見出し画像

第22回 #書き出し祭り 第一会場 感想

 こんにちは、お祭り大好き、まさかミケ猫です。本Noteでは、第22回 #書き出し祭り 第一会場の感想を書いていきたいと思います。
 なお、ここは私が参加している会場ですので、自分の作品はうまいことステルスしつつ感想を書いていきたいと思っています。


企画について

公式ポスト

作品リンク

第二十二回 書き出し祭り 第一会場

何かありましたら質問箱まで

感想

1-01 東京因習村大学

 いやぁ、トップバッターからめちゃくちゃ面白いの来たじゃないですか。怪しい怪しい&怪しい! これはゾクゾクしてすごく続きの気になる作品だったなぁと思います。やってくれたなぁ!
 まずタイトルから良いですよね。インパクトと違和感のあるタイトルがパーンと目を引き、何だ何だとあらすじを読めば、分かりやすいコンセプトで殴ってきて、本文を読みたくさせられる。これは良きです。
 そして冒頭。この最初の一行がさりげなく上手すぎてすごく好きなんですけど、誰か有識者いませんかね。「研究室がなくなったのは、十月の末のことだった」ですよ。わりと大事件なのをサラッと書いてくれるので、押し付けがましくないバランスで、スッと引き込まれちゃう入り方なんですよねぇ。こういう書き方したい! もうめちゃくちゃ自然に作品世界に連れてってくれるじゃないですか。うまっ。そこからの、「ワンチャン実刑だって」とかもヤバうまですよね。すんなり舞台が入ってきますからね。
 さて、尺が大変なことになるので進まないと。えー、次にですね。双子で同じ名前っていうのをフックに、めちゃくちゃ面白い会話の中で、読者の気を引きながら色んな情報を叩きつけてくるのマジで上手すぎて笑っちゃいました。空路木や屋敷や恵良兄弟を取り巻く構図がスッと入ってきますもんね。因習村についても。ここまで説明臭さナシに楽しませながらこの情報量を脳内に送り込んでくる手腕がね。
 で、後半ですよ。冒頭で読者を引き込んで、楽しく状況を理解させてから、衝撃展開で引っ掻き回してめちゃくちゃ先が気になるところでの引き。いやぁもう、巧妙かつ大胆に仕掛けてくるじゃないですか。読者の没入対象である屋敷くんの闇を見せられて、全員ヤバいやないかーい! って。
 あらためて、タイトルで期待した「因習村」感を高いレベルで存分に楽しませていただいた作品だと思います。ゾクゾクさせてもらいました、めちゃくちゃ面白かったです!

1-02 伝説の偽聖女様

 トップバッターがハイレベルだったので、二作目はどうなっちゃうのと思いながら読んでみたら。これまた、めちゃくちゃ面白いかつハイレベルな作品が来たじゃないですか。明るくて楽しくて切なくて、すごく応援したくなる! これはヤバかったですねぇ。
 本作もタイトルからして上手くて、「伝説なのに偽なの???」ってなるじゃないですか。で、あらすじがめっちゃ上手い。端的にナターシャの状況や性格が分かって、作品の方向性もちゃんと分かって。
 それで、冒頭ですよ。定番の「婚約破棄」から渾身の「やったぁぁぁぁぁぁぁ!」で強く引き込まれる入り。そして、ナターシャのポンポンと弾けるような会話でバッサバッサと皇太子を薙ぎ払う爽快さ。投げキッスのところで大爆笑しちゃいました。これは上手いし面白い!
 からの、ですよ。ナターシャの過去にはすごく心が痛みました。あらすじにあった「目指すのは、姉さんのような優しい人たちが、命を落とすことのない世界だ」に至るまでの過去、そして冒頭で大喜びしていた感情がここで納得できるんですよね。ここはホント、冒頭との温度差もあって胸を刺すようでした。
 そして後半、ここからはあらすじになかった部分ですが、ぶっ飛んだ活躍の片鱗を存分に見せてくれましたよね。桜の香りの石鹸や、スーパー毛生え薬。そして何より、本物の聖女様がそう絡んでくるのか! ってことは、ナターシャの婚約破棄もまだごたごたするのかなぁ! そしてヒーローはこんなとこにいたのかい! どちらがヒーローでどちらがヒロインかは要議論ですが、いやぁ、これは俄然楽しみになってきた!
 あらためて振り返れば、タイトルとあらすじで読者に正しく期待させた上で、その期待を突き抜けてくる面白さを提供してくれた作品でした。明るい語り口で読後感もすごく良い。めちゃくちゃ面白かったです!

1-03 当て馬だと気づいた転生令嬢は原作通りに追放されたいのに溺愛されてます

 ひゃあ、これは可愛いお話でしたね! 素敵な恋物語を予感させてくれる第一話だったと思います。ドキドキ胸キュンな作品を予感させてくれて、すごく楽しみになりますよね。
 まず、なんと言っても本作はシルヴィを巡る構図が魅力的だなぁと思うんですよ。あらすじの段階でもう、ディアトとルードルフのどちらにも好意を向けられるって構図が明確じゃないですか。その上で、アニエスや他のヒロイン達との関係、シルヴィ自身の願いだったり、そういう葛藤で楽しませてくれるのかなぁと期待できますよね。
 本編では、シルヴィの明るくて等身大のキャラが魅力的でしたよね。読者が感情移入しやすいキャラを上手く描いてきたなぁと思います。転生主人公の強みってそういうところにあって、読者が自分の分身のように感じる子が頑張って報われたり、誰かに愛されたりするのを見てたら、やっぱり嬉しいじゃないですか。その構造がまさに活きるキャラ造形だったと思って、すごく良かったなぁと思ってます。
 キャラのディテールで言うと、薬草を育ててるのがすごく良いんですよ。これによって、彼女が原作シルヴィとは別人であることや、植物に対して優しいこと(→これすごく大事で、動植物への接し方ひとつでキャラの性格って出るんですよねぇ)だったり、メイドとの関係性から彼女がこれまでどのように振る舞って生きてきたのか分かるじゃないですか。これを説明的にならずにエピソードで示してくれるので、シルヴィの人となりが自然と伝わってきて良いんですよ。
 さて、そして始まる原作本編。順当に原作通り……かと思いきや。いきなりディアトの行動がズレる? 少なくともシルヴィが観測している範囲では、まだ原作から外れる行動はしてませんからね。可能性としては、アニエスも転生者で既に何かやらかしたか、シルヴィが本来バックストーリーでやっておくべきだった裏設定イベントをやってなかったか、ディアトが転生者でってパターンか……いやぁ、現状ではまだ真実は分かりませんけど、これは楽しみですね。
 さて、あらためて作品を振り返ると、タイトルあらすじから、どんな楽しさをどんな風に提示するかバッチリ一貫していた作品だったと思います。面白かったです!

1-04 ゾンビを食べよう!

 ハッピー! なるほど、これはエグい作品が来ましたねぇ、めちゃくちゃ面白かったです。これはこれは、ぶっ込んで来ましたねぇ。作者様はきっと今頃、読者の阿鼻叫喚を楽しんでいらっしゃると思います。やりやがったなぁ!
 さて、本作はなんと言っても世界観に注目ですよね。ぶっ飛んでるだけじゃなくて、ちゃんと背景を作り込んであるんですよ。ゾンビパニックに対して日本では食用としてゾンビを扱う。また、人間との交配も可能ってことでそっちの用途もあるんでしょうね。描かれていないけどダークなことが色々と行われている、そんなHENTAI国家日本。めっちゃ面白い舞台設定だなぁと思います。
 そんな中でも、小学生たちの様子は普通。しかし、おかしな世界の中で普通に振る舞う子たちですから、読者に与える違和感のなんと強烈なことか! あとリヴィアタン・メルビレイやアルゼンチノサウルスのくだりはどう飲み込めば良いのか分からなかったので、そこは作者様に聞いてみたいところ。
 そして、小学生らしい冒険が始まったかと思えば、なんか明らかにゾンビじゃないのを殺しちゃってるし食べちゃってる。冒険と青春と共に、何の味を覚えちゃってんですかねぇ。
 でね、ここで最初に提示した世界観がきいてくるんですよ。人間とゾンビを交配させて、性別と知能によって食用と繁殖用に分ける。じゃあ、そうやって何世代も積み重ねていったゾンビは、人間と見分けがつくんでしょうかね。主人公たちが食べたのは、完全な人間だったのか、完全なゾンビだったのか、その間のナニカだったのか。そういうのを色々と考えてしまいますよね。そして、メッセージを送った者の意図は。いやぁ、なんというエグいものを読ませていただいたのでしょうか。
 そして本作の何より恐ろしいのは、コンマ何秒かで1-1をゲットしていたかもしれないってところですよね。すごい位置にすごいの持ってきました。これはヤバくて面白かったです!

1-05 天使のためのエチュード

 これは熱かった! いやぁ、すごく良かったですよね。音楽に乗せる情熱、鬱屈してた感情を開放する爽快感、そういったものを強く感じました。そして、これを小説で表現しきった手腕に脱帽します。すごい。
 本作は語りたいことがいっぱいあるんですけど、まず最初に挙げたいのが「時間経過に対する感覚の鋭さ」なんですよね。これだけだと何言ってるか分かんないと思うんですけど……演奏が始まって、地の文が続く間も、背景でずっと音楽が流れていて時間が経過するんですよ。それで、全部を思考しきらないうちに割り込むようにして演奏が次のフェーズに移っていく。ここの地の文への音楽の割り込み方が本当に上手くて、ちょうどいい塩梅のところで、思考と音楽を行ったり来たりしてるなぁと。それが本作の臨場感に繋がっていて、本当に上手くて、ぜひこれは真似したいと思いました。できるかなー。
 似たように時間感覚の鋭さを感じた作品だと、過去に「動画を見ながら思考する」みたいなシーンでビビッと来たことがあるんですが、本作はそれに輪をかけて、音楽に感情が乗っていて、空想の音楽が本当に流れているように感じられるんですよね。これは真似したいスキルです。
 また、主人公ケンジの葛藤や、第一話を通しての感情変化、そして課題感の提示などについても非常に上手いバランス感覚で進んでいくなと思いました。
 まず尖った設定として、天才ピアニストっていうものがあるじゃないですか。それで、よくある作品なんかだと彼に与える試練は「怪我、故障、障がい」みたいな物が多いと思うんですよね。もしくは天才故の孤独とかの人間関係とか。ようは、天才ピアニストって設定を置いた段階で、ピアノを弾く能力そのものについては疑いようのない実力を持ってるって作品が多いと思うんですよ。
 それを今回は、天才ピアニストがピアノを弾く能力でちゃんと悩んでるんですよ。それで、楽しめていないことを見破られたり、オーケストラになると上手く合わせられなかったりしている。ちゃんとピアノを弾く能力としても成長の伸びしろがあるっていう。これがすごくいいなと思ってまして。
 なので、ある種のスポ根作品のような熱量を持って、技量を高めながら感情を込めて活躍していく様子を期待できるんですよね。いやぁ、すごく面白かったです! 素敵な作品を読ませていただきました。

1-06 ヨロイマとカシオ

 上手いなぁ! 文章力で殴りつつ、胸の奥をかき混ぜられるような構図、そして展開でひっくり返してきて、読者の予想を超えてきたなぁと思います。それと私は本作で、明確に描かれていませんがヨロイマには資料集めとは別の狙いがあったのかなぁと思いながら読んでました。間違ってたら赤っ恥ですが、感想後半あたりで私の考えを述べてみようと思います。
 まずは冒頭、ゲーム内の決闘シーンから。このシーンは絶対に作者様の意図がありますよね。だって、これがただ単にカシオのイラッとするだけのイベントだったら、ここまで具体的に書く必要ないですし。もっというと、キャラ名に「ヨロイマ」「カシオ」と名付けて決闘させる、というシーンを挟みたかったのだと思っています。
 で、そこからカシオがヨロイマの首を絞めるシーンがあり、これが後になって「ヨロイマがカシオを煽っている」のだと分かります。このあたりも文章力で殴ってくるなぁと思いましたよね。しかも描写がめちゃくちゃ上手い。苛立ちや害意をこんな風に表現するのかと、膝を叩きたくなりましたね。
 そして二人の過去へ。カシオのヨロイマに向ける鬱屈とした思いが、これまたものすごい文章力で襲いかかってきます。強い嫉妬を持ってるんですが、でも憧れてしまう気持ちや親しみなんかもあって、アシスタントになるわけですね。この割り切れない感情が、すごく伝わってきました。
 そして末尾、全てはヨロイマの「資料集め」のためだと明かされて、翌年本当に彼を殺してしまうのだと明らかにされる。いやぁ、このひっくり返し方にはゾクゾクさせていただきました。
 さて、それで改めて私が気になるのは、冒頭のゲームのシーンですよね。ここからは私の解釈なので、間違っていたら恥ずかしいのですが……あれを冒頭で事細かに提示していたのには意味があるんだろうなと。ゲームの内容は「同じ志を持って切磋琢磨した友人ヨロイマが敵に回り、主人公カシオは経験を積んで強くなり、ヨロイマを殺す」です。そんなゲームをヨロイマはカシオにやらせていて、そのシーンさえ終われば満足すると。これを私は、「これがヨロイマの本当の意図かなぁ」なんて思いながら読んでたんですよね。つまり彼は、「カシオをレベルアップさせて自分を倒すほどの小説家になってほしかった」というのが本当の望みなんじゃないかなと思って。
 まず、ヨロイマは初対面のカシオにキラキラとした感情を向けてきていましたよね。あれは、天才肌の自分に数少ない同年代の同志を見つけた喜びだったんじゃないかと。そして、彼女が挫折して小説家をやめようとしているのを引き止め、アシスタントをさせる。ヨロイマはたぶん、諦めてほしくなかったんです。そして、資料集めの名目でカシオに経験を積ませる。ヨロイマは自分が殺意を向けられる経験をしたかったんじゃなくて、カシオに殺意を抱かせる経験をさせたかったんじゃないかなと……盛大に間違ってたら赤っ恥なんですけど。彼は冒頭のゲームのように、自分が敵に回ることでカシオを成長させようとしていた、と私は読み取りました。そうなると、最後の展開が切ないですよねぇ。胸の奥をかき乱すような作品だったなぁと思います。面白かったです!

1-07 星ノ海ヨリ敵来タル!! 全種族全人類総動員大反抗作戦!!!!

 いやぁ、これは好きでしたねぇ。ロボットSFファンタジーで、めちゃくちゃ心躍りますよね。世界観も好きですし、キャラも好きですし、展開も面白くて、もうワクワクしっぱなしでした。
 まずはなんといっても、キャラですよね。主人公は星渡りの末裔。つまりは異星人になるんですが、だからこそ突出して鉄騎兵の操縦が上手かったり、まだ出てきていませんが遺物の知識なんかもあるっていう理由付けができている。異世界人やゲーム世界モノでこういうキャラ付けをするのは見ますが、「星渡りの末裔」とすることで本作のファンタジーとSFが入り混じった世界観を自然に表現できるじゃないですか。主人公が世界に馴染みつつも特別性を持たせている、上手い置き方をしてくれるなぁと思います。
 そして、ヒロイン二人が可愛いですよね。ヤンデレなサポートAIのルカと、気高いツンデレ令嬢エリナ。ルカの方はしっかりちゃっかり隣を維持してるものの、物理的に触れられないヒロインですから、バランスも拮抗しててすごく良いですよね。
 で、世界観ですよ。ファンタジーな惑星にSFな宇宙船が落ちてきて、技術革新が起こる。当時は世界が大混乱だったでしょうが、鉄騎兵なんかが使われるようになって……良い混ざり方で面白いですよね。宇宙船を「燃える船」と表現したりなど、SF世界の物品がファンタジー目線で馴染むようになっていて、そういうのめちゃくちゃ好きだなぁと思いました。
 そして、最後の展開ですよね。敵の強大さ、厄介さ。そういうものを自由都市レーベンを消し去ることによって衝撃的に示してくれたと思います。そこまでの展開にあったある種の楽しさ、緩みのようなものがここでキュッと引き締まり、次話に向けて期待感を持たせてくれます。ここから、どんなドキドキな展開が待っているんでしょうね。
 改めて振り返ると、本作は本当に「SFにあまり馴染みがないファンタジー読者でも引き込んでしまう」という強さを持っていたと思います。説明臭くならない配慮もしっかりされていて、読みやすかったですし、めちゃくちゃ面白かったなぁと思いました。これは好きですね!

1-08 お婆ちゃん先生の言う通り お山には狐も狸も鬼も巫女も魔法少女もいる

 君が魔法少女になるんかい! いやぁ、とても楽しい作品でしたね。いろんなキャラがわちゃわちゃ出てきて愉快だなぁと読んでいました。
 お婆ちゃん先生の百合ちゃんは狐の童女。なにやら怪しげな術なのかな? 何かの力を使って、言うことを聞かない子はビシッと動けなくさせちゃう。龍之進も転がされて、逆らえない。これは強いお婆ちゃん先生ですね。学園長も狸で、記憶を飛ばしたり催眠のようなこともできると。で、巫女の瑞穂は鬼女に攫われていって……さぁどうする! ってところで、龍之進が魔法少女に? いやぁ、この展開は読みきれませんでした。キャラがみんななんか可愛い。
 世界観も良いですよね。日常からちょっとズレたところにあるローファンタジー世界。怪異が出てくるんですがおどろおどろしくないので、比較的軽い読み口で作品世界を楽しめました。怪しいけど楽しいっていうバランス感覚が良いなと思ってます。
 そしてこの学校が、すごく色々な物語を広げていけそうな舞台なんですよね。だって、ワケありの子たちばかりを集めた学校ですよ? 今はまだ龍之進が浮いている描写しかありませんが、他の子たちもそれぞれ何かしら抱えているわけで。それは、怪異や特殊能力に関係するものかもしれないですし、まったく関係ない人間関係の悩みかもしれないですし、家庭環境や生まれ持った性質についてのことかもしれない。もうホント、色々な生徒がいておかしくない舞台なんですよね。そしてそこに、狸や狐の先生たちがいると。もう無限に物語を広げていけそうですよね。これはとても良い舞台をセッティングしたなぁと思いますよ。
 改めて振り返ると、怪しいのになんかほっこり楽しい、そんな作品を読ませていただいたなと思っています。ありがとうございます、面白かったです!

1-09 サモナーさんはなんか変

 おぉ、これは良いですね。私けっこう好きな雰囲気のやつですよ。感情を乗せずに淡々と世界を描写している感じ。ところどころニヤッとしながら読んでしまいました。
 冒頭から、理路整然とサモナーについて説明してくれています。ここの説明がスッと読めるのはけっこうセンスのいる仕事だと思っていて、説明の順序がごちゃっとしたり内容が重複したりしがちなんですよね。たぶん語尾なんかにも拘ってると思うんですが、水を飲むように説明を飲み込めるんですよ。作者様はロジカルな文章を書くのが得意な方なんじゃないかなぁと勝手に思ってます。
 そして明かされる、主人公の能力。これがまた突飛でいいですよね。召喚能力を使ったキメラ化。ここでちゃんと原理まで明らかにしているのは理系の所業だと勝手に思ってるんですが(同類の匂いを感じる)、アイデアの出し方が良いなぁと思ってまして。こう、世界観に収まるように能力を考えると、小さく収まりがちじゃないですか。そこを本作は、おそらく能力を考えてから補完するように魔力周りの設定を組み上げてるんじゃないかなと思うんですよ。召喚の制約なんかにしても、「何でもアリ」にしちゃうと世界観が崩れるところを、いい塩梅で引き締めてくれてる。そこの突出力と安心感のバランスがすごく良いんですよね。
 さて、世界観が殺伐としているのも本作のポイントかなぁと思います。どちらかというとファンタジーよりSF書きの匂いを感じる世界の捉え方なのかなと思っていまして、ままならない人の世を一歩引いたところから皮肉交じりに描写するあたりとか、そういうのがすごく好きなんですよね。私もよくそういう書き方するなぁと思って。で、根本的に世界観が無情だったりするので、そのシビアな環境で生きる人が変な人間に仕上がっていくんですよ。あるある。
 さて、あらためて全体を振り返って思うのは、設定の補完がやっぱり上手いなぁってところです。突飛なアイデアをポンとひとつ置いて、それを補完するように整然と周囲を固めていく。そのやり口にすごく親近感を覚えました(私がそのタイプなので……もし作者様が全然違うよって場合は笑って流してやってくださいね)いやぁ、アイデアの光る面白い作品でした。ありがとうございました!

1-10 宵闇に茅蜩が囀らなければ

 あらすじ感想のときに「茅蜩」の読み方を調べていたのに、何だったか忘れてしまって「えーっと……ハマグリ」となってしまいました。まさかミケ猫です。こんにちは。
 さて、本作は静かな語り口で胸の奥を深く突いてくるような、魅力的な作品でしたね。生と死について、人生について、考えさせるような作品になっていくんじゃないかと思ってます。いやぁ、めちゃくちゃ良かったです。
 本作は冒頭から「おっ」と思ったんですが、描写が丁寧で素敵なんですよね。遥斗の静かな語り口で綴られる情景描写に透明感があったので、テーマのわりに雰囲気が重くなりすぎず、心地よい静けさの中で作品が進行していく。単語選びひとつから丁寧で、アイテムから季節感が伝わってきます(白ワンピやアイスコーヒーなど)し、端々の動作に細やかな感情を乗せてるなぁ、めっちゃ上手いじゃんと思ってました。
 さてさて、本作で特に面白かったのは愛梨のキャラクターですよね。なんと言えば良いんでしょうね、二面性と言いますか。彼女はポジティブな仮面を被り、明るく気さくに振る舞い、言葉もポンポンと投げかけてきますが……そういう強い光の仮面の下に隠された闇が、そうとう深いんじゃないかと察せられて、本作の独特の「静かなのにヒリついた雰囲気」を作っていたんじゃないかと思っています。
 そして、遥斗ですよね。彼の心の形は私は正直まだ掴みきれていないんですよね。あらすじからは「母の死の真意を探りたい」と読み取れますが、愛梨からの「自殺したいんでしょ」に対して「心の中を見透かされる」って考えるのは、やはり希死念慮を抱いているのは間違いなさそうで。おそらく、彼自身もまだ自分の心の形を捉えあぐねている……そして、それを探っていくのが本作の本筋なのかなぁと思いました。
 あらためて本作について考えると、やはり愛梨と遥斗の対比がくっきりしていて魅力的だなぁと感じました。互いに違う立場から、生死や人生について考える二人。その交流が、何かしら二人に変化を及ぼすのか、どうなのか。とても深い作品になるんじゃないかと期待の持てる書き出しだったと思います。

1-11 青の侵略者の懺悔

 これは楽しいSFコメディでしたね。夏の情景の中に青春の甘酸っぱさもあって、爽やかな読み味の作品だったと思います。楽しませていただきました。あと書き出し祭りがすごいことになってて笑いました。
 まず雫ちゃんが、明るくて楽しくていい子ですよね。可哀想なのがカワイイってタイプの。高身長な女の子はそれはそれとして魅力的だと思うんですが、やはりコンプレックスなんでしょうかねぇ。読んでいて応援したくなるというか、好感度の高いヒロインだったなぁと思います。恋に破れる切なさも、青春だなぁって感じで良き良きでした。
 春樹くんはたぶん雫ちゃんが好きだと思うんですよね。ただ、夏樹くんに片想いしている雫ちゃんを知ってるでしょうからねぇ。そして、凜ちゃんもいい子ですよね。すごく純粋に恋と友情の間で揺れていて、それが分かっているからこそ雫ちゃんも背中を押したんだろうなぁと思います。このあたりの人物関係の構図がもう、青春キュンキュンって感じですごく良いなぁと思いました。
 さてさて、本作の面白いのはなんといっても最後の展開ですよね。あらすじ段階から世界連邦政府に連行されるのは提示がありましたが、まさか月面基地のサーバーの不正アクセス疑惑で捕まるとは思わないじゃないですかぁ。これはなかなか大事件を持ってきましたね。まぁ、雫ちゃんがハッキングなんて性格的にも能力的にもないかなぁと思ってるんですけどね。犯人は近しい人なのか、それともたまたま巻き込まれたのか。そのあたりも、先の展開が気になるところだなぁと思います。
 ここからどんな風に物語が転がっていくのか、とても気になる第一話だったと思います。何より、青春の甘酸っぱさを楽しませていただきました。ありがとうございます!

1-12 こちら警視庁異星人捜査課

 なるほど、これはまた一風変わった作風を楽しませていただきました。ほぼ会話文だけで構成された作品。読み味のために挟んでるのかと思われたオヤジギャグがまさかの伏線で、そんな風に解決するのかぁと膝を叩きました。寄席を聞いてるみたいな感じで楽しませていただきました。
 本作の面白いのは、まず世界観だと私は思ったんですよね。異星人SFの面白さをしっかり見せてくれてるじゃないですか。イグナスカ星人の地球人とは違う生態、地球に不利な惑星間法に苦しむ治安維持機構、異星人を巡る捜査方法ひとつ取っても良く考えられてますし、そういった諸々を伏線として事件を解決まで持っていく手腕がすごく良かったですよね。
 そして、だまさんとイケメンの凸凹バディ。ベテラン刑事のだまさんと若手刑事のイケメンの組み合わせがすごく心躍りますし、だまさんがイケメンに教育するという自然な流れで読者に世界観を提示しているのも良かったです。で、イケメンは教わったことを活かして最後の悪あがきをして、だまさんがそれを拾う。それで事件を解決に持っていって、だまさんが泣く。ここで、若くして散ったバディを想う姿が哀愁を誘いますよね。すごく良かったです。
 そして、そういった諸々をほぼ会話文だけで見せるという方法がなかなか極まっていたと思います。これのすごいのが、読んでいてすごく自然だということ。説明臭くないんですよ。それなのに、脳内にしっかり情報がインプットされるので、これはすごいなと思って読んでしまいました。こういった会話の使い方ができれば、普段の地の文の説明も圧縮できますからね。勉強させていただきたいと思います。
 あらためて、面白い作風で味のある異星人SF刑事ドラマを見せていただいたなと思ってます。読ませていただきありがとうございました。面白かったです!

1-13 小雨、決行

 重く突き刺さるような作品でしたね。リョウの思考や感情が痛々しくて、作品世界にどっぷりとのめり込んでしまいました。文章の上手さは言わずもがな。心の深いところを刺しに来るのが本当に巧みで、とても素敵な作品だったと思います。
 まず冒頭から引き込んできますよね。シンプルな一文を提示してからの、「姉さんの結婚式」を使った鬱屈とした思考。明るく取り繕うような皆の様子と、そんな中でポツリと思う「自分だけ」の感情。これはねぇ……子どもだからこそ、なんだろうな。良し悪しの話ではなくてね。両親はどんなに悲しくても、姉の結婚式では外面を取り繕うし、リョウに対しても感情を露わにはできないでしょう。気遣いもあって、その話題にあえて触れない。開けっぴろげに「死んだ兄さんはさぁ」なんて語れるわけないじゃないですか。それを、「自分だけが忘れたくないと思っている」と考えるのはある種の子どもの甘えでもあると思うんです。もちろん、それが悪いと言っているのではないですよ。そういう繊細さ、子どもだからこその心の柔らかさみたいなものを、本作は本当に巧みに表現しているなと、読んでいて感嘆しました。思春期の心をすごく良く捉えているなと思っています。
 そこからも、周囲が気遣うごとにリョウは「みんな忘れたがってるんだ」となってさらに追い込まれる。違うじゃん。君がそんなずっと暗い顔してる中で、みんな「君の死んだ兄さんさぁ」とか語れるわけないじゃないですか。あああぁぁぁ! というもどかしさをずっと抱えながら読み進めていきました。この思考の泥沼にハマって、負のスパイラルから抜け出せない様子が本当に、精神を病んでしまっている人の状態を本当にリアルに描いていますよね。また、思い出のディテールがすごく具体的なのも、引き込んで読ませてくるなぁと思ってます。
 さてさて、カウンセラーの登場。あらすじ段階では「兄さん関係者か?」などと思ってしまっていましたが、プロでいらっしゃいましたか。周囲はやはりリョウの異変に気づいていて、というか兄さんが亡くなった段階でみんな神経質になるでしょうから、リョウの異変は察していたのでしょう。カウンセラーがリョウを見ている……彼女がしっかりとプロとして、リョウの問題に対処してくれるのなら、こんなに嬉しいことはありませんよね。ぜひとも頑張ってもらいたいところです。
 タイトルの「小雨、決行」については意味がわかると、悲しいですよね。決行させちゃいけない。姉さんが慌てて天気を調べているのは、彼の意図が分かった上で「決行させたらマズい」と思ってなのかなぁ、なんて想像してます。ここの解釈は難しいところですが。
 全体を通して改めて、本作は高い文章力で心の深いところをかき混ぜる、非常に上手い作品だと思いました。真似できる気は全然しませんが、すごいなぁと思った部分をいっぱい勉強させていただきたいと思います。ありがとうございました!

1-14 偽アポリナリアの書

 本作はもう、とにかく素敵な世界観を存分に見せつけていただいたなと思っています。もちろんキャラもストーリーもすごく良くて、あらゆる要素がハイレベルだったなぁと感じられました。面白かったです。
 冒頭、ギルギとロプロプのやり取りから良いですよね。絞め殺される猿のような声で鳴く、ガーゴイル型のオートマトン。苦労するギルギと案外その声を気に入っちゃってる感じのロプロプの姿が笑えます。そして、なんといってもディテールの描き込みが凄いなと思っていて、不思議で愉快な世界観をこれでもかと叩きつけてくるシーンになっていたなぁと思います。
 さて、ギルギが可愛いなぁと思ったところで、彼女の過去や養父トマとのこれまでが提示される。このタイミングの妙ですよね。知りたい時に知りたいことを教えてくれるのホント良いなぁと思います。そして、二人の関係がまた良いんですよ。好奇心のままに行動するギルギと、それを穏やかに見守りながら色々と教えるトマ。二人の関係性が凄く良いなと思っていて、単なる上下関係ではなく、本当に家族なんだなと。スピノザのくだりも、欠点を愛す様が感じられてとても良いと思いました。だからこそ、あらすじのように今後引き離されるのかと思うと胸が痛くなりますね。
 そして、落ちてくるオートマトン。しっかりと世界観、キャラクターを見せてくれた上で、いよいよ物語が本格的に動いていきます。あらすじにある通り、ここから【鐘】との対立が始まっていくんでしょう。ギルギの「空を見たことがない」というのがどんな風に利いてくるのか、あたりも個人的に気になる部分でしょうか。いやぁ、心が躍りますよね。
 全体を通して、構成する要素全てがハイレベルだったなぁと感嘆してます。本当に凄かったですねぇ。とても面白い作品でした。

1-15 にゃんにゃんにゃんこの世界征服日記

 いやぁ、これはニヤニヤさせていただきました。構図が二転三転しましたが、魔王様は最終的に魔法少女のマスコットポジションになるんですかね! いやぁ、作者様に楽しく転がされてしまいました。
 冒頭、「吾輩」から入ってからの魔王! サクッと背景を紹介してからの、三毛猫に転生すると。いやぁ、まさかミケ猫……はっ、これは私に憑依転生したやつでは! なんて思いながら、蛍ちゃんとのほのぼの生活を見せていただきましたね。転生しても名前はみーちゃん。テレビから入手する情報が偏ってて笑えます。そして、世界征服するのも自らの欲のためというより、紛争なんかを憂いてのことなのかなぁという感じで、好感度爆上がりですよね。これは好きになっちゃう魔王様! それと、勇者がファンタジー桃太郎なのは笑っちゃう。
 さてさて、これはほのぼの猫ライフものかなぁなんて思っていると、黒猫に追いかけ回されながら念動力を使うと。おやおや、前半で魔力があるって言ってましたが、こうしてちゃんと使えるのは予想外だぞ! となってワクワクします。ただの転生猫ライフものじゃないぞ、と。肉体が成熟したら、本当に魔法を使えちゃうのか! 猫又にでもなりそうな感じだなぁと思いつつ、読み進めていくと。
 冒頭の「車には気を付けましょう」でちょっと感じていた不穏な展開が、ついに来るのかと思ってドキリとします。子ども、猫、トラック。この組み合わせは嫌な予感しかしませんからね。念動力もそこまでのパワーが出せない現状、これはヤバいぞ、どうなる――からの、魔法少女展開かぁ!!! これはやられましたね。いやぁ、ホッとすると同時にニヤニヤしちゃいました。これは一本取られたなぁ。
 とりあえず、トラックの運転手さんが消し炭になってないか心配(ママンが再生してくれてると良いなぁ)なのと、ここに来て一気にみーちゃんが魔法少女モノのマスコットポジションになって、構図がガラッと変わりましたよね。そして、もう関わらないのかなと思ってた前世が魔法少女の敵組織として繋がってくると。あとは師匠ポジっぽいママンがみーちゃんの魔力を見抜いてるのかなぁというのも気になるところ。いやぁ、これはめっちゃ楽しかったですね。
 全体を通して改めて、読者に構図を見せてからひっくり返すというのを何度も行なって、手のひらでコロコロと転がしてくるのが上手いなぁと思いました。そしてキャラも可愛い。作品の雰囲気はほんわかとしたものですが、これはマジで上手い人の仕業だなぁと思いました。いやぁ、めちゃくちゃ面白かったです。

1-16 転生モブ令嬢にシナリオ大改変されたせいでヒロインの私はハードモードになりました

 良いですねぇ、タイトルとあらすじで期待したハードモードな構図を、期待のド真ん中にビシッと提示してくれた作品でした。いやもう、この先がめっちゃ気になりますよね! 主人公の状況を分かってくれて寄り添ってくれる人が、友人キャラでも先生キャラでもいいですが、一人でも出てきてほしいものです。
 本作のマリナは、主人公の分身的な共感できる主人公でした。転生設定の旨味を存分に活かして、ゲーム知識やらなんやらがある状態での転生。そして、ゲームヒロインという立ち位置への喜びと不安。悪役令嬢も転生してきてるかも、というメタ的な思考も読者に寄り添ったものでしたね。それを、後半の展開でひっくり返してくるわけですが。ふふふ。
 ゲーム世界の説明もごちゃっとしてなくて、お母さんとの会話も交えて非常に読みやすく提示してくれたのも読者フレンドリーでした。こうしてサクッと読ませてくれるのは、その先の展開に持っていく前準備としては大事なことだと思います。こういう部分の配慮が行き届いているからこそ、こんな風に後半が映えるんだなぁと思いました。
 さて、やはり衝撃的なのは「お前がこれから我々に何をしようとしているかは分かっている」ですよね。ゲーム世界とはいえ、身分ありの世界で王子からこんな風に敵意を向けられたら、乙女的にとかの前に貴族的にも危機ですから。これはもうけっこうなハードモードです。ヤバいですよね。そして、その奥でほくそ笑む敵が「モブ令嬢」ということで。これは俄然楽しみになってきましたね。
 本作の上手いなぁと思うのは、ヘイトの管理だなぁと思っています。マリナの描き方、イーリスの描き方から読者が自然とマリナを応援し、イーリスを敵だと思えるようになっている。マリナに瑕疵がないのもポイントですよね。純粋に転生生活を楽しみにしていたところからガンと落とされ、つい応援したくなるような。これはぜひとも、このハードな状況をひっくり返してほしいなと思ってしまいます。
 改めて全体を通して、本作は物語全体を通してマリナが乗り越えるべき課題をしっかりと示し、読者が応援しながら次話を読みたくなるような構造を上手く作り上げてきたなぁと思っています。連載したら人気出ると思うので、心待ちにしてますね。面白かったです。

1-17 我儘姫は猫さまを拾ってから大変です!

 これは可愛い我儘姫でしたね。猫さまとの出会いを通して、レティシアの今後の成長が楽しみになる作品でした。すごくホッコリしましたし、最後の展開にも驚かされましたね。面白かった!
 本作はなんといっても、レティシアの可愛さが光っていました。猫の鳴き声が気になって、雨の中を探しに出かける――彼女の行動は、これまでの令嬢教育には反するものだったんだと思うのですが、その普段と違う行動にこそ彼女の本心が表れているのかなと思います。具体的には「それをなんでもないことのように答えた侍女にだ。そして、自分の中の貴族の血が、その通りだから捨て置け、と主張することにも」と、彼女の中の常識と庇護欲が反発しあい、解決できないでいる。その結果として現れる行動が「……私も探すわ」これですよ。これがもう、ただの我儘姫じゃないなと思わせてくれて……いや、侍女の常識や立場からすると令嬢らしからぬ行動→我儘姫になってしまうのですが、レティシアの中でたしかに良い変化があったと思うんですよね。
 さて、仔猫を拾ったレティシアの行動がまた良いんですよ。何も知らずに自分勝手に行動して猫に不都合を起こすという類いのものではなく、ちゃんと知識のある人を呼んでもらう。公爵にもしっかり直談判して権利をもぎ取る。これはきっと、猫さまを保護する前の彼女はやらなかった行動なのかなと思います。彼女なりに一生懸命考えて最善を尽くした結果、その成長ぶりを「良い変化だ」と思ったからこそ、公爵も快く許可を出したんじゃないかなと。
 そして、病床に伏せる母。このシーンに、レティシアの心の柔らかい部分が表れていますよね。母に甘えたいけれど、それが許されない状況。その制約を飲み込みながら、教育された通りの貴族令嬢として一生懸命に振る舞っている。まだ七歳ですからね。猫を保護したことにより、レティシアの感情が少しでも救われていればと願ってやみません。
 さてさて、最後のシーンですが。ここはビックリする展開でしたよね。まさか仔猫が喋るという。カギ括弧がついているので、多分何かしら魔法のようなものによる喋りなのかなぁと想像してます。普通の猫じゃない、というのがまた面白いです。どんな出自のどんな仔猫なんでしょうね。とても気になりました。
 全体を通して、レティシアの置かれた状況下における健気さ、成長や変化が見られてとても可愛い作品だなと思いました。喋る猫さまとともに、彼女やその周囲に良い影響が広がって、幸せに生活していってもらいたいものですね。とても面白かったです!

1-18 石油王に見初められまして

 どうしてこうなった! いやぁ、ぶっ飛んだ展開があらぬ方向にゴロンゴロンと転がっていって、まさにパニックSFって感じでしたね。筆が滑るまま楽しく書いていったんだろうなぁと思う作品で、読んでいる私もとても楽しかったです。なんとも解決の糸口が見えませんが、どうなっちゃうんだろうなぁコレ。
 冒頭のシーンから攻めてきますよね。女子高生らしいユル会話からの、バチバチの戦闘描写。このぶっ飛んだ落差によって、グイッと作品世界に引き込まれて次のシーンを読み進めたくなります。
 そして語られる、めちゃくちゃ迷惑な状況。いやぁ、コレ書くの楽しかっただろうなぁ。巨大ロボが大阪を破壊し、主人公は公安に詰め寄られる。いやぁ、この楽しさはあれですね。ゴジラが東京タワーを壊すシーンだったり、コナンくんの映画で有名な観光地が爆破されたりするシーンと同じような楽しさと言いますか。このパニック具合が良いなぁと思ってます。そしてその動機も、なぜか主人公の感情を勝手に解釈して勝手に暴れ、しかも犯人は勝手に死んでいるという理不尽っぷり。私もこんな風にのびのびと見知った土地を破壊したいものです!
 そして、被害の大きさはまさにSF。転がるように拡大していく被害に、主人公は立ち向かっていくことになるわけです。で、ロボットは主人公の顔もちゃんとターゲットとして認識していないので、止めようがないと。コレどうなるんだろうなぁ。
 一番いいのは、この巨大ロボットに立ち向かえるロボットを誰かが開発することですよね。ただ、果たしてそれが可能なのか。世界の危機ですからねぇ、優秀な頭脳が集まって対抗策を考えてほしいところですが。さぁ、どうなるでしょうね。
 改めて全体を見返して、気分はもう怪獣映画を見ているような感じで楽しませていただきました。巻き込まれる主人公も可哀想で面白かったですし、素直に応援したくなりました。頑張れ! とても楽しい作品をありがとうございます。

1-19 悪魔

 ほほう、これはどうなんだろう。水無月さんは本当にやっているのか、いないのか。兄の言う「悪魔」とは何のことなのか。梨香の言う「願いを叶えてくれる天使」とは何のことなのか……とにかく謎の散りばめられた第一話だったと思います。気になりますね。
 まず舞台がいいですよね。閉鎖的な女学院。完全にではないものの、ちょっと外からは切り離されていて、推理モノの舞台として面白い状況が出来上がっていると思います。外部の人間は目につくので、事件が起きたとすれば、内部犯の可能性が高くなりますからね。こういったシチュエーションの用意の仕方が実に巧みだなぁと思います。書き慣れてますよね。
 そして、情報のピースのようなものも色々と提供してくれています。梨香が実家に帰らない理由は何か。寮長が彼女に雑用を押し付けた理由や、その内容は事件に何かしら関わりがあるのか。悪魔の噂。願いを叶えてくれる天使の噂。水無月さんの手紙の意図は。これらは事件の背景に関わるかもしれないですし、解決の糸口になるかもしれないですし、何も関係ないかもしれません。そういうパズルのピースをドバッと並べてくれていて、この先が楽しみになりますよね。最終的には色々と繋がって、脳汁ブッシャーみたいになると嬉しいなぁと思います。
 さて、後半は死体が転がるわけですが、気になるのは水無月さんの「わたしの無実を証明してほしい」ですよね。今のところ彼女は不思議ちゃんになっているわけですが……一体彼女には何が見えているのか。まだ情報が出揃っていないので、この言葉の真意が見えてくると様々な物事が一気に繋がって来るんじゃないかなぁと思ってます。
 例えばですが、水無月さんはタイムリープしていて毎回犯人にされていて、式見さんが探偵役として有能だということを知っている――とか。いや、本作の雰囲気だと、そういうSF的な要素の入り込む余地はあまりないかもしれませんね。とにかくそういった、この発言が繋がる瞬間がこの先にあるんじゃないかなぁと期待しています。
 改めて全体を通して、素晴らしい推理モノの導入だったなぁと思っています。ここからどんな風に追加情報が出てきて、どんな全体像が見えてきて、どんな風に事態が帰結するのか。先の読みたくなる作品だったと思います。面白かったです!

1-20 没落令嬢と下僕で禁断のスローライフを

 これは面白かったですね。本作はシチュエーション作りが本当に巧みだなぁと思っていまして、納得感のある流れでエミリアの置かれた状況をポンと提示してくれて、この先の物語に期待の持てる第一話だったと思います。
 まず最初の導入ですよね。私はちょっとあらすじ段階から危惧していたんですが、やはり愛人になれって展開がありましたね。それをビンタで打ち返すのはなかなかの状況だなぁと。
 そうして、自然な流れで彼女の置かれた状況が説明される。知らない内に家庭が崩壊して没落、頼れるのは自分だけ。持ちうる資産を処分して借金返済を頑張らなきゃいけない状況。本当に大変そうですよね。
 さらには、母親すら敵に回っている。人間、どうしても折り合いのつかない相手はいますからね……なんともはや、大変な状況です。母親は現状が分かっていないのか! と思いますが、甘やかされて育った貴族女性にそんな理屈は通用しないでしょうからね。歳を重ねるほど修正は効かないでしょうから、母親がそういう反応になるのも理解できます。
 という、かなり追い詰められた状況からのヒーローの登場ですが、あらすじで示されていた通り、最初から敵意をバチバチに向けられていますね。まぁ、エミリアの家族と一緒に過ごしてきて培った貴族観があるでしょうから、こんな感じになるのも頷けるというもの。そして、差別されている一族の出身というのも、彼の刺々しい言動の背景にはあるのでしょう。というのが、説明的になることなく非常に分かりやすく提示されていて、このあたりは上手いなぁと感じました。
 さて、改めて全体を振り返れば、エミリアの置かれた理不尽な状況が、背景となる理由に納得感のある形で読者に提示されていることが分かります。そして、彼と二人で暮らすしかないという流れにも理解できますし、これからどんな風に二人が歩み寄っていくのかにも期待が持てる。こういったシチュエーションのセットアップが非常に上手い作品だなぁと唸らせていただきました。この先二人がどうなっていくのか、楽しみになりますね。面白かったです。

1-21 死にゆくものより、最期の復讐《テイコウ》を。

 なるほど。これは面白いコンセプトの作品でしたね。イジメへの復讐となると、普通は相手を破滅させる方向に考えが向きそうなもの。それを、本作では自分が幸せな状態になった上で死ぬことによって相手を悔しがらせよう、という魂胆なわけですね。終着点は死なんですが、どこか前向きなエネルギーをほんのりと感じられる書き出しだったと思います。
 冒頭から、彼女の心理とリンクするかのような空模様。もう少しで、というところで男に邪魔をされるところから始まります。なかなか食えない男な雰囲気があって、会話にぐんぐん引き込まれていきますよね。そして、闇を垣間見せてからの、ドライブデートの提案。ここまでの会話の流れが、とても引きつけられるものだったなぁと思います。
 そして、金を使い切って、楽しんでから死のうという男の話。読者を十分に引きつけたところで、これが本作のコンセプトなんだと、バシッと提示してくれました。幸せになってから死ぬ……その具体的な内容までは分かりませんが、前向きな自殺という不思議な方向性に向かって進んでいくんですよね。加害者を悔しがらせるほどの幸福とは。そこは、この書き出しの続きで読ませていただける部分でしょうか。
 そうですね、ある種の「無敵の人」ってやつでしょうか。彼も彼女も死に向かっているので、究極的には何だってできるわけです。世間体を気にすることも、この先の人生を気にすることも、何もない。何をしたっていいわけですから、これはぶっ飛んだ逃避行を見せてくれるんじゃないかなと思います。
 期待感としては、死を踏みとどまるのかどうかっていうところの結末ですよね。私は基本的にはハッピーエンドが好きなので、幸せになってほしいとも思う一方で、本作には最高の復讐を成し遂げてほしいという後ろ暗い期待も持ってしまうわけです。ここはもう作者様の腕の見せ所だと思いますが、そんな風に続きの気になる作品だったなと思います。面白かったです!

1-22 生贄令息が死んでしまいそうなので、私が死ぬことにしました

 面白かったです。本作の根底に流れている、誰かのために犠牲になる覚悟のようなものが良いですよね。じわじわと進む珍しいタイプの召喚術の中、主人公だけでなく青年もそうなんですが、こういった覚悟なんかの感情が垣間見えて、すごく応援したくなるような作品だったなぁと思います。
 本作は特にキャラクターが良かったなぁと思っています。まずは主人公のリラちゃん。ちょっとのんびりした印象を受けるものの、年頃の女の子らしい造形なんですが、これがすごく覚悟が決まっていまして。青年を生かすために、自ら進んで異世界に行く決断をすると。優しくもあり、無鉄砲さも感じますが、すごく応援したくなるような女の子だなぁと思って読んでいました。ソトメシ班の活動が異世界でも役立つと良いですよね。あと、聖女の素質がめちゃくちゃあると思います。
 そして青年も良かったんですよ。冒頭から、自分の命が助かる方向性は捨てて、リラちゃんのためにただ死のうとしている。すごく良かったですよね。そんな彼だからこそ、リラちゃんが覚悟を決められたんだと思います。きっと内心で渦巻く思いがあったり、異世界でもなかなかの扱いを受けているのでしょうが、ここから先はぜひとも幸せになってもらいたいものです。
 さて、本作の雰囲気からすると、異世界はなかなかのハードな場所なんだと思います。麻倉部長の危惧しているように、悪い召喚で間違いないでしょうし。「立場が上そうな人が立派な服を着て高圧的な態度なら————逃げるでござる」っていうのめっちゃ大事ですよね。どうにか青年を助けて、逃げてほしいものですが、果たしてどうなるか。
 さて、改めて全体を振り返ると、主役となる二人の好感度がとても高いなぁというのが気付きです。互いに相手のために犠牲になろうとしている、その優しい覚悟にグッと来ます。召喚後は大変なことがいっぱい待っていると思いますが、ぜひ乗り越えていただいて、二人には幸せになってもらいたいものです。とても面白かったです!

1-23 緋翼炎理のブレイブバード

 これは熱くて良かったですよね。没入感の高いハイファンタジーで、グローリアが格好良くて痺れましたし、彼女の今後を応援したくなりました。すごく良かったなぁと思います。
 冒頭から、緊張感のある戦闘。天使というのが神聖な存在というわけではなく、種族のひとつなのだと分かります。そして、明るく輝くグローリアと対比するように、黒い翼で無感情に振る舞うレイヴン。まさに強者同士の闘争という感じで、手に汗握るところから物語が始まります。いやぁ、いいですよね。ともするとホットスタートって読者を置いてけぼりにしがちなんですが、本作はしっかりと巻き込んできますからね。私も含め、ガッチリ掴まれた読者も多かったのではないでしょうか。
 場面は変わり、彼女が右目と右翼を失った場面。ここが本当に、心を突いてきますよね。ドクター、司令官、グローリア。それぞれの立場で思うところが伝わってきて、やるせなさを感じます。そして、この状態になってもまだグローリアが戦いたいという意思を持っていることが、強く伝わってくる場面だと思いました。空を飛んで戦うことは、もう彼女自身の誇りになっているのだなと。そして、レイヴンの存在は彼女にとって悪夢のようなものなのだとも。
 一方で、おばあちゃんの気持ちも分かりますよね。可愛い孫に危ないことはしてほしくない。目と片翼を失った彼女を見て、どんなに苦しい思いを抱えていることか。それが、滲み出ているようでした。
 そうして失意のまま過ごすグローリアが、少年と出会う。無鉄砲ながら、空を飛ぶ機械を作るために頑張る彼の姿に、グローリアの熱が再度燃え上がる――ここがもう熱いですよね。いやぁ、すごく良かった。
 改めて全体を通して見てみると、登場するキャラみんながそれぞれ自分の人生と意志を持っているのが分かります。これがすごく魅力的で、ファンタジー種族ながら「人間」を強く感じますよね。グローリアの今後をすごく応援したくなる、熱い作品でした。面白かったです。

1-24 越すに越されぬアタカとは〜あるいは時計師が竜を討ち滅ぼすまで〜

 いやぁ、これは世界観に圧倒されますね。ディテールにこだわり抜いて、もはやリアルに感じるほどの濃いファンタジー。とてもワクワクする世界を見せていただいたと思います。
 まずは冒頭、滑龍の骨を使った時計作りの描写から、世界観が見えてきます。ペダル式の砥石なんかの描写から、それほど機械文明が発達しておらず、工業は職人の腕にかかっているような時代であること。採取依頼なんかを出して、素材を狩ってきてもらうという仕事の流れ。
 そしてその後の描写で、竜、ダンジョン、探索者、そして時計師などのことが次々と描写されていきます。それはフワッとしたファンタジーではなくて、とても現実的で、まるで実在してそうなリアルな世界だなと感じられますよね。作者様がどこかの世界を覗き見ながら書いてるんじゃないかというくらい、ちゃんと社会の整合が取れていて、主人公の時計師という職業についてもよく分かるようになっています。これはすごいなぁ。
 竜「アタカ」に対する人間の反応も、すごくリアルですよね。どんな状況でも、したたかに生きていかなきゃいけない。時計師にとって欠かせない滑龍がどこかに引っ込んでしまったというのがもう、致命的とも言える生活苦を生み出していますが、それでも生きていかなきゃいけませんからね。
 そんな状況なので、危険なアタカ退治にかり出されることにも納得感がありました。本来であれば、彼女は同行して証書を書く仕事をするだけで良いはずなのですが……さて、ここからどうなっていくのか。とても楽しみになる引きでした。
 全体を通して、世界観を本当に丁寧に見せてくれたのが印象的でしたね。本当にあってもおかしくないと思わせるリアルなファンタジーで、とてもワクワクさせていただきました。めちゃくちゃ面白かったですし、すごく好きでした。ありがとうございます!

1-25 凡ては過去の積み重ね

 語り手が読者に語りかけてくる、面白い試みの作品でしたね。実はこういうスタイルは私もチャレンジしたことがあるんですが、なかなか難しいと思ってるんですよ。というのも、視点主人公(ここで言うと客のトザメ)がどんな仕草をしているのか、何を話しているのか、そういうのを相手のミケさんの発言から読者に想起させなきゃいけませんからね。必然的に、話し手はめちゃくちゃ雄弁にならなきゃいけないってことになります。
 そこのところ、本作はいいですよね。ミケさんのキャラ造形がそういうおしゃべりな感じを自然と出せるようになっていて、トザメの発言をオウム返ししたり、挙動に言及してりしても、自然に処理できますからね。そういうことを自然に行えるキャラを持ってきたなぁと思います。これは上手いですよね。
 さてさて、本作はおそらく短編連作を想定した作品で、その第一話だったのかなと思います。そして今回は、トザメに関する過去の出来事。とても悲しい人生で、切なくなりました。救いようのない話。そしてその後、彼は「トザメという名を知る者」→村と同じ宗教を信仰する者を探しては焼き殺す、という人生を歩んできます。ミケさんの前に現れたのは何の因果か。彼が悲しい過去を乗り越えられるようになるといいなと願ってしまいますね。
 ミケさんは特に、彼を慰めるような言葉を吐くわけでも、諌めるわけでもない。ただ、またここにおいでと、変わらないスタンスでそこにいてくれる。この距離感がすごく心地よいものだなと思っていまして、ミケさんなりの優しさのようにも思えます。
 ミケさんがどうやってトザメの過去を知ったのか、だったりだとか。そういったことはあえて謎のまま、不思議と胸が温まるような、素敵な読後感の作品だったと思います。面白かったです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?