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父が突然いなくなった話(前)

8月の暑い日。
今から10年以上前のこと。
仕事中に、携帯に着信があった。

よほどのことがない限り、私に連絡をしない弟からだった。
かけ直すと、弟が言葉を選びながら何かを言おうとしていた。
よほどのことがあった様子だった。

「お父さんのマンションに来てる」

父は実家を離れて、別のワンルームマンションで一人暮らしをしていた。
家族はみんな父のマンションの場所を知らなかった。
妹だけは、父から住所のメモをもらっていたようだが。

父のマンションで異臭騒ぎがあったことがきっかけ。
確認すると、発生源は父の部屋からだった。
管理人が、インターフォンを鳴らすも応答はなく、携帯にも出ない。
仕方なく、母に連絡をしてきた。
という流れだった。

正直これだけの情報ならば、充分に状況を察しただろう。
だけど、悪い直感に蓋をしたい私は、

父はどこかに旅行に行っているのだろう
元々物を溜めがちだったから…
ゴミかなんがが臭ってしまっただけ…

そう思おうとしていた。
必死に。

弟は、私がショックを受けると思い、モゴモゴしていた。
どうしても、その先の決定的な言葉を言えないようだった。

なぜか、はっきり言えと強めに言ってしまった。

「亡くなってた」

合鍵を持っている母が到着する前に、すでに管理人立ち会いの下、警察が父の部屋のドアを開けていたようだった。

そこに母と弟が到着し、私に連絡してきたとのこと。

ドアを開けっぱなしで、警察が数人ほど現場検証のようなものをしていたようだ。
結婚して、たまたま近くに住んでいた私は、当時の夫の運転で、父のマンションまで向かうことになった。

「どなたか顔をご確認いただけますか?」

警察から投げかけられた言葉に、一同凍りついた。

続く。

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