【刑事事件】奮闘記1
はじめに
無名の一弁護士が、実際に刑事事件をどのように扱って、どのように考えているかを「物語風に」ご紹介していきたいと思いました。
他の記事でも書いていますが、刑事事件は他人事のようで結構身近です。人に暴力を振るったことはありませんか、酔ってトラブルになったことはありませんか、運転をしていて事故を起こしそうになったことはありませんか、変な画像をアップロードやダウンロードしてしまったことはありませんか。逮捕・勾留も決して他人事ではありません。
さて、私自身は、刑事事件を専門で扱っているわけではなく(メインは、特許などの知的財産)、あくまでも、プロボノ(公益活動)として時々扱っています。もちろん、依頼がくれば場合によっては私選もやりますが、そんなに多くはありません。主に、後述する当番弁護と国選弁護です。
ですが、もう10年以上定期的に刑事事件を扱っているので、もはや専門分野と言ってもよいかもしれません(笑)。
さて、守秘義務やプライバシー等の関係がありますので、相当程度昔に扱った刑事事件をベースに、相当にアレンジをし、でもご説明したい肝の部分は残して、うまく奮闘記に仕上げたいと思っています。
逮捕・勾留によって身柄が取られ、刑事裁判という過酷な状況におかれ、一生がかかった被疑者・被告人の事件ですので深刻な一方、客観的な第三者である弁護人として彼らをサポートします。
しかし、慣れていても結構ドタバタになります。
普段扱っている企業法務のように、パソコンの前でお行儀よく仕事をするのではなく、常に前のめりで、警察署行ったり、関係者(家族や職場)に連絡したり、被害者のところへ行ったり、検察庁いったり、裁判所へ行ったり、ドタバタです。私の中では、頭を使うより体を動かすのがメインな感じで、いわば「運動」に近い仕事です(もちろん、頭も使います。)。
また、普通に刑事事件を扱っていると、被疑者・被告人がおかれた状況に同情し過ぎたり、デマンディングだったり、意思疎通がうまく行かない被疑者・被告人の事件を扱うと、1件だけでもすぐに病んできます。腹の立つことやうんざりすることも滅茶苦茶多いです。まぁ、でも今まで続けて来られているので結構好きな分野なのかもしれません。
そのドタバタぶりや、刑事弁護人(弁護士)が考えていることをお伝えできればと思います。
奮闘記1
最初なので短いものを。
事前情報
たとえば、当番弁護や国選弁護の際には、担当日(待機日)に、弁護士会や法テラスから電話がかかってきます。
電話がかかって来ないと、「今日は、東京23区は平和な一日だったんだなぁ。」と勝手に思うことにします。一方で、電話がかかってくると、やや緊張した感じで(試験の合格発表を聞く感じ)、担当事件の情報を得ます。
※当番弁護:逮捕された際などに、被疑者が依頼すると1回無料でアドバイスする制度
※国選弁護:勾留された際に、被疑者の希望により、ランダムに弁護人が選任される制度(被疑者国選弁護)。起訴され刑事裁判になった際の被告人国選弁護もある。
電話では、①被疑者の氏名・②性別・③国籍(要通訳事件)・④年齢・⑤収容場所(警察署等)、⑥被疑事実(疑われる犯罪の内容)の情報が知らされます。ルールとして、(事件の内容が嫌だからといって)出動を断ることはできませんので、それらの情報如何に関わらず出動します。
特に気になるのは、③国籍と⑤収容場所です。
③国籍については、外国の被疑者で日本語ができないと通訳さんを同行しなければならず、その日程調整が結構面倒です(英語なら何とかなるのですが、大抵はアジアか南アメリカの国の言語です)。⑤収容場所については、やはり、事務所・自宅からの距離が気になります(片道1時間近くかかると・・・)。私の事務所は東京・有楽町なので、そこから近い(築地警察署、原宿署、湾岸署等だと)と近いのでホッとしますが、遠いと(たとえば、竹の塚警察署とか小松川警察署とか羽田の東京空港警察署(羽田)とか西が丘分室とか石神井公園警察署とか・・・挙げたらきりがありませんが)だと、正直「あーっ」となります。これから、通常だと、数回接見(面会)に行くことになりますので。
さて、これらの情報を得て、何となくのイメージを持って出動します。若者の(大麻などの)薬物事犯と、ご年配の方の万引きではだいぶイメージが違いますからね。
初回の接見(面会)
ある日の事件は、70代の男性(お名前が、たとえば、乙野鉄郎(仮名)さん)で、人の家の前で、ペットボトルの水を盗んだという邸宅侵入、窃盗でした。
邸宅:「住居の用に供される目的で作られた建造物のうち、現に住居に使用されていないもの」です。家の中に入ると住居侵入になりますが、マンションなどの共用部分への侵入だと邸宅侵入になったりします。豪華な家に張ったということでもありません。いずれにしても、邸宅侵入も住居侵入も罪としてはあまり違いはありません。
身寄りのない体の小さなおじいさんが、お金に困って犯行に及んだのかなぁ、なんて勝手なイメージをもって出動します。何となく、毎回、イメージを持って臨みます。
しかし、警察署の面会室のアクリル板の向こうには、2メートル近くの高身長の、見た目は(東洋人ではない)外国人の男性が、凄い勢いで登場しました。
まだ弁護士になって間もなかったので、想像していたおじいさんのイメージと実際の方があまりに異なり、びっくりして椅子から転げ落ちそうになりました。ここまで、事前情報からのイメージと実際が異なったのは初めて。鉄郎(仮名)さんのイメージから、如何にも日本人のおじいちゃんをイメージしてしまっていました。
弁護士たるもの、予想しない状況に陥っても、職業柄、決して怯んだり、うろたえてははいけません。相手に不安を与えてしまいますし、場合によっては舐められてしまう可能性もあります。ある意味、態度ははったりな感じで臨みます。刑事事件に限らず、交渉や訴訟でも同様です。
(そうはいっても恐る恐るですが、外見上は当たり前かのように)「こんにちは。乙野鉄郎さんですね。当番弁護できました小林です。どうぞよろしくお願い致します。・・・」と日本語で話しかけると、・・・大丈夫でした。日本語。要通訳事件ではなかったので、日本語が大丈夫とは事前に知ってはいたのですが、心の中で胸を撫で下ろします。
さて具体的な事情を聴くと、喉が渇いてどうしようもなく、マンションの共用部の軒先にあった水のペットボトルの水を飲み干した!というものでした。
もちろん犯罪ではありますが、事案の内容は分かりやすい件で、さほど深刻でもなく、ちょっと気分が楽になります。慣れてくると、「都内だし、コンビニに買いに行けばよかったのでは?」と素朴に聞いてしまいましたが、「いや、我慢できなかったんだ。先生も分かってくれるだろう。」とのことでした。
まぁ、確かに暑い日が続いてはいましたが・・・。
しかし、そんなことより、その水入りのペットボトルって、猫除けのような気が・・・、飲んじゃって体大丈夫だったのかな・・・。
こんなんで「逮捕」(身柄拘束)されるの?と思われる方もいるかもしれませんが、現実には結構多いです。特に、警察は、人の見た目や属性(たとえば、浮浪者風や、外国人風)で判断するのが現実です。職質もそうですよね。まぁ、差別と言えば差別です。
おそらく、全く同じ事案であっても、スーツを着たサラリーマンで、警察が到着したときに事情を話せば、(客観的には、同じく邸宅侵入や窃盗にあたるとしても)恐らく逮捕まではされないでしょう。世の中、そんな感じです。
関係ないですが、最近、このような事件もありましたね。誤認逮捕ということですと、ますますひどい話ですね。世の中、ちょっとしたことで地獄に落とされることがあります。弁護士になって身に染みて感じています。
あれ、でも一方では、警察官2人が違法薬物を譲り受けてるのに、逮捕(身柄拘束)されていない(書類送検の)ようですね。んー。なんででしょう。
いずれにしても、私も含めた一般人としては、身なりはきっちりして、外形的に不審な動きはしないようにしましょう。それだけでも、職質や(軽微な事件での)身柄拘束がなされる可能性はかなり減ります。
本件に限らず、被疑者さんとの面会では、必ず持病や現在の体調は聞くようにします。深刻な持病等があれば、ちゃんと薬が処方されているか、病院に連れて行ってもらうよう警察に言ったりしなければなりませんので。
今回は、見た目が滅茶苦茶健康的な方でしたが、夏の暑い日に何日放置されていたか分からない猫除けのペットボトルの水を飲んだと思われるため、ちょっと心配で(お腹痛くいなか)聞いてみましたが、まぁ、ぜんぜん大丈夫そうでした。
罪も認めるということですので、被害者のところに謝罪に行って、示談交渉しました。
示談
被害者は、マンションに1人暮らしのおばあちゃんで、被害にあったというよりも、体の大きな外国人が家の前にいるので怖くなって警察に連絡したとのことでした。まぁ、そうですよね、と思いました。
お話を聞くと、やっぱり猫除け用のペットボトル(2リットル)でした。。。
被疑者に代わって謝罪して、示談金1,000円で示談をしてもらえました。お金はいらないとおっしゃったのですが、示談ですので、一応迷惑料ということで、何となく1,000円となりました。
珍しく苦労しない示談交渉でした。
お一人暮らしで、そのときは暇をもてあましていらっしゃったようで、少し世間話にお付き合いしました。私もそのあとの予定はなかったのでお付き合いしました。
刑事事件をやっていると、都内とはいえ、知らない街に行くので、その周辺の話題や様々な情報(おいしいお店や治安など)は貴重な情報ですので、世間話もそう悪くありません。
さて、事件については、「そうですよね、びっくりしましたよね、怖かったですよね。」みたいに同情するような感じでお話しました。
まとめ
さて、被疑者は、ハーフだそうで、相当にご年配ではあるものの、身長2メートルで体も大きく、肌の色も違ったようです。当初の情報からの先入観は時に裏切られますね。まぁ、事件処理には全く支障ありませんでした。
示談のおかげもあって、無事、(刑事裁判にならずに)釈放となりました。よかったよかった。
最後に
気が向けば奮闘記2以降を続けてみたいと思います。
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