幸福学×経営学④ ~ ホワイト企業への道 ~
「幸福学×経営学」シリーズ、ラストです。
今回は第四章、元ソニー上席常務・ホワイト企業大賞企画委員長である天外伺朗さんの執筆パート、「ホワイト企業への道」について、自分の頭の整理がてら、まとめてみたいと思います。
ホワイト企業とは
まず「ホワイト企業という言葉をなぜ使っているのか」についてですが、この言葉の良いところは、よく知られている「社員に過酷なブラック企業」の反対なので、誰でも直観的に「社員を大切にしている」という印象が浮かぶという点です。少なくとも漠然としたイメージは共有できるということです。
そして天外さんはじめ、ホワイト企業大賞の企画に関わる人たちは、その漠然としたイメージだけを大切にして、「ホワイト企業とはこういう企業ですよ」という定義をしないことにしたそうです。
なぜなら、定義をしてしまうとそれが目標になってしまい、多様性が失われてしまうからですね。
目標が明確になると、それに向かって努力する企業は増えるというメリットもあるんですけど、目標以外の方向性が無視されてしまったり、「達成したか/しないか」という結果に囚われて、プロセスが疎かになり、達成したら終わりという刹那性をはらむ、という問題点が出てきます。
それよりも漠然とした方向性だけを示して「永遠に歩き続ける道」として「ホワイト企業」という表現を使っていこう、という趣旨だそうです。
そしてその方向性を示す言葉として、以下のような言葉でホワイト企業を表現しています。
ホワイト企業 = 社員の幸せ、働き甲斐、社会貢献を大切にしている企業
「ホワイト企業」という言葉に誰しも描く漠然としたイメージを具体化しただけの言葉とのことです。
あえて抽象度を高くしておいて、そこに向かう道はいろいろ選択肢を残しておこう、ということですね。
ホワイト企業大賞の審査基準について
とはいえ、ホワイト企業大賞は表彰制度なので、審査基準が必要になってきます。よくある表彰制度としては、かなり詳細な審査基準を設けるのが普通です。客観的な審査ができるようにして、公平性を期すためですね。
しかしそのような審査基準は、価値観を限定し、また達成すべき目標になります。審査基準が多様性を限定してしまうとともに、目標以上のレベルが想定されにくくなるので、経営の進化の壁になってしまうという傾向も生まれます。また、審査する側が応募企業を指導する、という上から目線がどうしても出てしまいます。
そこでホワイト企業大賞は審査基準も目標も示さず、先ほどの漠然とした方向性のみを示して、「永遠に歩き続ける道」ということを徹底することにしたそうです。
これは審査の公平性には欠けますが、代わりに多様なマネジメントに道を開き、新しい突飛な可能性を探求していこう、という方針です。
どんな企業でも叩けば埃がでるので、欠点の克服も大事だけれども、完璧な企業をめざしてもキリがない。むしろ、少々ブラックなところがあっても、新しい取り組みに果敢に挑戦する企業を発掘していきたい、という姿勢で取り組まれています。
そして具体的な審査の方法については、企業プロフィールの提出、企画委員による企業訪問のほかに、40項目の無記名アンケートを全社員に実施して「ホワイト企業指数」を算出します。このアンケートのオリジナルは、うつ病傾向の社員を調査するためのアンケートで、それを天外さんが天外塾で導入したり、企画委員がブラッシュアップしたりして長年かけて作り上げました。
そしてそのアンケートに基づく「ホワイト企業指数」が向上した支店は翌年の業績がよくなる、などの結果も出ており、有用性が実証されています。
日本型経営の再発見
四章の後半は、「日本独自の良い経営を探求していきませんか?」という話が書かれています。
天外さんは元ソニー社員でしたのでソニーでの経験をもとに書かれているのですが、元々ソニーは有名な設立趣意書である「自由闊達にして愉快な理想工場」の理念に基づいた、「社員の働き甲斐」「社員の幸せ」「社会貢献」を目指す「ホワイト企業」だったんですね。
そしてそれが1995年、天外さんは「当時のCEO」という表現を用いていますが、まあ出井さんですよね(笑)。出井さんがアメリカ流合理主義経営を急速に取り入れて、それ以降2003年のソニーショックが起こるまでズタボロになっていったと(汗)。そしてそれはソニーのみならず、多くの日本企業で起きた出来事だったと書かれています。
確かにバブル時の日本の経営はひどくて、バブル崩壊となって日本企業は相当なダメージを受けましたけど、ではそのあと多くの企業で導入された「アメリカンスタンダード」によって好転したかというとそうでもなく、前々回の「これまでの経営学の3つの病」でもみたとおり、むしろ企業不祥事は増えてきたり、負の側面も多かったわけで。
そういったことをふまえて、ここで天外さんが提唱されているのは、「日本の経営手法は時代遅れ」「外国の経営手法はイケてる」「だから外国の経営手法をマネしよう」という姿勢ではなく、「日本独自の良い経営を探求していきませんか?」ということですね。
もともとはジェームス・アベグレン氏が提唱したように日本の経営が世界から賞賛されていた時代もあったし、かつてのソニーの経営はチクセントミハイ氏に言わせると「フロー経営」だったりするので、日本人にも「良い経営」を生み出す力はあるんだと。
そして、そんな「これからの日本独自の良い経営」を探求していくためには、幸福学からの貢献も欠かせないと。ということでこの本が刊行されたということですね。
日本独自の「幸福学のエッセンスを取り入れたホワイト企業」という目指す姿。
このような企業が増えていけば自ずと日本も元気になると思いますし、私も非常に共感する「企業の在り方」ですので、どんな形になるかわかりませんが、何かしら自分も貢献していきたいと思いました。
おしまい。