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第22回 #書き出し祭り 第三会場 感想

 こんにちは、お祭り大好き、まさかミケ猫です。本Noteでは、第22回 #書き出し祭り 第三会場の感想を書いていきたいと思います。


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第二十二回 書き出し祭り 第三会場

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感想

3-01 e-Sports Failnaught

 これは第三会場の最初からめちゃくちゃ面白いのが来ましたね。すごく応援したくなる主人公で、近未来SFの世界観も違和感なく受け入れることができました。文章もすごく読みやすくて、独自用語で読者を遠ざけるようなこともなく、これは上手いなぁと唸らせていただきました。
 まずは冒頭、世間から見た雑賀くんの華々しい姿で、今後の活躍を期待させてくれます。このシーンはすごくいいですよね。彼の物語は落ちきったところからのスタートになるんですが、じわじわと成功を掴んでいくストーリーってWebだと読者の掴みが弱くなりがちじゃないですか。それを、端的に成功を見せてくれてからスタートしてくれるので、この後の展開に期待が持てる作りになっています、具体的なところもぼかしているので、いわゆるネタバレ的なものもなく期待感だけ煽ってくれる良い冒頭だったと思います。
 さて、そんな冒頭から一気に雑賀くんの生活の解像度が上がっていき、引き込まれるようにして彼の今の生活が理解できます。そして、RVRなどの用語も自然な流れの中で丁寧に説明してくれているので、こういったSFでありがちな読者の離脱を防ぐような配慮も行き届いているように感じました。世界観の整合性も取れていて、すごく上手いですよね。自然な近未来舞台を描いていただいたなぁと思っています。
 そして、ゲームの世界へ。ここも丁寧に、まずはゲームそのものを初心者目線で楽しんでいる描写がされていきます。なので、雑賀くんがゲームシステムを説明していてもすごく自然なんですよ。読者同様、彼も初めてこのゲームをやるので。そのあたり、彼の視点を活かして、分かりやすく情報を提示してくれたなぁと感じています。また、彼が最初から天才性を発揮するわけじゃないのもいいですよね。5回殺されながら10回殺すのは恐らく普通の初心者よりは上手いと思うのですが、天才ゲーマーというにはちょっと遠いかなと行ったところ。もちろん、射撃の腕はピカイチだと思うので、それ以外の立ち回りなんかが素人だということなんでしょう。
 そして末尾に、如月雫との出会いによって変わっていく彼の人生を示唆しています。この最後の一文が効いてきますよね。ここまでヒロインらしき子の影も形もないですし、ここからどう活躍していくのかも見えなかった、シチュエーションのセットアップに終始していたところからの、ヒロインの存在&活躍までの道筋を端的に示しての引きですから。これは巧みなやり口だったなぁと思います。
 あらためて全体を通して、丁寧に雑賀くんのキャラや舞台を提示してくれたので、今後への期待感が高い作品だったと思います。SFだと世界観に終止したり、説明が乱暴だったりする作品も多いと思うのですが、本作はそういった点で配慮が行き届いている上に、読者の引き込み方もうまかったですよね。勉強させていただきました。めちゃくちゃ面白かったです。

3-02 光差す日の到来を祈る

 とにかく謎をばら撒いた第一話でしたね。日常に異物が入ってきて、果たしてここから先どうなってしまうのか、続きが気になる作品でした。また、文章力がすごく高くて、謎が多めなのに読ませてくるなぁと関心した作品でもあります。子どもたちの不気味も際立ってましたよね。
 冒頭は、いきなり意味深な描写から始まりました。夢の中で、圧迫感や疲労感を覚えながら、転がり落ちていく何かに手を伸ばし、掴み損ねる。このシーンが何を暗示しているのか……未来の何かなのか、彼の異能のような何かなのか、なかなか気になる入り方でしたね。
 さて、そこからスッと入っていく最初のシーン。大学時代ってこういうのありますよねぇ。酔っ払いの送迎とか。で、怪しい子どもが乗り込んでくると。ここの後部車両の使い方が非常に上手いなぁと思っているんですが、後ろから煽られることで「焦燥感」を煽りつつ、ライトで子どもたちの輪郭をぼやけさせて「不気味さ」を演出するという効果が出てるじゃないですか。このシチュエーション作りが本当に巧みだなと思って。読者の心理誘導と情景がめちゃくちゃ噛み合ってるんですよね。これは上手い人のやつ。
 さて、妙な子どもたちに脅されるような形で何かに巻き込まれていく主人公。ここで、状況は明らかに異常なんですが、主人公はなんとか日常の範疇で理解しようと試みているのがリアリティありますよね。正体の掴めない何かに追い詰められていく状況で、正気を保とうとするための反動みたいなものでしょうか。正常性バイアスと言ってもいいかもしれません。
 そこで、登場するのが寅次郎になるわけです。ここの出し方もいいですよね。緊張感がぐんぐん高まって、糸が張り詰めたところで、ふっと緩めるように登場するじゃないですか。もう作者様の手のひらでコロコロと転がされてしまってますよね。彼がまた変なキャラで、酔っているのもあるんでしょうが、異常な状況をすんなり飲み込んでしまうと。彼の存在によって緊張と弛緩の入り混じった妙な空気感とともに第一話が終わります。
 改めて全体を通して、私はもうコロコロと転がされたなぁと思います。読者の真理を誘導するのが上手くて、不気味だったりドキドキさせたり、ふっと弛緩させたり、感情のジェットコースターのような作品だったと思います。こういう細やかな心の動きを真似したいなぁ。面白かったです!

3-03 巻き込まれ婚約破棄〜真実の愛なんてどこにもありませんが?!〜

 いやぁ、これは楽しい話でしたね。婚約破棄をベースに、タイトル通りにコミカルな巻き込まれ劇を見せていただいたと思います。ナターシャちゃんがさっそく改造されてて笑っちゃいました。可哀想で可愛い! 今後もドタバタと楽しい話を期待できる第一話だったと思います。
 冒頭、ナターシャちゃんの性格がよく表れていて良かったですね。花より団子。貧乏だからなぁ、パーティに参加すればそりゃあ美味しいものをモリモリ食べちゃいますよね。よく食べる女の子って、それだけですごく魅力的だもんなぁと思います。あと、アルフォンス様はたぶん美味しいお肉を毎晩出してくれる男性だぞ。
 さて、飯を食ってるナターシャの一方、繰り広げられる婚約破棄。何かしら裏があるようで……いいですよね。リリアーヌさんの演技派な感じとか、含みのありそうなアルフォンス様の様子とかがすごく伝わってきます。そしてみんなから勘違いされるナターシャよ。いやぁ、可愛いですねぇ。上手いなぁと思うのは、このあたりの語り口をすごく軽妙にしているので、読んでいて重苦しい感じがしないところでしょうか。「そして全員で私を睨んだ。こわいって!」あたりの書きっぷりとかが凄くいいんですよ。これの味のある語り口がナターシャの魅力であり、本作が面白い理由だなぁと思います。
 さて、アルフォンス様の企みが明らかになるシーン。二人の掛け合いがまたいいですよね。表に見えているような甘いものとは全然違って、すごい淡々と損得で進んでいくこの感じ。それでいて既に気安い関係ができつつあるので、陰謀シーンみたいな感じなのに二人を素直に応援できちゃうんですよね。くっつけお前ら……! そしてここでも、ナターシャの軽妙さだったり切り替え方だったりが面白く読ませてきて上手いなぁと思います。そして、問答無用で肉体改造を施され、美しくなった(強制)というところで、第一話終了。
 いやぁ、改めて全体を見返すと、読後感がサッパリしているのが良いですよね。けっこうドロドロしそうな要素がそこかしこに転がっているのに、ナターシャの性格のおかげで明るく楽しい作品になっている。これは良い主人公&良い語り口だと思いました。とても面白かったです!

3-04 勇者パーティを解雇された最強防御の加護持ち雑用係、通りすがりの魔王様に拾われる

 おお、これはどうなっちゃうんだろう。あらすじを読んだ段階では、ルルカは順当に魔王様の仲間になるような想像をしていたんですが、友人たちがけっこういい人たちじゃないですか。あと魔王様もわりとドライに彼女を拾っていくので、今後は対立に関する葛藤みたいなものも出てくるのかなぁと思いました。いや、勇者はどうなってもいいと思いますけどね。
 冒頭、追放展開ですね。色々と雑用をこなしていたルルカが追い出される展開。うーん、勇者の変わりようは、異世界でハッスルしている間に本性が出てきてしまったのか、エルンさんに何かの術をかけれれてるのか、どっちかなぁ。どっちもありえる気がしますよね。このあたりは次話以降に明らかになっていく部分かもしれません。
 さて、そこで現れるオリヴィア。本音というか、勇者たちの話にあえて乗りつつルルカをどうにか追放させないための弁舌じゃないのかなぁと思いますけどね。そして、ディルクさんは直球でいいヤツっぽい。常識人だなぁ。そしてやっぱり、エルンが怪しいよなぁと再確認。こいつが黒幕っぽい感じなんじゃないのかなぁ。
 ルルカが去り際に、オリヴィアとディルクにお守りを渡すのがいいですよね。これがいい感じの伏線になって、物語終盤あたりに回収されてくれると私は大喜びすると思います。そして地味に、分厚い膜を突破していくルルカよ。ちょっと笑っちゃいました。
 それで最後に、魔王様とぶつかって回収されていくルルカ。なんでこんなところに魔王様がいるのか謎ですが、そのあたりも今後明かされていくんでしょうかねぇ。
 改めて全体を振り返ってみると、ライトな感じでルルカを右往左往させつつ、今後に繋がる怪しい要素を色々とばら撒いた第一話だったと思います。話が進むにつれてこのあたりが繋がっていって、最後に素敵な結末になるといいなぁといろいろと妄想させていただきました。面白かったです。

3-05 訳あって、S級ギルドに加入させられることになりました。

 リューくんって竜だったりするんでしょうか。和気あいあいとした雰囲気が楽しそうで、復讐譚の書き出しではあるんですがすごくほっこりとしてしまいました。これは良かったですねぇ。いやぁ、可愛くて面白かったですね。
 冒頭から、リューくんは十五歳であることが分かります。そして、「いっぱい食べて大きくなるんだよ」と言われている。ってことは、配膳してくれてる人は「まだまだ大きくなる」と思っているということ。団長が生まれるより前に存在したすげえ奴、あたりもヒントになりますかね。それで、デカ盛りの大皿と匙を受け取って、食堂の中心へ。一人で三、四人分の幅を使うっていうのがギョッとする情報ですよね。そして、十五歳なのにまだ幼体だろうという語り口。まだまだ大きくなるという前情報。このあたりから、私は竜の幼体あたりかなぁという感じで想像していました。リューくんの正体については、ぜひ作者発表後に教えていただきたいなぁと思います。よろしくお願いしますね。すくなくとも人間じゃないとは思ってます。
 さて、食事を始めようというところで、団長がキョウを連れてきます。そして、あらすじにあったとおり迎えに来ると。事前に話しておけよぉと思いますが、団長もリュー可愛さになかなか話せなかったんでしょうね。そして、あえて冷たく突き放す言い方。いや、ここでそれは必要ないですよねぇ。これはクセの強い団長だぞぉ……!!!
 そして、明かされる目的。熊の戦斧のみんなは「自分たちは足手まといだ」と思っていると。つまり、リューくんがめちゃくちゃ強いってことですね。そして、魔族への復讐に向けて武者修行を始めると。いやぁ、団長ちょっと言葉が足りないと言うか、もうちょっと話の持ってきかたはいかようにでもあったでしょうに。で、暴れまわって、みんなとの決別。これからリューくんは、みんなと離れて成長していくんでしょう。今後が楽しみですね。
 ということで、改めて全体を見てみると、リューくんの正体が非常に謎でしたね(私は竜で想像していましたけど、全然別のクリーチャーみたいな可能性もありますし、どうなんでしょうねぇ)。そして、みんなとの交流がとてもほっこりできるもので、成長が楽しみになりました。この後は新しい組合に入って、そっちでもメンバーを魅了していくんですかね。面白かったです!

3-06 メタバースに潜むデジタル・ゴーストの謎

 これは面白い世界観の話でしたね。まともに説明しようとすると結構複雑なんですけど、読んでいるうちにすっと理解できるようになっているのが上手いと思いました。だって、メタバースのある近未来、女子限定のゲームでキャラクターは男性、精神的にはGLで傍目にはBLなわけですが、正確に言えば中身が誰かなんて分からないですからね。というあたりをすんなり読ませてくれた上手い作品だなと思っています。そして面白い。
 冒頭から、新サービスの開始にドキドキしている描写、そして天音ちゃんとの絡みから自然と理解できる世界観。いいですよね。天音ちゃんは養女であり、見た目に反して性格はボーイッシュなんですねぇ、ほうほう。そして、演技が得意で、ゲーム開始前にまりかちゃんのキャラメイクを確認しに来ると。このあたりは伏線なのかなぁと思ったりしてます。
 さて、女性が男性になりきってBLを疑似体験するメタバース。コミュニケーションは文字チャットって形式と。なるほどなぁ。そして、恋人PLについて語られる。天音の親友かぁ……これ、中身は天音なんじゃないかなぁと私は想像してるんですよね。いや、ミスリードかなぁ、どうかなぁ。また、旧王国の顛末や今回の新王国の立ち上げについてもちょっときな臭いですよね。このあたりは、物語が進んでいくにつれて明らかになっていくのかなぁと思っています。それと、本作でのデジタル・ゴーストってどういう意味合いなんだろうなぁというのも、謎ですかね。
 さて、私は「嘆きの独白をしていた」という天音の報告に違和感を覚えてるんですよね。だって、恋人さんと天音は大親友だったわけじゃないですか。まりかちゃんの状態について、完全ではないまでも示唆したりなんかはできたと思うんですよね。それを複雑そうな表情で語る天音っていうのがまた伏線ぽいなぁと思います。
 さて、運営による制約で旧王国の話はできない。そして、ついに始まるゲーム世界で……いきなり見つける元恋人。いやぁ、この恋人の中身が本当に旧王国の恋人なのかわからないですよねぇ(ニヤニヤ)……そして、手合わせの相手は天音らしい。でもね、二つのキャラを同時に動かすのも不可能じゃないんですよ。だって、文字ちゃっとに書かれた言葉に反応してAIが動かすわけですから。あらかじめ2人分のスクリプトを用意しておくことも可能じゃないですかぁ。ってな感じで、唇を重ねる二人。なるほど。
 さて本作を改めて読み返すと、現時点でも色々な可能性があるなぁと思っています。特に、天音ちゃんが演技得意&ボーイッシュ&まりかちゃんスキスキ&キャラメイク確認しに来たという伏線なのかミスリードなのかって描写により、可能性がめちゃくちゃ広がると思ってるんですよね。まず1つ目の観点は、旧王国での恋人は①天音ちゃんだった/②別人だった説。そして新王国での恋人が①天音ちゃんである/②恋人本人である/③まったく別人である、可能性があると思ってて。たぶん、昔から天音ちゃんがまりかちゃんを好きだったのは確かだと思っていて、新王国での恋人も天音ちゃん説が私の中で濃厚なんですが、旧王国での恋人が天音ちゃんか別人か物語が大きく変わってくると思うんですよね。個人的には、別人説の方が強く拗れそうなのでそちらを推していきたいところだなぁと思います。という私の予想が、大幅に外れている可能性も普通にあるかと思いますが……このあたり、作者様の意図を聞いてみたいなぁと思ってます。面白かったです。

3-07 メカラミント

 すごい、なんて世界観の作品だろう。たぶん植物の芽→目ってとこを起点に着想して世界観を広げていったのかなぁと想像しているんですが、その広げ方や語り口なんかが本当に巧みで、素直に脱帽しました。これはすごかったですねぇ。作者様の頭の中を覗いてみたい……!
 さて、冒頭の一文からクセが強くていいですよね。さらりと読者の目を引いて(ダジャレじゃないです)、独特な世界観をバンと提示する。描写が繊細で目以外はわりと普通なので、突飛なのに「異世界」という感じは全くしなくて、それがまた独特の不思議な魅力に繋がっているんじゃないかなと思っています。なんというか「そういう世界がある」という話じゃなくて、「この世界の中にそういう人間がいる」って思わせにくる文章力と言いますか。そういうのもあって、強く引き込まれてしまうのかなと思います。
 そして、子どもたちの描写もその延長線上なんですよね。本当にいそうな小学生。魔女だのなんだの言いながら、木の棒を振り回すとか本当にいそうですからね。そして、そんな子どもたちと対比するような形で、「私」の異常性というのを垣間見せてくれます。やはり「異常」を書くには「普通」と対比させるのが一番ですからね。あと「目を光らせて」の使い方が好きです。思わずクスリとしてしまいました。
 ティータイムの描写からは、先程見せた「私」のおかしさをフルスロットルで見せつけてくれますよね。最初に違和感を感じさせて、次に普通との対比を持ってきてから、一気に巻き込みにくる感じ。この持っていき方がすごくうまく手のひらでコロコロと転がされているなぁという感じで、感服しました。ちょっとじっくり研究させてもらわないといけませんね。これは上手いなぁ。独特の世界にめちゃくちゃ没入させられますよね。
 そして最後の衝撃展開、本作のタイトルにもなっているシーンですが。ここまでで「私」の異常性のようなものを見せつけてくれているので、このズレた反応をするのがすごく自然に受け止められます。すごいなぁ……これは私、今の力では全然再現できる気がしませんね。面白さの端っこでも食べさせてもらいたいなぁと思いながら、ウンウン唸りたいと思います。上手すぎるんだよなぁ。面白かったです!

3-08 帝国の梟はアルヴヘイムの夢を見るか?

 いいですねぇ、これは面白いですよ。ファンタジー世界なので正確なところは違うと思いますが、イメージとしては近代あたりでしょうか。帝国主義や種族差別のようなものを背景に、リアリティのある社会の中での主人公の苦しみであったり、社会が大きく変化する事件、人間がアルヴヘイムの夢らしきものを見るという謎を提示していただき、先の気になる第一話に仕上がっていたと思います。
 冒頭は主人公の夢からスタート。この時点ではこの夢が何なのか明かされていませんが、何やら不穏な未来を暗示しているように読めます。そして、エルフ奴隷のエリに起こされる。奴隷の用途も「そういうもの」というのが暗示されていますが、ここは描写の塩梅が巧みで嫌らしくならないようにサラッと描かれているのが良いなと思いました。そして、ちょっとした回想から人間→エルフへの差別であったり、テッドとエリの関係を浮き出すように読者へ提示していて、こういったところも上手いですよね。説明臭さがなくて、すごく自然なんですよ。
 そして、タイトルにも出てきた「アルヴヘイム」について語られる。本作ではエルフの叡智が集まる場所という設定なんですね。そしてそれは、修行を積んだエルフだけが到達できる――つまり主人公は本来なら到達できないはずなんですよ。なるほど、そのあたりが物語全体の謎にかかってくるわけですね。
 そして、事件の日の描写へ。同僚がみんな出かけている。帝都はお祭り騒ぎになっていて、ウェイン皇太子とメアリー王女の結婚を祝う様子が理解できると。エルフのスリを捕まえたのも伏線なんでしょうかね。そして、テッドの思いとは裏腹に帝国人はエルフにたいして同じ人間だとすら認識していない様子。これは、彼らが特別冷たいのではなくて、この世界のこの時代のこの国においてはその価値観が「普通」ということなんでしょう。もう、常識レベルで致命的に乖離していることが見て取れます。この描き方がまたいいですよねぇ。本当に上手い人の作品だなと思います。勉強させていただきます。
 そして最後のシーン。「新時代万歳! 人類万歳!」と、ここに至るまでにゾクゾクさせてもらえますよね。冒頭の不可思議な夢がここに繋がっていると。そして、テッドが見たものはアルヴヘイムの夢だったのか。帝国はどうなるのか。情勢が変化するなか、テッドとエリはどのように行動していくのか。そういったことが気になるわけですね。これはうまく転がされてしまったなぁと思います。
 全体を見返すと、全体的に読者の感情誘導が巧みで、先を読みたくさせつつ情報を織り交ぜてグイグイ引っ張っていかれたなぁと感じました。テッドが使っていたエルフの霊薬(エリクサー)が伏線になって夢を見る事態になっているのかなぁと予想しましたが、ミスリードかもしれませんからね。いろいろと裏事情の気になる書き出しでした。面白かったです!

3-09 人工衛星サニーの冒険 ~転生した〝元〟気象衛星がお天気令嬢になるまで~

 これはいいですねぇ、大好きです。無機物に意志が宿り、人間に転生する。彼女にはちゃんと感情が芽生えていますし、すごく純粋で応援できますよね。神様も彼女をみてハラハラしたりしてるのかなぁ。すごく斬新な設定で、可愛くて面白かったですね。
 冒頭から、しっかりと気象衛星していて良かったですよね。プログラム通りの動作をしている……にも関わらず、そこに自我が生じる。そのことに驚きながら自然と受け入れられるのは、読者が日本人だからかもしれませんね。休眠状態にあったところから、サニー2の不首尾によってサニー1が起動する。その様子が、本当に細部まで気象衛星らしさの漂う文章で、ひたすら感嘆してしまいました。
 そして、インターネットに接続してからの行動もすごく可愛らしいですよね。Wikipediaを見ている様子はさながらSNSでエゴサする人間のよう。そしてその流れで、戦争が起きたことを知ります。人工衛星の破壊に巻き込まれるようにして、ダメージを受けるサニー。無情にも破片が降り掛かって、墜落してしまいそうになると。
 ここでの彼女の思いが泣かせますよね。自分の身の安全なんかは二の次なんですよ。「もし地上に落ちたら、人を傷つけてしまう」と。だから落ちたくなかったんですね。もちろん無機物だから自分の生への執着というのはまた違うものがあるのでしょうが、読者としてここまで「人間」を見せてもらってきたので、ここでの必死の思考は本当に素敵でした。
 さて、神様の温情により転生して。もうここからは微笑ましいの一点張りですよね。人間初心者っぷりを見事に発揮して、読んでいて楽しいコミカルな描写を楽しませてくれます。すごく純粋で応援できる子なのがいいですよね。そして、脳裏に浮かぶのは天気予報の能力みたいですね。これからこれを使って、活躍していってくれるようです。また、二階から飛び降りても平気なあたり、肉体性能もかなりのものっぽいですよね。今後の活躍が楽しみになってきます。
 あらためて振り返ってみると、とても楽しい気持ちになる作品でしたよね。うるうるしたりほっこりしたり、幸せな読後感を約束してくれる作品のように思うので、連載してもほっこりした人たちが大挙して読みに来るんじゃないかなぁと思っています。めちゃくちゃ面白かったですし、私の好みのど真ん中を撃ち抜かれました。ありがとうございます。

3-10 没落令嬢ははじまりのダンジョン地下百一階の家に住む

 楽しいファンタジー作品を読ませてくれそうな、期待できる書き出しだったと思います。サクサクと軽く読める文章で、読者がストレスなく没入できるような作品だったと思っています。たぶん実家を出る辺りはもっと重苦しく書くこともできたんでしょうが、作品全体の雰囲気としてそういう部分をライトに済ませているからか、読後感がさっぱりしていて良かったですよね。ついつい次話を読み進んでしまうような楽しさがあったと思います。
 冒頭、ウリボアとの戦闘訓練はいいですよね。それほど長くない描写なのですが、これだけでロゼの戦闘能力、治癒魔法、動物への接し方、そういったものから彼女の人となりが見えてきますよね。そして、彼女の生い立ちを説明したところで、自分の屋敷に帰ろうとして、騒動に気がつく。明示はされていないんでしょうが、父親ははめられて財産を全て奪われた、という解釈で良いんですかね。なかなか大変な状況ですが、そんな状況でも前向きなロゼが好印象でした。
 そして、旅に出るロゼ。この旅の描写がさらっとしているんですが、彼女の人柄をよく表現していますよね。父親のお人好しの影響で、お金はもらわず食料だけを頂戴する。基本的に自活する能力が高いのも伺えますし、自分も大変な状況なのにすごく前向きなエネルギーを持った主人公だなぁと思えます。そして、人助けの結果がさっそく王都の入口で発揮されると。この一連の流れによって、本作の今後に何を期待してよいのかが見えてくるなぁというい感触を得ました。きっとこうやって、人を助けて感謝されながら活躍していくんだろうなと、期待感を持てます。
 そして、ついに目的としていた冒険者登録へ。本登録のためにはじまりのダンジョンへと突入すると――というところからの展開が、本作の突飛で面白いところですよね。百万人来場記念。どうやら客寄せのための報酬のようですが、その情報が冒険者に広まっていないのはあまり客寄せになってませんよね……? というあたりに、ドラゴンの残念さが見て取れてクスリと笑ってしまいました。それと、数百年というのが仮に三百年くらいだとすると、百万人に到達するための平均年間来場者は三千人ちょっとの計算になって、一日十人くらいしか来ない過疎ダンジョンってことになるのかなぁとイメージしてます。はじまりのダンジョンですから、本当に初心者が浅い層で経験積むくらいの、冒険者的にはあまり美味しくないダンジョンなんでしょうね……そんなダンジョンの百一階に家を構えたロゼ。果たしてこれからどうなってしまうのか。
 転がし方はいろいろあるなぁと思いますよね。まずは順当に冒険者として大成するストーリー。次に貴族令嬢として再起するストーリー。そして、ダンジョン経営モノとしてはじまりのダンジョンに客を呼び込むストーリー。他にもいろんな転がし方のできる第一話だったと思いますが、既に見せていただいているロゼの性格がとても好ましいので、どういう方向に進んでいっても楽しい作品になるんじゃないかなと思っています。面白かったです。

3-11 千年魔女と新米聖女

 いやぁ、ユメリアが想像以上の暴走っぷりを発揮していて笑わせていただきました。これは面白かったですね。これから始まるイセリナとの関係も凄く楽しみになりましたし、ユメリアがどんな事件を持ち込んで(また彼女が何をやらかして)、イセリナがそれにどう対処するのか楽しみになりました。とても良い第一話を見せていただいたと思います。
 冒頭、ユメリアの盛大に誤解した世界観から物語が始まります。背景にある設定がなかなか壮大ですよね。魔王が現れて、世界が崩壊する寸前まで追い詰められるような世界。描かれていない部分では、なかなかハードな生活を送っていそうな世界ですよね。そんな中、ユメリアが魔女討伐に塔を訪れると。そして、初対面のイセリナは「あらあら――」と。はい。あらすじから分かっていたことではありますが、絶対そんなユメリアが思ってるような悪人じゃないですよね。この勘違い構造が思いの外しっかりしていて笑っちゃいました。いやほら、ボケツッコミみたいな軽いノリの作品もそれはそれで楽しいんですが、ユメリアの場合は一生懸命に間違えるのが面白いポイントだなぁと思うんですよね。
 さて、疲労困憊で塔を登るユメリア。もう面白いですよね。彼女は可哀想なほど可愛さが際立つキャラ造形だと思うので、今後もこういう目にガンガン遭ってもらうと読者としてはとても楽しいと思います。いいキャラしてんなぁ。そして最上階に到達し、果汁入りの水を飲ませてもらって生き返る。いやぁ、自業自得で苦労しているだけなのにどうしてこうも面白くなってしまうのか。これがオモシレー女ってやつですね。
 さて、イセリナとの会話を通じてどんどん明らかになっていくユメリアのトラブルメイカーな性格に笑ってしまいますね。これがホント、すごくキャラが立っていて、ユメリアを主人公にすることでどんどん話を面白い方向に転がしていけるので、すごくいい主人公を置いたなぁと思ってます。それに良いポイントなのが、彼女が素直に自分の過ちを認めるって点ですよね。これでどこか頑なに思い込みすぎるキャラだと、読者のヘイトが溜まってしまうというのですが、ユメリアにはそれがない。めちゃくちゃ素直に自分の非を認めるからこそ、読者も笑って読んでいられるんだろうなと思って、このさじ加減が絶妙だなぁと思っています。そして、エレベーター落下で綺麗にオチ。とても良い第一話でしたね。
 あらためて振り返ると、ユメリアのアホさ加減の作り方が本当に絶妙だなぁと思うんですよね。細部が少し変わると、読者をイラつかせたりするキャラになってしまうと思うんですよ。それを上手く笑える範囲内に収めて、作品を楽しくしてるなぁと感嘆しました。イセリナの過去なんかの謎要素もあって、先の読みたくなる書き出しだったと思います。面白かったです。

3-12 10年振りの恋の唄

 ひゃあ、これはニヤニヤしちゃう第一話でしたね。世界を渡ってしまった直美。彼女が返ってくると、逆浦島太郎みたいな状態になって、自分の中身だけが相応に歳を重ねていると。逆に、ここからまたヒロくんに恋をできるんですかねぇ。ほら、彼女からするとだいぶ幼く見えると思うんですよねぇ。どうなんだろうなぁ。
 さて、冒頭からイリーナとの会話が微笑ましかったですよね。この時点では、異世界ということも明かされていないので「引っ越しで遠くに来たのかな?」みたいに読んでました。そして「イリーナ」「直美」という名前で、外国か異世界か、みたいに思考が狭まってくると。
 そして、始まる恋バナが可愛いですよねぇ。女の子が恋をしてキャッキャしているシーンってなんでこんなに可愛いんでしょうね。大好物です。ガチで徹夜しているのは笑いましたが、最後の別れの夜だったのだと思うと、イリーナもきっと直美と離れるのが名残惜しかったのかなぁと思ってしまいます。異世界転移の経緯は事故による神隠しのようなもので、誰かの悪意だったりが絡んでいなさそうなのも、本作の優しい空気感によく合っているなぁと思います。
 イリーナと別れて元の世界に帰ると、どうやら精神だけ異世界転移していたようで、病院で当時の身体に戻っていることが知れます。ここまでのシーンを通して作品全体の雰囲気が察せられますよね。現実はそう都合よく思い通りにはいかないという中、それでも登場人物たちの優しさで物語が展開していくような、ほんわかとした空気を感じます。
 さて、場面は変わってヒロくんとの再開。こちらでは一ヶ月しか経っていなかったというのもポイントで。二人の過ごす時間はズレて、直美の精神は十年分の成長をしている。おてんば少女が一転、こんな風に落ち着いてしまったら、ヒロくんの反応も分かろうものです。うまく誤解が解けて、ヒロくんとの恋が始まるといいですねぇ。
 さて、改めて振り返ってみると、やっぱりニヤニヤしちゃうなぁという作品だったと思います。登場人物たちがみんな優しいので、読んでいて安心感がありますよね。こう、人の悪意で物語に変化が生じる類の作品ではなく、世界の不条理でシチュエーションを転がす類の作品なので、優しい空気のまま物語を大きく転がしているのが印象的でした。十年の隔たりは二人の心にどう影響するのか。先の読みたくなる第一話だったと思います。

3-13 何かがオカシイ百合の家

 すごいなぁ、これは上手いですよね。違和感の滲み出し方がすごくて、色々と勉強になるなぁと思いながら読んでいました。面白いなぁ。あと百合の家は「百合ちゃんの家」って意味でしたね。すみません、タイあらの時点ではちょっと誤解していた気がします。
 冒頭、頭の中で弾ける音からスタート。これは意味深ですが、この時点でたぶん絢祢ちゃんは既になんかされてますよね。だって、そもそも百合ちゃんの家に滞在している経緯が明かされていないじゃないですか。どういった事情でこの場所にいて、ファッション誌に目を落としているのか。そのあたり、既に百合ちゃんから何かしらされているんじゃないかなぁと想像しています。「先輩はお客様ですから」も、ある種の洗脳的な伏線なんじゃないかと思ったんですよね。
 さて、「三番、フォース、五木くん」あたりで読者に違和感を与えつつ、舞台を提示。季節は夏で、寒いくらい冷房の聞いた部屋。割れた食器の音に、なにか手伝うと申し出る絢祢ちゃんの耳でやはり「パチン」と。すると、彼女の感情は消え失せ、注意がテレビに向く。これはやってますねぇ……絢祢ちゃんの急な態度の変化が、読者には違和感として提示されるシーンとなっています。
 料理番組を見ているシーンでも、違和感がすごくありますよね。「レッツ・クッキング。意味の重複」あたりの、クスリと笑わせながらも強烈な違和感にゾクゾクします。ギリギリありそうでギリギリなしだろうという塩梅のおかしさの調整が絶妙なんですよね。そして、どんどんおかしくなっていく番組。すごく奇妙なシーンでしたが……最後にスマホが震えたのを遠く感じたのだって、たぶん百合ちゃんに既にやられちゃってますよね。
 そして最後の百合ちゃんとの会話シーン。いやぁ、恐ろしいですよね。ここまで感じさせてきた違和感を裏付けるように、何やらおかしい百合ちゃんの様子。すごい洗脳的な誘導をするじゃないですか。そして、瞬きの擬音ですよね。「パチパチ」って、冒頭からずっと匂わせている何かしらの異変のきっかけじゃないですか。
 改めて、細部に至るまで読者に不気味な違和感を植え付けていくのがとても上手い作者様だと思って驚嘆していました。これは上手い。何を食べて育ったらこんなの書けるんだろう……すごいなぁ。個人的には、テレビのおかしな内容については、百合ちゃんの暗示の結果なのかなと思っています。たぶん絢祢ちゃんは実際にテレビ番組を見ているわけじゃなくて、「テレビを見ていることにさせられている」んだと思うんですよね。なので、リモコンを撫でるのも「こうすると違和感を覚えなくなる」という暗示をかけてるのかなぁと。そして、番組内容がおかしなことになっているのは、絢祢ちゃんの深層心理が叫んでいる警告なんじゃないかと私は解釈したわけです。さぁ、この予想がどれくらい当たっているのか……作者公開後にぜひとも作者様に聞いてみたいなぁと思っています。

3-14 もしも僕が探偵なら、きっと君を救えなかった。

 これは面白かったですね。予想外の展開に、手のひらでコロコロと転がされてしまいました。どうなるんだろうなぁ。冤罪体質の瞬平くんがそのまま有罪になって……なんてことにはならないと信じたいですが。作者様は第一話から読者をめちゃくちゃ転がしてきますからね。どんな風に二転三転しながら結末に持っていくのか、楽しみになりますよね。
 冒頭、あらすじとのつながりが良いですよね。「それでも僕はやってない」を冤罪体質の彼のセリフに持ってくるのは良いフックになってますし、あらすじの雰囲気から一気にひっくり返してきたなぁと。「リバティ・ロード殺人事件」は下着泥棒の事件だった? なんて思いそうになりました。そして、彌生ちゃんの登場。これが熱いですよね。
 冤罪をかけられているところからの逆転劇。あぁ、この作品ではそれをやりたいんだなというのを、この第一話の最初のシーンで読者に提示してくれている。小規模な事件を解決することで彼女の能力を示し、のちの展開へ繋げていくやり口はすごく巧妙ですよね。こういうのはどんどん真似していきたいところです。そして、事件を解決して冤罪体質の説明。なるほど、これはすごく尖った設定ですよね。これからも苦労しそうだなぁと思います。
 というのを前段で示した上で、本作の本筋が始まるのが後半、彌生ちゃんが逮捕されるとは思いませんでした。これは驚きの展開ですよね。これまでの描写から、彼女が本当に罪を犯している可能性は低いのではないかと思いますが……果たしてどうなるか。しかし、ここでタイトルになるわけです。瞬平くんが探偵をやったとしても、彌生ちゃんを救うことはできない。それならば――自分の冤罪体質を使って、彼女の身代わりになる。すごくドラマチックな展開と決意でしたね。これは熱いですよ。
 全体を通して、構図をガラリと入れ替えて読者を驚かせながら物語を転がすのが上手い作者さんだと思いました。このやり口は学ばせていただきたいところ。次話以降も楽しい作品を期待できるんじゃないかなぁと思っています。めちゃくちゃ面白かったです。

3-15 転生執事の華麗なる分からせ~待って待って、事情を聞いて~

 なるほど。最後のシーンでようやく話が繋がりましたね。あらすじ段階では脳裏に疑問符ばかり並んでいましたが、なるほどそういうからくりになってたんですね。これは気持ちよく騙されたなぁという感じで、今後の展開がすごく楽しみになりました。面白かったです。
 冒頭、召喚されたミュリエルが死んだご主人様を見つけて途方にくれるシーン。これどうしようもないんじゃないかなぁと思いながら、解決策なんかをぐるぐると考えてしまいました。どうしたもんかなぁと。
 場面は変わってリーゼロッテの前に現れる執事。いきなり拳を鳴らしていますが、どういうことなんだいと。使用人を虐めて辞めさせるお嬢様と、そこに現れる暴力執事。なかなか尖った構図だなぁと思いながら楽しく読んでいました。リーゼロッテもなかなかに強いキャラですが、執事の方が一歩上を行くようで、バチバチの会話が面白かったです。これは逃げられないですねぇ。良い関係性だなぁと思います。
 そこから、ルーカスとリリスの会話を聞くシーン。あらすじで示されている通りに魔王の転生体なのだとしたら、おそらく彼の目的はミュリエルを見つけることなのかなぁと思いますが。リーゼロッテの存在が障害になっているというのは、どういう意味なのかなぁと悩みます。そうして最後の独白で、ミュリエルがリーゼロッテに成り代わっていることが分かると。
 ここで私は、二つの可能性が頭をよぎっているわけですが……つまり、ミュリエルは悪魔の身体のままリーゼロッテを演じているのか、それともリーゼロッテの身体に乗り移って生活しているのか。なんとなく後者な気はするんですよね。そして、リーゼロッテはギリギリのところで肉体的には命をつなぎ、精神は隠れているような状態なのかなぁなんて思っています。そうでないと、ミュリエルが灰になってしまうと思いますし、リーゼロッテの願いを叶えた判定にもならないんじゃないかなぁと思うんですよね。で、そうして自分の身体にミュリエルを封じている状態こそが、ルーカスの言う「障害」ってことなんじゃないかと、私は解釈したわけです。あらすじにある「ご令嬢(+悪魔)」の+の部分は、きっとそうなんだろうなぁって。
 改めて、末尾のミュリエルの独白によって、ばらまかれた謎が一気に方向性を持つような第一話だったと思います。キャラ同士がバチバチに競合する中、どのように物語が展開していくのか読めず、とても楽しみになる作品でしたね。リーゼロッテの願いがちゃんと分かって、叶うといいなと思います。面白かったです。

3-16 コレクテイル

 これはまさに、ワクワクするローファンタジーの始まりでしたね。普通に暮らしていたところから異変に巻き込まれ、まさにこれから物語が始まっていくという第一話だったと思います。読者に近い感覚の主人公の視点から、物語の始まりを体験させてくれるような話でしたね。
 冒頭、描写されているのは、黒髪の綺麗な平均的な女子高生。栞ちゃんの母親も、やっぱり何か特殊な存在だったのでしょうか。そのあたりはきっと、今後の物語の中で明かされていくのだと思います。そして、友達の早紀ちゃんとの関係がいいですよね。説明が重苦しくならず、気安い感じでの導入シーンになっていたなと思っています。
 学校生活の描写なんかがしっかりと細部まで描かれているのは、今後はこの学校が物語を展開する上での中心地になるということでしょうか。学校の構造や校則まで説明されているので、今後これらが物語の上で何かしらの要素として関わってくるのかなぁなんて思っています。
 そして、頭痛に襲われる栞ちゃん。緊急事態に、冷静に振る舞う小松先生の姿は頼もしいですよね。そして、心配する早紀ちゃんを残して保健室に――ではなく、人気のない場所に連れてこられると。そしてその顔は、何やら人外っぽい雰囲気を出しています。これは怪しいですね。あらすじから物語蒐集家が奪われた物語を取り返す人だと分かるので、「物語蒐集される前に貴女を排除する必要があるわ」というのは敵側のセリフっぽい感じがします。頭痛に関しては、物語蒐集家の資質に関わる何か、という感じでしょうか。今後も異変があると「うっ頭が」ってなるんでしょうかね。
 さて、絶体絶命ということで第一話が終了。誰かが助けに来るのか、秘められた力が覚醒するのか、さてどうなるかなぁというところで終了となりました。日常が侵食されていって、事件に巻き込まれるところまでという感じでしたね。この後の展開を想像してワクワクしちゃう作品だったなぁと思います。良い第一話でした、面白かったです。

3-17 飛竜婚姻譚〜元王女様はドラゴンブレスで王子を救う!?〜

 面白かったです。まるでおとぎ話を読んでいるかのような、柔らかい印象の物語でしたね。もちろん、内容としてはけっこう追い詰められているのですが、それが重苦しい読み口にならないよう隅々まで配慮していただいているのだなと分かるので、楽しんで読むことができました。
 冒頭から、世界観がいいですよね。ハイファンタジーの世界、磔にされる王女は自分を「無知で愚か」と称しますが、どこまで本当かなぁ。この様子だと、誰かしらにハメられたという方が妥当な気もしますが、そのあたりは続きのお話の中で明らかになっていくのかなと思います。いつか「彼女の処刑は間違いだった」と民衆が思う日が来ると良いですが、果たして。
 そして、ドラゴンに転生して。どうやら他国の湖のそばでドラゴンになって転生してようですね。一つ一つ確認していく描写がなんだか可愛くて愉快でした。真紅の鱗のドラゴンですから、火とか吹くのかなぁと想像。あと人語話せないのが地味に可哀想ですが、吠えてしまうのは笑ってしまいますよね。冒頭のちょっとしんみりする場面から一転して、ここは楽しいシーンになっていたなと思います。
 さて、そんなこんなで王子との出会いのシーン。ここも王子の背景については分かりませんが、レティシアが自分のことと重ねて助けたくなる気持ちはすごくよく理解できますよね。そして、ゴロつきたちの倒し方がまた優しくて、私だったら焼き殺したり叩き潰したりしちゃいそうなところを、髪の毛を燃やして湖に吹き飛ばすというどこかコミカルなシーンに仕上げてきていただいているので、ここの読み口が本当にさっぱりしていて素敵だなと思ったんですよ。これによって変な罪悪感とかに囚われたりせず、その後の王子との会話を読者もスムーズに受け止められると思うので、これは良かったなぁと思っています。そして、王子から求婚される。なんで? と思ってしまいますが、王子がよほどのドラゴンマニアだったのか、よほど人間の女が信用ならないのか、今後どういった展開になるのかが楽しみになりました。
 改めて全体を見返すと、起きている事態とは裏腹に読後感がすごく爽やかだなぁと思うんですよね。今後も優しい物語を期待できるなぁと思って、楽しみになります。素敵な第一話でした、面白かったです。

3-18 悪役令嬢ガチャ ~婚約破棄されましたので流刑先の領地を勝手に治めてやります~

 いやぁ、楽しいお話でしたね。けっこう悲惨な境遇なのに、読んでいて笑ってしまうのはアリシアの語り口のせいでしょうか。貴能《悪役令嬢ガチャ》についても色々な展開が考えられるので、そういうのも想像させられてすごく今後の楽しみになる作品だったと思います。
 まずは冒頭の婚約破棄シーンから、いやぁ、ここのアリシアが面白いですよね。言葉の端々から彼女の愉快な人柄が垣間見えて、この時点からもう読んでて楽しい気分になります。「様式美として唱えなければなりません」ですよね、やっぱり。内心の愉快な感じと、取り繕っている外面の温度差が非常に激しくて、ギャップに笑っちゃいました、勢いがあってとても良いです。私もこういう子を書くのが好きなので、密かに作者様に共感してました。いいですよね。そして、語られる「貴能」がないこと。本作の世界観では、貴族にとってもはや罪人のような扱いをされるほどのことなんだと、シアック様との会話で理解できます。貴族の血筋なら必ず授かる……ということは、例えばですが母親の不貞なんかまで疑われるような事態ですからね。貴族としてはなかなかしんどい状況です。まぁ、彼女はわりと呑気なんですが。
 ヘイルズ領とはなかなかの僻地の様子。「自然牢獄ヘイルズ領とわたくしの中でもっぱらの噂になっている厳しい土地」やっぱり呑気なんだよなぁ。ほんと良いキャラしてますよね。もう去り際の最後の最後まで何かと愉快な語り口でしたが、即落ち二コマのような「ダメでしたわ」で笑いますよね。強く生きてほしいです。
 さて、意外と近場にあったヘイルズ領にやってきたアリシアは、割と甘めの感じでお屋敷にたどり着きます。そして、お父様から渡された飴を飲むと――本作の肝となる貴能《悪役令嬢ガチャ》が発動するわけですね。そして、歴代の悪役令嬢の能力を使うことができると。これはなかなか、アリシアの性格と相まって面白いことになりそうな能力だと思います。なるほど、こういう形で過去の人物と会話ができるんですね。
 また、けっこう意味深な設定なんですが、グレア家から歴代悪役令嬢が輩出されているのはどういった事情なんでしょうね。何かの呪いじみた事象なのか、陰謀なのか、そういった周りも色々と気になる部分に思えます。あとはしれっとシアック様の「嘘を見抜く」というのも今後の鍵になってきそうな部分ですよね。そして、お父様とシアック様が共謀して、アリシアをヘイルズ領に送った理由は……何かときな臭い背景がありそうですね。お父様が未発動のアリシアの能力を把握してた(そして飴をくれた)のだって、どういった経緯があるのか謎ですしね。
 で、普通に話を聞けばいいのに、飴を噛み砕くアリシア……!笑 なんかぜったい重要な情報を聞き漏らしていますが、そんなの関係ねえとばかりに彼女は突っ走るわけですね。こういう能力系の制約とかはちゃんと聞いたほうがいいと思うよ。どうしてこうなった。そして、不作をなんとかしようと思って出てきたのが毒の生成能力と。ふむふむ。まぁ、農薬とかもある意味毒ですからそういうアプローチをするのか、作物を荒らす野生動物を毒で追い払うのか、そのあたりはどうとでも転がっていきそうですよね。
 改めて全体を見てみると、やっぱりなんといってもアリシアの性格が尖っていて面白かったですよね。暴走しがちな令嬢。そして能力が、彼女の性格を面白く転がしていけそうなガチャ能力というね。いやぁ、読んでいてとても楽しい気分になる作品でした。こういうの好きですし、面白かったです!

3-19 異世界鉄道戦記~装甲列車召喚チートがすべてを変えた~

 いいですねぇ、実はタイトルからはもうちょっとライトな雰囲気を想像していたのですが、思ったよりシリアスな戦記モノが始まってワクワクが止まりません。いいじゃないですか。これは王女様と雅人くんの活躍を追いかけたいですねぇ。ぜひ続きを書いてほしい作品だと思いました。
 冒頭、車両の完成シーンからスタートですね。ここで分かるのが、雅人の「装甲列車を召喚するという奇妙なチート能力」というのが、現実世界に実際にある車両を持ってくる能力ではないということ。詳細は明かされていませんが、おそらくは設計した通りの装甲車両を顕現させるといった系統の、製造チート系の能力なんじゃないかなぁと予想しています。
 ここでは転生の経緯などは語られていませんが、前世はかなり酷い状況だったようですね。そして、情勢はかなり悪いと。平穏を望む彼も、さすがに国が荒れていたらそう呑気なことは言っていられないということでしょう。そして、世界観だったり、彼が魔法に耐性がないということが語られていきます。ということは、装甲車両召喚チートは魔法とはちょっと原理の違う能力なんですかね。そのあたりが語られるのも今後ということでしょうか。
 さて、部下たちはメルファシーナ王女によって集められた存在と。獣人女性などを中心とした部隊。なるほど、夢がありますね。そして、王女に拾われた彼はチート能力で彼女を手助けすることを決めている。おそらくですが、転生と書いてあるものの異世界転移の方がイメージとしては近いんですかね。赤子からのやり直しというより、大人状態で急に連れてこられたってイメージだと思っています。
 そしてついに出発する装甲列車ドレッドノート。その描写が細かく描写されており、なかなかのハイテク度合いを見せつけてくれています。ここに描かれているもので全てではないでしょうし、どのような形で今後運用していくのかも楽しみなところですね。動力源がディーゼルってことは、この世界でも化石燃料は既に存在するんですかね。もしくは別のファンタジーな方法で軽油を生成しているのか、それとも雅人の能力で何かうまいことやってるのか。そういったことも、今後描かれていくと期待しています。
 一方のメルファシーナさんの方も熱いですよね。二人の王子の尻拭い、追い詰められた国を行動力で背負うことになる王女様ですから。その苛烈な様子が、この短いシーンからでも読み取れます。直属の特殊部隊も異種族ってことは、この世界では何か異種族の迫害のようなものもあって、彼女のもとに集まってくるという解釈でいいんでしょうかね。さて、このあとどうなっていくのかとても楽しみです。
 改めて振り返ってみると、バチバチの戦記物が始まるぞという感じでとてもワクワクさせてくれますよね。そして、国とりのロマンだったり、女性兵士たちに囲まれる系のロマンだったり、装甲列車を運用するロマンだったりと、ロマンがいっぱい詰まっているなと思います。いやぁ、これは面白かったですね。もうちょっと先までみたいですし、この世界のもっと細かい設定なんかもぜひ知りたいなと思いました。めちゃくちゃ面白かったです。

3-20 10歳年下の幼馴染

 いやぁ、これはしっとりと読ませてくれる話でしたね。すごく切ない物語になるんだろうなと思って、期待が持てました。ジャンルとしては純文学やヒューマンドラマになるんでしょうか。胸の奥の柔らかいところをそっと突いてくるような作品になってくれると嬉しいなと思います。
 冒頭、フェリーに乗っているシーンから。なかなかいい感じの二人ですよね。恋愛関係にはないようですが、これ遥ちゃんの方は夏秋くんのことだいぶ好きなんじゃないかなぁと思わされます。有能な彼女が、ひょんなことから彼に興味を持ち、そのあともずっと一緒にいる。内向的なクリエイターって感じの彼とは正反対なようでいて、意外と相性は悪くないのかなと、やりとりを見ていて感じました。興味を持った経緯も、彼の感性に思うところがあったからなんでしょう。
 そして語られ始めるのは、十年前のこと。筑前大島、ちょっと調べてみたのですが、福岡に本当にある島みたいですね。作者様はこの付近の出身でしょうか。さて……彼女が興味深げにしている理由ですが、本当に分からないのかなぁ。夏秋くんはわりと朴念仁なところありますよね。たぶん、遥ちゃんはけっこう強めに好きだと思いますよ。
 時は巻き戻って、十年前。風車広場での一幕。夏希ちゃんとの会話が切ないですよね。まさに、離れ離れになる最後のひと時、子どもの結婚の約束。夏秋くんはやっぱりこの頃から朴念仁で、自分の気持ちですらちゃんと把握できていませんが、回想形式ですからね。この頃の彼のリアルな感情では、たぶんちゃんと感じていたことも色々とあったと思うんですよ。今は、その後のつらいことから記憶にちょっとしたバイアスがかかってるんだと思うんですよね。喜んでいる夏希ちゃんの姿からは、ちゃんと両想いなように見えます。なかなか罪な男ですよね……そして。最後の一文で「深い眠りにつく」とありますが、これがなかなか思わせぶりですよね。
 想像できるのは、植物状態になったか亡くなったかだと思うんですよ。ただ、植物状態だとたしか十年も生存できなかったと思うんですよね。その間のご家族の心労も大変でしょうし、仮に意識を取り戻してもずっとベッドの上で寝ていたわけですから、ちゃんと身体を動かせるようになるかって話もありますし。一方で、亡くなったパターンよりも植物状態の方がタイトルの意味を想定しやすくはなりますよね。十年ぶりに目覚めた彼女は十年前の精神状態のまま、大人になって女連れで帰ってきた夏秋くんと再開する――みたいな。これはどっちなのかなぁ。どっちのパターンでも色々と切ない物語が展開されていきそうで、楽しみですよね。
 さてさて、遥ちゃんと夏希ちゃんという二人の女の子に朴念仁っぷりを発揮する夏秋が、今後どんな状況に陥って、何をどう考えて行動していくことになるのか。とても先を読みたくなる第一話だったと思います。面白かったです。

3-21 試験に出る! 陰キョンシーのオタ活サバイバル(もう死んでるけど)

 すごい勢いで駆け抜けていった作品でしたね。ポンポンとぶっ飛ぶような会話にひたすらぶん殴られたなぁという感想です。はちゃめちゃな世界観や、奇想天外な展開がすごかったなぁと思います。これはたぶん、まだ私は細部まで読み取りきれてないやつだなぁと思うんですよね。
 冒頭のシーン。アキちゃんはイカ焼き屋のジョイさんに飛び回し蹴りを食らわせるところから始まります。そして、アキちゃんは満洲服を来ている子どもで、ぶつぶつと「六つの子供の歌」を口ずさむ。主人公はゴットさんと呼ばれる道士で、この変な子どもキョンシーのアキちゃんを世話していると……いきなり情報量の塊よ。これ読み解くのけっこう大変ですよ。笑っちゃったじゃないですか。そして、五十八枚と七十二枚は道教の霊符の種類の違いなんですかね。そのへん詳しくないので分からなかったです。
 さて、アキちゃんは海外出身で、道教の霊符を集めているオタのよう。スーツケースに入って彼の元に来たと。ふむふむ。で、死臭を紛らわすために乳臭くなってしまったと。やりとりが笑えますよね。いろいろあって、なんだか生者だか死者だかよく分からないキョンシーになったアキちゃんですが、彼女の肉質は人間でも食いたくなるようなって、どんなだろう。そしてこの世界は、なんと女神や妖怪なんかもいるみたいですね。どういう世界観だ。そして、糖葫蘆を無限に取り出すアキちゃんの謎の性能。ここに来ても、叩きつける情報量がまったく落ちないというね。
 で、探している符術師の張はカードマスターらしい。この世界、霊符をカード扱いして関係者をオタクにしてますよね。で、彼はどうやら逃げたと見せかけてまだ中華街にいる様子。占いでは警察署という結果が出ているみたいですね。そして、公衆トイレに向かうと。どうでもいい部分ではありますが、歴史ある警察署&最古の公衆トイレって、どんな世界観してるのかすごく謎ですよね。どういうことなんだい。
 そして、公衆トイレで謎解きにチャレンジ。なんだかんだアキちゃんが有能っぷりを発揮して、先に進んでいきます。このあたりの詳細はもう読み解けないですねぇ。私の知識不足故ですが。そして、張を見つけてからがまたとんでも展開の連続でしたね。なんかわかんないけど、アキちゃんがウサギを召喚して、勝っちゃったみたいですね。どういうことなんだい。最後に張を尋問し、霊符のヒントをくれる。「保管場所は13579じゃよlol」……うーん、なんも分かりませんね。作者発表後に答え教えてくれるんでしょうか。
 さて、あらためて振り返ってみても、すごい勢いですごい情報量を叩きつけられたなぁというのが率直な感想です。たぶん、読者に一定の知識量を求めるタイプの作品なので、私は全然理解しきれてないと思うんですよね。斬新な作品を楽しませていただきました。ありがとうございます。

3-22 運命を紡ぐ女たち

 バチバチでしたねぇ。あらすじ時点で想像していたより、女性たちが何倍もバチバチしている作品だったと思います。いやぁ、なんやかんやあって、共闘していくんでしょうけど……これは領が平和にならない方が彼女たちはある意味で平和に過ごせるんじゃないかなぁとも思います。どうなっていくんでしょうね。先の楽しみになる作品でした。
 冒頭、キルスティの過去の経緯が語られていきます。なるほど、夫アルットゥリとの仲は最悪。そして彼は、派手な成果を求めてしくじり、戦争の矢面に立つ羽目になったと。このあたり、本当に立ち回りが下手だったんだなぁと思わされますよね。そんな中、キルスティは一人でどうにか内政を切り盛りしてきたと、これは大変だなと思います。この冒頭では、キルスティの有能さとアルットゥリの無能さが際立っていたなと思います。最初にこの構図を打ち出してくれたことが、この後の展開にしっかり効いてきますよね。
 さて、イェレナとロヴィーサと話をするシーン。美しさを武器にするイェレナと、金に執着するロヴィーサ、どちらもクセが強いなぁと思います。さらには夫の死の様子があまりにどうしようもなくて、これはどうしようか悩ましいところですよね。そして降りかかる後継者問題。イェレナとロヴィーサの関係はもうバチバチで、胃が痛くなるなりますよね。ここまで拗れた関係を描き出すのはすごいなぁと感心しました。私が書くと、ここまで複雑な人間模様にはどうしてもならなそうですからね。
 さて、感情的には反目する三人ですが、利益という一点で団結します。これがもう、生々しい動機ですし、すごく納得できますよね。運命共同体となった三人は得意なことが違います。長い目で見れば、キルスティが内政で活躍する一方、イェレナは外交での活躍を、ロヴィーサは領の産業を支える感じになるでしょうか。しかしそれより、直近では戦争が第一の懸案事項であり、軍事については三人の誰も得意そうではないですからね。これはどうなってしまうのか……いやぁ、楽しみになります。
 改めて全体を見返すと、作者様はこの「キャラ同士が反目しあいながらも協力せざるをえない」という構図を作り上げるのがすごく上手だなと思いました。この緊迫感のあるシチュエーションで、三人がどうやって切り抜けるのか楽しみになりますからね。私も爪の先くらいは真似できるように勉強させてもらおうと思います。とても面白かったです。

3-23 鬱ゲー主人公である勇者達の師匠になりました!

 ほほう、面白い。タイあらからもっとライトな転生ファンタジーを想像していたんですが、これはなかなかのダークファンタジーでしたね。だいぶつらい過去を背負っていそうなので、ここからはぜひ報われてほしいなと思います。面白い第一話でしたね。
 さて冒頭、主人公と老人の会話から。二人の会話を通して、この世界の厳しい状況が見えてきます。空は黒雲で覆われ、子ども達は空の青さを知らない。光がない、そんな世界ですよね。これはなかなかにハードな世界観だと思います。そして、勇者は「まだ」誕生していないという。老人の正体を見抜いた主人公は「大切な人を守りたい」という決意を述べて。この時点で、想定していたよりだいぶ重い話になってきそうだぞぉと、ワクワクしますよね。面白いです。
 勇者に待ち受けている運命も苛烈ですよね。これから村が蹂躙されて、勇者以外はみんな死ぬ。地獄のような状況に、主人公はこれから抗っていこうとするわけです。ですが、魔王幹部を数ヶ月の指導で倒せるようになりますかねぇ。そもそも村を滅ぼそうとした理由なんかも気になりますし。そのあたりもやはり、この世界がハードモードであるが故のことなのだと思います。どうにかみんなを救ってみせてほしいものですが、どうなるかなぁ。だいぶシビアですからね。少しでも下手を打つと暗黒ましぐらです。
 そして、主人公の過去が語られていきます。原作は暗い世界観を売りとしたファンタジーで、生存するのが難しい。ゲームとして楽しむ分にはいいですが、その世界に自分が入り込んでっていうのはちょっと遠慮したい世界観でもありますよね。さて、そんな中に転生してしまった主人公は、果たしてどのように過ごしていくのか。主人公の前世はなかなかつらいものだったようですね。きっとこれから、前世の詳細も語られていくんだと思います。最後に、転生してもやはり……と思っていたところに聞こえる、優しくて温かい声。泣けますよね。
 改めて全体を見てみると、書きようによってはライトな異世界ファンタジーを書けそうな題材なんですが、思いっきりダークな方に寄せて書いてくれているのがすごく魅力的だと思います。いいですねぇ、どっぷりと浸からせてくれそうです。ゲーム転生なんですが、ゲームシステム感はあまりなく、わりとリアル志向な異世界モノだなぁと楽しませていただきました。面白かったです!

3-24 夜迦に呼ばれてはならない偽娘妃〜間違えて連れて来られた男は後宮で生き延びたい〜

 いやぁ、これは大変な状況ですねえ。ハラハラしてしまう物語の第一話だったと思います。これはだいぶ辛いと思うんですよね。平民の命なんてホント軽い世界観でしょうから、頑張って立ち回って切り抜けてもらいたいところ。先見の発動条件が分かりませんが、唯一の武器ですからね。どうにか役立ってほしいところです。
 冒頭から、けっこうしんどい場面から始まります。主人公は見た目は可愛いみたいですが、中身は同性愛者ではなさそうなので、シンプルに可哀想だなぁっていう感想になりますかね、このシーンは。いや、普段BLを嗜まない者なので、もしかするとここから入れる保険もあるのかもしれませんが、これはなんとしても回避したいですよね。春蕾は普通におぞましくて鳥肌立ってるんじゃないかなぁと思います。
 さて、目が覚めたのは後宮のようです。嫌な夢でしたが、先見の能力だとしても未来は確定ではないようなので、どうにか回避してもらいたいところ。どういう世界観なんだろうなぁ……三年で解放される。あと、平民から攫われてきて出自も分からない者はせいぜい下級の使用人あたりがせいぜいじゃないかなぁと思うんですが、いきなりの妃待遇? いや、この世界だと顔選定だけで妃になる感じみたいですし、現状で男だとバレていないってことは、妃といっても風呂も着替えも一人でって世界観だと思うんですよね。妃と言っても「その他大勢」みたいな雑に扱われる妃がいっぱいいる感じの世界観だと解釈しました。
 攫われてきた経緯ですが、どこかで「男です」とは言えなかったのかなぁと思ってしまいますよね……言えなかったのかなぁ。先見もこの時には役に立たなかったみたいですしね。なんとも大変な状況に追い込まれてしまったものです。かなりしんどい状況ですよねぇ。
 そして、本作の最初の事件になるだろう、位の高い妃から殺傷されるという先見のシーン。ほほう、これはどう捉えたものかなぁと悩みます。身分の高い者が直接的に手を下すって状況はなかなかのシチュエーションだと思うんですよね。それこそ人権の欠片もない拉致が横行するような世界観で、身分のある者が「あいつ気に食わないから処分しといて」って言えば、配下の誰かが手を下してくれるくらいの出来事は普通に起きる世界だと思うんですよ。もちろんそういう行動を繰り返せば皇帝への心象も悪くなるので、嫌味を言ったり、バレないように危害を加えたりと策を巡らせるのだと思いますが。そんな中、よりによって権力者である彼女が直接的に手を汚すっていうのはどういう流れなのかなぁと、しばらく考えてみたのですが、これはなかなか予想しきれませんでしたね。先見の力も込みで、この事件の背景にあるものを特定して解決してくれる流れになっていくのかなぁと思っているんですが、ここからどう転がっていくのか予想つかないんですよね。どうなっちゃうんだろう。
 改めて、全体を通して、春蕾には絶対に逃げ切ってもとの平民ライフに戻ってもらいたいなぁと願わずにはいられない第一話だったと思います。可哀想だなぁ。かなり追い詰められていますからね。頑張ってほしいです。

3-25 極彩色の匣庭

 いやぁ、怖い話でしたねぇ。途中から主人公は生きてないんじゃないかなぁとは思っていたのですが、それでも最後のシーンはゾクゾクしましたね。ちょっとこういう解釈で良いのか作者様に聞いてみたいところ。あとお姉ちゃんの年齢に驚きました。これは、再読しながらよく考えてみたいなぁと思います。
 冒頭、主人公の視点の場所はこの時点ではやっぱりちょっと分からないですよね。四角に区切られた格子の木目から覗く、というのはどういうことなんだろう。そして、お姉ちゃんは畳に寝転んだあとで、いろいろとドタバタとしている。ここでの様子が一人の挙動っぽかったのと、会話がなかったところから、読みながら「主人公は死んでる or 虫か何かなんだろうなぁ」と思っていましたが、ランドセルに引っ張られてお姉ちゃんを小学生イメージで考えていました。たぶん、作者様の意図通りに転がされたんだろうなぁ。
 そして、匣から出て姉を追いかけていく主人公。この時点で「霊か虫かな」と思いながら読んでいくと。和風な情景とともに、お姉ちゃんがお手伝いさんを笑う。うーん……再読してこれが二十五歳だと思うと、初読で想像してたよりだいぶヤバい光景が繰り広げられてるんんだなぁと思って。そうしているとお母さんが出てきて、姉を説得した後に「分家さんが来てんのに困った娘やわぁ」と。たしかにね、困った娘ですよ。二十五歳でこれですからね。どんなことがあって、こんなことになったのか。気になりますね。
 さて、姉のお目付け役を言い渡されるのはきっと生前の話なんだろうなぁ。双子として生まれてきたってことは、やっぱり虫説より霊説の方が妥当かなぁ。なんてことを初読の時には思っていたんですが、再読してみるとお姉ちゃんの食事描写のインパクトよ。食べ方の汚い小学生なんてちゃちなもんではなかったですね。そして、分家の子が現れて、色々話をした末に、二人は秘密基地へと向かっていく。たぶん主人公が亡くなったのは小学生の時だったんですよね。お姉ちゃんがおかしくなったのも。シズルの幽霊出るっていう話の段階で、もう出てるよって思いながら読んでいました。
 さて、再読時に気がついたんですが、倉の中にあるのが「格子になった木の檻」じゃないですか。冒頭の「四角に区切られた格子の木目から覗く」ってここからなのかなぁと思って。主人公は監禁されていた? などという疑問が今更ながら浮かんできますが、まだちょっと現状ではわからないですよね。こんなところに遺骨がおいてある理由も分かりませんし。ただ、色々な宝物を持ち帰ってくるお姉ちゃんがきっと、遺骨の一部を「匣」に入れて自室に持ち帰ったんだろうなぁというイメージではいました。
 さて、お姉ちゃんの年齢にはやっぱり驚きながら。最後のシーンですが、シズルがちらりと主人公を見ながら「僕もこの秘密基地使わせてな」と言って「お姉さんが一号なら、僕は秘密基地会員二号ってことで。お姉さん以外、ここにはいいひんし、いいやろ」と言ったってことは、シズルがここで呼んでいる「お姉さん」というのはたぶん主人公のことで、僕が二号ってことはシズルも幽霊なんじゃないかなぁと私は解釈していたんですが、作者様の意図と合ってますかね。作者公開されたら、このあたりはぜひ聞いてみたい部分になります。いやぁ、面白かったです。

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