臆病者な自分と向き合う
「マサキは、本当にスペイン語を勉強しているの?」
リーダーシェフからのド直球な質問に少し戸惑った。
僕は自信のない「Si…(はい…)」としか言えなかった。
それから数日間、何度もその質問が頭の中でリピートされ、なんだかモヤモヤする。
スペインに来て1ヶ月が経ち、仕事や生活のリズムに少しずつ慣れてきたが、「言葉」の壁が立ちはだかり、絶賛えいやぁ!と登っている最中だ。
海外生活や旅行は「ボディーランゲージ」や「笑顔」で乗り切るのはよく聞く話。だが自分の「伝えたい!」意思が自由に伝えられない、そして伝わらない経験が何度も続くと、段々コミュニケーションが億劫になっていく。
解決方法は1つ。勉強するしかない。やるしかない。
「そんなこと分かっているわ!」と自分に言い聞かせつつ、図書館で勉強したり、友人と話す練習をしたり、YouTubeでスペイン語のアニメを見たり、自分なりに工夫してスペイン語に触れる時間は作っているつもりだ。
じゃなぜリーダーシェフからの質問は、
数日間引きずるくらいグッサリと刺さったんだろうか?
毎日が新鮮さに溢れ、あっという間に過ぎていく中、
一度立ち止まり、ゆっくりと咀嚼してみると、
自分の中に潜む「臆病者」と向き合うことができました。
数少ない手札で戦う日々
スペイン・サンセバスチャンの年間観光客数は約140万人。(2023年データ)
人口18万人に対して約8倍の観光客が訪れる町。
バルを何軒も飲み歩くのが主流で、週末や観光シーズンは店から人が溢れるほどお客さんが来店していることが多々あります。
そんなバルの厨房では調理器材の音や指示の声など、様々な音が常に鳴り響いている。どうしても声が大きくなりがちで、聞き取れないくらい早口。
その日の仕事は、リーダーシェフの指示によって、振り分けられ、
僕は料理の盛り付けや仕込み、片付けをする日々。
作業的には繰り返しが多いが、仕込みの量や料理出すタイミング、お客さんからの要望など、必ず確認のコミュニケーションが必要になる。
僕の手札は、料理や食材の関する少し単語と少しの動詞。
「◎△$♪×¥○&%#…Vale?(分かった?)」
と指示があっても、日常会話もままならない状態で
飛び込んだもんだから、当然分からない。
さらに作業は、気づけば周回遅れみたいなスピード感で進む。
スペイン語に対する不安感と厨房の迫力に飲み込まれそうになりながら、「僕なら大丈夫、大丈夫!」と口ずさみ、必死に食らいつく。
(周りから見れば完全にヤバいやつ笑)
最初は、所々聞こえた単語を元に準備をしたり、
他のメンバーに助けてもらいながら、何とか乗り切れた。
だが本当に忙しい時は頼れる人もいない。
どうにか1人で乗り切ろうとしても間違えて、もう一度聞き直す。
(聞き直しても分からない時もある。涙)
さらに焦ってしまうと、自分の手先が言うことを聞かなくなり、
盛り付けを間違えたり、綺麗にできず、何度もやり直す始末。
自分が間違えることによって、周りのペースを乱してしまうのが申し訳なくなる。そして周りと比べ、出来ない自分が嫌になる。
挙句の果てには「分からない=ダメ」と決めつけ、分からない指示に対して「Vale(分かった)」と言ってしまうのが癖になってしまった。
そんな状態で間違いを繰り返すのだから、
本当に指示の内容を理解しているか、不信感を抱かれるのが普通。
リーダーシェフに「本当にスペイン語を勉強しているの?」と質問されて当たり前だ。
今まで触れた事のないスペイン語。
自分の力不足なのは間違いないけれど、
怒られたらどうしよう…間違えたらどうしよう…
と周りに怖がり続け、気づけばポツンと1人になっていた。
意思が伝えられる前提でコミュニケーションをとっていた日本とは違い、伝えたくても伝えられないもどかしさを感じる。
その結果、ドッと心が疲れる。
自分を消費している恐怖心と自分の意思を伝える恐怖心がせめぎ合う。
この恐怖心に立ち向かわないと、嘘偽りの自分を生きてしまう予感がした。
ブルブル震えながらでも、「分からない」と言ってみようと決意した。
翌日、いつものように、超特急で飛んでくる指示。
「うーーーん、やっぱり分からない。」勇気を振り絞って、
「No entiendo!(分かりません!)」と正直に言ってみた。
(気持ちを込めいつもより大声で!)
するとリーダーシェフが手を止め、自ら丁寧に教えてくれた。
スピード感の中に美しさと丁寧さを盛り込む技術。
さらに忙しい中でも分かるまで教えてくれる人間性に感動した。
簡単に思ったことが言えたら楽になるんだろうけれど、
どうしても臆病者の自分が顔を出す時がある。
「出来ないのは悪いことではない。
出来るために何が必要かを考える。」
当たり前過ぎて、恥ずかしいくらいですが、
自分の弱さを向き合うことで、大切なことを教わりました。
そして僕はひとりじゃない。
職場の人は、人間味があってあたたかい人が多い。
言葉に表現するのが難しいけれど、自分に素直に生きているように感じる。
旅人のように拠点を移しながら働く人、踊ったり歌いながら働く人、底抜けに明るい人、びっくりするほど大雑把な人、多種多様な人がいて、ひっくり返りそうなこともあるけれど、ビックリ箱を開けているようでとても面白い。
最近は数少ない手札で必死にもがいている僕を見て、リーダーシェフは半笑いで教えてくれるようになった。
(必死さが伝わっているなら良いけれど笑)
繰り返しの毎日の中でどう変化を生み出していくか。
理想や夢を持つことも大切だが、きっとコツコツ積み重ねるしかないし、
沢山失敗して、沢山恥をかくことも必要だ。
その中で「弱さを受け入れる強さ」を身に付けていきたいと僕は思う。
最後までありがとうございました!
こちらスペイン・サンセバスチャンは、秋を感じる涼しい気候になりました。
夏の終わりを感じる夕焼けは、涙が出そうなくらい美しいです。
田舎育ちの僕は、やはり自然に触れている時間に感動したり、心が落ち着くみたいです。
では、またどこかでお会いしましょう!
Hasta luego!(またね!)