暗闇から救ってくれたラジオ投稿
僕が上京したのは27歳のころ。なぜ、東京にきたのか。それは、“好きなこと”を仕事にするためだ。
ーー僕には夢があったーー
小さいころからその夢を追い続けて、18歳のときに大阪へ。でも、世の中そんなに甘くはない。自分の力のなさを知り、バイタリティーを失い、5年後には地元に帰った。
大阪から地元に帰る前あたりから、心の中に劣等感が生まれ、自分は負け組なのだと感じるようになった。もともと友だち付き合いができない性格というのもあって、どんどん孤独に、どんどん暗くなっていった。そして、恐ろしく自分は“つまらない人間だ”と思うようになった。
僕も高校生までは“クラスで明るいヤツ”だった。とにかく目立てればいいと思っていたし、面白そうなことを言えば、みんなが笑ってくれるから、その反応に快感を覚えていた。でもその心の貯金は、大阪で一気に底をついていた。
地元に帰って就職。定職について親は安心させられたけど、夢を失ったのもあって、生気のない生活をしていたと思う。
そんな中、ひょんなことから東京で働くことに。知り合いもいないけど、いつかは行ってみたかった場所だ。僕の次なる夢は雑誌の編集者だった。
だけど、やっぱり人生うまくいかない。なかなかのパワハラ・モラハラを受けて、1年半後に出版社を退社。実力もないままフリーランスのライターになった。
当時、仕事はまったくなかった。あえなく、アルバイトをしながらライターをするように。ベッドの上で空中を眺める日々。借金もするようになった。友だちもいなければ、楽しみもない1日を繰り返していた。
この荒んだ生活を救ってくれたのがラジオ投稿だった。
高校生の時から『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)は欠かさず聴いていたけど、ほかの番組には興味がなかった。
2013年4月、いつものように番組を聴いていると、『ナイナイann』のあと、木曜夜中3時に『アルコ&ピースのオールナイトニッポン0(ZERO)』が始まることを知る。
『THE MANZAI 2012』(フジテレビ系)で腹を抱えて笑ったあのコンビが、パーソナリティをするのかーー。
当時、時間だけはあったから聴いてみることにした。
初回からとにかく面白かった。2人の漫才を観たときと同じ感覚。“新しい”と思った。斬新だった。それから、ナイナイとアルピーのラジオを立て続けに聴くようになった。
数ヶ月聴いていく中で、ひとつの欲が生まれた。“ラジオ投稿をしてみたい”というものだ。当時、ナイナイはハガキのみだったが、アルピーはメールでも送れるらしい。そこで、ふと思いついたネタをメールしてみた。
まさか、いやいや、そんなわけない。読まれないのが普通だから。でも……まぁ、そんなこともあるかもね。いやいや、あるわけないじゃない。
いろんな言い訳や葛藤を繰り返す中、次週の放送を待った。仕事がなくて、時間だけがあり余っているから、とても長く感じた。
放送が始まり、僕が送ったコーナーがスタート。すると……
「中野区、ラジオネームはまくん」
名前を呼ばれたときの“あの感覚”は今でも覚えている。とんでもない高揚感。それと同時に湧き出る“ここにいてもいいんだ”という自尊心。認められた気がして、とってもとっても嬉しかった。
半地下の暗い時代を過ごしたあのマンションで、後にも先にも大きな声を出してガッツポーズをしたのはあのときだけだ。
それから番組にメールを送り続けた。調子に乗って、ほかの番組にも少し投稿してみた。
1年後、ラジオを聴くのはやめなかったけど、少し仕事が増えたのもあって投稿はやめた。相変わらずギリギリの生活が続いたものの、その間に嬉しかったこともある。『アルピーann』を題材にした佐藤多佳子さんの小説『明るい夜に出かけて』(新潮社)にて、僕のネタメールが触れてあったことだ(自慢したいから自慢する)。
番組が終わって何年経ったか。いろいろ辛くて悲しいこともたくさんあったけど、いまでも好きな仕事を続けられている。親にわずかばかりの仕送りをできるほどにもなれたし、会いたい人にも会えた。
もちろん仕事なんていつなくなるか分からない。でも、もう少しだけ続けられたら嬉しい。
「夢に敗れた人間は人生負けが確定している」
ずっとそうやって生きてきたけど、あのラジオ投稿をしていたときだけ、そのことを忘れられた。平子さんと酒井さんが僕のネタで笑っている。リスナーの方がTwitterで反応してくれている……。間違いなく、あの時代を生きてこられたのは『アルピーann』のおかげだ。
投稿が読まれたときの“喜び”って、何年経っても忘れられないし、糧になる。それは間違いないと思う。
お二人には会見で取材をしたことあるけど、まだインタビューなどがっつり話したことはない。
いつか、お会いしたら、仕事だし、僕の境遇は話さないけど、心の中で感謝は伝えたい。それが今の夢だ。
なんでこんなことを書こうと思ったか。
別のことを書いているうちに、こんな方向になってしまったからです。あと、めっちゃ時間があったからです。
ゴールデンウィーク。フリーランスなのに、特大の連休がありました。激ヤバです。誰か仕事ください。このままだと、ベッドで横になって空中を眺める日々が続きます。親に仕送りを返してもらうことになるかもしれません。
いま、“好きなこと”で稼ぐのってこんなに大変なんだって身に染みている最中です。
また、ラジオ投稿するか?