大学全落ちの逆境からアメリカの大学に進学した男 Yuya Goto
「大荒れの海に立ち向かう船」
彼を表すのに丁度いい言葉だろう
彼は同じ大学受験で闘った仲間であり、中学校からの友人である。
彼(以降Yと書く)は制服が破けていたり、遅刻したりとだらしない性格だが、おっとりしていて持ち前の優しさゆえ多くの友達がいる。
Yは何からでも影響されるタイプで流行や友人からの勧めがあればそれに流されていた。ミーハーである。よくいる、周りに流されがちな人間だ。良くも悪くもその性格がYの人生を左右した。
Yの大きな転機は浪人時代にある。
現役受験に失敗して浪人が決まった時、将来の夢を教師から理学療法士に変更し、文系から理系に変えること(理転)を決めた。
理転にはかなりのリスクが伴う。理科一科目を1から受験で闘えるレベルまで勉強しなければいけないのだ。
来年の受験までに理系科目を完成させなくてはいけないのだが、Yの親は変わっていて浪人費は自分で稼いで予備校に行けというのだ。それは、お金が無いという物理的な理由ではなく、Yのだらしない性格が少しでも改善されればという親の愛のムチであろう。半年弱はバイトをし、残りで予備校に通って受験を臨むことになった。
僕が大学進学しYとは会わなくなった。たまにLINEをしていた。Yからは大学生の僕の近況をよく聞かれた。聞かれる分には答えたが、それ以上のことはあまり話さなかった。皮肉に取られそうだったし、変な罪悪感を感じてしまうからだ。Yは皮肉にとるような奴ではないが、受験で切羽詰まっている精神状態であるとどうであるかわからない。
受験の時、精神状態が乱れるのは僕も体験済みだ。
センター試験は全く狙っていなく対策もほぼやらなかった。実力テストぐらいに思っていたが、想像以上に低い点数を取ってしまったのだ。日程的に最初の試験は滑り止めの大学だった。過去問では確実に合格ラインは取れていたし、だからと言って手を抜くつもりもなかった。だが、滑り止めの大学に落ちた。他の合格すると思っていた大学にもことごとく落ちた。
その時の精神状態を考えると自分でも引いてしまう。死んだ目をし、足取りが重く、ゾンビのようだった。空が晴れていても、何故かどんよりした曇り空に見えてしまうことがよくあった。
Yも僕以上のプレッシャーやストレスを抱えているのはわかっていた。だから、大学について聞かれた時、夢のある話ばかりをし、少しでもYの気分を晴らせるように努めた。
Yの受験の時期が来た。Yとよく連絡をとっている友人にYの近況を聞き、静かに応援していた。
結果から言うと、残念ながら全落ちであった。
かけられる言葉がなかった。
しかし、Yの方からこんな連絡が来た。
「俺、アメリカの大学に行く」
正直、驚きよりも心配のほうが強かった。
意味がわからない。
現実逃避にしか思えなかったのだ。すぐに、Yと仲のいい友人達とグループ通話をし、どういうことか直接聞いた。
「従兄弟がアメリカに住んでいて、アメリカの語学学校で英語を勉強しTOEFLを受ける。TOEFLの点数によっては大学から推薦を受けることができる。」
との事だった。
ぶっ飛んでいる。
大学に入ればいい訳では無い。そこで自分のやりたい仕事の勉強が出来るかどうかである。それにアメリカの大学に入れたとしても、そこで上手くやれるかどうか別の話である。
長年友人であるYを止められるのは自分達だけ。僕は必死に考え直すように言ったが、Yは強く決心したらしく全く意見を変えなかった。
Yは浪人に希望を抱くことが出来なかったのだろう。無茶な1年を過ごし、僕には見えない体験をした上で決めたことだと思う。
Yが決めたことなら応援するしかない
それから一年掛けてアメリカの語学学校に進み、Yはようやくアメリカの大学進学が決まった。これから入学である。
これからが大変だ。
これからもぶっ飛んで無茶な航海がはじまる。
しかし、僕はもう心配していない。
周りに止められつつも自分の決心を押し通したYは、明らかに未来を踏み出し、確実に自分の人生を歩んでいる。
誰からも何からも流されていない。
Yのぶっ飛んで無茶なチャレンジをするところが僕は好きだ。
今ではYのお土産話が楽しみである。
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