0→1」とすることとします。
そこで、抽象度が高いバウンダリーメディアは、「0→1」によるアイデアの発想が発散しやすくなることに関して、紹介した事例の場合、「左側通行をしてもらう」という目的を達成させる上で、「左側を歩きたくなる」という同じ範囲で対処できないのであれば、同じ目的のもと、「右側を歩きたくなくなる」という異なる視点(範囲)へ拡大することにより、「左側通行をしてもらう」ことができます。
つまりは、抽象度を低く維持した場合、同じ目的に基づき、左側に「恐竜の足跡」「ミッキーマウスの足跡」など、「左側を歩きたくなる」という同じ範囲を探索することとなる一方で、抽象度を高く維持した場合、同じ目的ではあるものの、右側に「うんこ」「先生の顔」など、「右側を歩きたくなくなる」という異なる視点(範囲)まで拡大し探索できることから、抽象度を高く維持することによって、今までとは異なるアイデアを発想(発散)しやすくなるものと考えられます。
なお、事例において取り扱うべきバウンダリーメディアとしては、「0→1」の個人特性を持った人材を集める上で、抽象度の高いバウンダリーメディアを活用するものではなく、「左側を歩きたくなる」ための「恐竜の足跡」というアイデアに基づくバウンダリーメディアにあわせて、「右側を歩きたくなくなる」ための「うんこ」というアイデアに基づくバウンダリーメディアを提示することとします。
そうすると、そのバウンダリーメディアを鑑賞することにより、「『左側を歩きたくなる』という視点だけではなく、『右側を歩きたくなくなる』という視点でも良いのか、それ以外に今までとは異なる視点はないのか」など、抽象度を高く維持した上で、様々な視点に対する議論を生むことによって、今までとは異なる視点(範囲)による新たなアイデアを創出することができるのではないかと考えます。
【各フェーズにおいて必要となるバウンダリーメディアの抽象度】
バウンダリーメディアを活用する上で、各フェーズにおける抽象度にあわせて、「0→1」、「1→10」に区分することとします。
バウンダリーメディアの抽象度により、集まる人の個人特性が異なることとなることから、はじめに、今までとは異なる視点により新たなアイデアを発想することができる「0→1」の個人特性を持った人材を集める上で、抽象度の高いバウンダリーメディアを活用することとします。
次いで、抽象度が高いバウンダリーメディアにより創出されたアイデアに基づき、具象的なバウンダリーメディアを制作し提示することによって、今までと同じ視点により新たなアイデアを発想することができる「1→10」の個人特性を持った人材を集めることとします。
これらのように、「0→1」の個人特性を持った人材においては、抽象度の高いバウンダリーメディアに基づき、多様な人を集める「多様性担保フェーズ」、同じ目的に向かわせる「意思統一フェーズ」、アイデア発散を動機付ける「内発的動機(アイデア発散)フェーズ」へと推移することとなります。
そして、「1→10」の個人特性を持った人材においては、抽象度の高いバウンダリーメディアにより創出されたアイデアによる、抽象度が低いバタンダリーメディアに基づき、多様な人を集める「多様性担保フェーズ」、同じ目的に向かわせる「意思統一フェーズ」、アイデア収束を動機付ける「内発的動機(アイデア収束)フェーズ」へと推移することとなります。
よって、各フェーズにおいて、必要とする個人特性に応じて、バウンダリーメディアの抽象度を調整することによって、アイデアを発想するプロセスにおけるフェーズにおいて、必要となる人材を集めることができると考えられます。
【「0→1」→「1→10」におけるバウンダリーメディアのプロセス】
(「0→1」人材 )
(「1→10」人材 )
【まとめ】
バウンダリーメディアを活用する上で、個人の特性に応じたバウンダリーメディアの抽象度を調整する必要があると考えられます。
「0→1」の個人特性を持つ人材に関して、抽象度の高いバウンダリーメディアを活用することは、バウンダリーメディアに対する解釈の余地・議論する余地が増えることにより、探索する範囲が拡大することによって、今までとは異なる新たなアイデアが創出される可能性が高まるものと考えられます。
これは、抽象度が高いバウンダリーメディアにより、多様な人が集まり、議論がされる中で、多様な人の様々な情報・知見が抽出されることにより、個人が保持する情報と結合・融合することによって、飛躍的なアイデアが創出される可能性が高まるものと考えられます。
一方で、「1→10」の個人特性を持つ人材に関して、抽象度の低いバウンダリーメディアを活用することは、バウンダリーメディアに対する解釈の余地・議論する余地が狭まるものの、「1→10」の個人特性を持つ人材にとっては、決められた範囲において探索することとなることから、今までと同じ範囲における新たなアイデアが創出される可能性が高まるものと考えられます。
これは、抽象度が低いバウンダリーメディアにより、多様な人が集まり、議論がされる中で、既存のアイデアをブラッシュアップすることとなることから、今までとは同じ視点ではあるものの、新たなアイデアが創出される可能性が高まるものと考えられます。
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