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第22回 #書き出し祭り 第二会場 感想

 こんにちは、お祭り大好き、まさかミケ猫です。本Noteでは、第22回 #書き出し祭り 第二会場の感想を書いていきたいと思います。


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第二十二回 書き出し祭り 第二会場

何かありましたら質問箱まで

感想

2-01 世界を救った勇者パーティは廃棄処分となりました

 ほらぁ、やっぱりね。世界を救った勇者パーティを、そう簡単に害せるわけがないんですよ。ニヤニヤ。いやぁ、とても良かったです。本作はすごく爽快感のある作品でしたね。勇者追放モノって感じですが、力でねじ伏せましたね。スッキリさせていただきました。
 冒頭から、宰相閣下の茶番劇が光ってましたね。めちゃくちゃ白々しいなぁと思いながら読んでいまして。『世界が平和になれば、我らは不要。あとは宰相閣下にお任せ致す』なんてね、そんな手紙残すわけあるかーいと思っていたら、王様とハモっちゃいました。茶番だなって。
 さて、場面は変わって勇者一行。どうやら襲撃を難なく退けたのが伺えます。そこから回想に入っていって――いいですね、勇者らしい。超然としていて、騎士団は相手にもなっていない様子ですね。副団長たちは、ある意味で平和ボケというんですかね。災厄竜を退けた勇者たちを甘く見て、殺気すら隠さない。夕食に仕込むのは致死性の低い毒。そんな中、勇者たちは普通に夕食をとり、彼らを待ち構えると。そして、襲ってきた奴らの右腕を切り落とし、副団長に啖呵を切って、転移で引く。ここまで実に鮮やかな流れでした。爽快ですよね。
 さて、転移した後は。ルーシアは教会へ、モルガンは故郷へ。勇者と魔術士マリンは、何やら甘い空気を醸し出しながら消えていくと。いやぁ、良いじゃないですか。お幸せに! 勇者の名前が「アキ」というのは、どことなく日本風ですよね。明示はされていませんが、転生絡みでしょうか。
 あらためて振り返ると、本作はきれいな流れでストレスなく読み進めることができたなと思っています。勇者たちが超然としているので安心感があり、敵役が明確で爽快感があり、勇者と魔術士の恋愛要素もありと、軽い気持ちで楽しい作品になっていたと思います。面白かったです!

2-02 無職最強伝説〜現代社会に冒険という生き方が増えたなら〜

 ほほう、ジョブやスキルありの現代ダンジョンものでしたね。不遇スキルだと思われたものが実はかなりの高性能を持っていると。面白いなぁ。ともすると不遇職ものって冒頭暗くなりがちじゃないですか。そこを本作は、主人公アンズの軽い語り口もあって、すごく気楽に楽しむことができたなと思います。純粋にワクワクして楽しめたのが良かったなぁと思います。
 冒頭から、サクッとステータス表示して説明が入る。背景がシンプルに説明されているので、ストレスなく読み進められます。そして、無職がEX職でラーニングできるとか、どう考えてもめっちゃ強いじゃないですか。大当たりだと思います。どんな技能をラーニングしていくのか、この時点からもうワクワクしますよね。
 さて、場面は変わってフィーくんとの会話。これがまた読者フレンドリーでよかったと思います。恋愛要素としてのニヤニヤもあるんですが、ここで大事なのは「一般的な感覚で技能というのがどういうものか」ってところだと思うんですよ。例えば、一人二個~三個とか。野良で組んだ魔法使いの技能構成とか。そういう情報があってはじめて、無職がどのくらい強力なのかが明確になりますからね。
 そして、サクッとラーニングする描写。いきなり二つも技能を手にして、これは強いと言わざるを得ませんね。フィーくんとはいい感じの関係になるかとも思いましたが、能力的な部分だけで言えばアンズは基本ソロで活動することになると思う(色々なパーティに臨時で入らせてもらいながら、あらかたスキルを学んだ後はソロになるのかなと)ので、二人は今後どうなっていくんだろうなぁというのも気になりました。
 最後の場面、何やらロリババア風な神様みたいなのが現れると。力が欲しいか系! それに対する返答には笑いましたが。さて、これはどういう状況なんですかね。無職だけで無双できると思いますが、そこからさらに能力を積まれるんでしょうか。これは、この先の展開がとても気になりますね。
 あらためて全体を通して、やはりアンズの語り口がいいなと思うんですよね。悲壮感漂う感じだとちょっと読み味が変わってきてしまうので。彼女の冷静で淡々としている部分が、本作の読みやすさや面白さを補強しているなと感じました。面白かったです!

2-03 少子化対策はセクシーに

 なるほど、これは面白いアイデアでしたね。異世界召喚による若者の失踪多発。それを追う刑事が爆笑してしまうほどの少子化対策が……若者が連れ去られるのを代わってくれるアンドロイドの開発と。いいですねぇ、こういうの好きですよ。てっきり私は、逆に異世界から大量の若者を拉致し返して日本に住まわせるのかなとか思ってたんですが、それはそれで問題が多そうですからね。作者様のアイデアに唸らせていただきました。これは面白い。
 さて、冒頭からこの世界の問題点がバンと提示され、すごく納得感がありましたよね。少子高齢化は今もけっこうな状況ですが、それがさらに加速していった未来。そして「神隠し」に関するあれこれがゲンさんの口から語られていく。異世界召喚だなんて荒唐無稽だ、とゲンさんは鼻で笑うわけですが、あらすじからすると異世界から帰ってきた奴がいるんですかね。政府はこれに大真面目に対策することにしたと。いやぁ、なかなかに愉快な状況ですよね。
 そして視点は変わり、異世界側へ。バルドの自嘲を込めた一言で、ザッと状況を察せられるのは上手いですよね。そして、召喚士リーシャによって「今回の異界の戦士」が喚ばれると。これは何気なく見えますがなかなか良いセリフで、例えば召喚しているのが王様などの権力者ではなく、そこそこの地位にはあるものの一介の召喚士であろうこと、すでに何度も召喚を行なっていることなんかが浮き彫りになりますよね。なので、日本から若者の異世界召喚を止めるには、おそらくこの世界の問題を解決する必要があるんだろうなぁということが分かります。
 そして召喚された者の正体が、日本政府公認少子化対策アンドロイドと。このアンドロイドの登場が良いですよねぇ。拉致される若者の代わりに異世界にやってきて、この異世界の問題をズバッと解決すればそれ以上の召喚は不要になりますし。もしかすると、この世界の権力者と協議して、今以上の異世界召喚をやめるよう取り決めを交わすことも可能かもしれません。何らかの方法で若者を返してもらったりだとか、今後交流を深めるなんてことも、このアンドロイドを起点にできるかもしれませんからね。色々と物語を広げていけそうな一手だなぁと思いました。
 改めて全体を振り返ると、ファンタジー要素もあるんですが世界の捉え方がSF的だなぁと感じています。人間模様を社会全体で大きく捉えて、皮肉交じりに面白がるような視点ですよね。こういった作品はすごく好きなやつですので、楽しく読ませていただきました。とても面白かったです!

2-04 僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

 いやぁ、これはエリオットが不憫でなりませんね。すごく応援したくなりました。どうかここから幸せになってくれぇと思ってしまいますが……この先に待ってるのBL展開なんですよね。本人の嗜好はストレートっぽいですが、大丈夫かなぁ。こう、可哀想なことにならないか心配です。
 冒頭から、いきなりの胸糞シーンから始まりますよねぇ。アンナとスティーブがめちゃくちゃ不快なんですが、ここまで読者に嫌われるキャラを書くのはすごいなぁと思いまして。こんなん絶対あとで痛い目見てほしいやつじゃないですか。婚約者と親友にこんな悪しざまに言われて、ホント可哀想だなぁと思いました。本人の嗜好は可愛らしいものなんですが、エリオットに「可愛い」という表現を使うのはもはや侮辱なんじゃないかなぁと個人的には思います。アンナからの妹発言や、スティーブからの抱いてやろうか発言なんかと、何ら変わらない。彼は彼なりに、大切に思っていた二人のために精一杯やっただけだったのに。あああぁぁぁぁぁ!
 彼にとって救いなのは、家族の理解があるところですよね。家族がアンナに対して怒ってくれている……伯爵家と子爵家ですから、エリオットの知らないところでズバッとやっててもおかしくないなぁと思います。貴族の結婚ってそういうことですからね。慰謝料とは別に、ノルマン子爵家には痛い目をみてほしいものです。没落しろぉ~。
 さて、ハーブガーデンに兄上が来るシーン。ハーブティを淹れる描写がすごく良いですよね。そして、エリオットの心の傷がまだ全然癒えていないことが描写されていて、胸が苦しくなります。あんなやつらさっさと忘れて幸せに過ごしてほしいものですが、やはりもっと時間をかけていかないとなかなか難しいものかもしれませんね。
 最後に兄上から「魔王の助手」という話を打診されます。私としては「この魔王が女の子だったらなぁ」と思ってしまうんですが、これは私が普段BLを嗜まないからでしょうねぇ。描写的にエリオットは特に同性愛者じゃなさそうなので、この流れでイケメンに言い寄られてもスティーブと同類にしか見えなくて、可哀想だぞぉ、さらに引きこもるんじゃないかぁと私は思ってしまうわけですが……そこはこれから登場するディルクが性別の壁を突き抜けてくるのでしょう。たぶん。いえ、このジャンル詳しくないので、どういう風に期待するのがいいのか分かってなくて、すみません! 作者発表後にこっそり教えてください!
 全体を通して、エリオット幸せになってくれぇと願わずにはいられない、そんな作品だったなぁと思います。見事に心を揺さぶられました、面白かったです!

2-05 極限異形大戦―この物語に『主人公』はまだいない

 すごくチャレンジングな第一話でしたね。主人公を決めるための戦いで、勝者となった者に付随する「主人公補正」を目当てに七つの国がトーナメントを行うと。そして、第一話まるまる使って選手たちを紹介するという作品。いやぁ、めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか。どのキャラも面白そうで、これは誰が勝ち上がるのか今の段階では予想がつかないですね。
 マンネンとクマガイはどっちが勝つんだろう。どちらの展開もありえそうですが、個人的にはクマガイなのかなぁと想像してます。というのも、マンネンの言動は少々読者ヘイトが高い気がするので、やられる前フリみたいに感じます。が! そこを逆手に取ってひっくり返してくる可能性もあります。孫ポイントをどう持ってくるかが鍵かなぁ。
 ビーはたぶんめちゃくちゃ強いですよね。キャラ的にも女性キャラは残したいはずなので、一回戦で負けるってことはなさそう……と思わせながらの逆張りもありえそうですが。お相手のブルも強そうですし、色々とバックストーリーを持っていそう。ただ、ブルとクマガイが直接当たることはないのかなぁ。どちらかが負けて、残された方が割り切れない思いを抱えながら勝ち進む方がドラマチックな気がしますから。なので、第一試合でクマガイが上がってくるなら、第二試合はビーが勝ち残るのかなぁ。どうだろう。
 第三試合は、マタタビかなぁ。ドイン、イヘイタ、セイタイの三人組が勝つのはあんまり想像できないんですよね。というのも、三人組が勝ってしまったら「でも三人じゃん」って読者がなると思うので。あとマタタビが負けると「眠そうにして負けただけの人」になっちゃいますし。名前的にも、三人組は三大洋から雑に付けた感じですしね。圧勝してマタタビの強さを見せつける感じでしょうか。ただこれも、そう思わせといてひっくり返してくるパターンありますから。
 そして、レオン。彼は強いでしょう。ただ、最後まで勝ち残るかどうかは微妙だなぁ。二回戦のメンツ次第って感じにはなりそうですよね。
 どのキャラもすごくワクワクする造形で、それぞれの背景にあるストーリーが気になります。戦いながらそういったものを見せてもらえると、さらに読者の心が燃え上がりそうですよね。いやぁ、これは実に楽しみになる第一話だったと思います。面白かったです!

2-06 愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

 これは見事なすれ違いでしたね。ハッピーエンド保証付きとはいえ、読んでいて胸が苦しくなるような切ない恋愛模様でした。色々と拗れてそうな感じですが、この先の展開が気になりますねぇ。面白かったです。
 冒頭、新聞記事からスタート。それを、田舎の官庁のおっさんがアレコレと邪推する(若い頃は遊んでいたとか)のがすごくリアルにありそうで、スッと引き込まれますよね。一方のコーデリアの様子から、明確に提示されてはいないものの、読者には彼女の事情が透けて見える。この書き方がすごく上手いなと思っていまして、事態の核心をそのまま書くのではなく、周辺から浮き彫りにするような書き方をしているのにすごく引き込まれました。コーデリアの一人称ではなく、あえて三人称視点で書いているというのを、とことん活かしているなぁという感じですよね。
 そして、泣きそうになりながら王都までやってきて、宰相に面会しようとする。使用人が追い返すのはまぁ職務ですが、かなり激しいやり口ですよね。「もし本当に宰相の恋人だったらどうしよう」とは思わなかったんでしょうか……どうだろうなぁ。この使用人があとで「コーデリアという女性が会いに来るかもしれない」とお達しがあったときに「(やべっ、どうしよう)」となった後の行動次第でも物語の流れがだいぶ変わるんじゃないかなぁと想像して一人ニヤニヤしています。
 ガプル公爵令嬢については、まだ分かりませんよね。どうなんだろう。ありそうなのは、既成事実で周囲を固めて宰相を落とそうとしている令嬢で、コーデリアが本当に恋人だったら秘密裏に消そうと思っているとか。このあたりは、彼女がどういうポジションで立ち回るのかがまだ見えていないので、どうかなぁといったところ。
 さてさて、見事にすれ違ってしまっている二人ではありますが、この後どんな展開が待っているんでしょうかね。最終的にハッピーエンドになるのは保証されているものの、そこに至るまでのあれこれを想像してジタバタしたくなります。あぁぁぁ……これは気になりますねぇ。どうなんのかなぁ。すごく面白かったです。

2-07 令嬢と悪魔な家令〜いいでしょう。暇つぶしに仕えてさしあげます〜

 いやぁ、これはとても面白かったですね。さり気なくヘイトコントロールが上手で、ジョアナの今後をすごく応援したくなりますよね。ぜひともこれからは、彼女をめいっぱい甘やかしながら楽しい生活を送ってほしいものです。(ロエルくんからはそっと目をそらしつつ)
 まず何と言っても、ジョアナのキャラですよね。十七歳にして死の運命を知る。満足に動かせない体。お気に入りの場所には、本や骨董品なんかが溢れていて。ここでの彼女の祈りが良いんですよね。ダンスをしてみたい。恋愛や結婚をしてみたい。もっと長く生きたい――とても切実で、共感できる祈りです。これはもう、動機としてはとても強いものですから。この後に悪魔召喚をしても、まぁしょうがないかという説得力がすごくあるなぁと思っています。
 そして、ロエルについて。彼に関するヘイトコントロールがすごく巧みだったので、私はついお勉強メモに残してしまいました。最初はジョアナを気遣う良い人間として登場しながら、悪魔が現れると「あなたの責任だ」と怯えて慌てふためき本性を現す。どうやら見目も麗しいみたいですが、ジョアナはすっかり失望してしまうと。こうして上げて落とすことにより、その後に悪魔が憑依しても「ロエル可哀想」っていう声が出ないんですよ。いや、冷静に考えたらロエルは可哀想なんですよ。特に悪いことをしたわけでなく、お嬢様が悪魔を呼び出そうとしていることにビビってたら身体を乗っ取られるわけですから。でも、ジョアナのシンプルだけれど強い動機と、ロエル自身のヘイトを集める振る舞いが掛け合わさり、悪魔が彼の身体を奪っても「悪魔にもジョアナにも読者がヘイトを向けない」という構図が出来上がるわけですね。さらには、身体を乗っ取る形式のため、召喚された悪魔が家令として働くという状況を自然と構築できると。いやぁ、このロエルくんの獅子奮迅の働きには拍手を送りたいですね。また、彼に魂が残っているのか、乗っ取られている間の記憶があるのか、ここから入れる保険があるのか(身体を乗っ取りかえすことができるのか)なんかも今後のストーリーに関わるかもしれません。いや、大人しく退場かもしれませんが。
 ちょっとロエルくんの素晴らしい働きぶりに文字数を割きすぎたかもしれませんが、悪魔がまた良いですよね。憑依して口調が流暢になるということは、ロエルくんの記憶も自分のものにしていることでしょう。短い言動から、実に人間離れした悪魔っぷりを見せてくれていて、今後に期待が持てますよね。ぜひともジョアナを手のひらで転がしながら、優秀な家令っぷりを見せつけてほしいなと思っています。
 さて、全体を振り返ると、ロエルくんをうまく立ち回らせることにより、「令嬢が自分の寿命を伸ばすために悪魔に家令の身体を差し出した」のにも関わらず「令嬢にも悪魔にもまったくヘイトが向かない」という作品を書き上げたことに称賛を送りたいと思います。そして、ジョアナがこれまでの不遇っぷりをひっくり返し、幸せな生活を送ってくれることを願っています。めちゃくちゃ面白かったです!

2-08 魔法陣プログラマー~異世界、修理屋として目指すスローライフ~

 いやぁ、面白かったです。国家の虎の尾を踏んだというか、普通に免許は取りましょうねという話でしたね。危険だからこそ免許制にしてるんでしょうし。取り返しのつかない失敗をしてから「知らなかったんです」じゃ通じませんからねぇ……いやぁ、監査来ちゃったかぁ。これは作者様、主人公の未熟さをあえてこういう形で書いてきたんだろうなぁと思って。なかなかに悶絶度の高いお話でしたよねぇ。いやその、私も趣味でプログラミングとかしてたとこから仕事にした人間なので。共感性羞恥のようなものが。
 まぁ、転移前がアマチュアのプログラマだったらある意味自然なことなのかもしれません。これが職業でプログラマをしている奴だったら、自分が作ったコードが絶対じゃないことも実感しているでしょうし、いざ不具合が見つかった場合の責任の所在がいかに大切かというのも痛いほど分かっているはずですから。「お客さんがそれでいいと言ったから」は通じないんですよ。お客さんがド素人なのは当たり前で、その要求を聞いた上で機能だけじゃなく性能やコストや法律やらに問題がないかを考えて実現するためにプロが仕事をしてるわけですから。上司に断りなく違法改造した商品をお客様に提供したら、普通にクビです。親方も言ってますが、それで何か不都合が起きた時がまずいですからね。例えばそれが命に関わることだった場合は誰が謝罪するべきなのか。お金に関わることだった場合に誰が補償するのか。その能力があるのか。そういう、本来だったら魔法陣の制作者が負うべき責任の所在が、違法改造することによって曖昧になってしまいますからね。ここについては親方はちょっと対応が甘すぎると思いますよ。もっと厳しく言ってやってもいい部分だと思います。これはマジで。「やりたいなら免許を取ってこい」っていうのは大前提ですからね。そのための免許なんですから。
 さて、少々熱く語りすぎましたが、まさにそういった問題を抱えた主人公なのだということが、冒頭からずっと語られていくわけです。我がことのように恥ずかしいぞ。親方に叱られるものの、何が悪いのか全く分かっていない主人公。日曜大工で好き勝手する分にはいいですが、プロとして仕事を任せちゃまだダメな奴ですよね。シルフィだってただの親方の娘ですから、彼女が良いって言ってくれても何の意味もありませんからね。困ったものです。ひゃあ。
 罠に関するエピソードなんかもそうですよね。これで何か不具合があって罠が起動しないなんてことになったら、ガチで多くの命が失われている場面です。素人の思いつきで部分的に弄って良いものではないですし、実地で試験するなんてもっての外ですよ。ちゃんと能力があるんなら「じゃあ免許取ってこい」って話なんです。プロの仕事には大抵そうするだけの理由があるのに、どこかそれを見下しているようにも見える。リズが呆れ顔をするのも当たり前ですし、本当に免許を取ってこないと将来的に彼女を殺す結果になりますよ。比喩ではなくマジで。
 さてさて、監査の人がやってくることによって、ナオトのせいで、親方はこれまで積み上げてきたキャリアも信用も棒に振ろうとしているわけですが。「見られるとヤバい?」なんて呑気に言ってる場合じゃありませんよ、これは本当に。監査の人は親方の旧知の相手らしいので、場合によっては厳重注意くらいで済ませてくれるかもしれませんが、彼は本当に監査の人や親方の言う事を真面目に聞いて学ばないと、取り返しのつかないことを普通にやらかしそうな危うい主人公だと思いました。昔の自分を見ているようです。なんてこった。
 いやぁ、面白かったですね。私が長々と書いたことは、もちろん作者様が承知の上で手のひらの上でコロコロと転がしているのだと思います。この作品がどういった方向に向かうのかはまだ読めませんが、そういった危うい主人公がどういう方向に行くのか――しっかり学んでまともな職人になるのか、大失敗して姉妹を失ったりするのか、自分は悪くないと言い張って無免許で違法改造を続けるのか――と、揺れ動く今後についつい思いを馳せてしまいました。大変羞恥心を刺激されましたが、面白かったです。

2-09 俺のうかつな一言で、国際パチンカス女子養成所が出来た。でも儲かるから規模拡大

 面白いですねぇ、私はパチンコ業界はまったく詳しくないのですが、面白いなぁと思って読み進めていました。たしかに一般的なイメージは良くないですし、ちょっと衰退気味の業界だとは思っています。どうしても娯楽産業になってくると、景気が悪ければ客の財布の紐も固くなりがちですし、なかなか厳しいんだろうなぁと読んでいて思わされました。なるほど。
 さてさて、高校生の時に父親の経営相談に乗った博徒氏ですが(すごい名前ですよね、親父も一か八かみたいな名前ですし)、女性専門店ですか。実際そういうのあるんですかねぇ。そのアイデアを出した彼もすごいと思いますし、それを活かしてちゃんと経営を軌道に乗せた親父もかなりのやり手だなぁと思います。こうしてちょっとしたアイデアから上手く転がっていくのは読んでいて爽快ですよね。
 そして、サウナ併設によって外国人女性がどんどん客として現れる状況。いやぁ、これは面白いですね。女性の底辺ギャンブラーの魔窟と化すトマホーク。いやぁ、めちゃくちゃアングラな方に転がっていっていて笑いました。既に国際パチンカス女子を養成し始めているだと……! これはヤバいですねぇ。
 博徒くんは大学に通いながらトマホークの副店長をすることになる。しかも、インディ――ごほんごほん、アメリカ先住民族の女子従業員ばかりで、半分は同じ大学に通う同級生になると。これはハーレム、ハーレム展開というやつじゃないですか。メンバーはレディース出身の店長鬼首ちゃん、パチンコのノウハウを知りたいアメリカ先住民族の留学生ちゃんたち、そして客としてやってくる世界中の底辺ギャンブラー女子たち……ま、まったく羨ましくないぞ……!
 そして物語は、鬼首ちゃんの登場によって引きとなる。うわぁ、どうなるのかすごく気になりますね。先の展開を読みたいです。
 改めて全体を通して、知らない業界のお仕事ものっていう感じで面白いですし、事態が思っても見ない方向にゴロンゴロンと転がっていくのが本当に愉快でしたね。SFっぽい面白さを感じました。すごく好きな作品ですし、ぜひこのあとどのようにトマホーク・グループが大きくなっていくのかも読ませていただきたいと思っています。ありがとうございました。

2-10 脇役覚醒者100回目のやり直し

 ふむふむ、記憶喪失かぁ。ループに記憶喪失を重ねてくるってどうなるんでしょうね。これは先の読めない展開になってきました。気になるなぁ、どうなっちゃうんだろう。いろんな方向性があると思いますが、面白いですよね。それと、本作には様々な要素が含まれていて、独特の世界観が作られていたなぁと思います。
 冒頭、死にゆく颯のシーンから始まります。そして事切れる前の思考で、自分が恋心を向ける凪が、親友だった夕夜に感情を向けていることを読者に提示する。もう何度も繰り返しているので、そのあたりは正確に把握しているのでしょう。そして、ダンジョン『赤富士』を攻略するという本作の目標が示される。このあたりの情報提示が自然で上手いですよね。そして、やり直しても記憶が継承されるのは颯だけ。このあたりの仕組みに何か裏がありそうですよね。
 そして、100回目のやり直し。世界観は未来なんですが、『幕府』『藩』などのワードが並びます。ダンジョンありのローファンタジーにも色々とありますが、描写の仕方からなんとなく、SF的な設定というよりもファンタジー的な世界観設定のように思いますかね。なかなか興味深い舞台だなぁと感じます。そして、家族のこと。凱風のこと。妖刀村正のこと。そして、最初の人生での凪のことや、夕夜のこと。今後の展開のキーになりそうな情報が散りばめられていきます。こういった諸々をどのように解決していくのか、楽しみになりますよね。願わくば、家族が生き残って、凪とも結ばれた上で、赤富士を攻略できるのがベストなんでしょうが。そう上手くいくかどうか。凱風は颯なんじゃないかと思いますが、果たして。
 そして、巻き戻りの経緯もここで語られます。なるほど、颯がなぜそのような願いにしたのか。ちょっと条件なんかがまどろっこしいですし、例えばですが強くてニューゲーム的な巻き戻りができれば、100回も繰り返さなくて済んだんじゃないかとも思います。そのあたりも、今後の物語の中でいつか語られるのかも知れませんね。あとは、この「太古の魔法が閉じ込められた魔石」を手に入れたのは颯だけなのか。そして、もう二度と手に入れることができないのか。そういったあたりも気になるポイントです。
 さて、記憶を失う前時点で凪を潜在能力判定には連れてこれたので、最低限、最初の人生での凪が変わってしまうパターンだけは防げたかなと思いますが……ここで記憶を失ってしまうと。繰り返しものの最大の武器である「記憶」を封じられた状態で、あまり有効な行動を取れないと思うんですよね。おそらくここからの記憶の引き出し方は、追い詰められた瞬間にフラッシュバックするとか、そういったものになるのかなぁ。果たしてこの状況で、彼は願いを果たせるのかどうか。とても気になりますね。
 解決すべき大きな課題をいくつも提示しつつ、記憶を封じて制約とする。あらためて、本作がどういう方向に転がっていくのかすごく気になりますよねぇ。すごく面白い書き出しでした。

2-11 回収一課

 ポンポン飛び交う会話が愉快な作品でしたね。まだ謎が多くて色々と気になる状態なんですが、どうなんだろうなぁ。色々と想像の余地はありますが、実際のところは作者様に聞いてみないと分かりませんからね。作者公開後にいろいろと裏話を語ってくれるといいなぁと期待しています。
 まず、主人公の善子ちゃんのキャラが良かったですよね。けっこうあっさりとした性格の子で、空気を読まずに異動させられてしまいますが、それをカラッと受け入れてしまう。彼女の語り口が軽いので、すごく読みやすく作品世界に入っていけました。そして、美人の市松さんと、おじさんの葛木さん。同期らしいコンビですが、二人の関係性はどういうものなんでしょうね。
 そして、回収一課の表向きの仕事が明かされます。「業務内容は、支払いをせず逃げているお客さんから、資金を回収する係だ」……なるほど、そういう回収なのかぁ。先輩二人はちょいちょい出かけていって、善子ちゃんは左遷部署でのホワイト労働ライフを楽しんでいると。この肝の太い感じが彼女の魅力ですよね。こう、すごくちゃっかりしてるところが良いなぁと思います。
 そして場面は変わり、路地裏で何やら大変な活動をしている二人の姿。女組長みたいな市松さんと、なんかめっちゃ強い葛木さん。一体どういうことなのか、意味深ですよね。で、ひとまずその場は立ち去ると。翌日、なんだか善子ちゃんの認識は勘違いだとなるわけですが……え、戦ってる以外の何だっていうんでしょうか。これはちょっと、判断するには材料が足りませんよね。ファンタジーにもSFにも転がしていけると思いますし、現代ドラマだとしてもどういう背景なんだろう……このあたり、作者公開後に教えていただきたいものですね。何だったんだろうなぁ。
 さて、さっそくヤバい相手に捕捉されてる??? ってところからのカケルくん身内だったんですねぇ。この勘違いは笑いました。で、市松さんから叱られつつ、葛木さんを親父と呼ぶ。うーん、謎がさらに深まりましたね。結局のところ、回収一課の仕事は何なんだろうなぁ……善子ちゃんはここからどんどん回収一課の事情に巻き込まれていくのでしょう。果たしてどんなことになるのか。楽しみですね。
 改めて全体を振り返ると、とにかく謎を散りばめた第一話だったと思います。作品のジャンルもどんな方向にでも転がせていけると思いますし、登場人物たちの関係やどんな仕事をしているのかなど、まだまだ見えていないものがたくさんあるなという印象です。そういったものを、善子ちゃんの面白い視点と軽快な会話で楽しませながら提示してくれた作品だったなと思っています。面白かったです。

2-12 大魔法使いの、愛しの箱庭

 ほほう、これは拗れてますねぇ。いいぞいいぞぉ。いやぁ、溺愛される側の記憶が吹っ飛んでると、ここまで気持ち悪く見えるものなんだなぁということがよく分かる作品でしたね。すれ違いっぷりが面白すぎます。これはどういう結末に落ち着くんだろう。
 さて、冒頭。箱庭の説明から入って、主人公が猫であることが示されます。マリアの記憶の中で暮らす猫。存在からして謎だなぁという感じですよね。時系列としては、彼女が猫として目覚めて、シリウスがある程度その存在に慣れた頃って感じでしょうか。
 猫として転生しながら記憶がほぼない状態のマリア。そして、シリウスに見つかってマリアの肉体の元へと向かう。なぜその状態になったのか……というのは物語の中でこれから明かされるんでしょう。ご主人はマリアをすごく愛しているのが、ここの描写で分かっていいですよね。本人が聞いていないと思っての言葉や行動には本心が乗るものだと思いますし、愛情深さがよく表れているなぁと思います。
 さて、そんな箱庭をぶっ壊し、外の世界に出てくるマリア。その段階になって自分がマリアだったという記憶を取り戻し、シリウスに報告しようと駆け寄ろうとすると……ブチ切れ状態と。まぁ、うん。それはそう。マリアの状態がまだ判明していないので分かりませんが、シリウスからしたら大事なマリアの記憶をぶっ壊した極悪猫ですからね。
 また、マリアの記憶も不完全なようです。シリウスのことはこれっぽっちも覚えていない彼女の目線では、これまでの溺愛っぷりがめちゃくちゃ気持ち悪く見えますからねぇ……いやぁ、これはマリアから見るとおぞましい状態だと思います。うん、そうだよね。
 あらためて全体を振り返ってみると、本作はすれ違いからの対立という構図をすごく巧みに作り上げているなぁと思っています。上手いですよね。どちらの感情にも納得感があって、拗れるべくして拗れてるって感じがすごくあります。これどうなるんでしょうね。ちょっと落ち着いて冷静に話し合えればいいんですけど、マリアは猫だから言葉が通じない(そういう魔法があればいいんですが)ということになるので。いやはや、これはこの先の展開がとても気になる作品だったなぁと思います。すごく面白かったです。

2-13 青賀探偵事務所調査録

 上手いなぁ。これは実力のある人の本格ミステリの冒頭でしたね。分かりやすく状況を提示し、要素を散りばめながら、まず死体を転がすところまで。実に巧みでスムーズな流れで、読みやすく、先の気になる第一話になっていました。紙の本で一冊、じっくりと読ませていただきたい作品だったなと思います。これは面白かったですねぇ。
 まずは冒頭、青賀の生活を簡単に紹介するところから、事件のきっかけとなる藍ちゃんからの電話まで流れるように進行します。この説明が過不足なく、しっかりと作品世界に入り込める解像度で描かれているのが上手いなぁと感じました。これ以上細かく書きすぎると蛇足になりますし、書かなすぎると混乱しますから、この塩梅のバランス感覚がすごく良いですよね。そして、翌日に東京に来るということになると。二十時を過ぎてから、という部分をあえて強調しているのは、ここに意味があるからでしょう。
 さて、そこから「青原雄哉」、つまり記憶を失う前の青賀のことが語られます。この差し込むタイミングがまた上手いですよね。いきなり冒頭でこれを説明してしまうと、読み味が重くなりすぎると思うんですよ。これは事件と絡んでわりと長い時間をかけて解決する大きめの問題の玉だと思うので、直近のフックとなる藍ちゃんからの電話の方をまず提示したのは大正解だと思います。構成の上手い作者様なのだなぁということが、こういう部分からも見えてきますよね。
 さて、翌日にやってきた藍ちゃん。何やら怪しい感じもしつつ、尾行を気にしながらストーカー被害についての相談。で、上司に相談してしばらく徳島を離れることになったと。警察にも相談済み。そして、東京にいる青賀を頼ってきたと。ちょっと喜んでいる青賀は、藍ちゃんに惹かれている様子。ふむふむ、ミステリでの恋愛フラグはもっとヤバいフラグと連動していることも多いですからねぇ。どうなるか。
 そして、ここから本格的に事件パート。どうやら藍ちゃんの部屋には死体が転がっている様子。いいですねぇ、この衝撃の展開で次話への強力な引きとするのは強いです。上手いなぁ。で、どうやら藍ちゃんは行方不明という扱いになっているみたいなんですよね。素直に読めば、十九時に会社を出た藍ちゃんが死体を発見し、二十時あたりに青賀に電話をかけ、翌日に東京にやってきた――となるわけですが、可能性は大きく二つですかね。蘭ちゃんが悪いことをして青賀を利用しているか、藍ちゃんが誰かにはめられて罪を着せられそうになっているか。どっちの可能性もありえそうですし、たぶんこの先の展開でそのあたりが二転三転しながら真実に近づいていくのだと思いますが。いいですよねぇ。このあたり、読者的にはもうすっかり真実の思いを馳せるモードになってしまっています。作者様の術中にはまって手のひらでころころとされてしまっているわけです。
 改めて全体を通してみると、構成のうまさに痺れますし、情報の出し方も上手いです。これは実力のある人が面白いものを出してきたやつ。続きもすごく気になるので、ぜひ完結まで書き上げていただきたいなと思います。すごく面白かったです。

2-14 地下迷宮《ダンジョン》の遺体回収班

 ファンタジー舞台での推理モノ、いいですねぇ。魔法とかの存在する世界において推理を主題に置くのってちょっと難しいところあるじゃないですか。ほら、よほど世界観がしっかりしてないと、読者の知らない魔法の仕様で片付けたりとかして顰蹙を買ったりだとか。それを本作は、読者が納得いくようにしっかり組み上げてるなと思いまして、上手いなぁと思いながら楽しく読ませて頂きました。
 まず冒頭から、遺体回収っていう仕事にフォーカスしているのが面白いですよね。ようは、ゲームなんかで死んだら教会からリスタートする、みたいな奴の裏方業務ってことになりますから。現実にあったらたしかにこういう職業が必要になるというわけです。そして、そこで仕事をする桜庭くん。明らかに転移者な彼ですが、彼は読者の分身というわけではないのが良いですよね。彼は地球の知識を持った名探偵ポジションで、読者に近い視点を持っている助手ポジションが現地人のグラシャになっているのが、面白い構図だなぁと思っています。
 それで、本作はダンジョンのディテールがしっかりと描写されている。蘇生魔法の適用できる条件であったり、どういった危険があるのかということを、探索者ではなく職員目線という形で切り取りながら分かりやすく提示してくれています。ここがすごく重要なポイントだと思っていて、舞台が曖昧なまま事件が始まると、読者は推理のしようがないんですよね。解決編で未知の情報が出てくるのって反則みたいなとこがあるじゃないですか。なので、この段階でしっかりと周辺状況をしてくれる、しかも重苦しくなくて分かりやすく提示してくれているのが、上手いなぁと思っています。それに、罠もなんだか生々しくて良いですよね。
 そして発見する探索者パーティの様子。事細かに状態が描写されているので臨場感がありますよね。どうやら何者かに殺傷され、身ぐるみを剥がされた様子。そして、一人足りないメンバー。これが何を意味するのか、ふむふむ……色々と想像できる可能性はありますが、どうなんだろう。そして、蘇生魔法がある世界ならではの、不思議な倫理観での推理が行われていくことになります。そして、これまでどちらかというとお荷物だった桜庭くんがついに探偵役として頭角を現し始めると。いやぁ、これはワクワクしちゃいますよね。どんな推理を繰り広げるんだろう。
 改めて全体を通して、めちゃくちゃ上手いなぁという印象を持ちました。ファンタジーを舞台にした推理ということで起こりそうな読者の疑問なんかを想定して丁寧に世界観を提示したりだとか、推理に使えそうな情報を散りばめたり、重苦しくなく読めるような工夫がしてあったり、そういった配慮の行き届いた作品だったと思います。その上で、続きを読みたくなるような引きまで持っていく手腕は、こりゃあ上手い人のやつだと思いましたね。勉強させていただきました。面白かったです!

2-15 終わった世界のその先で

 これは面白いですねぇ。メタな感じで世界をぶっ壊してからの、その地で本来活躍すべきだった勇者や魔王のその後の物語。これはアイデアからして独創性がありますし、それを作品としてしっかり面白く仕上げてきたなぁと驚きました。すごく面白かったです。
 冒頭、まずは順当にゲームの結末からざっくりと世界観を説明し、森のシーンへ。ここの解像度の変化が個人的に好きで、冒頭は本当に粗く展開をなぞるだけなのに、森のシーンにフォーカスすると急に細かな描写が入るんですよね。この濃淡の違いによって、RTAの淡白さと、残された勇者のシリアスさの対比がくっきりすると思います。良い切り替えですよね。
 さて、勇者に話しかける怪しげな男、読者的には「魔王かな」と初見で思う感じがします。そして語られる、何もしていないはずなのに終了しているメインストーリーについて。これが、勇者がシリアスだからこそ面白いんですよ。彼が本当に真面目に振る舞えば振る舞うほど、読者にはシュールな笑いを提供できる構造になっているじゃないですか。これを作り上げた時点で作者様は勝ちだなぁという感じ。とても上手いですよね。
 そして、魔お――謎の男から語られる真実。プレイヤーとRTAがなんかそれっぽいワードになっているのが笑いを誘います。フラグなんかで管理してるのもそうですよね。また、本作のRTAはぶっ飛んだプレイというよりも改造に近いことをしているのでしょうか。それとも、王様に魔王討伐を命じられる最初のシーンに深刻なバグがあるのでしょうか。そのあたりは、勇者と魔王の視点からはなんとも分からない部分ではありますかね。このあたり、勇者と魔王はめちゃくちゃ真面目に語り合ってるところに差し込まれるワードのセンスが光っているなぁと思います。
 さて、ところ変わって視点は魔王のところへ。あ、順当に謎の男は魔王でしたね。そして、傍に控える謎の魔物。ローブを纏い、不自然に頭が大きい……なんだろうなぁ。メタい事情を把握しているということは、少なくともプレイヤー側の現実世界の人間が関わっている何かなんでしょうが、現状では色々と可能性があって特定しきれませんよね。この状況を憂いているのか、はたまた面白がっているのか、どうなんでしょう。魔王もこの魔物のことは怪しんでいるようですが、というところで第一話は終了と。
 改めて振り返ると、面白かったですね。読者はプレイヤー目線で状況を理解しているので、勇者や魔王が本当に一生懸命に頑張っている様子をどこか生暖かい視線で見てしまうという構造になってるじゃないですか。これが上手いですよね。こう、テンションで吹っ切る形のコメディとはまた違った面白さのある作品だったと思っています。いやぁ、とても良い作品を読ませていただきました。ありがとうございます!

2-16 最終的に原作とかどうでもよくなる異世界転生

 これは面白い話でしたねぇ。キャラがみんな可愛くて面白かったです。いや、「雰囲気が好き」っていうと作者様に上手く伝わるか自信がないんですけど。すごくコミカルに進行して、途中途中でニヤニヤしたりワクワクしたりして、読後感がすごく楽しい気持ちになる作品なんですよね。つまりはとても好きなんですけど、好きって言葉じゃ足りないくらい好き(何かのポエムじみてきちゃった)
 たぶん、コミカルな文章を書くのが得意な作者さんかなぁと思うので、作者公開されたら他の作品も見てみたいのですが、冒頭からワードの選び方がいいですよね。「過労死寸前の姉」とか「おもに私が」あたりの差し込み方が好きなので、私はこの時点でワクワクしていました。で、ロイドとセイラの前世姉弟コンビのポンポンと飛ぶ楽しい会話よ。本作の面白さがこのシーンにギュッと詰まっている感じでしたよね。「ヒロインが歯茎を剥き出しにして相手を威嚇している」とか最高ですよね。「奴には一体ナニが見えているのだろうか」とか笑う。読んでるだけでめっちゃ楽しい。「セイラさんとお呼び」は今後も鉄板ネタになっていくんでしょうか。
 さて、ひとしきり楽しませていただいたところで、『青い薔薇のアイリーン』の説明が差し込まれる。このタイミングも適切でいいですよね。冒頭いきなりここを説明せず、まずは二人の会話で楽しませて惹きつけてからの提示ですから、良い流れだなぁと思います。そして、本作の構図が見えてくるわけです。ロイドの視点では、もうすでに原作からだいぶ乖離しているので、別物だと考えるのが妥当みたいです。もしかするとヒロインも前世の記憶があるのかもしれませんが、そう明確に判断するまでは描写されていませんからね。
 で、レイモンドがやってくる。セイラのヒーロー役ってことになるんでしょうかね。いやぁ、彼はなかなか落ち着かないですよね。同じ趣味で想いを寄せる令嬢がなぜか弟とよく一緒にいる。ただ弟たちは婚約を断ったらしいと。お前らどういう関係なんだと内心で思いながら、悶絶していることでしょう。そういうのがなんとなく想像できて、ニヤニヤしてしまいますよね。いやぁ、これからもそんな感じなんでしょうが……というか、ロイドが将来的に恋愛するときにもセイラの存在が謎って感じになりますよね。読者的には理解できていて登場人物たちが苦悩してる構造になるので、ほんと良い姉弟の置き方をしてくれたなぁと思います。作者様、絶対手練れの誰かだと思うんですよね。
 で、レイモンドはオリガ島行きにセイラを誘うと。いやぁ、これは順当に結ばれちゃっていいやつじゃないかなぁと思いますが、セイラを邪魔するのはやっぱり前世の原作知識なんでしょうねぇ。なんというか、レイモンドが苦労人みたいになる今後の展開が幻視できるようです。いやぁ、彼には最終的にハッピーエンドに落ち着くまで、可哀想な感じで頑張ってもらいたいものですね。
 あらためて全体を振り返ると、最初から最後までずっと会話が面白かったです。内心のつぶやきも含めてクスクスと笑ってしまうような語彙が散りばめられていて、上手いなぁと思いました。私がすごく好きなやつですねぇ。めちゃくちゃ面白かったです。ありがとうございます!

2-17 異世界召喚された勇者ですがトイレがなくて困っています

 ひぃ、これはつらい。いや、分かるんですよ。ファンタジックなエセ中世ヨーロッパ――まぁナーロッパってやつですが、あれにはリアリティが足りんって思って、マジでリアルな中世世界に修斗くんを放り込んだんでしょう。うんうん、やりたいことは分かりました。分かりましたが、これは修斗くん辛すぎるでしょう。笑っちゃったじゃないですか。鼻毛姫やばすぎでしょ。いやぁ、これはつらいね。
 冒頭から、彼の苦行は始まります。「何故ならば、謁見の間が臭かったからだ」に、うわぁってなりますよね。心なしか、読んでいる私も鼻呼吸をやめて浅く口呼吸を始めてしまいました。これ辛すぎませんか。もう王様の横柄さとか、魔王討伐とか、読んでるこっちもどうでも良くなりますからね。やべぇ世界に召喚されちまったなぁ。そんなとこでリアルを求めんでもいいんだよ……魔法とかでちょちょいと片付けちゃいませんか……。
 さて、姫の鼻毛がね。「姫の鼻から、一本、いや左右の鼻から計二本の鼻毛がピヨーン。とはみ出している。まるでこれがこの国のマナーです。と言わんばかりに姫の顔の中央で主張している」ですよ。この書きっぷり。いやあの、こんなところで巧みな文章力を発揮しないでくださいよ。腹筋が筋肉痛になったら明日からどう暮らしていけばいいんですか。絶対これ、上手い人が全力で遊んでるやつじゃないですかぁ。鼻毛姫の描写をこんな事細かに書かなくても大丈夫、さすがに理解できますって。描写の濃淡をつけるとこ絶対間違ってますし、それを分かったうえで鼻毛について細かく描いてますよね。くっそぅ。
 さて、姫との会話ですが……いやもうこれ、修斗くんマジでさぁ。とんでもない世界に来ちゃいましたね。そりゃまぁ、世界が違えば常識が違う。郷に従うべきだとも思いますが、これは許容限界を超えてますよね……いやあの、穴開き椅子のですね。音ですよ。鼻毛姫が音姫になってるじゃないですか。いや、音姫を使ってるんじゃなくて、自ら音姫になってる。しかもこれで、たぶん性格はそんな悪くないんですよ。普通なんです。ただ常識が違う。異世界召喚された先で、未だ嘗てこんな姫はいたことないんじゃないですかね。鼻毛姫からの異臭姫からの音姫って。こんなん辛すぎる!
 そして、当然のようにトイレはないと。ハハハハハ……これはもう、何をどこからどうしたらいいのやら、ですね。やっぱり召喚されるならナーロッパがいいなぁ。魔法とかがあって、こういうのはちゃんと処理してくれる感じの。今だったらふんわりした設定の「浄化スキル」みたいなやつの存在も快く納得してしまえそうな気がします。もうそういうのでいいかなぁってなりました。あー笑った。
 改めまして本作は、絶対文章書くのが上手い人が全力で遊びに行った作品だなぁって思いました。とても面白かったですし、よくこんなもん読ませてくれたなとも思います。これを書き出し祭りに出してくる判断力よ。いやぁ、こんな感じになるのかぁと、楽しませて頂きました。ありがとうございます。

2-18 小さな『コトン』は長くて短い旅をする

 か、か、かわいい……この類の可愛さをここまで上手に書く人にはちょっと心あたりあるんですが、作者当ては苦手なので大人しくしてます。めちゃくちゃ可愛いですね……ひゃあ、これはいいぞぉ。心がほっこりしました。あらすじの最後が不穏ですが、これは優しい展開になってほしいところ! うーん、どうだろう。絵本にして読みたい作品ですよね。
 さて、冒頭から現れる謎生物、その最初の「まいどありー!」でね、もう心を持っていかれましたよね。こんなん絶対可愛いじゃないですか。もう。で、コトンが商品を並べる様は、さながらお店屋さんごっこ。子育てしていたら経験あるんじゃないですかね。私はもう何年も前の息子のごっこ遊びを思い出してニッコリしてました。めっちゃ可愛いじゃないですか。「いらさいませ!」がね、もう最高ですよね。ごめんなさい、ちょっと文字書きらしからぬ語彙力の低さで同じことを繰り返して言ってしまうんですが、ちょっと可愛すぎませんかね。こう、パステルカラーの優しい雰囲気の絵柄とかでこのシーンを絵本の1ページとして読みたいです。
 そして、キラキラやフワフワとは一体何なのか、分からないうちに事態は進んでいきます。お金じゃない。それじゃあなんだろうなぁ、と男と一緒に読者も首をかしげると。ここが良いですよね。私は「ミステリじゃない謎の置き方ってこうやるんだ!」とハッとしました。そう、こういう小さな不思議ワードを配置することでも読者を引っ張れるんだなぁと。一つ勉強させていただいたなぁと思います。なるほどなぁ。
 男が相好を崩したところで、何かをパクリと食べるコトン。そして、高級素材を置いていなくなると。このあたりは、本当に謎生物っぷりを発揮していましたね。そしてめちゃくちゃ可愛かったです。こんな風に無邪気に大喜びされると、私もキラキラやフワフワを大盤振る舞いしてしまいそうですので、ぜひ玄関先にコトンが来てほしいなぁと思ってしまいます。いやぁ、本当に可愛いなぁ。
 さて、そこからコトンの物語が最初から描かれていきます。「ことん」という音がしたから「コトン」にした。いやもうこれ、なんでこんな可愛いことできるんですか。天才じゃないでしょうか。そして、卵の殻を被ってナチュラルに謎生物っぷりをアップさせるコトンよ。で、最初から喋る。そして妖精と出会う。もう何から何まで可愛いんですが(バンバン)
 いやぁ、終始悶えながら読んでしまいましたね。可愛すぎやろぉ……この可愛さってどうやったら再現できるんですかね。私はここまで極まった可愛さって今の持ちうる技術では書けそうにないなぁと思ってるんですよ。いっぱい勉強させていただきます。すごく面白かったです。ほっこり!

2-19 手前味噌ですがうちの五平餅は効くんです

 わぁ、面白かったです。どうなんだろう、ちょっと現代よりも古めの時代な印象を受けていたんですが、そうでもないかもしれません。あまり文明の匂いがしないのは岐阜の山奥だからですかね。いやぁ、作品の雰囲気としてはおとぎ話みたいな感じで、楽しい作品だったなぁと思います。
 冒頭から、伊吹はちょっと変なやつですよね。そのタイミングで「熱ッッッィけどおいひー!」は笑っちゃいます。そして、明らかに化け狸っぽい何かにけっこう冷静に対応してますよね。うん、伊吹がこういうちょっと変わった子だからこそ、本作の作品世界が成り立つんだなぁと、しみじみしました。このキャラ設定だからこそ、この会話が成り立つんですよね。
 それと、ポタくんの泣きっぷりにも笑っちゃいます。なんかこう、こんな感じで泣く県議がいたなぁとかちょっと思いながら読んでました。可愛いんですけどね、面白い方が先に来ます。コロッとうそなきを止めるのとかもね。このあっけらかんとした感じがおもしろ可愛くて最高でしたよね。そんな感じで、伊吹の日常は大変なことになるわけです。
 そこから話はお父ちゃんに移っていくわけですが……なるほどなぁ。大豆の先物取引に手を出して、三……三億??? や、やっちゃったなぁ。普通に味噌蔵だけで細々と経営していけそうな雰囲気に見えますが、欲が出ちゃったんでしょうか。素人が手ぇ出したらいけないやつぅ。それで、マグロ漁船に乗って漁業かぁ。でも三億も借金があると、素人が遠洋漁業の下働きをしただけで賄えるもんじゃないと思うんですよね。うーん、このお父ちゃんもなかなか癖が強いですねぇ。
 さて、追い詰められた(のに呑気に五平餅をかじっている)伊吹のもとに、先日のポタと共にお雛さまが現れる。これはお母さんが化けてるってことかなぁ。とりあえず、伊吹が現実を受け入れるのがめちゃくちゃ早くて笑っちゃいます。これで金をゲットできて、これからもなんとか味噌づくりを続けられそうですね。たぶん。
 いやぁ、全体を通してみると、本作を支えているのは伊吹の変なキャラなんだなぁと改めて思います。明るくてさっぱりしていて、追い詰められても呑気で、不可思議な存在をあっという間に受け入れてしまう。あらすじに出てくるような魑魅魍魎と交流を深めていけるのも、こういう彼女の性格あってこそなのかなと思います。とても魅力的な主人公の造形だなぁと感じました。こういう子を中心に据えられると強いですよね。そして、出てくるキャラがみんな可愛くて会話も面白いので、終始楽しい気持ちで読み進めることができました。とても良い第一話だったと思います。すごく面白かったです。

2-20 宝石の樹海と妖精の騎士

 いいですねぇ、これは重厚なハイファンタジーでした。世界観の描写がすごく美しくて、細部までこだわり抜かれていますよね。植物が宝石を宿している、という設定を起点にして、よくぞここまで広げていただいたなと思っています。世界観だけでもワクワクしちゃう上に、ストーリーがしっかりと乗ってくるわけですから。これは強いぞ。
 冒頭は、いきなり遺髪の描写から始まります。そして、リーゼロッテが死んだことを聞かされる、というシーン。シャルロッテが取り乱すのも分かりますよね。ここでのシャルロッテの気丈に振る舞う様子から、彼女がどんな人間なのか分かってきます。お嬢様ですが、怒りのままに言葉を紡ぐわけではなく、できるだけ冷静に対処しようとしている。そういうのがすごく良く分かります。そして、男たちはちょっと怪しいなぁ……シビアな世界観を見せているの可能性もありますし、盗賊まがいの言動からそのまま悪人な可能性があります。願わくば、リーゼロッテが生きていてくれるといいんですけどね。その点は今後の展開次第といったところでしょうか。
 さて、ヴェルナーとの会話のシーンも良いですよね。宝石の樹海を中心にした街の様子が描かれて、そんな背景に二人の関係性が心地良いです。ヴェルナーは単純な従者というより、もうちょっと心の内側に入り込んでいる感じで、家族のようなものと言えるでしょうか。恋仲まではいかないでしょうが、それくらいの信頼関係はありそうですよね。
 そして宝石屋台の店主との会話。宝晶術というワードが出てきますが、これも本作独自の設定で、宝石というものに単なる金銭価値以上の何かを付与することで物語を転がすための要素にしているのだと思います。こういう設定の広げ方が上手いですし、私も真似していきたいと思います。さて、勿忘草の魔力によって過去のことが見える。なるほど、こうして真相を探っていくのだということが、ここで分かるわけですね。そして、リーゼが家を出たのにも何かしら意味がありそうな気がしてきますよね。まだ何か、ここからひっくり返される情報が眠っている気がしています。シャルロッテはこれから樹海に挑戦するようですが、果たしてそう上手くいくでしょうか。
 改めて振り返ってみると、やはり舞台のワクワク感が本作のすごく強い武器だなぁと思います。宝晶術も今後色々と広げていけそうな設定ですし、リーゼの生死やその真相といった読者を引っ張る謎も強力に設定してあって、従者のヴェルナーとは良い雰囲気です。様々な要素で読者を惹きつける工夫もしてあって、上手いなぁと思わさせる作品でしたね。色々と勉強させていただきましたし、とても面白かったです。ありがとうございました。

2-21 天井裏にナニかいる

 いいですねぇ、とても怪しげな感じで面白いです。ジャンルとしては和風ファンタジーなんでしょうが、ちょっとホラー寄りって感じでしょうか。すごく空気感の伝わってくる文章で、鬼灯の美しくも怪しい様子なんかも良かったです。面白く読ませて頂きました。
 冒頭から、情景描写が上手いですよね。そして、ヤスノリの仕事について読者に自然と理解させてからの――しゃりん。この音とともに、スッと空気感が変わるのが良いですよね。天井に立つ少女が「見上げている」という表現。この違和感の出し方によって、鬼灯がよりいっそう怪しく見える描写になっているなぁと思います。この上手さはどう言ったら良いんだろう……普通だったら、舞台を奇妙にすることで女の子を奇異に見せる演出をする場面だと思うんですよね。それを本作は、舞台はそのままで女の子を天井に立たせることにより、より現実に近い世界観の中での怪異の表現になっている。こういうのが本当に巧みだなぁと思っていて、作品全体の空気感を形作っているように思います。
 鬼灯とは初対面ですが、他に三人も怪異がいる様子。病葉を含めってことなんでしょうか。それは今後が楽しみになりますよね。そして、端的で自分勝手な警告を伝えてくるところ。ここがもう、最高に怪異っぽくて良かったです。そう、わざわざきっちり説得しようとは思ってないんですよ。人間ではない存在なので、とりあえず警告はしたぞってスタンス。これがまた上位存在っぽさを醸し出していて、最高だと思いました。
 時は巻き戻り、物語は小学生の頃へと戻っていきます。ケイドロはやりましたが、私は田舎の出身なので高層アパートとかはなかったですねぇ。立体的なケイドロ、ちょっとやってみたい。エレベーターと階段を使った心理戦、面白そうですよね。携帯で作戦を伝えてくるっていうのも斬新ですね。そんな風に携帯使ったことないですし。そうして、緊迫感のあるケイドロをやっていると……そうして迷い込むのは、怪しい空間でした。ここもすごく、映像作品として見たいくらいのインパクトがありましたよね。ヤスノリの焦りが伝わってくるようなシーンから、しゃりんという音。いやぁ、良いですよね。
 改めて全体を振り返ると、文章力の高さに裏打ちされた雰囲気づくり、視覚的な描写の巧みさ、それによる主人公の感覚の変化なんかがしっかりと伝わってくる上手い作品だったなと思います。そして、すごく怪しげで、人間なんかのちっぽけな行動では如何ともし難い状況に巻き込まれていく様子がしっかり描かれていき、ドキドキしました。とても面白い作品でしたね。ありがとうございました。

2-22 甘い秘密を鷲掴み

 あまぁぁぁい! いやぁ、これは良い恋愛を見せていただきましたね。すごく心がほっこりしました。追い詰められた状況、望まない結婚をさせられそうになっているところからの、ヒーローからの救出&溺愛ですね。これは胸キュン、強烈な胸キュンをいただきました。とても良いものですねぇ。
 冒頭、舞台の提示方法がいいですよね。夫婦の会話から「田舎」「りんご」などのワードが飛び出してくるので、読者は楽しみながら自然と想像できるようになっています。そして、シェルディーノさんのキザなセリフがなかなか愉快ですよね。みんなの楽しそうな姿だったり、シェルディーノがそういう冗談を言っても受け入れられるような人間関係だったり、このシーンだけでもほっこりさせていただきました。シェルディーノさんは地位が高いようですが、なかなか気さくでおちゃめな人みたいですね。
 そして、アップルクランブルの美味しそうな描写。これは本当に食欲をそそる描写がされていて、食べたい! ってなりました。いやぁ、甘党のシェルディーノさんが惚れるのも無理はないですね。「母を思い出すようです」ってあたり、彼には何か背景となるストーリーがありそうだなぁと。そしてそれが、たぶんこの後の一目惚れのようなものに繋がっていくんじゃないかなぁと思っています。それと、アリスに対する市長夫妻の接し方がいいなと思うんですよ。にこにこしていて、愛されているんだなぁと想像できます。
 さて、アリスを口説こうとするデービッドですが……いやぁ、これはなんとも悪手だなぁという感じ。恐らく彼は、自分の中に「偉い-偉くない」みたいな評価軸しか持っていない奴なんだと思います。そういう人、わりと現実にもいますからね。そしてそのことに疑問も持たず、目の前の相手も同じ価値観だろうとしか思っていないので、こういったズレた口説き方になってしまうわけですね。そういうのが、すごく良く分かる会話になっていて上手いなぁと思いました。気質としては、何の悪気もなくナチュラルにハラスメントをやらかす類の人間と同種なような気がします。先程のシェルディーノの様子と見事に対比するような形ですね。
 そして、アリスの嘘に乗っかる形でシェルディーノが救出に現れる。おどけた様子で食えない感じの雰囲気を醸し出してますが、けっこうマジで一目惚れしただろうって感じですよね。いやぁ、よほどアップルクランブルが刺さったんでしょうし、それを作ったのが可憐なお嬢さんだと分かった時点で心臓を撃ち抜かれてしまったんでしょうね。いやぁ、読者としてはニヤニヤと見守っちゃうなぁと思います。
 さて、彼とデービッドとの違いは何か、という点をもう少し掘り下げたいと思っています。実を言うと、デービッドみたいな造形の異世界恋愛ヒーローってわりといると思うんですよね。めちゃくちゃ良く書こうとするなら、能力は高いけど人間力が低めの、不器用だけど一途に溺愛してくれるヒーローみたいな形で。いや、だいぶ盛りましたが。しかし今回、彼は悪役として登場する。一方のシェルディーノも形としては似たようなもんなんですよ。一方的に溺愛してくる男ですからね。なのに、読者感情としてはこの二人に明確な好悪を見ている。これが面白いなと私は思ってまして。
 まずデービッドは、アリスの話を一切聞かない。趣味も否定してきますし、肩書きで威張り散らして、意思に反する決定を強要してくる。いやぁ、よくここまでヘイトを集める男を書けるものだなぁと思います。やっぱり、どんなに成功した者であったも、相手の意思や言葉を無視するようなやつは嫌ですよねぇ、普通に。一方のシェルディーノについては、彼もまたある意味で押しつけがましくはあるんですよ。ただ、ちゃんとアリスの言葉を聞いていて、それに柔らかく返すような形で意思を通してくるじゃないですか。もちろん、趣味の一致不一致なんかも大事な要素でもあるとは思うんですが、私はこのシェルディーノの会話を開いた姿勢というのがすごく大事なんじゃないかと思って、手元にメモしているわけですね。ありがとうございます。勉強させていただいております。
 あらためて、こういった描き方ができる作者様は本当に上手いなぁと思って、いっぱい勉強させていただこうと思いました。すごく胸キュンな構図を見せていただきましたし、二人のこれからの幸せを応援したくなりました。とても面白かったです!

2-23 平民聖女は追放されたい

 なるほど、これは面白い作品でしたね。追放されたいフィオナの気持ちがすごく伝わってきました。逆境においても強い女の子って魅力的だと思うんですが、まさに彼女はそんな感じでしたよね。すごく応援したくなりましたし、ここからどうなっていくのか気になる第一話でした。
 冒頭、まずは追放シーンから。ある意味で定番の場面ではあるのですが、ここで彼女が内心で喜んでいるという違和感で先を読ませたくなりますよね。そして、そこから彼女の過去が語られていきます。
 なるほど、聖女とは『神聖力』を持った女性にしか使えない力。それを持つと判断されれば強制的に教会に入ることになると。しかも、出自によって虐めまで起きるような環境で、平民出身なのに力だけ強い彼女は嫌がらせの対象になる。ここまで、非常に分かりやすくスムーズに提示されていたと思います。こんな環境だったら、フィオナが追放されたくなるのもよく分かりますよね。でもなまじ力が強い分、普通にしていたら追放などされない。けっこう八方塞がりな状況ですよね。
 手柄を全て奪われ、出張にも行かされ、伯爵家の養女として名前すら奪われて。救いと言っていいのかは分かりませんが、彼女の心の強さでどうにかなっているように思います。うーん……普通に考えたら悪手だと思うんですけどね。国としては、力のある聖女にはなんとしても国のために働いてもらいたいわけじゃないですか。なら、ある程度の良い待遇を与えることで縛り付けようとするんじゃないかなぁと思うんですが、まぁ身分制度アリの世界観ですからねぇ、このあたりの裏事情なんかも、今後の物語の中で何かしら語られていくのかも知れません。個人的には「エルヴィラ」という名前にも何か裏があるのかなぁなんて邪推しているわけですが。
 さて、王子との初対面も微妙ですよね。めちゃくちゃ横柄で、礼儀の一つもなってない。まぁ、王族なんてそんなもんと言われればそれはそうですが、良い印象はないですよね。という感じで読み進めていけば……二人きりになると、彼は本性を見せ始めると。そして、彼があえてヘイトを向けられるような言動をしているのが見えてくるわけですね。だって、フィオナが逃げたいと思ってくれないと彼の望みは叶わないわけで、ここで優しく接してコロッと好かれるというわけにはいきませんから。これは、分かった上でこの立ち回りをしてるんだろうなということが読み取れます。そして、二人は共犯者となり、悪巧みを始める。といってもその内容は、兄上を健康にするというものなので、読者的にも素直に応援できる構図になっているわけですね。これは上手いなぁと思いました。
 改めて振り返ると、本作は状況の設定がとても上手い作品だと思います。どうしてフィオナが逃げたいのか納得感がありますし、それを補強するように様々な要素を追加していって、誰が読んでも逃げたいだろうという構図を仕上げてきている。だからこそ、強く振る舞うフィオナは魅力的に見えますし、王子との共闘にも納得感が生まれるわけですね。これはうまいなぁと思いながら読んでました。この後どうなるのかは作者さん次第だと思いますが、私としては初志貫徹して無事に追放され、自由気ままな第二の人生を謳歌するフィオナの姿を見せていただきたいなぁと願っています。面白かったです!

2-24 砂の星のアプス―

 いやぁ、これは良きSFホラーサスペンスでしたね。SF要素も、ホラー要素も、サスペンス要素も、全て高いレベルで兼ね備えている作品だと思います。それでいて書き出しとして必要とされる展開をめちゃくちゃ巧みに描き出していますし、すごくハイレベルでしたねぇ、これは面白かったです。
 冒頭から、ボウエン警視との会話を通じて事件や世界観を見せてくれる。これは良いですよね。口論というシーンなので説明的になることもなく、必要な情報を織り込んで、かつ読ませるシーンにしています。こういった書き出しはやっぱり上手いなぁと感じさせられますよね。そして、「事故死」で押し通そうとする警視にも違和感を覚え、これは何か背景事情があるんじゃないかと思わされます。
 で、ここで語られるSF設定がまた良いんですよ。惑星エンキはおそらく、レアメタル採掘のために開拓された惑星で、入植者は過酷な環境で生きながら、星全体としては地球などに採掘したレアメタルを送ることでどうにか生計を立てているんでしょう。本来だったら乏しい水資源がどうにか手に入っているのも、今は描写されていない何かしらの背景があるんでしょうね。例えばそういうのにもアプスーの存在が関わっているとしたら、オフェリアはマジで勝ち目がなくて大変になっちゃうんですが、このあたりはどうなんだろうなぁ。
 さて、水を『贅沢に』使った殺し、というのを読者にしっかり理解させたところで場面は変わり、アーロンとの恋人としての一幕。ここで、あらすじで「ホラー」という単語を見かけていた私は「あっ……」となるんですけどねぇ……ホラーの冒頭で性欲を発散してんのはフラグなんですよねぇ。いやほら、性とホラーってめちゃくちゃ相性が良いじゃないですか。あと、幸福感から一気に絶望に落とされるという「上げ落とし」をめちゃくちゃ描きやすいシーンだと思うので、作者様はそういうのも分かった上でこれを持ってきてるんだと思います。ほんと上手いですよねぇ。見習わないと。
 そして、アーロンが水に関して、H2Oじゃないと衝撃の言葉を放った直後に! という見事な展開でしたね。いやぁ、これはえげつない。こういう上手なエグいシーンを描き出す手腕には恐れ入ります。読者感情をガンガンに揺さぶってくるじゃないですか……こういった死亡シーンを衝撃的に書けるのは本当に上手いなぁと感じました。
 畳み掛けるように、冒頭の怪しかった警視と同僚たちが登場し、銃を向けてくる。ここで、彼はやはり全てを分かった上で、誰かの言いなりになって「事故死」だのと言っていたことが明らかになります。ここから入れる保険あるかなぁ……相手は武装した集団で、オフェリアもまだ混乱の最中。味方になりそうな人も見えていない現状、まずはこの事態をどう切り抜けるかですよね。いやぁ、これは面白いなぁ。
 改めて振り返れば、あらすじにあった「SF」「ホラー」「サスペンス」の各要素が本当に高いレベルで融合した作品だなということが分かりますよね。この後はどうなるのかなぁ。あらすじからすると、どうにか逃げ延びたオフェリアは単身で事件を追うのだと思いますが、国家権力が敵に回っている以上は、動き方はかなり制限されるはずですからね。色々と想像が広がって、先の気になる第一話だったと思います。面白かったです。

2-25 塔

 すごく素敵な作品でしたね。他人にどう思われようとも、未知を追い求める人の心というのは止められないものです。時代背景としては、かなり未来になるのでしょうか。舞台が地球とは限りませんが、インターネットはある。不思議なSF世界となっています。
 冒頭から、塔の存在感が良いですよね。巨大建造物というのはワクワクしますし。そして、大人たちが腫れ物扱いするような何かの事情もあるようですね。後に語られるように、昔人が住んでいたというだけだったら、それこそインターネットで検索すれば分かりそうなものですが。このあたりの情報の断絶がなんだか不気味な感じがします。塔の見た目はのっぺりしていて、あまり人工物っぽい感じはしないと。なるほどなぁ。
 そして、まず出会うのは宅配業者の青年。どうやら管理者用の通路なるものがあるようですね。そして、出入り口だけで数百箇所あると。なるほど、こんな長い塔が細長い造形なワケがないと思いましたが、やはりかなり太さがあるようですね。そして、案内看板も設置されていると。でも……頂上まで登った人はいない。なるほどなぁ。扉には、人界(ヒューマンレベル)との表記がありますが、これが何を意味しているのかは、作品全体に関わる大きな謎ですよね。どういうことなんだろう。SF的な裏設定があるのだとは思っていますが。
 さて、ここは人工都市だった、という話が青年の口から語られますが……本当かなぁ。とりあえず、広い空間に人がたくさん暮らしているというのは間違いなさそうですが、そんな単純な話じゃないような気がするんですよね。親世代が口を噤む理由も分かりませんし、どうなんだろう。ドーム状の巨大な建屋が積み重なった形状。想像するだけで目眩がしそうなほどですが。そして、界間エレベーターというものが存在すると。ふむふむ、これは彼女の直感を信じるならトラップですかね。行き詰まりでそれ以上は上がれない場所まで案内してくれるエレベーターなような気はします。
 そこから進んでいくと老婆と出会います。というところで、第一話は終了となるわけですが……いやぁ、面白かったですね。人が真理を追い求める心に理由はいらないんですよ。ただ知りたいから登る。そういう作品があっても良いと思います。さて、頂上の景色はどんなもんなのか、気になりますけどね。個人的な妄想を垂れ流すのなら……この惑星は地球じゃなくて、塔は移民船。周辺環境のテラフォーミングを少しずつ進めながら、冷凍されていた人類が少しずつ下界に降りていって……って感じだったら面白いなぁと妄想してます。どうだろうなぁ。色々な可能性がありますからね。想像が無限に広がってしまうような、とても面白い作品でした。ありがとうございました。

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