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観劇雑感 TGR2024 長谷川恒希のひとり芝居 「人間生活図鑑 新作ツアー2024」札幌公演

観劇後のX。
「何かを手掛かりに果敢な取組みのひとり芝居。ひとりの向こうに何人を見るかは、観客の感性次第。」

2024年11月16日(土)~17日(日) BLOCH 長谷川恒希のひとり芝居
「人間生活図鑑 新作ツアー2024」札幌公演

~~ フライヤーより ~~

「“人間のおもしろさ”をそのままに」をテーマに、皆さんの周りにもいるであろうあんな人やこんな人を長谷川恒希がひとりで演じます。今回も3人のキャラクターがかわるがわる登場。動物園の動物を眺めるように、それぞれの登場人物がのそりのそりと生活する様をお楽しみください。

【出演】長谷川恒希
【脚本・演出】長谷川恒希、関根大
【舞台監督・演技指導】多田光里(大人×2)
【音響・照明】山本雄飛(劇団木製ボイジャー14号)
【撮影】北川剛(フルマークス)、長沼さくら
【フライヤー・チケット・グッズデザイン】むらかみなお
(※一部省略しました)

~~ 雑感 ~~


3作の最初は「市長選(の妻)」

「市長選」というテーマを「妻」という切り口で描いた作品。
選挙がテーマになると、それは選挙がテーマではなく、選挙によって起こった事象、もしくは選挙を通じているだけで「政治的・政策的」主張がテーマとなることが多いのではなかろうか。そうすると、権力に対する風刺や批判として脚本が構成されると僕は思う。本作は、「妻」という切り口を使って風刺や批判ではない芝居を作り上げている。このテーマと切り口を考え、いや、それ以前に「市長選」をテーマにした理由を聞いてみたい。
市長選に立候補しているのは夫なのだが、あいさつや取り組みを裏方として支える立場からどんどん前に出ていく妻の様子が描かれている。農村部で、水田におけるタニシ被害への対策として地道な駆除を行う、という展開。後半には対立候補の現職が訪れて・・・という展開に。
風刺や批判ではない芝居としての構成はすごい!と思う一方、「初めての市長選への挑戦」という作中の発言は市長選を勝ち抜く意欲の乏しさにつながり、なぜ市長選を取り上げたのかをあいまいにしてしまったように思う。選挙である以上、勝ち抜く意欲をより感じられるほうがいいと思う。もし、ホンの意図が「農家のタニシ被害を何とかしなきゃ」「SNSで選挙やって当選する可能性もあるし選挙に出ちゃえ」的な、最近の選挙の模様を反映した風刺的要素を盛り込んだのであれば、それはそれで本作は物足りないように思う。
市長選の何を知っているというわけではないが、選挙のスケールが演じている内容と合わない、というのが多分僕が感じる根本的な課題なのであろう。だからこそ、この作品を発想した経緯を、やはり僕は長谷川さんに聞いてみたい。

「住宅営業(の中間管理職)」

中間管理職の悲哀と捉えるか、ハラスメントと捉えるか、観る側の捉え方がわかれそうな作品。各世代が経験してきた時代によって変化している社会的な背景によって違うのだろう。
「中間管理職」側は、中間管理職の役柄の性格もあり、上にも下にもモノを言いにくい、もしくは言うことを聞かない状況に陥り右往左往している様子、という光景。
「ハラスメント」側は、パワハラとならないよう意識しながら恐る恐る部下育成しているにもかかわらず、自由気ままなパワハラ上司、場合によってはカスハラと捉えることが出来そうなお客様にも翻弄される中間管理職、という光景。
両方の側面で観る方が多いと思うが、どちらに重きが置かれているのかはそれぞれ。僕はどちらともいえない感覚ではあるが、ちゃんと探るとどちらかに多少は振れていると思う。
どの作品にも共通して言えるのは、人間関係とは何か、を結果として問うものである点ではなかろうか。特にそのことが顕著な作品であった。その意味では、例えば企業の職員研修での素材として活用してみたり、ということも思い浮かんだ。

考えてみると、なかなか深い作品である。

「演歌歌手奉納歌謡ショー」

長谷川さんの身長は179(センチ)なんだそうだ。演歌歌手のトクナガ・ケイタさんが劇中で言っていた。いや、トクナガ・ケイタの身長か。片頭痛持ちのおとめ座、とのこと。
神社での歌謡ショーというテーマ。1曲目を終えて「畏み畏み(かしこみかしこみ)」と手を合わせ、流れるプールでのショーが神主と知り合うキッカケ、それが今回の奉納歌謡ショーへのご縁につながったとのエピソードを紹介。外国人が観客にいる様子を少し挟むことで地元客と観光客がいること、炊飯器でファンとの関係性を知らせるなど、作品の全体像を示していった。各地でショーを行っているからこそのショーの観客との関係づくりをうまく生かした状況説明だ。歌そのものは絶妙だった。つまり、うまくて聞き惚れるわけではなく、聞けない歌ではない、というあたりの歌唱。そして台詞寄りの歌詞。うまく作ってるなぁ、と感心。ダンスではなく振付、というあたりも作品のコンセプトそのもの。
ショーとしてこれは観てリラックスできる作品である。

3つの作品の関係性

関係性というか、この3つの作品とした本公演の構成について考えてみた。

「市長選」は、取り組みにくそうなテーマにチャレンジした意欲作である。日常生活の課題に直結する政策的課題ではなく、米作での課題を取り上げることで政策や政治に深入りしないように意識した。また、妻を主役にすることで夫婦における妻の甲斐甲斐しさ、SNSを取り上げてこっそりと最近の選挙事情を織り込むなど、作品と仕上げるまでに相当苦労したのではなかろうか。チャレンジとして伸るか反るかを最初にするのは、ある意味で定石かもしれない。

「住宅営業」は、「市長選」に比べて観客の誰もが思い当たるか感じるであろう素材を持ってきた。その分、「市長選」より重く感じるであろうテーマとなっている。さらりと観るだけでは満足感が得られないだろうし、爪や指先がきゅっと心や時代にひっかかるような、そんな内容をしっかりと落とし込んでいる。さらりと観るだけでは帰さない、次の公演への期待を多面的に惹起する要素として考えたのではないかと思う。

「演歌歌手奉納歌謡ショー」は、締めを明るく楽しく観客とともに楽しむ一品としていい作品だと思う。はじけすぎない、年齢を問わず楽しめるのではないか。そして、経験はなくてもありそうな光景だと感じさせる妙味は、ホン、演出、役者の努力の賜物だろう。

明るい気持ちで劇場から送り出す、とのコンセプトはきっとどの公演でも貫かれるのだろう。その意味での構成として申し分がない。今回は新作とのこと、旧作を含めて3作品で構成するとした場合、どのようなことを考えるのだろうか。異なるものを配置しているにもかかわらず、なにか統一感があり、楽しく変えることができる。そんなことを僕なら考えるのだろうか。
舞台で着替えやメイクをお話ししながら行うことで、幕間を待ち時間としないのはもちろんよいが、作品同士の連携を、テーマや感情の軽重以外で観てみたい気もする。

工夫と創造がこれからもっと期待できると感じた公演だった。

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