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手乗り豚

車のエンジンをかけようと
スターターを押した瞬間
ふと足元になにやら肌色の物体が…。

四角いアクリルのケースに入った
そいつはモゾモゾとその小さな体を動かしている。
目を凝らすとそれは紛れもなく ブタ。
手乗りサイズの、でも決して生まれたてではないミニ豚であった。
え?なんでこんなところに?
てか何このサイズ…

恐る恐る手を伸ばし
アクリルケースを拾い上げ
まじまじとその奇妙な物体に目を凝らす。

15センチほどのピンク色の体
短い産毛に覆われている。
つやつやしている顔、しかし頭には
なぜか毛髪が申し訳程度に
大五郎程度に生えている。

果たしてこれは可愛いのか?
はたまた可愛いくな…
可愛くな… 可愛くない!

彼はつぶらな瞳でこちらを見て
まるで撫でてと催促しているようだったので
僕は人差し指でその毛髪に触れてみた。

すると
ブヒッブヒ!とアピールしてきたのである。
次は指の腹でさらに毛髪を撫でてみた。
ブヒブヒブヒヒヒ…
ブヒッブヒッブヒヒヒ…
ブヒー!
さらに撫でる
ブヒッブヒッブヒッブブヒッヒヒー!
さらにさらに撫でる
ブヒブブブヒヒッヒブヒッーヒップヒッヒ!
彼は(彼女か知らないが)
その悦びを爆発させているようだ。

ふと我に帰り
いやいやそんなことしてる場合ではない
今日は急ぎの用があるんだ!
アクセルを踏み込み僕の車は闇へと消える。

ヒューヒューと風。
カタカタと音を鳴らすガラス窓。
翌朝目覚めた時はベッドの上。

あー今日も寒いなぁ
雪になるんじゃない?
ベットから這い出て
朝食を済ませ着替える。
防寒対策完璧に家を出ようとした
瞬間に思い出した!

あ、ブヒブヒ!
ブヒブヒ車に乗せっぱなしだった!
どうしよう?
この寒さだ!
1日置き去りにしてしまった!
ひょっとして凍死してるかも!
急いで車に向かおうとするもなかなか
足が動かない!
てかもし最悪のことになってると
考えただけで怖い!
どうしようどうしよう…

すると頭上から約100インチほどの
巨大なビジョンが降りてきた。

画面には世界各国の人々が
ミニ豚と寄り添うシーンが映っていた。

最初のたぶんアメリカの白人女性は
ミニ豚を抱きしめながら
ニコニコ微笑んでいる。
ミニ豚もとても嬉しそう。

次の日本人男性は
亡くなってしまったミニ豚を手に悲しげな表情を浮かべている。

次の黒人はミニ豚を天にかざして嬉しそう

次の白人は死んでしまったミニ豚を
迷惑そうに持ち上げてる

そんな諸々がそんな悲喜交々が
TikTokのようにめまぐるしく
ただただランダムに展開されてく。

そんなことどうでもいい
僕は車に乗って凍死しているかも
知れないミニ豚を助けに行く

助けて助けて感謝されなくてもただ
助けに行く

たとえ自己満足と言われようが何しようが
僕がやりたいようにやる。

動かない、体が動かない…
ちくしょーくそー…

そんな2023年も終わりです。
2024年、良いお年をお迎えください。


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