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観劇雑感 TGR2024 大人の事情協議会「監獄*ROCK YOU!」

観劇後のX。
「テンドン、どんでん返し、虚実の推移と変化が感情の振幅を広げるエンターテイメント!アイドル、推し活、新型コロナ、ジェノサイドをサンドウィッチにした巧妙な芝居。楽日の11月3日夜の観劇、次回も期待。」

2024年11月3日(日)17:00~ シアターZOO 大人の事情協議会
「監獄*ROCK YOU!」

~~ フライヤーより ~~

近未来。
とある監獄で、収容男性を獄中アイドルにするという、
ややインポッシブルめなミッションが展開されていた。

メンバーはもじゃもじゃ、ヒゲ坊主、メガネ、中年、華のないイケメン。

看守長竜胆は苦悩の末、断層の女子刑務員をチームに放り込む!

【出演】 ※cast(役)
山下愛生(田島さくら(朔太郎・ウルテ))、横山貴之(橘高達吉(ハツ))、濱道俊介(ギアラ)、菊池健汰(ミノ)、岩淵拓也(ハチノス)、宮下諒平(センマイ)、木村歩未(竜胆)、長谷川碧(鬼石)、本吉夏姫(星見)、三谷奈津実(新田ちゃん)、畑山洋子(セリ博士)

※一部で出演者の変更があり、フライヤーと一致しない部分があります。

【作・演出】長岡登美子 【演出助手】大沼史夏、仲上月菜、三谷奈津実 【舞台美術】濱道俊介 【振付】彩 亜夜光 【音楽】ラバ 【音響】水野大我 【照明】今野はる陽 【舞台監督】小野愛桂 【宣伝美術】吉田美穂 【制作】くちこ

~~ 雑感 ~~


言い得て、妙。

収容男性と放り込まれた刑務員で結成された獄中アイドル。
まずは、ネーミングが焼肉。
ウルテは喉肉、ハツは心臓で脂肪少、ギアラは胃で適度な脂肪、ミノは胃でクセなく歯ごたえ、ハチノスは胃で独特な風味、センマイは胃で臭み少。
次に、フライヤーの収容男性の表現。
モジャモジャ、ヒゲ坊主、メガネ、中年、華のないイケメン。
ご来場の皆さんはお分かりだろう、そのとおり、だ。

檻から始まった「濱道俊介回」。

大人の事情協議会では「本公演ごとに、劇団員のねがいをひとつずつ叶えてゆこう、という試み」をしているそうだ。今作は、濱道俊介回、とのこと。舞台美術の濱道俊介さんの「可動式の檻が作りたい」というところから始まった、と当日のパンフに書いてあった。
あの檻がスタートとは!ストレスの感じられないスムースな可動性の高い作りはすごい!何気なく観劇していたが、終演後に気付いた。可動式の檻は柵状で、たしか4枚あった。舞台に上げると場所をとるサイズだが、気にならないのである。そこもまたすごいのである!

従来のスタイルだと、舞台上に具体的な空間を建て込むことが多かったが、最近はそうした舞台は数が少ない。それは、ハコのスペース、ホンの作り、演出の意図、費用面などによって抽象的にシフトしていると考えられる。抽象的であればあるほど、汎用性も高いがどう使うかが問われることになる。
今回の可動式の檻は、抽象性と具体性の折衷であり、その造作とイメージから舞台上で目立つ存在となる。存在感を生かした、しっかりと意図を持った使い方が必要となる。
濱道作の檻の完成度の高さは、それに合った良い仕事を、演出に要求したに違いない。舞台装置とは、そういうものである。

檻からホンを生み出す作家、連携する劇団員。

檻とホンの時間的関係性はどうなっているのだろうか。檻の実物が完成してからホンを書いたとは思ってはいないが、作りたい檻のイメージは最初から濱道さんの中にあっただろう。
檻、牢屋、囚人・・・と続く連想からプロットを立ち上げ、檻のより具体的なイメージが加わり、シーンと演出に想いを巡らせながらホンを書いてしまう、ということだろうか・・・なんと豊かな発想力なのだろうか。
そう考えると、作・演出・役者・舞台美術、そしてフライヤーの記載をみると宣伝美術と、密度の濃い劇団員の集合体であり、地力の高さを感じないわけにはいかないのである。

個性際立つ役者たち。

竜胆さまはかっこよかった。誰が見てもかっこいいはずだ。華のないイケメンはよくぞここまで華がないものだと感心する。去年初めて拝見した岩渕拓也さんは今年も注目これからもしばらくは注目。磨かれた素朴さの菊池健汰さんもいい具合の配役。中年は中年でしかない中年の濱道さんは中年中の中年として中年だった。揶揄しているわけではなく、中年たる中年の中年たる感じがとてもいいと思ったのだ。真面目なメガネ氏はTGR2024の他の舞台にも立っているが、こっちのほうが生き生きしていたように思う。田島さくらは初々しさがよかった。鬼石はキュートだった。星見は猟奇的な雰囲気と新田ちゃんの殺されちゃう感満載な感じが、のちの展開に生きていた。セリ博士はこの芝居を引き締めていた。
全ての役者が、役柄の個性と役者本人の個性を両手に抱えて、いきいきと舞台に上がっていた。

脱走を試みる収容者、手引する刑務員、生き延びる扉は開くのか。

なぜ獄中アイドルが必要なのか。
実は必要なわけではない。コロナの影響でほんの少しの能力を得た「特殊な」彼らを殺処分することとなり、それを避けるためには獄中アイドルとしてデビューする必要がある、という展開なのだ。そしてそれは、看守長である竜胆のアイディアであった。
かっこいいとはいいがたいが、愛嬌のある収容男性。幼いうちに収容され、外の世界を知らない彼らの抑圧された実態を把握するため、密かに送り込まれた華のないイケメン、そこにデビューのために華として放り込まれた女子刑務員。女性であることはほぼ最初から気づいていた彼ら、奮闘する女子刑務員、密かに応援する他の刑務員たち。
その過程で収容男性は殺処分の事実を知り、脱獄を図る。ほんの少しの能力は、華のないイケメンの「他人の能力を増幅する能力」によって大きな力を得た。
地震、飛行、透視などの能力が活躍して脱獄成功!
・・・かと思うと追手が近づく!逃げ切れない!脱獄を手引した刑務員たちまで!

・・・・・と、まあ、これは脱獄したらこうなっちゃうイメージがシーンとして登場した場面。いや、イメージかよ!いや、イメージでよかった。そう思うためにも、観客が実感を持つうえでも大事なシーンだった。
僕はこのシーンに、民族のジェノサイドを見た。「特殊な彼ら」と上述したが、マイノリティーに対する差別を見た。権力や大衆が作り出す差別の恐ろしさを見た。無意識ではいけない。差別するも差別されるも、それは一瞬にして発生するものだから。
近年、新型コロナが世界中にまん延し、日本では感染したことが恥であるかのような期間があった。新型コロナから「特殊な彼ら」を出現させ、フォーカスを当てたことも着目したい点である。

ライブだ!ライブだライブだ!

収容男性が踊る。放り込まれた女子刑務員が歌う。この芝居の最終回は「応援上演回」、好きな出演者のサイン付き「ペンライト付きチケット」が予約販売され、当日の前説で取り扱いの説明と練習があり、本番ラストの獄中アイドルライブ風景は、まさに推し活!そしてアンコール!千秋楽の獄中アイドルライブによるエンディングは、今作を大円団で締めくくった。

これは役者もお客さまも楽しすぎるし、泣くわなぁ。
ラスト回は動画がどこかに載っていたと思う。
大人の事情協議会のX、多分ここが千秋楽の一場面。よかったらご覧頂きたい。
https://x.com/daijikyo/status/1853250149302386927

小難しく考えると、不器用さの見える獄中アイドルを応援する姿は多様性を受け入れた姿だのかんだのと言うことはできる。ただ、それを言ったところでなんになろうか。懸命に舞台で生きる姿がそこにあるだけで、その彼らを応援し推す観客がいることで、説明を要しない感動と感激を呼んだのだ。その客席にいられたことが、何とも言えず幸せだった。

そして、エンディングで一番踊れていたのは、竜胆さまだった。

BLOCHよりZOOが似合うかもしれない。

大人の事情協議会を観劇したのは今回が2回目。前回は2019年だった。
その時の雑感はこちら。

https://denden.asablo.jp/blog/2019/05/27/9077847

雑感の中で、ホンと演出と舞台空間の関係について述べている。
端的に言うと、その当時のホンとBLOCHの空間の相性が悪かったと感じたのだ。
今回はZOO、とても見やすかった。多分この劇団にとって、多分このホンにとって、ZOOはとてもフィットした相性の良い劇場だと思う。

次回は「新入団員・本吉夏姫回」とのこと。注目したい。


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