DXもグローバルからローカルへ
1.インターネットはグローバリズムを推進した
インターネットは世界をつなぐ。世界の情報を簡単に検索できるし、世界の人や企業ともつながれる。世界のどこからでも原材料を調達することが可能で、世界のどこで加工するかも自由だ。そして、世界の市場で販売すればビジネスの可能性は大きく広がる。
ICTは常にグローバル化とセットで論じられてきた。というより、グローバリズムを実現するための有力ツールとして扱われてきたのだ。
しかし、グローバリズムは短期間で飽和してしまった。グローバル市場はそれほど大きくなかったともいえる。世界中でバブルが始まり、それもまた飽和した。今や、いつ世界規模のバブル崩壊が起きてもおかしくない状況だ。
更に、グローバリズムは貧困や飢餓を増やした。製造業は人件費の低い国へと移転を続け、新興国は「中所得国の罠」で成長が頭打ちになった。最終的に利益を上げるのはグローバルサプライチェーン全体をコントロールしているグローバル企業だけだ。
所得が低い発展途上国にも、スマホや家電製品、自動車等が輸出される。それらを購入するには、現金が必要であり、現金収入を求めて会社や工場に勤める人が増える。それまで自給自足で生きてきた人々も、農業を捨ててグローバル経済圏の労働者に組み込まれていく。こうした飢餓がなかった国が、いつのまにか食糧の輸入国となり、飢餓へとつながっていく。
2.グローバリズムが覇権を育てた
私は、グローバリズムとは、ネットワーク型の地球規模コミュニティを理想としているのだと思っていた。しかし、実際には一部の金融資本が世界支配を目指す道具だった。世界が一つの経済システムになれば、それを支配することで世界を支配することができるのだ。
米英は金融で世界を支配しようとし、ロシアは資源で世界を支配しようと考えている。中国は「世界の工場」の力と、チャイナマネーの力で世界を支配する構想のもとに、一帯一路プロジェクトを立ち上げた。
しかし、各国の覇権への野望が明らかになり、世界は分断された。米国と中国、そして、ロシアとNATO。EU内部も対ロシア経済制裁で分断が始まっている。
各国政府もグローバリズム推進派と反グローバリズム派に分断し、左翼政権から右翼政権への流れが起きている。
世界が変革する中で、現実への対応が忙しく、DXやAIの将来像という議論は少なくなっている。
3.分断から細分化へ
グローバリズムでは、世界を一つのサプライチェーン、一つの市場と考える。地球規模の大量生産大量消費がグローバルなビジネスモデルなのだ。
しかし、世界は分断され、地球は一つではなくなった。各国は自国のエネルギーと食糧の確保が最優先となり、他国との貿易の優先順位は下がった。
一つだった地球は分断され、細分化された。ビジネスモデルも大量生産大量消費ではなく、小さく分割された地域の中で自給自足的なビジネスモデルが志向されるようになるだろう。
労働集約型製造業はコストの低い国や地域に移転したが、ロボティクスと自動化による省人型製造業に進化すれば、先進国に回帰するだろう。消費地の近くで生産し、流通経路を短縮すれば、物流費もカットできる。更に、需要に見合ったフレキシブルな注文生産が可能になれば、廃棄物も減り、エネルギーの節約にもつながる。海外投資ではなく、国内投資の充実こそ、国力の増強と国益につながるのだ。
4.新たなジャストインタイムを
中国生産が本格化する前の80年代、日本国内ではトヨタのカンバン方式、ジャストインタイムが提唱されていた。
生産者と消費者を情報システムでつなぎ、流通在庫や仕掛かり在庫を持たずに、適時適品適量生産しようという試みだった。しかし、この考え方は中国生産の増加により、忘れ去られてしまった。
しかし、グローバリズムの崩壊と共に、再び新たなジャストインタイムが求められるだろう。ジャストインタイムは持続可能であり、環境にも優しいからだ。
80年代と現在の違いは、高性能なスマホの普及、大容量で安価な通信回線、安価で高性能な3Dプリンター、デジタルプリント、小型ドローン、画像認識センサー、無線タグ等々、DXを具体化する技術やツールが揃ってきたことである。
これらを組み合わせることにより、生産者と消費者をつなぐことができるのではないか。同時に、全国に点在するクリエイターや職人、工場や店舗をつなぐことができるのではないか。
5.グローバルとローカルの両立を
クローバルサプライチェーンの一部を担っていた工場は、専門に特化し、地域社会とは無縁だった。しかし、ローカルな経済圏内で自立したビジネスを行うには、少なくとも地域の中で顔を見せることが必要だ。
専門的な下請けの仕事だけでなく、完成品を開発を目指すことが重要になっていく。自動車部品を生産していた鋳物工場がその技術を活かしてフライパンを作るように、一方でグローバルなビジネスをしながら、他方でローカルなビジネスを志向していく。最終的にどちらを選ぶかは自社で決定すればいい。
新たな経済モデルとそれに対応した新たな製造業。そして、新たなコミュニティとメディアが必要になる。海外に目を向けてきた企業や個人は国内に目を向けてみよう。
日本人同士の連携がいかに機能的であり、高度であるかを再認識することになるはずだ。コストの削減ではなく、トータル流通コストの削減を目指し、エネルギーを節約して、顧客を満足させることを目指すべきだと思う。